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監修者

後平 泰信
医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院(名称変更) 病院長 現職。
【研究分野】睡眠全般、睡眠時無呼吸症候群、内科全般、循環器内科、スポーツ医学、遠隔医療、地域医療
明るくハキハキとした話し方で、専門的な内容もわかりやすく伝える。特に睡眠医療の分野で多数の講演・メディア出演歴があり、CPAP治療やいびき・睡眠負債など、広く深い見識から生活に密着したあらゆる話題にも柔軟に対応。寝具などスリープテック領域の開発や監修にも多数関わった実績あり。
朝起きたとき、枕にうっすらと濡れた跡が残っていて驚いた経験はありませんか。
実は、睡眠中のよだれは多くの人に見られる現象で、単なる寝相の問題として片づけられがちですが、身体が発しているサインの可能性もあります。特に、就寝時に口呼吸が続くと、睡眠の質が低下したり、口腔内のトラブルが起こりやすくなったりと、健康面にさまざまな影響が及ぶことが知られています。
本記事では、上級睡眠健康指導士であるコアラマットレス社員・石川が、「なぜ眠っている間によだれが出るのか」を医学的な観点からわかりやすく解説し、今日から取り入れられる改善方法を紹介します。
なぜ寝ている時によだれが出るのか?口呼吸が引き起こす3つのメカニズム

睡眠中によだれが出てしまう現象の主な理由は口呼吸です。口が開いた状態で眠ると、唾液の流れや飲み込みの動作が正常に働きにくくなり、姿勢や重力の影響も加わってよだれとして外に漏れやすくなるのです。
ここからは、口呼吸がよだれの原因になる仕組みを3つの視点から順番に見ていきます。
1. 口呼吸により口が開いたままになる仕組み
まず、寝ているときに口が開いてしまう理由として、鼻呼吸がしづらい状況と、口を閉じる筋肉の低下という二つの要因が組み合わさっていることが多いです。夜間は副交感神経が優位になり、鼻粘膜が充血して鼻づまりが起きやすくなるため、自然と鼻呼吸が難しくなり、口で息をしようとする流れが生まれます。
また、口輪筋やあご周りの筋肉が弱くなると、意識していなくても口を閉じ続ける力が維持できず、眠っている間に口が開いてしまいます。こうした身体の反応が重なり、睡眠中に口呼吸へ移行しやすいです。
2. 睡眠時の唾液分泌量の変化と流出
健康な成人は1日におよそ1.0〜1.5リットルほどの唾液を分泌しますが、睡眠中はその量が大きく減少し、1分あたり0.1mLほどまで落ち込むと報告されています。※3
日中に比べて唾液量が極端に少なくなるため、飲み込む動作がスムーズに働かなくなり、口が開いている状態では唾液が喉の奥に流れず、口の外へ移動しやすくなります。
眠っている間は筋肉の力も弱まっているため、飲み込む働きがさらに鈍くなり、分泌されたわずかな唾液でもよだれとして流れ出てしまうのです。
唾液の分泌が減るだけでなく、身体の重力の受け方が変わると、流れ方にも影響が生まれます。
3. 横向き寝と重力の影響
寝姿勢の違いもよだれの有無を大きく左右します。横向きで眠ると口の端が下方向に傾くため、重力の作用によって唾液が外へ流れやすくなります。
また、仰向けで眠る場合でも、枕が高すぎたり低すぎたりするとあごの位置が不安定になり、口が自然と開いた姿勢になりやすいです。この状態が続くと、唾液が喉へ戻らず、口の中に溜まりながら外に漏れます。
睡眠中のよだれが起こりやすいのは、姿勢による物理的な条件と、呼吸経路の変化が合わさるためと覚えておきましょう。
関連記事:【上級睡眠健康指導士監修】マットレスの黄ばみの落とし方|4つの原因ごとに対処しよう
睡眠中のよだれが示す5つの健康リスクと体への影響

寝ているときに出るよだれは、一見すると些細な問題のように見えますが、身体が抱えているサインを反映していることが少なくありません。口呼吸によって口の中が乾燥した状態が続くと、口腔内だけでなく全身に影響するトラブルが起こりやすくなるのです。
ここからは、寝ている間のよだれが示す可能性のある健康リスクを5つの観点から丁寧に見ていきます。
1. 虫歯・歯周病リスクの増加
睡眠中に口呼吸が続くと、唾液が本来持つ自浄作用が十分に働かなくなります。唾液は細菌の繁殖を抑え、歯の表面を守る働きを担っていますが、口の中が乾燥するとこの働きが低下し、虫歯や歯周病につながる環境が生まれます。
日本歯周病学会会誌が掲載した研究では、口呼吸が慢性的な歯肉炎や歯周炎の発症と進行に深く関わる要因であることが示されており、実際に口呼吸の習慣を持つ人では歯肉の炎症が長期化しやすいと報告されています。※4
唾液の減少と細菌の増加が重なると、口腔内のトラブルが加速します。そして口内環境が悪化し、呼吸の質にも影響が及んでしまうのです。
2. 睡眠時無呼吸症候群のサイン
口呼吸が続くと舌のつけ根が喉の奥へ沈み込みやすくなり、気道の通り道が狭くなることがあります。この状態が長く続くと、睡眠中に呼吸が止まる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の前兆として現れることは珍しくありません。
日本では成人男性の3〜7、女性の2~5%%がSASを患っているとされています。※5SASは人口比率から見ると多くはありませんが、近年よく耳にするという方も多いのではないでしょうか。
気道が狭くなると、いびきや日中の眠気、集中力の低下などの症状が出やすくなり、心血管疾患のリスクも高まります。こうした背景を踏まえると、よだれが増えたことを単純な癖として片づけず、呼吸の状態を見直すことが大切です。
3. 口臭の悪化と対人関係への影響
口呼吸によって口内の乾燥が続くと、細菌が繁殖しやすい環境が生まれ、口臭が強くなる傾向があります。就寝中に唾液分泌が減ること、細菌が増殖しやすくなる環境が整うことが朝の口臭発生の主な理由です。
厚生労働省のe-ヘルスネットでも、口臭は舌苔や歯周病と深く関係しており、睡眠後に強まりやすいと説明されています。※6
口臭は自分では気づきにくいものの、身近な人とのコミュニケーションに影響し、悩みにつながりやすい点にも注意が必要です。口臭の背景には細菌の増加が関係しますが、さらに口呼吸にはウイルスや細菌を取り込みやすくする問題も潜んでいます。
4. 感染症リスクの上昇
鼻呼吸が持つ重要な役割のひとつが、吸い込んだ空気を温めたり、湿らせたり、ウイルスや細菌を除去するフィルター機能です。
しかし口呼吸ではこの機能が働かず、空気中の病原体がそのまま喉や肺に入り込みやすくなります。特に睡眠中に口を開けたまま呼吸を続けると、風邪やインフルエンザといった感染症にかかるリスクが高まると指摘されています。※7
免疫力が低下している時期や季節の変わり目には、この影響がより強く現れやすいです。
5. 顔貌の変化と歯並びへの影響
長い期間にわたって口呼吸が続くと、口周りの筋肉が弱まり、自然に口が開く姿勢が習慣化しやすくなります。この状態が続くと、出っ歯や受け口、開咬といった歯並びの問題へ発展する可能性が高まり、顔の輪郭や上顎の発達にも影響を与えるとされています。※7
特に成長期の子どもの場合、口呼吸が骨格形成に直接影響するため、早期に対策を取ることが将来の健康と見た目に大きな意味を持ちます。口を閉じにくい状態が続くと、筋肉と骨格の両方に変化が起こりやすくなるからです。
関連記事:【医師監修】適切な睡眠時間はメリットだらけ?最新研究でわかった7~9時間睡眠の効果と長時間睡眠の注意点
今夜から実践できる!よだれを改善する5つの対策法

寝ているときのよだれは、口呼吸による口の開きやすさ、筋力の低下、姿勢の乱れなど複数の要因が組み合わさって生じます。ですが、毎日の習慣を少し変えるだけで大きな改善が期待できます。
ここからは、今夜から試せる効果的な対策を順番に紹介し、口呼吸から鼻呼吸へ自然に移行しやすい環境づくりを考えていきます。
1. あいうべ体操で口周りの筋肉を鍛える
まず取り組みやすい方法として、口輪筋や舌の筋肉を鍛える「あいうべ体操」が挙げられます。
口腔周囲筋を整えるMFT(口腔筋機能療法)の一つとして知られ、舌の沈下を防ぎながら気道を確保しやすくなる点が評価されている体操です。※8
実践は、「あ・い・う・べ」の動きを大きく、ゆっくりと一回ずつ行い、1日3セット、1セット10回を目安に続けることで徐々に口を閉じる力が高まります。筋肉は継続することで確実に変化するため、歯磨きの前後など決まったタイミングで取り入れると習慣化しやすいでしょう。
口周りの筋力が整ってくると、自然と口が閉じる姿勢が保ちやすくなります。
2. 枕の高さと寝姿勢の最適化
口呼吸の改善には、眠るときの姿勢が大きく関与します。枕が低すぎるとあごが上がって気道が狭くなり、逆に高すぎると首が圧迫されて自然な呼吸が難しくなるのです。適切な高さとは、仰向けになった際に首のカーブが無理なく保たれ、あごが過度に上がらない位置です。
また、横向き寝が適している人も多く、特に気道の確保という点で有利に働くことがありますが、口の端から唾液が流れやすくなるため、横向き寝専用の枕や高さ調整ができる寝具を選ぶと改善しやすいでしょう。枕やマットレスを見直すことで、睡眠中の姿勢が安定し、口が開きにくい状態を作りやすいです。
姿勢を整えたあとには、口が開くのを防ぐためのサポートとして、マウステープの併用がおすすめです。
3. マウステープによる物理的な口呼吸防止
就寝時に口を軽く閉じるために活用されるマウステープは、簡便な方法として広まりつつあり、いびきや口呼吸の改善に一定の効果があると報告されています。
臨床研究では、軽度の睡眠時無呼吸症候群に対してAHI(無呼吸低呼吸指数)が半分ほどに改善した例も示されており、適切に使用すれば有用性が期待できます。※9
ただし、鼻づまりがある場合や鼻呼吸がしづらい状態では使用してはいけません。安全性を第一に考え、無理に口を塞がず、必ず鼻呼吸が確保できる条件で使うことが重要です。
4. 鼻呼吸を促進する日中のトレーニング
寝ている間に口呼吸になってしまう人は、日中も同じく口を開きやすい傾向があります。これを改善するには、意識的に鼻呼吸を練習することが欠かせません。
例えば、3分間鼻だけで呼吸を続けて負担がないか確認する方法は、自分の呼吸の癖を知るきっかけになります。また、舌の正しい位置(スポット)を確認する習慣も効果的です。
スポットとは、舌先が上あごの少し前方に優しく触れる位置を指し、この位置に舌を置くと口を閉じやすくなり、気道が確保されやすくなります。日中のこうしたトレーニングは、夜間の呼吸状態にも良い影響を与えます。
5. 生活習慣の改善と鼻づまり対策
口呼吸が起きやすい背景には、生活習慣の乱れや鼻づまりが隠れていることがあります。肥満によって舌根が沈下しやすくなるケースや、飲酒によって筋肉が緩み、口が開きやすくなるケースも少なくありません。
また、アレルギー性鼻炎や花粉症があると鼻呼吸が難しくなり、口呼吸が慢性化しやすいです。シーズン性の症状が続く場合は耳鼻科で適切な治療を受け、鼻の通りを維持しましょう。
生活習慣を整え、体重管理や飲酒量の見直しを行うことで、睡眠中のよだれの改善につながりやすくなります。
よだれが改善しない場合は医療機関への受診を検討

自分でできる対策を続けていてもなかなか改善が見られない場合には、専門の医療機関で状態を確認してもらうことが大切です。
特に、寝ている間によだれが頻繁に出る状態が続いていたり、大きないびきや無呼吸を指摘されたり、日中に強い眠気が起こり集中力が保てない場面が増えている場合には、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が隠れている可能性が高いでしょう。
SASが疑われる際には、まず自宅で行える簡易検査を実施し、その後必要に応じて睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)に進む流れが一般的です。PSG検査では脳波や呼吸状態を詳細に確認できるため、原因の特定と治療の方針がより明確になります。
診断の結果、無呼吸の程度が中等度以上の場合には、CPAP治療(持続陽圧呼吸療法)が適用されることがあります。CPAPは気道に弱い圧力をかけて空気の通り道を守る装置で、適切に使用すると夜間の無呼吸が大幅に改善するだけでなく、長期的には死亡率が健常者と同等まで低下したという報告もあります。※5
こうしたデータは、早期受診が将来の健康を左右する重要な鍵であることを示しており、自覚症状が軽くても検査を受ける価値は大きいでしょう。
セルフケアで改善しない場合には、ためらわず専門家の力を借りて、確実な原因の把握と対策につなげてください。
まとめ:睡眠中のよだれは体からの重要なサイン!今夜から始める口呼吸改善

睡眠中によだれが出る現象は、単なる寝相や習慣の問題ではなく、身体が発しているサインとして捉えることが大切です。口呼吸が続くと、虫歯や歯周病のリスクが高まり、口臭が強くなるだけでなく、感染症への抵抗力が弱まりやすくなるという健康上の問題も引き起こしかねません。
さらに、歯並びや顔の発達に影響を及ぼすことや、睡眠時無呼吸症候群と関連するケースなど、全身の健康に広く影響する点も注意が必要です。
こうしたリスクを抑えるために、今夜から取り組める対策に取り組みましょう。生活習慣の見直しや鼻づまりのケアも合わせて行えば、口呼吸の改善に一層つながりやすくなります。
そして、これらを続けても変化が見られない場合には、迷わず医療機関で相談し、必要な検査や治療につなげることが重要です。睡眠の質が整うと心身の調子が安定し、毎日の生活がより快適になります。関連する睡眠環境の記事も活用しながら、自分に合った方法で改善への一歩を進めてみてください。
・参考
※1 8割の日本人が口呼吸!? あなたは大丈夫? | 東上野歯科クリニック
※2 睡眠時無呼吸症候群について | こばやし内科クリニック
※3 唾液について | ふじよし矯正歯科クリニック
※4 口呼吸の歯周組織におよぼす影響に関する研究 | J-STAGE
※5 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS) | 日本呼吸器学会
※6 口臭の原因・実態 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
※7 乾燥する季節 口呼吸への注意と対策 | サワイ健康推進課
※8 子どもの”お口ぽかん”に対するお口の体操の効果を明らかに | 鹿児島大学
※9 The Impact of Mouth-Taping in Mouth-Breathers with Mild Obstructive Sleep Apnea: A Preliminary Study | Journal of Clinical Medicine(PMC)










