目次
監修者

本多 洋介
群馬大学医学部卒業。
伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院(いずれも循環器内科)を経て、Myクリニック本多内科医院院長。
- 免許・資格
総合内科専門医、循環器内科専門医、日本心血管インターベンション学会専門医、軽カテーテル的大動脈弁植え込み術指導医(Sapienシリーズ、Evolutシリーズ)
春や秋になると、なんとなく眠れない夜が増えていませんか。
「ちゃんと疲れているはずなのに、どうして眠れないんだろう」
「前はこんなことなかったのに」
そんなふうに、少しだけ不安になることもあるかもしれません。
周りはいつも通りに見えるのに、自分だけリズムが乱れているような感覚。
布団に入っても頭がさえてしまったり、夜中にふと目が覚めてしまったり。
朝起きた瞬間から「なんだか重い」と感じることもありますよね。
でも、それはあなたの気持ちの弱さでも、年齢のせいでもありません。
実は、季節の変わり目は、私たちの体にとってとても大きな“環境変化のタイミング”です。
気温、湿度、光の量、花粉、気圧――
目に見えない変化が、静かに体のリズムを揺らしています。
眠れないのは、あなたの体がちゃんと季節に適応しようとしている証拠でもあるのです。
この記事では、
-
なぜ季節の変わり目に眠れなくなるのか
-
どんな体のメカニズムが関係しているのか
-
今日からできる整え方
を、科学的な視点を交えながら、やさしく整理していきます。
「なんとなく不調」を、「ちゃんと理解できるもの」に変えていきましょう
1. 季節の変わり目に眠れないのは「気のせい」ではない
睡眠は、体温調節・自律神経・ホルモン分泌・光環境など、全身のシステムが関与しています。
とくに重要なのが「体温」と「自律神経」です。
睡眠研究では、睡眠は深部体温が下がる過程で促進されることが知られています(出典: Kräuchi & Deboer, Sleep Medicine Reviews, 2010)。
暑すぎても寒すぎても、体温調節が乱れ、覚醒が増え、深い睡眠(徐波睡眠)が減りやすいと報告されています。
季節の変わり目は、まさにこの「体温調節」が揺さぶられる時期なのです。
2. 理由① 寒暖差で自律神経が過活動になり、夜の切り替えが遅れる
■ 季節の変わり目は“寒暖差の嵐”
春や秋は、
- 朝晩と日中の気温差が大きい
- 数日単位で急に暑くなる/寒くなる
- 湿度も安定しない
という特徴があります。
体は常に約36〜37℃を保とうとします。
そのため、気温が変化すると、
- 暑ければ発汗
- 寒ければ血管収縮
といった調整を行います。
この調整を担うのが自律神経です。
■ 交感神経が下がりきらない
通常、夜になると副交感神経が優位になり、リラックス状態へ移行します。
しかし寒暖差が大きいと、体は日中から夜まで調整を続けるため、交感神経のスイッチが下がりきらないことがあります。
その結果、
- 寝つきが悪い
- 心拍が高い
- 浅い眠りが続く
といった状態が起こりやすくなります。
いわゆる「寒暖差疲労」や「気象病」と呼ばれる不調も、この自律神経の過活動が背景にあると考えられています(一般医療解説より)。
3. 理由② 日照時間の変化で体内時計がズレる
■ 眠気は「メラトニン」で決まる
私たちの眠気は、「メラトニン」というホルモンによってコントロールされています。
メラトニンは、
- 朝の光でリセットされ
- 夜になると分泌が増える
というリズムを持っています。
このリズムを司るのが「体内時計(概日リズム)」です。
■ 季節で“光の量”が変わる
春や秋は、日照時間が変わります。
さらに、
- 生活時間の変化
- 夕方の明るさの違い
- 室内照明やスマホの使用
も影響します。
研究では、光環境の変化によりメラトニンの分泌タイミングが変わることが示されています(出典: Touitou et al., Chronobiology International, 2021)。
体内時計が少し後ろにズレるだけで、
- 寝たい時間に眠れない
- 朝起きづらい
という状態になります。
「疲れているのに眠れない」は、意志の問題ではなく、体内時計の位相ズレの可能性があります。
4. 理由③ 花粉・アレルギー(鼻づまり)が睡眠を割る
春や秋のもう一つの大きな要因が「アレルギー」です。
■ 鼻づまり → 口呼吸 → 覚醒増
アレルギー性鼻炎では、
- 鼻閉(鼻づまり)
- いびき
- 口呼吸
が起こりやすくなります。
鼻閉は睡眠の断片化や日中の眠気と関連することが報告されています(出典: Craig et al., Journal of Allergy and Clinical Immunology, 1998)。
鼻づまりがあると、
- 酸素交換効率が落ちる
- 呼吸が浅くなる
- 無意識の覚醒が増える
ため、「眠っているはずなのに疲れが取れない」という状態になりやすいのです。
花粉シーズンに眠れない場合、原因は自律神経ではなく「鼻」の可能性もあります。
5. 理由④ 寝室の温度・湿度・寝具が季節に追いつかない
■ 睡眠に適した温度とは?
睡眠財団(National Sleep Foundation)は、
寝室温度を**約15.5〜19.4℃(60〜67°F)**程度が望ましい目安としています(出典: National Sleep Foundation)。
もちろん個人差はありますが、「やや涼しい」環境が推奨されることが多いです。
■ 季節の変わり目は“設定ミス”が起きやすい
- まだ冬用の布団を使っている
- 冷房を入れるほどではないが暑い
- 湿度が高く寝苦しい
この「中途半端な時期」に、寝室環境が最も乱れやすいのです。
とくに重要なのは、体感ではなく数値で管理すること。
温湿度計を置くだけで、改善の精度が上がります。
6. 気圧変動と不眠の関係はどこまで言える?
低気圧が来ると体調が悪い、という人は多いでしょう。
研究では、気圧変化と痛み・頭痛との関連が示唆されていますが、
気圧が直接不眠を起こすと断定できる強い因果は限定的です。
ただし、
- 頭痛
- 関節痛
- 不快感
があると、入眠困難や中途覚醒が起きやすくなるのは自然です。
つまり、気圧は“間接的要因”として睡眠に影響する可能性がある、という位置づけが妥当でしょう。
7. 今すぐできる改善策チェックリスト
原因別に、優先順位順で整理します。
① 寝室の温湿度を測る
- 温度:18〜20℃前後を目安
- 湿度:40〜60%
まずは「見える化」から。
② 朝の光を浴びる
- 起床後30分以内にカーテンを開ける
- 可能なら5〜15分外に出る
光は体内時計をリセットする最強の手段です。
③ 夜の光を弱める
- 就寝1時間前は間接照明
- スマホはナイトモード
メラトニン分泌を妨げない環境づくりが重要です。
④ 入浴タイミングを整える
- 就寝90分前に入浴
- ぬるめ(38〜40℃)
体温が自然に下がる流れをつくります。
⑤ 花粉対策
- 帰宅後すぐに洗顔
- 寝室に花粉を持ち込まない
- 鼻症状が強い場合は受診を検討
臨床の現場でも、季節の変わり目に「眠れない」「疲れが取れない」と訴える患者さんは確実に増えます。その多くは、適切なセルフケアと少しの環境調整で改善できます。本記事で紹介されている「朝の光を浴びる」「入浴タイミングを整える」「寝室の温湿度を数値で管理する」といった対策は、いずれも医学的に理にかなったアプローチです。
ただし、2週間以上改善が見られない場合や、強いいびき・日中の耐えがたい眠気を伴う場合は、睡眠時無呼吸症候群やうつ病など、背景にある疾患のサインである可能性があります。「季節のせいだから」と自己完結せず、迷わず専門医へご相談ください。
8. 受診の目安|「季節のせい」だけにしないために
以下の場合は医療機関への相談を検討してください。
- 2週間以上続く強い不眠
- 日中の耐えがたい眠気
- 強いいびき・無呼吸の指摘
- 気分の落ち込みが強い
睡眠時無呼吸症候群やうつ病、甲状腺疾患などが背景にある可能性もあります。
9. まとめ
季節の変わり目に眠れなくなる主な理由は、
- 寒暖差による自律神経の過活動
- 日照時間の変化による体内時計のズレ
- 花粉・アレルギー
- 寝室環境の乱れ
という「複合要因」です。
まずは、
- 温湿度を測る
- 朝の光を浴びる
- 夜の光を弱める
この3つから始めてみてください。
季節の変化は避けられませんが、
睡眠環境は整えることができます。
体が環境に適応しようとしているサインを、
やさしくサポートしてあげましょう。
参考文献
- Kräuchi K, Deboer T. The interrelationship between sleep regulation and thermoregulation. Sleep Medicine Reviews. 2010.
- Touitou Y et al. Seasonal and light-related changes in melatonin rhythms. Chronobiology International. 2021.
- Craig TJ et al. The effect of allergic rhinitis on sleep. J Allergy Clin Immunol. 1998.
- National Sleep Foundation. Sleep Tips: Temperature Recommendations.










