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監修者

田中 貫平
医師・メンター・タッチベースドマインドフルネス/shinsetsu-tion考案者・Gallup認定ストレングスコーチ・インド中央政府公認ヨガインストラクター
2013年英国シェフィールド大学医学部卒。
手稲渓仁会病院にて初期研修後、2020年九州大学病院心療内科に入局。国際医療福祉大学成田病院では緩和ケアチームにも所属。2024年からはフリーランスの医師として活動している。一般の方から学生、経営者、スポーツ選手など幅広い層のクライアントに対して傾聴およびマインドフルネスの実践指導や心理療法を提供、あらゆる病気や未病(不眠症も含む)の治療や予防改善に取り組んでいる。
読者の皆さんこんにちは♪今回の記事は心療内科医の田中医師との対談企画第二弾です。
前回は、シンガポール・イギリス・日本の”休み方”を学びながら、「日本にも眠りにいい文化はちゃんとある」ことを見てきました。お風呂もある、添い寝もある。それなのに、日本人の睡眠時間はOECD(経済協力開発機構)加盟国で最下位クラス。
いい習慣があるのに、なぜか眠れない。 この”矛盾”の正体は、どこにあるのでしょう?
今回は、3カ国で暮らした心療内科医・田中先生とともに、「なぜ日本人は眠れないのか」を、ちょっと社会的な角度から解きほぐしていきます。少し耳の痛い話も出てきますが、肩の力を抜いてどうぞ。
理由①:そもそも「オンとオフ」の切り替えが苦手
先生がまず挙げたのが、オンオフの切り替えの難しさでした。
「日本のお部屋って、昔は一つの部屋で全部やるみたいな。勉強も仕事も食べるのも、同じ場所で。効率を考えると切り分けたほうがいいんだけど、それがなかなか難しいところもある」(田中先生)
仕事・食事・睡眠の場所を分ける”西洋的な”暮らし方が日本で主流になったのは、せいぜいここ150年ほど。それより前から続いてきた「一室で何でもこなす」文化に、私たちの感覚は長く馴染んできました。
だから、頭では「オンオフを分けたほうがいい」と分かっていても、心と身体がうまくスイッチを切り替えられない。日中の緊張を、布団のなかまで引きずってしまう——そんな背景があるのかもしれません。
理由②:「頑張る=美徳」というプレッシャー
もうひとつが、「寝る間を惜しんで頑張ることが美徳」とされやすい空気です。
先生がイギリスと日本の医療現場を比べて挙げたのが、夜勤のしくみの違い。イギリスでは「ナイトシフト」として働く時間がきっちりシステム化され、無理のないように組まれていたそう。一方、日本の病院では24時間連続で勤務する「当直」が一般的。
しかもやっかいなのが、目に見える残業だけでなく、見えない”気疲れ”。必要以上に周囲へ気を遣い、帰る時間がずるずる遅くなる。こうして、知らないうちに睡眠時間が削られていきます。これは医療現場に限らず、多くの職場に当てはまりそうです。
理由③:謎の現象「日本は女性のほうが眠れていない」
ここで、データの不思議に触れておきましょう。日本人の睡眠は短く、特に女性が短い。
実はこれ、世界的に見ると逆。生物学的には女性のほうが長い睡眠を必要とし、海外では実際に女性のほうが長く眠るというデータもあります。日本は、その世界の傾向とは逆をいっているのです。
なぜでしょう。先生は「あくまで一つの見方として」と何度も前置きしたうえで、家庭のなかでケア(家事や世話)の役割が女性に偏りがちな構造を挙げます。誰かのお世話に時間を使えば、そのぶん自分の眠りは後回しになる、という仮説です。
ただ、これはどちらか一方を責める話ではありません。先生がここで付け加えた視点が、とても示唆的でした。
心理学でいう「投影」——自分の何かが相手に映り、関係そのものを二人で作って固まっててしまっている、という見方です。役割の偏りも、片方だけの問題ではなく、お互いの関わり方の中で生まれている。 だからこそ、責めるより「話し合えること」が大事だと先生は言います。
もちろんお互いが自分のことで頭や気持ちがいっぱいいっぱいであれば、話し合うこと自体が難しいかもしれません。
「私も『あの人はなぜ変わらないんだ』とは、よく思うことが正直あります。ただ、診察では本当に同じことしか私は言わないのですが、『マッサージなどの他人からの施術、あるいはカウンセリングを機会があれば是非受けてみてください』とお伝えしています。外部の援助を借りてその人の中で心の余白ができると、大切な人たちともう少し話し合えるようになれるかもです。それがギクシャクあるいは凝り固まった関係性に、いつかはよい風を吹き込んでくれるのかもしれません」(田中先生)
睡眠の話のようでいて、いつのまにか人間関係の核心に触れている。心療内科医ならではの角度でした。
理由④:日本人は”不安”とともに生きてきた
もう少し大きな視点も。先生いわく、総じて日本人には「怒り」よりも「不安」の傾向が強いと言われているそうです。
歴史的に見れば、日本は大陸の争いから逃れてきた人たちもたどり着いた、比較的安全な土地。戦うより、争いを避けて、つながって生き延びてきた。 その名残で、人と人とがゆるくつながり、集団でいることに安心を覚える——そんな国民性があるのかもしれません。
一方で、「怒り」をうまく使える人は、相手との境界線(バウンダリー)を引くのが得意だとも。心理学的には「怒り」は攻撃ではなく、本来は”自分を守る”ためのもの。それをうまく表現することが控えめだと、つい周囲の影響を受けやすくなる。だから日本では、よくも悪くも**「まわりに合わせて、自分の眠りを後回しにしてしまう」**ことが起きやすいのかもしれません。
(※遺伝子や歴史や国民性との関係については研究途上の領域も多く、ここでは「そうした見方もある」という一つの説としてご紹介しています。決めつけずに、自分に当てはまるかどうか、ゆるく眺めてみてください)
「眠れない」のは、あなたのせいじゃない
ここまでの理由を並べてみると、ひとつ見えてくることがあります。
日本人の睡眠の短さは、「だらしないから」でも「努力が足りないから」でもないということ。オンオフを分けにくい文化、頑張りを美徳とする空気、役割の偏り、人に合わせやすい気質——いくつもの”見えない力”が、私たちの眠りをそっと削っているのです。
だからまず、眠れない自分を責めるのをやめてみる。それだけでも、ふっと肩の力が抜けるはずです。
原因が見えてくると、次に知りたいのは「じゃあ、どうすればいいの?」ですよね。
最終回では、国を越えて通用する「良質な睡眠の世界基準」と、忙しい毎日でも眠りを取り戻すヒントを、先生のこんな一言を出発点にお届けします。
「結局、日中が幸せだったら、夜も眠れるんですよ」
👉 第3回:「日中が幸せなら、夜は眠れる」世界基準の良質な睡眠とは(解決編) 👉 第1回:世界の”休み方”くらべ(文化・読み物編)に戻る
(本記事は心療内科医・田中先生への対談取材をもとに構成しています。心身の不調が続く場合は、医療機関や専門家にご相談ください。)










