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監修者

田中 貫平
医師・メンター・タッチベースドマインドフルネス/shinsetsu-tion考案者・Gallup認定ストレングスコーチ・インド中央政府公認ヨガインストラクター
2013年英国シェフィールド大学医学部卒。
手稲渓仁会病院にて初期研修後、2020年九州大学病院心療内科に入局。国際医療福祉大学成田病院では緩和ケアチームにも所属。2024年からはフリーランスの医師として活動している。一般の方から学生、経営者、スポーツ選手など幅広い層のクライアントに対して傾聴およびマインドフルネスの実践指導や心理療法を提供、あらゆる病気や未病(不眠症も含む)の治療や予防改善に取り組んでいる。
読者の皆様こんにちは♪
このシリーズでは、3カ国で暮らした心療内科医・田中先生とともに、世界の”休み方”の違い(第1回)と、なぜ日本人は眠れないのか(第2回)を見てきました。
最終回のテーマは、国を越えて通用する「良質な睡眠」とは何か。 そして先生が大切にしている、こんな一言です。
睡眠というと、つい「寝る前の過ごし方」ばかりに目が行きがち。でも先生の話を聞いていると、いい眠りのカギは、むしろ”起きている時間”に隠れていることが見えてきます。
ペルーの山奥で、人はぐっすり眠っていた
先生はかつて、ペルーの山奥にある、とてもリモートな村に1週間ほど滞在したことがあるそうです。慣れない寒さで、自分自身はなかなか寝つけなかった。けれど——
「そこにずっと住んでいる人たちは、たぶん、ちゃんと眠れているんじゃないかなと思うんですよね。集団でいる安心感というか」(田中先生)
似た光景は、先生のルーツにもありました。曽祖父母と子どもたちが移民としてブラジルのコーヒー農場で働いていた頃、人々は粗末な建物に並んで眠っていたといいます。プライバシーはないかもしれないけど、そこには”運命共同体”のような安心があった。
豊かになり、個人の暮らしが手に入ったぶん、私たちは「自分の幸せって何だろう?」と考えざるを得なくなり、ときに孤立を感じる。 その孤立感が、夜の眠りを浅くしているのかもしれません。
“つながっている感覚”が、夜のあなたを眠らせる
ここで大切なのは、「みんなで川の字になってこれからは寝ましょう」という話ではない、ということ。
先生が指していたのは、日中に「自分は誰かとつながっている」と感じられているかどうかです。
家族でも、友人でも、趣味の仲間でも。昼間のどこかで人とゆるくつながれていると、夜は安心して眠りに入りやすい。 一人暮らしでも、オンラインでつながる相手がいるだけで、その感覚は得られます。
実際、先生がイギリスで「これはよかったな」と感じていたのも、ハウスシェアの暮らし。週末に友人と大きなカウチに並んで「この映画見ようか」と過ごす——そんな何気ない時間が、心をほどいていたそうです。
朝にエスプレッソを一杯、という習慣が、自然と「早寝早起き」を国レベルで支えている。眠りは、街の文化とも地続きなんですね。
いい睡眠を、もっとシンプルに考える
では、科学的に見た「良質な睡眠の世界基準」とは? 先生はこう整理します。
ひとつは、データに沿って試し、自分に合うものを見つけていく方法。 推奨される睡眠時間や寝室環境にはある程度の”幅”があるので、数週間ほど試しながら、睡眠アプリやデバイスで「自分の眠りがよくなる条件」を探っていく。
でも、心療内科医としての先生は、もっとシンプルに考えたいと言います。キーワードは「自律神経」です。
単純に言うと、日中、満足して生きてますか? っていうところに、結局は繋がっていくんじゃないのかなと
活動モードの交感神経と、休息モードの副交感神経。この2つは、日中の過ごし方しだいで夜のバランスが決まります。「眠れない」の答えが、昼間の生き方にあるというのは、ちょっと意外で、でも腑に落ちる視点です。
“満足”を測る、2つのものさし
「日中、満足して生きてますか」と言われても、難しいですよね。そこで先生が教えてくれた、満足度を測る2つのものさしを紹介します。
ものさし①:仕事・家庭・趣味の「3つのバランス」
人生を「仕事」「家庭やプライベート」「趣味・友人関係」の3つで見て、
- 理想は3つすべてが安定していること
- でも、最低でも1つ、できれば2つが満たされていれば、ある程度は満足できる
どれかが一時的に崩れても、ほかが支えてくれる。全部を完璧にしようとしなくていい、という肩の力が抜ける考え方です。
ものさし②:健康・人間関係・「自己決定感」
もうひとつは、幸福に関する研究から。人が幸せを感じるのに大事なのは、
- 健康(体と心)
- 人間関係(身近な人や職場の人との関係)
- 自己決定感——自分で物事を決めている、という感覚
3つ目の「自己決定感」が、先生いわく意外と大事。
毎日が誰かに決められたタスクで埋まっていく感覚は、じわじわと満足感を奪います。小さなことでいいから「これは自分で選んだ」と思える瞬間を持つ。 それが、巡り巡って夜の眠りにも効いてくるとか。
「悩みをゼロにはできない。でも、小さくはできる」
最後に。人間関係や仕事の悩みは、誰にでもあるもの。ゼロにはなりません。
それでも先生自身は、自己理解を深めるためにフォーカシングを中心としたカウンセリングを今も続けながら、過去には様々な種類の心理療法やコーチングも利用していたそうです。日本ではまだ「カウンセリングに行くのは少し恥ずかしい」という空気もありますが——
コーチングはビジネス界ではずいぶん浸透したかとは思うのですが、カウンセリングを受けることも、睡眠も含めた長期の心身の健康の観点から、いつか誰にとっても当たり前のものになることを心から願っています。
眠れない夜を、根性や寝る前のテクニックだけで乗り切ろうとしない。昼間の自分の生き方や、最近の心の状態に目を向けてみる。 それが、遠回りに見えて、いちばん確かな”睡眠改善”なのかもしれません。
結局、日中が幸せだったら、夜も眠れる。
シンプルだけど、これ以上ない世界基準。今日の昼間、あなたは少しでも「満足だな」と思える瞬間を持てたでしょうか。
もし眠れない夜が続いているなら、寝具や寝室環境を整えるのと同じくらい、昼間のつながり・自己決定・心の余白を見直してみてください。眠りは、きっとそこから変わっていきます。
👉 第1回:世界の”休み方”くらべ(文化・読み物編) 👉 第2回:なぜ日本人は眠れないのか(社会・考察編)
参考
日本フォーカシング協会 https://focusing.jp/
(本記事は心療内科医・田中先生への対談取材をもとに構成しています。心身の不調が続く場合は、医療機関や専門家にご相談ください。)











