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監修者

森田 麻里子
医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家
2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016
「毎晩のように夢を見て、夜中に何度も目が覚めてしまう」「悪夢で目覚めた後、眠り直せず疲れが残る」そんな悩みを抱えていませんか?夢を見ること自体は自然な現象で、メリットもありますが、頻繁に夢を見すぎると睡眠の質の低下を招き、疲労感を感じやすいです。実際に、睡眠による休養を取れてない人は平成21年は18.4%だったのに対し、平成30年では21.7%と増加傾向にあります(※1)。また、日本人の睡眠時間が6時間未満の割合は男性37.5%、女性40.6%であり、男性の30〜50歳代、女性の40〜50歳代では4割を超えています(※2)。このように満足に睡眠による休養を取れてない方が多くいます。
そこでこの記事では、医師監修のもと、夢をよく見る科学的な理由とそのメカニズムを詳しく解説します。さらに、眠りが浅くなる原因や、日中のパフォーマンスへの影響、長期的な健康リスクまでを整理し、睡眠の質を改善するための具体的な対策を紹介します。
この記事を読むと、あなたは「なぜ自分は夢を頻繁に見るのか?」という疑問を解消し、深く質の良い睡眠を取り戻すための第一歩を踏み出せるでしょう。
夢をよく見る3つの科学的理由
夢を見る理由はなんでしょうか。夢の多くはレム睡眠で見られます。レム睡眠とノンレム睡眠の違いを解説し、夢の役割やメカニズムを脳科学を中心に紹介します。
レム睡眠とノンレム睡眠の違いと夢の関係
人間の睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2種類から成り、約90分ごとのサイクルで繰り返されています。夢を特に多く見るのが脳が活発に活動している「レム(Rapid Eye Movement)睡眠」の時間帯です。目がピクピクと動くのが特長で脳波は覚醒時に近く、記憶や感情の処理が盛んに行われているため、感情を伴う非常に鮮明な夢を見やすくなります。
一方、「ノンレム睡眠」は脳の活動が抑制されている状態です。この時間帯でも夢は見ますが、内容がぼんやりしており、目覚めても記憶に残りにくいことが多いといわれています。
夢の報告率では、レム睡眠で51〜76%、ノンレム睡眠では12〜18%というデータもあり、レム睡眠で多く夢が見られています(※3,4)。つまり、レム睡眠の時間が長かったり、頻繁に訪れると、夢を見る機会も増えるのです。
記憶の整理・再処理プロセスとしての夢
夢は、日中に得た記憶や感情を脳が整理・再構築する過程で生まれるという見解が、近年の脳科学では主流です。学習した内容、体験した出来事、心の葛藤などが睡眠中に再現され、それが夢となって現れるのです。Winsonらは「夢は記憶の再生と再処理過程で生じる」という仮説を提案しています(※5)。一方で「夢は不要な記憶を消去するために見る」という説はCrickらが提唱しています(※6)。
この「記憶の再処理理論」によると、夢は単なるランダムな映像ではなく、脳にとっての“感情と記憶の整理ツール”でもあります。特にストレスの強い出来事や印象に残った体験は、夢として再現されやすい傾向があるのです。
脳の活動パターンと夢の生成メカニズム
夢を見ている時の脳の活動パターンは覚醒時と類似していることがわかっています。例えば、夢の視覚内容が覚醒時に脳の視覚野に刻まれたパターンと同様に表現されることが報告されています(※7)。
夢の役割、生物学的意義としては様々な仮説があります。先ほど解説した仮説以外にも、Jouvetは「心理的個性を維持するために生じる」と提案しました(※8)。また以前は、脳科学では「活性化合成仮説」が有力でした。これは、睡眠中の脳の自発的な活動によって断片的な記憶や感情が呼び出され、それらを脳が“意味づけ”して夢として統合しているという理論です。
この仮説によれば、夢は脳の無意識的な自己整理の結果であり、心理的に深い意味を持つものではありません。ストレスや不安が強い時期には、脳の感情領域(扁桃体など)が過剰に活性化され、結果的に悪夢を引き起こすことはあります。
夢をよく見ることで起こる睡眠の質の問題
夢を見ることで断片的な記憶や感情を整理できる一方で、頻繁に夢を見ている(覚えている)という状態は浅い睡眠が多くなっていることを示唆します。浅い睡眠が多くなると睡眠の質が低下し、日中の眠気や疲労感、健康リスクに影響を及ぼすのです。働き盛り(中年)世代では、長い睡眠時間が将来の総死亡リスクを減少させ、短い睡眠時間が将来の総死亡リスクを増加させます。また、睡眠休養感のない短い睡眠時間は総死亡リスクを増加させ、睡眠休養感のある長い睡眠時間は総死亡リスクを減少させるとの報告も注目に値するでしょう(※9)。
頻繁に夢を見ることが睡眠の質に与える悪影響を科学的データに基づいて解説し、日中の眠気や長期的な健康リスクへの影響をお伝えします。
眠りが浅くなるメカニズムと夢の関係
夢はレム睡眠で見ることが多く、レム睡眠で見る夢はエピソードとして語ることができる場合が多くあります。夢を見た後に深い睡眠を挟むと夢は覚えていないことが多いですが、すぐに覚醒するとその夢を思い出せる確率が高まります。つまり、浅い睡眠が多いと夢を覚えていることが増えると考えられるのです。
また、悪夢障害等で夢により覚醒してしまうと、夢を見ることそのものが浅い睡眠につながることもあります。つまり、睡眠深度が十分でなかったことを示すサインです。
睡眠サイクルが乱れ、深い睡眠が十分取れないと睡眠の質が低下してしまうといえるでしょう。
深い睡眠についてもっと知りたい方はこちらから。
日中のパフォーマンスへの影響
眠りが浅くなったり睡眠時間が不足したりすると、翌日の日中にさまざまな悪影響が出ます。厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』によれば、睡眠不足は日中の眠気や疲労に加え、頭痛等の心身愁訴の増加、情緒不安定、集中力の低下、注意力や判断力の低下、記憶力の低下などが起こるとされています。睡眠が不足することによって、脳と身体の回復が不十分になるためです。さらに、感情コントロールの低下やストレス耐性の減少により、仕事や人間関係に支障をきたすこともあります。
実際に、睡眠による休養を取れてない人は平成21年は18.4%だったのに対し、平成30年では21.7%と増加傾向にあります(※1)。また、日本人の睡眠時間が6時間未満の割合は男性37.5%、女性40.6%であり、男性の30〜50歳代、女性の40〜50歳代では4割を超えています(※2)。このように満足に睡眠による休養を取れてない方が多くいるのです。
長期的な健康リスクとの関連性
睡眠の質の低下や睡眠不足が慢性化すると、うつ病や高血圧、糖尿病、肥満、免疫力の低下など、さまざまな健康リスクが高まることが分かっています。厚生労働省の『健康づくりのための睡眠ガイド2023』でも、睡眠時間の確保の重要性が強調されています。
最適睡眠時間と習慣的な睡眠時間の差は、自覚症状のない睡眠負債(潜在的睡眠負債)を抱えることにつながりかねません。潜在的睡眠負債を解消することで糖代謝や細胞代謝、ストレス応答などに関わる内分泌機能の改善が実際に認められています(※10)。
夢をよく見る原因と効果的な改善策
睡眠が浅くなって夢を頻繁に見る具体的な原因は何でしょうか。心理的なストレス、食事やアルコール、カフェインなどの生活習慣、寝具や温度などの環境要因など様々あると言われています。ここでは厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023の成人向け推奨事項から、良質な睡眠のための環境づくりと生活習慣改善策を具体的に解説します。ストレス解消、生活習慣の見直し、就寝環境の改善方法を参考にして深い睡眠を手に入れましょう。
ストレスと自律神経の乱れを整える方法
ストレスがたまると交感神経が優位になり、入眠が困難になったり、夜間に何度も目が覚めたりします。下記を参考にしてストレス解消し、リラクゼーションの時間を確保し、心理的ストレスのケアをしましょう。
ストレス対策や睡眠の質を高める改善策としては以下が有効です:
- 深呼吸や瞑想、ヨガなどのリラクゼーション法を習慣にする
- 入浴は寝る90分前に完了し、ぬるめ(38〜40℃)のお湯で副交感神経を優位にする
- 就寝1時間前はスマホやPCを避け、照明も暗めにする
- ウォーキングやジョギングのような運動を日中に行う
- 就寝1時間前には家事や仕事、勉強などに追われないようにする
- 音楽やアロマを活用する
生活習慣の見直しポイント
睡眠の質は生活習慣の影響を大きく受けます。以下のような習慣も夢の頻度や睡眠の質に大きく影響します:
- カフェインの摂取は就寝の8時間前まで
- 晩酌は控えめにし、寝酒はしない
- 禁煙を目指す
- 夜遅い食事は控え、就寝2時間前までに済ませる
- 毎日同じ時間に寝起きする習慣をつける
- 運動は朝か夕方に軽めのものを取り入れる
- 朝起きたら光を浴びる、また朝食を摂る
就寝環境の最適化方法
快適な就寝環境は、深い眠りをサポートし、夢の頻度にも影響を与えます。ストレスケア、生活習慣の見直しだけではなく、就寝環境にも気をつけましょう。
- 室温:夏は25℃前後、冬は18℃〜22℃が理想
- 湿度:50〜60%をキープ
- 照明:就寝1時間前は暖色系で間接照明に、就寝時は真っ暗に
- 音:静かな環境 or ホワイトノイズ
- 寝具:体圧分散と通気性に優れたマットレスが◎
質の高い睡眠のための寝具選びの重要性
寝具は睡眠の質向上のために重要です。厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023では、良質な睡眠のための環境づくりにおいてリラックスできる寝具で眠ることが良い睡眠に繋がると記載されています。自分に合わないマットレスなど寝具を選んでしまうと、睡眠の質が下がるだけでなく、腰痛などの原因になることも少なくありません。体圧分散や温度調節など、快適な睡眠のための寝具選びのポイントについて解説します
マットレスが睡眠の質に与える科学的影響
科学的な研究でも、マットレスの性能が睡眠の深さや中途覚醒の頻度に大きく関わっていることが分かっています。例えば、マットレスの硬さは睡眠の快適性、質、脊椎アライメントに影響していると報告されています(※11)。理想的なマットレスの特長を以下に挙げましたので参考にしてみてください。
- 体圧分散に優れ、腰や肩が沈みすぎない
- 寝返りが打ちやすく、姿勢が崩れない
- 通気性が良く、睡眠中の体温を適切に調整
- 振動吸収性が高く、パートナーの動きで起きにくい
夢をよく見る悩みを解決して質の高い睡眠を取り戻そう
夢を見ることは、レム睡眠や脳の記憶整理活動による自然な現象です。しかし、夢を見る頻度が高すぎたり、悪夢が多かったりすると、睡眠が浅くなってしまいがちです。睡眠の質を改善するために、ストレスへの対処や生活習慣の見直し、寝具や就寝環境の整備などできることから始めてみましょう。この記事で示した具体的な行動ステップを参考に、睡眠の質を改善してみてください。
参考
※1:厚生労働省-健康づくりのための健康ガイド2023(p2)
※2:厚生労働省-令和元年国民健康・栄養調査結果の概要(p27)
※4:超短時間睡眠・覚醒スケジュールを用いた睡眠状態と夢見体験の検討
※5:Brain and psyche: The biology of the unconscious.
※6:The function of dream sleep.
※7:Neural decoding of visual imagery during sleep
※8:Paradoxical sleep as a programming system
※10:Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt