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監修者

森田 麻里子
医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家
2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016
「明日の大事な会議のことを考えると眠れない」「仕事の責任を感じて、夜中に何度も目が覚める」―そんな経験はありませんか?
令和5年労働安全衛生調査によると、労働者の82.7%が仕事でストレスを感じていると回答しており、「仕事の失敗・責任の発生等」(39.7%)がもっとも多いという結果でした。※1
また、日本人の4人に1人が慢性的な不眠を抱えていると言われ、ランド研究所の試算では睡眠不足による経済損失はGDP比2.92%・約15兆円にものぼると試算されています。※2
これは個人の問題にとどまらず、社会全体に影響を与える深刻な実態です。
本記事では、仕事のプレッシャーで眠れない原因を医学的に解説するとともに、今すぐできる対処法から生活習慣の改善、さらには医療機関の受診タイミングまで、段階的なアプローチを紹介します。あなたの「眠れない夜」を解消するヒントになるはずです。
関連記事:
・不安で眠れない夜はどうしたらいい?今すぐ試せる5つの方法と生活習慣3つのポイント
・眠れない夜の即効セルフケア|安眠を誘うツボと睡眠環境の整え方
仕事のプレッシャーで眠れなくなる3つの原因とメカニズム

仕事のストレスは「気の持ちよう」ではなく、れっきとした身体反応です。緊張やストレスがあると脳が興奮して寝つきが悪くなりますが、慢性化すると眠れなかった体験に対して不安が生じ、眠れないことへの恐怖からさらに不眠につながることが少なくありません。決して無理することなく向き合っていきましょう。ストレスによって眠れない夜を引き起こす3つのメカニズムを解説します。
1. 脳の過覚醒状態:「眠らなければ」という焦りが逆効果になる理由
強いプレッシャーを感じると、交感神経が優位になって心拍数が上昇します。副腎皮質から分泌されるコルチゾールが増え、脳と体が「戦闘モード」に入ります。本来リラックスして眠りにつくはずの時間に「明日のために眠らなければ」と焦ると、逆に覚醒度が上がって眠れなくなってしまうのです。この状態は過覚醒状態と呼ばれ、精神交互作用(不眠恐怖)や「寝室=眠れない場所」という望ましくない学習された連想がさらに不眠を固定化してしまいます。
2. ストレスホルモンの影響:仕事の責任感が睡眠を妨げる生理的変化
令和5年労働安全衛生調査によると、労働者のストレス要因は「仕事の失敗、責任の発生等」(39.7%)、「仕事の量」(39.4%)、「対人関係」(29.6%)が上位を占めています。※1
こうした心理的負担はストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を高め、心拍数の上昇や筋肉の緊張を引き起こします。その結果、体がいつまでも興奮状態のままとなり、眠りに入りにくくなるのです。
3. 不眠の悪循環:睡眠不足が翌日のプレッシャーを増幅させる
眠れない夜を繰り返すと、翌日の集中力や判断力が低下します。連続覚醒時間とパフォーマンスを調査した研究によれば、起床後17時間が経過した状態は飲酒運転と同レベルの判断力低下に相当すると報告されています。※3
仕事のパフォーマンスが下がればミスが増え、さらにプレッシャーが強まり、夜眠れなくなる―典型的な悪循環になってしまうため注意が必要です。一時的に寝不足をカバーして仕事を乗り切る方法は以下の記事を参考にしてください。
参考:寝不足でも仕事を乗り切る!科学的根拠に基づいた7つの即効対策
今すぐ試せる!仕事のプレッシャーで眠れない夜の3つの対処法
眠れない夜に必要なのは「今すぐ効く」テクニックではないでしょうか。まずは科学的に効果が認められている、即効性の高い実践的な3つの対処法を紹介します。
関連記事:
・不安で眠れない夜はどうしたらいい?今すぐ試せる5つの方法と生活習慣3つのポイント
・眠れない夜の即効セルフケア|安眠を誘うツボと睡眠環境の整え方
1. 4-7-8呼吸法:副交感神経を優位にして心身をリラックス
4秒で吸う→7秒止める→8秒で吐くという方法を繰り返す4-7-8呼吸法は、副交感神経を優位にし、心拍数を落ち着かせてストレスや不安を軽減してくれる方法です。※4
就寝前にベッドの中で実践すれば、緊張で硬くなった体がゆるみ、自然に眠気が訪れやすくなるでしょう。ポイントは「吸う」よりも「吐く」時間を長くすることです。
2. 筆記開示法:仕事の不安を紙に書き出して思考を整理
「明日のプレゼン、失敗したらどうしよう」と頭の中で考え続けると、脳は休まりません。そこでおすすめなのが筆記開示法です。寝る前に10分間、ノートに不安やタスクを書き出すだけで、脳内の情報を整理できます。タスクリストや心配事、解決策を書き出すだけでも効果が期待できるでしょう。
3. 温かい飲み物で深部体温を調整:ハーブティーの活用
眠気は体温のリズムに影響を受けます。就寝1時間前にノンカフェインのカモミールティーなどのハーブティーを飲むと、深部体温が一時的に上がり、その後の体温低下によって自然な眠気を促します。アルコールは一見眠気を誘いますが、睡眠の質を下げるため避けましょう。
参考記事:
寝る前のハーブティーで睡眠の質を改善|効果的な飲み方と注意点を徹底解説
仕事のストレスを軽減する日中の過ごし方
夜ぐっすり眠るためには、日中の過ごし方が大きく影響します。ストレス管理に役に立つ適切な運動や日光浴、休暇の取り方など日中にできる予防的アプローチを紹介します。
1. 適度な運動でストレスホルモンを減少させる
有酸素運動はコルチゾールを減らし、睡眠の質を高めます。週3回、30分のウォーキングや軽いジョギングを取り入れることが理想ですが、通勤時の階段利用や昼休みの散歩でも十分効果的です。ポイントは「夕方までに行う」こと。夜の運動は覚醒を強めてしまうことがあるため注意してください。
2. 仕事の優先順位を明確にしてプレッシャーを軽減
タスクを「重要度×緊急度」で整理し、優先順位をつけるだけでもプレッシャーは減ります。また、完璧主義にとらわれすぎないことも重要です。業務をチームで分担し、一人で抱え込まないよう工夫しましょう。
関連記事:仕事中に寝てしまう原因と対処法|睡眠障害の可能性と改善策を解説
3. 休憩時間を活用したマインドフルネス実践
昼休みやコーヒーブレイクの数分を使って、目を閉じて呼吸に集中するだけでも心身が整いやすくなります。深呼吸や瞑想や軽いストレッチでも十分です。こうした小さなリラックスが、夜の睡眠の質を高めるのです。
参考記事:瞑想のやり方を医学的根拠で解説!初心者でも5分で始められる実践法
眠れない時試してみて!【Kokoちゃんが実践!眠くなる方法10選】
慢性的な不眠を防ぐ!睡眠環境と生活習慣の改善策
すぐに対応できる対処法だけではなく、生活全体を整えることが長期的な不眠予防につながります。長期的な睡眠改善のための環境整備と生活習慣の見直しについて確認していきましょう。
1.理想的な睡眠環境を作る3つの要素
快適な睡眠には「光・温度・音」の3要素が重要です。
・光:就寝時には真っ暗な環境を意識して遮光カーテンやアイマスクなど必要に応じて取り入れましょう。就寝前1時間程度から部屋の光を暖色系に切り替えると効果的です。
・温度:18〜26度、湿度は50〜60%が適しています。エアコンや加湿器等組み合わせて理想的な環境を作りましょう
・音:騒音や生活音があると眠りの妨げになります。静寂でリラックスできる環境を作りましょう。
これらに加えて、自分に合ったマットレスを選ぶことも睡眠の質に影響します。コアラマットレスは実際に試してみて判断できるため、安心して選択できます。
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2. 体内時計を整える規則正しい生活リズム
毎日同じ時間に起床・就寝することが、体内時計を安定させます。特に朝の光を浴びることは体内リズムをリセットする重要な習慣です。体内時計が整うことで夜の睡眠の質を高めてくれます。休日の寝だめは社会的時差ボケを引き起こすため避けましょう。
関連記事:不眠症なのに昼寝はできる理由とは?睡眠リズムを整える正しい対処法
3. 就寝前のNG習慣を改善する段階的アプローチ
スマホのブルーライトや夜食時のカフェイン、寝酒としてたしなむアルコールなどは睡眠の質を下げます。完全にやめるのが難しい場合は少し工夫しましょう。たとえばスマホはブルーライトを抑えた照明にする、使用時間を減らすといった取り組みから始めると続けやすいです。飲み物の場合はノンカフェイン飲料やノンアルコール飲料に置き換える、ハーブティーを試すなど、段階的に改善していきましょう。
関連記事:仕事で徹夜した翌日を乗り切る方法とは?科学的根拠に基づく対策と健康リスク
医療機関を受診すべきタイミングと治療の選択肢
セルフケアや生活習慣の改善に取り組んだにも関わらず眠れない状態が続くなら、専門的なサポートが必要かもしれません。不眠症の診断基準や治療法(薬物療法や認知行動療法)について解説します。
関連記事:不眠症と脳の異常の関係|症状の見分け方と改善アプローチを徹底解説
3ヶ月以上続く不眠は慢性不眠障害の可能性
不眠症状が週3回3ヶ月以上続き、日中の集中力低下や倦怠感が見られる場合は、慢性不眠障害の診断基準に該当します。この場合は心療内科や睡眠専門外来の受診が推奨されます。不眠症の診断基準を下記に記載しましたので参考にしてください。※5
| 基準 | 内容 |
| A.夜間症状 | 以下の睡眠困難のいずれか、または複数が持続する:
・入眠困難(寝つきが悪い) ・睡眠持続困難(夜中に何度も目が覚める、再入眠困難) ・早朝覚醒(予定より早く目覚め、再入眠できない) ・睡眠の質が悪く、休養感が得られない |
| B.睡眠機会の十分性 | 睡眠をとる機会や環境が適切に確保されているにもかかわらず、不眠が生じている |
| C.日中の影響 | 不眠により以下のような日中機能障害が認められる:
・疲労感、倦怠感 ・集中力・注意力・記憶力の低下 ・仕事・学業・社会活動での支障 ・気分の変化(イライラ、不安、抑うつなど) ・日中の眠気、能率低下、事故・エラーの増加 ・健康への影響(免疫低下、疼痛の悪化など) |
| D.頻度・持続期間 | 不眠症状が週3回以上、3ヶ月以上継続している |
| E.他疾患の除外 | 不眠が他の睡眠障害(例:睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群)、精神疾患、身体疾患、薬物や物質の影響によって十分に説明されない |
| F.臨床的意義 | 不眠症状が独立した臨床的意義をもち、苦痛や機能障害を引き起こしており、単なる併発症状ではない |
最新の治療法:オレキシン受容体拮抗薬と認知行動療法
従来の睡眠薬に比べて依存性が低く、自然な睡眠に近い形を保てるオレキシン受容体拮抗薬が近年注目されています。また、薬を使わない方法として不眠症の認知行動療法(CBT-I)が国際的に有効性を認められています。
職場のメンタルヘルス対策を活用する方法
50人以上の企業の91.3%がメンタルヘルス対策を実施しています。※6
勤めている会社にストレスチェックや産業医面談、EAP(従業員支援プログラム)などがある場合は、積極的に活用して改善に生かしましょう。
まとめ|仕事のプレッシャーによる不眠は改善できる
仕事のプレッシャーで眠れない原因と今すぐできる対処法、生活習慣の改善、医療機関での治療まで紹介しました。今日からできる3つの行動をぜひ試してみませんか。
- 今夜は呼吸法や筆記開示法を実践する
- 明日からは生活習慣や睡眠環境を整える
- 3ヶ月以上続く場合は医療機関に相談する
しっかり眠れることは、健康だけでなく仕事のパフォーマンス向上にも直結します。まずは小さな一歩から始めてみましょう。
関連記事:休日ずっと寝てしまう原因と対策(未掲載)
参考
※1 令和5年労働安全衛生調査
※2 Why Sleep Matters: Quantifying the Economic Costs of Insufficient Sleep
※3 atigue, alcohol and performance impairment
※5 国際睡眠障害分類 第3版




