睡眠コラム by 松岡 雄治2026年6月25日読了目安時間: 5

起立性調節障害の場合必要な睡眠時間は?朝起きられない原因と家庭でできる整え方

起立性調節障害と向き合うなかで、「結局、何時間眠らせるのが正しいのか」「これだけ寝ているのに、なぜ朝は起きられないのか」と悩む方もいるでしょう。長時間眠っているように見えても日中はずっと眠そうで、寝すぎなのか睡眠が足りていないのか、判断に迷う場面も多いはずです。

起立性調節障害による朝の起きにくさは、本人の怠けではなく、体の仕組みによって起こります。この記事では、思春期の子どもに必要な睡眠時間の目安から、起立性調節障害で睡眠リズムが崩れる理由、家庭でできる対応、受診を検討すべきサインまで解説します。

「無理に起こしてよいのか」と迷う場面や、受診を考えるサインまで整理しているので、ぜひ最後までご覧ください。

 

起立性調節障害の人に必要な睡眠時間の目安

まずは、年齢に応じて必要な睡眠時間を客観的に把握することから始めましょう。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」では、小学生は9〜12時間、中学・高校生は8〜10時間が推奨される睡眠時間の目安として示されています。※1

起立性調節障害だからといって、特別に長い睡眠時間が必要ではありません。年齢や体質によって個人差はありますが、まずはこの目安を参考にして、お子さんの睡眠が足りているか、または睡眠リズムが崩れているかを確認してみてください。

※1 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」

睡眠時間だけでなく睡眠休養感も見る

ベッドにいた時間ではなく、「休めた実感(睡眠休養感)」があるかどうかが大切です。たとえば、次のような点が確認の手がかりとなります。

  • 長時間寝ていても、起床時にだるさや頭痛がないか
  • 日中の授業中に強い眠気を感じ、集中力が低下していないか
  • 寝つきの悪さや途中覚醒がないか

これらに該当する場合、睡眠時間は足りていても、睡眠の質(睡眠休養感)が低下している可能性があります。「長く寝ているから大丈夫」と時間だけで判断せず、しっかり休めているかどうかも確認しましょう。

 

起立性調節障害で睡眠リズムが崩れやすい理由

朝起きられないのは、本人の気合いや怠けの問題ではありません。起立性調節障害は、自律神経による体の調節がうまく働かなくなる病気です。ここに思春期特有のホルモン変化が加わることで、「夜眠れず、朝起きられない」という状態が作り出されると考えられています。

1. 自律神経の乱れと起床困難

起立性調節障害では、立ち上がったときに血圧や血流を維持する自律神経のはたらきがうまくいきません。そのため、脳へ送られる血流が一時的に不足し、立ちくらみや全身のだるさ、頭痛などが起こりやすくなります。

朝はこの調節が追いつかず、「目は覚めているのに体を起こせない」という起床困難の症状として現れます。無理に起こそうとしても体がついてこないのは、こうした体の仕組みが背景にあるためです。

2. 睡眠相後退と昼夜逆転

起立性調節障害の子どもでは、眠りにつく時刻と起きる時刻が通常より数時間後ろにずれる「睡眠相後退」がよく見られます。深夜や明け方にならないと眠気が訪れず、自然と就寝時刻が遅くなりがちです。

その結果、朝の時間帯はまだ深い睡眠の最中となり、何度声をかけても起きられないという状況になります。そして起床が遅れることでさらに夜の入眠も遅れ、昼夜逆転につながります。

3. 思春期の睡眠リズム変化

睡眠リズムの後退には、思春期による身体の変化も関係しています。思春期に入ると、眠気を促すホルモンであるメラトニンの分泌時刻が遅くなり、生理的に夜型(夜更かし・朝寝坊)になりやすい時期を迎えます。

眠気のリズムと、学校の始業時間とのあいだにズレが生じることで、起床困難はさらに強まります。思春期の子どもが朝に弱くなるのは、ある程度は自然な変化でもあると理解しておくと、冷静に対応しやすくなるでしょう。

 

寝すぎと睡眠不足をどう見分けるか

長く布団に入っているからといって、十分な睡眠がとれているとは限りません。保護者は「何時間横になっていたか」だけで判断するのではなく、「実際どれくらい眠れているか」と「平日・休日の睡眠の差」を観察することが大切です。

寝ている時間が長いのに眠いケース

ベッドにいる時間は長いのに日中も眠そうな場合、実際の睡眠の質が下がっていることがあります。寝つくまでに時間がかかったり、途中で何度も目が覚めて連続した睡眠時間が短くなったりすると、横になっている時間のわりに体は休めていません。

また、体調不良で日中の活動量が落ちると、夜に深く眠りにくくなることもあります。「長く寝ているから問題ない」と判断せず、睡眠の質も疑ってみることが、状態を正しく把握する手がかりになります。

休日の寝だめと平日の寝不足

休日の寝だめは、一見すると睡眠不足を解消する方法のように思えますが、実際には睡眠リズムを乱す原因になります。

たとえば、平日は学校へ行くために早起きが必要です。しかし、夜更かしが続くと慢性的な睡眠不足となり、睡眠負債がたまります。そして、睡眠負債を取り戻そうとして休日に長く寝てしまうと、平日よりも起きる時間が遅くなってしまいます。

休日もできるだけ平日と同じくらいの時間に起きるようにしましょう。生活リズムの乱れを防ぐためにも、平日と休日で起床時間の差が大きくならないよう注意が必要です。

 

家庭でできる睡眠リズムの整え方

医療的な治療には医師の判断が必要ですが、家庭での環境調整は今日から始められます。生活習慣を少しずつ整えることが、睡眠リズムを回復させる土台になります。完璧を求めず、お子さんができる範囲で見直していきましょう。

1. 朝の光と食事時間を固定する

体内時計のリズムを整える基本は、朝の光と食事の時間を一定に保つことです。起床時刻を大きくずらさず、起きたらまずカーテンを開けて朝の光を浴びるようにしましょう。

朝の光を浴びると体内時計がリセットされ、その晩の自然な眠気につながると考えられています。すぐに起き上がれないとしても、朝食やスープなどを少し口にして胃腸を動かすと、体に「朝が来た」という合図を送りやすくなります。

2. 夜のスマホとゲームを見直す

就寝前のスマホやゲームを見直すことも、スムーズな入眠を助けます。スマホやゲームの強い光は、眠気を促すメラトニンの分泌を抑えてしまうとされているためです。

就寝の1時間前には使用をやめ、寝室に持ち込まないルールを家族で決めておくとよいでしょう。どうしても持ち込む場合は、通知音で目が覚めないよう、おやすみモードなどを設定しておくのがおすすめです。

無理やり起こす前に確認したいこと

なかなか起きてこないとき、強く叱責する前に、まずは体の状態を確認してみてください。本人に立ちくらみや頭痛、強いだるさがないかを聞き、前日の夜は何時に眠りにつけたのかをたずねてみましょう。

起きられないのは怠けではなく、病気の症状である可能性があります。症状がある日は無理に起こそうとせず、体の状態に合わせて対応することが、本人の負担軽減になるでしょう。

 

学校生活への影響と受診を考えるサイン

起立性調節障害は、学業や学校生活に直結する疾患です。日本小児心身医学会によれば、中学生の有病率(軽症例を含む)は約10%にのぼり、不登校状態の子どもの3〜4割に起立性調節障害がみられるとされています。※2

家庭だけで抱え込まず、以下のサインが見られたら医師への相談を検討してください。

※2 一般社団法人 日本小児心身医学会「起立性調節障害」

1. 遅刻や欠席が増えた

朝起きられず、午前中の授業に間に合わない日が増えてきた場合は、本人の意思だけでは登校をコントロールできなくなっているサインかもしれません。起立性調節障害は、午後になると体調が回復し、夕方には元気に見えることも多いため、周囲から怠けと誤解されがちです。

誤解を防ぐためには、家庭で「就寝時刻」「起床時刻」「そのときの症状」を記録しておくのが有効です。記録を残すことで、状態を客観的に説明でき、周囲からの理解を得やすくなります。

2. 不登校やメンタル不調が重なる

身体の症状に加えて、心理面の不調が重なってきた場合も注意が必要です。学校に行けないことへの罪悪感から気分の落ち込みや不安が強くなったり、昼夜逆転がさらに悪化したりすることがあります。

こうした状態では、身体症状に加えて心の不調の疑いもあるため、小児科などの医療機関や、学校との連携も視野に入れて対応していきましょう。

 

起立性調節障害と睡眠に関する研究

起立性調節障害と睡眠の関係は、現在も研究が進められている領域です。近年は、ウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど、腕などに装着して心拍や睡眠を計測する機器)を用いて日々の睡眠状態と症状の関連を分析する取り組みも行われています。

こうした研究の視点を踏まえると、「睡眠時間」だけでは不調の全容を捉えきれないと考えられます。寝つきの良し悪しや途中の目覚め、深い睡眠の割合といった多角的な視点から睡眠をとらえることが、適切な生活指導につながる可能性があります。

家庭で専門的な機器を使う必要はありませんが、受診時の判断材料として、以下のような記録を残しておくと医師も状態を把握しやすくなります。

  • 布団に入った時刻と実際に眠ったと思われる時刻
  • 朝起きた時刻とそのときの体調(頭痛や立ちくらみの有無)
  • 日中の眠気や学校生活への影響

日々の客観的な記録は、適切な診断と生活指導の重要な手がかりとなります。

 

起立性調整障害と睡眠に関してよくある質問

起立性調整障害のご本人や保護者から、よく寄せられる疑問に回答します。それぞれの状況に合わせて確認してください。

Q1. 何時間寝ても朝起きられないのはなぜ?

睡眠時間の長さではなく、睡眠リズムと自律神経のはたらきが背景にあります。睡眠相後退によって深夜にしか眠れなくなると、朝の時点ではまだ深い睡眠中になりやすく、起きるのが難しくなるのに加えて、睡眠の質が下がって睡眠休養感が得られないことや、起立時に脳へ血流を送る自律神経の働きが弱く、体を起こしにくいことも重なります。

長く寝ても起きられないのは、こうした複数の要因が関係しているのです。

Q2. 昼寝はしてもよい?

昼寝は、うまく活用すれば日中の強い眠気への対処として有効な場合があります。眠気を我慢しすぎると、かえって夕方以降の体調不良につながることもあるためです。

ただし、長すぎる昼寝や夕方以降の昼寝は、夜の入眠をさらに遅らせてしまいます。昼寝をするなら、午後の早い時間帯に15分程度と短く区切り、生活リズムを崩さない範囲にとどめるのがポイントです。

Q3. 薬やサプリメントを服用するべき?

薬は、専門家の判断の下で服用するようにしましょう。睡眠リズムを整える薬(メラトニン受容体作動薬など)が処方されるケースもあります。

ただし、成長期の子どもの脳や自律神経の症状に対して、自己判断で市販の睡眠改善薬やサプリメントを使用することはリスクを伴います。必ず小児科や専門医を受診し、医師の診断に基づいて適切な処方を受けてください。

 

まとめ:起立性調節障害の睡眠時間は目安とリズムの両方で考えよう

起立性調節障害の子どもの睡眠は、「何時間寝たか」という単純な時間の目安だけでは解決するのが難しい特徴があります。

思春期特有の睡眠リズムの後退、自律神経の不調による起床困難、日中の眠気などが複合しているのです。朝起きられないことを怠けと決めつけず、まずは朝の光や夜のスマホ制限など、家庭でできる環境調整から始めてみることが解決の糸口になります。

ただし、遅刻や欠席が増え、不登校や強い体調不良が見られる場合は、家庭だけで解決しようとせず、小児科などの医療機関や学校へ早めに相談してみましょう。

 

【メタディスクリプション】

起立性調節障害の子どもに必要な睡眠時間の目安、夜眠れず朝起きられない理由、寝すぎや睡眠不足の見分け方、家庭でできる睡眠リズムの整え方を解説します。保護者が「怠けではないのか」「無理に起こしてよいのか」と迷う場面や、受診を考えるサインまでまとめました。