目次
監修者
松本 恭
「健康の秘訣はぐっすり眠ること」がモットーで、これまでウォーターベッド、ウッドスプリングベッド、西式健康枕、ハンモックなどさまざまな寝具の寝心地を追求してきた睡眠マニア。偶然出会ったコアラマットレス®︎の快適さに感銘を受け、メンバーとして参加。上級睡眠健康指導士としての知識を通して、より多くの人に快眠を届けたいと願っている。
連日の強い日差しと厳しい暑さが続くと、食事の時間になっても食欲が湧かず、冷たいジュースや氷菓だけで空腹をごまかしてしまうことが増えがちです。私自身も以前、多忙を極めた夏場に食事が喉を通らなくなり、手軽な麺類や冷たい飲み物ばかりに頼っていた結果、体力が低下して日中のパフォーマンスを著しく落としてしまった苦い経験があります。
夏場に起こる食欲の低下は、単なる一時の「夏バテ」として片付けられがちですが、実は高温多湿による体温調節の負荷や冷たいものの摂りすぎによる胃腸の不調、寝苦しさからくる睡眠不足など、さまざまな要因が重なり合って生じています。食事の摂り方や一日の過ごし方を見直し、寝室環境までを含めた生活のリズムを整えていくことが、暑い季節を元気に乗り切るコツです。
本記事では、上級睡眠健康指導士の資格を持つコアラマットレス社員の松本が、夏の食欲不振を引き起こす主な原因から、食欲がないときの食事や生活の工夫、そして医療機関へ相談すべき目安まで分かりやすく解説していきます。
食欲不振とはどのような状態?
まず、食欲不振という言葉が指す状態を整理しておきましょう。
食欲不振とは、食べていないにもかかわらず食欲が出ない状態のことです。※1
ふだんは血糖値が下がると脳の視床下部にある摂食中枢が刺激されて空腹を感じますが、何らかの理由で脳が食欲を感じにくくなっていると、時間が来ても食べたいという気持ちがわいてきません。
実際の自覚症状は、おなかがすかない、食事が食べられない、食べる気がしないなどさまざまです。また、食欲そのものは残っていても、吐き気、口内炎などによる口の痛み、飲み込みにくさが理由で食事をとれない場合もあります。原因によって対処の方向がまったく変わりますので、自分がどのタイプで困っているのかを言葉にしておくと、あとで医師に相談するときにも役立ちます。
夏に食欲不振が起こりやすい理由
夏の食欲不振は、暑さという一つの原因だけで説明できるものではありません。食事のとり方の変化、寝苦しさによる睡眠不足、そして別の体調不良が、同じ時期に重なって起きていることがよくあります。夏に起こりやすい4つの背景を順に見ていきましょう。
1. 暑さで食事量が減りやすい
近年の夏の暑さは、体感の問題では済まない水準になっています。気象庁によれば、2025年の夏は6月から8月の日本の平均気温が基準値を2.36℃上回り、1898年の統計開始以降で最も高い夏となりました。全国のアメダス地点で観測された猛暑日の延べ地点数も9,385地点に達しています。※3
こうした厳しい暑さが続く環境では、食欲が落ちるのは自然なことです。農林水産省も、夏は暑さで食欲が落ちやすい時期であり、食事を簡単にさっぱり済ませようとしてそうめんやうどんなど炭水化物に偏りやすいと指摘しています。※4
食事を抜いたり、麺類だけで終えたりする日が続くと、必要なエネルギーや栄養を確保しにくくなり、だるさが抜けない状態につながりやすいです。
2. 暑くて十分に眠れない
食事量の減少と並んで見落とされやすいのが、夜の睡眠です。夜になっても気温が下がりきらない時期には、寝つくまでに時間がかかったり、途中で目が覚めたりして、必要な睡眠時間の確保が困難になります。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」で勧められている成人の睡眠時間は、6時間以上が目安です。※5
必要な睡眠時間には個人差がありますが、この目安を大きく下回る夜が続けば、日中の疲労感は積み重なりやすいでしょう。
ただし、睡眠不足が食欲不振を直接引き起こすと言い切れるわけではありません。寝不足と疲労感が重なると、買い物や調理に向かう気力が落ち、食べること自体が面倒に感じられやすくはなりますが、体調が整いにくい背景の一つとして捉えるとよいでしょう。
3. 飲み物や間食で満腹になる
暑い日が続くと、つい冷たいものに手が伸びがちです。麦茶やスポーツドリンク、アイス、冷たい麺類などに偏りやすく、食事の前にこれらで空腹を満たしてしまうと、いざ食卓についても食べられる量が減ってしまいます。
かといって、水分補給を控えるのは避けるべきです。暑い時期の水分は熱中症を防ぐうえで欠かせません。飲み物や間食の量を減らすのではなく、一度にとる量とタイミングを調整しましょう。日中にこまめに分けて摂るようにすると、食事への影響が出にくいです。
なお、冷たいものが胃腸を冷やして消化機能を低下させるという説明を見かけることがありますが、実際には断定できません。食事が食べにくくなっているのは、満腹感のタイミングと食事内容の偏りである場合が少なくないためです。まずは飲み物や間食の摂り方を見直してみましょう。
4. 熱中症や感染症など別の不調が隠れている
飲み方や食べ方を調整しても改善しないときは、夏バテという言葉で片づけずに、別の病気を疑う必要があります。総務省消防庁によれば、2025年5月から9月の熱中症による救急搬送人員は100,510人にのぼり、集計を開始した2008年以降で最多となりました。※6
暑い環境で過ごしたあとに頭痛や吐き気、嘔吐、強い倦怠感がある場合は、熱中症の可能性を考えてください。環境省の資料では、反応がおかしい、意識がない、自力で水分を飲めないという状態は、ためらわずに救急要請すべき段階としています。意識がはっきりしないときに無理に水を飲ませることも避けてください※7。
また、発熱、腹痛、下痢を伴う場合は、感染症や食中毒も考えられます。家庭での食中毒として腹痛や下痢、吐き気などの症状が起こりやすいため、似た症状があるときは、食事の工夫よりも医療機関への相談を優先してください。
関連記事:上級睡眠健康指導士監修|夏用寝具について解説!涼しい素材選びからおすすめアイテムまで
夏以外に考えられる食欲不振の原因
食欲不振そのものは、夏に限らず一年を通じて起こる症状です。季節のせいだと思い込んでいると、別の原因を見逃すことになりかねません。
済生会は、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、感染性胃腸炎、急性肝炎などの消化器疾患のほか、肺や心臓、腎臓、甲状腺の持病、うつ病や神経性やせ症、さらに抗菌薬や抗がん剤、鎮痛薬といった薬の副作用でも食欲不振が起こると説明しています。※1
また、高齢者では、加齢に伴う食欲の低下に加えて、虫歯や口内炎といった口腔内の問題、認知症、服薬などが重なりやすいことも知られています。※2
食欲不振の主な原因と確認しておきたい変化、相談先の目安を次の表にまとめました。
| 考えられる原因 | 一緒に現れやすい変化 | 相談先の目安※1※2 |
| ストレスや気分の落ち込み | 眠れない、興味がわかない、気分が沈む | 心療内科や精神科 |
| 胃炎や胃潰瘍などの消化器の病気 | 胃痛、胃もたれ、吐き気、下痢 | 消化器科や内科 |
| 感染症 | 発熱、倦怠感、のどの痛み | 内科 |
| 心臓や腎臓、甲状腺などの病気 | むくみ、息切れ、動悸、体重の変化 | かかりつけ医や内科 |
| 虫歯や口内炎など口の問題 | 口の痛み、噛みにくさ、飲み込みにくさ | 歯科や口腔外科 |
| 薬の副作用 | 薬を飲み始めてからの食欲低下、吐き気 | 処方した医師や薬剤師 |
特に気をつけたいのが薬の影響です。心当たりがあっても自己判断で服薬を中止することは避けて、必ず医師や薬剤師へ相談してください。また高齢の方の場合は、活動量の低下、口腔機能の衰え、一人で食事をとる機会の増加など、複数の要因が同時に重なっていることが多く、一つの原因に絞り込めないこともある点に注意しましょう。
夏の食欲不振がつらいときの食事の工夫
原因の切り分けができたら、次は今日から試せる食べ方を考えていきます。大切なのは、無理に一度で食べようとしないことです。食べられる量と、そのときの体調に合わせて食事を組み立て直していきましょう。
1. 一度に無理をせず少量ずつ食べる
一度に普段どおりの量を食べることが難しいときは、1回の量を減らして回数を増やす方法から試してみてください。朝昼晩の3回で食べきろうとせず、間に軽く口にする時間を設けるだけでも、1日の合計量は確保しやすいです。
食べるものについては、スープや麺類、おかゆ、おにぎりなど自分が食べやすいと感じるものから選ぶとよいでしょう。特定の食品を無理に取り入れる必要はありません。
ただし、吐き気があって食べ物を受けつけない、飲み込むときに引っかかる感じがあるという場合は、原因によって対処が変わるため医師に相談してください。
2. 食べやすさと栄養のバランスを考える
食べられる量が少しずつ戻ってきたら、内容にも目を向けます。ポイントになるのは、のど越し、温度、味つけ、香りといった自分が食べやすいと感じる条件です。冷たいものが進むのか、温かい汁物のほうが楽なのかは人によって違いますので、その日の感覚に合わせて構いません。
麺類だけといった一つの料理に偏る状態が続かないよう気をつけてください。農林水産省も、簡単に済ませようとすると炭水化物に偏りやすいと指摘しています。※4
厚生労働省と農林水産省が策定した食事バランスガイドでは、食事を主食、副菜、主菜、牛乳乳製品、果物の5つの区分で組み合わせて考えます。※9
卵、肉、魚、大豆製品、野菜などを、無理のない範囲で少しずつ足していきましょう。
なお、ビタミンB1や特定の食材に食欲を回復させる効果がある可能性はあるものの、断定まではできません。食べやすさを優先しながら、少しずつ偏りをならしていくという順番で考えてください。
3. 水分をこまめに補給する
食事量が減っているときに、あわせて注意したいのが水分です。私たちは飲み物だけでなく食事からも水分を摂っていますので、食べる量が減ると、気づかないうちに水分の摂取量も落ちています。汗をかきやすい時期は、その差がそのまま脱水につながります。
飲める範囲で構いませんので、時間を決めてこまめに水分を摂ることを心がけてください。大量に汗をかいた場合は塩分の補給も必要になりますが、すべての人に一律で塩分やミネラルの補給がすすめられるわけではありません。持病があって塩分や水分の制限を受けている方は、主治医の指示を優先してください。
そして、自力で水分をとれない状態や、飲んでもすぐに吐いてしまう状態は、家庭での対応の範囲を超えています。ためらわずに医療機関へ相談してください。
夏の食欲不振を防ぐ生活の整え方
食べ方の工夫と並行して、繰り返さないための土台も整えておきたいところです。食欲だけを見つめるのではなく、暑さを避けながら、食事と睡眠のリズムを保つという視点で生活を見直していきます。
1. 冷房を使って室内を涼しく保つ
まず大切なのは、暑さを我慢しないことです。冷房や扇風機を使い、日中に過ごす部屋の温度を下げておくと、体力の消耗を抑えられます。
目安として役に立つのが、環境省が公表している暑さ指数です。暑さ指数は気温だけでなく湿度、日射や輻射、気温の3つの要素から算出される指標で、31以上は危険、28以上31未満は厳重警戒とされています。※10
厳重警戒の段階では、外出時に炎天下を避けるとともに、室内では室温の上昇に注意する必要があります。「危険」の段階に至ると、高齢者は安静にしていても熱中症になる危険性が高いそうです。※10
屋外との温度差を必ず何度以内に収めるといった一律の基準を気にするよりも、室温や暑さ指数、その日の体調を見ながら調整してください。冷えが気になる場合も、冷房を切ってしまうのではなく、風向きを変える、羽織るものを一枚足すといった方法で対応すると安全です。
2. 食事と生活のリズムを保つ
涼しく過ごせる環境が整ったら、次は生活の時間割です。食欲がない日でも、食事の時間帯を一定にすることを意識してください。食べられる量が少なくても構いませんので、決まった時間に何かを口にすることを意識すると、リズムが崩れにくいです。
そのためには、食事を用意する負担そのものを減らす工夫も欠かせません。朝夕の涼しい時間帯に買い物や調理を済ませておく、作り置きを活用するといった方法で、暑いなかで台所に立つ時間を短くできます。
ただし、作り置きを利用するときは保存に注意してください。厚生労働省は、冷蔵庫は10℃以下、冷凍庫はマイナス15℃以下に保つこと、そして残った食品を温め直すときは75℃以上を目安に十分加熱することをすすめています。※8
3. 寝室を整えて睡眠時間を確保する
生活リズムを支えるもう一つの柱が、夜の睡眠です。暑い時期はエアコンや扇風機を活用して、暑すぎず寒すぎない寝室を保ちましょう。健康長寿ネットによれば、睡眠時の室温は13℃から29℃が許容範囲とされ、寝床のなかは温度が33℃前後、湿度が50%前後であることが望ましいと説明されています。※11
汗をかきやすい季節ですので、通気性や吸湿性を確認して、自分が快適だと感じられる寝具を選んでおくと、寝苦しさをやわらげる助けになります。寝床のなかの環境は、衣服や寝具でも調整できます。※11
睡眠時間の確保について、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人は6時間以上を目安に睡眠時間を確保するよう勧めています。※5
睡眠によって食欲不振が治るわけではありませんが、体調と生活リズムを立て直すための土台として、眠る時間を削らずに済む環境を整えておきたいところです。
関連記事:夏の疲れを乗り切る!快眠のための対策9選
食欲不振で医療機関を受診する目安
セルフケアで様子を見てよい範囲と、相談したほうがよい範囲の境目も確認しておきましょう。もっとも急を要するのは脱水が疑われる場合です。食事も水分もほとんど摂れない、尿の量が減っている、ぐったりして反応が鈍いという状態であれば、早めに医療機関へ連絡してください。反応がおかしい、意識がない、自力で水分を飲めない場合は救急要請が必要です。※7
緊急性が高くない場合も、判断の軸を持っておくと迷いません。済生会は、数日以上食欲不振が続く場合には医療機関の受診が必要としています。※1
あわせて確認したいのが体重です。ダイエットなどの意図的な体重コントロールをしていないのに、6か月から12か月で4.5kg、もしくは5%以上減少した場合は、内科の受診が推奨されます。※12
また、発熱、腹痛、下痢、嘔吐、胃痛といった症状を伴う場合も、暑さのせいと決めつけずに受診を検討してください。高齢の方では、食欲不振による栄養状態の悪化が骨粗鬆症や骨折のリスクにつながることも指摘されています。※2
何日たったからという期間だけで区切るのではなく、食事量、体重の変化、ほかの症状、そして生活にどれだけ支障が出ているかを合わせて判断しましょう。
夏の食欲不振に関するよくある質問
最後に、夏の食欲不振で特に迷いやすい2つの疑問について、ここまでの内容を踏まえて簡潔にお答えします。
Q1. 食欲がないときは何を食べればよいですか?
自分が食べやすいと感じる温度、味、形状のものを少量ずつとるところから始めてください。おかゆやスープ、冷たい麺類など、そのときに口にできるものであれば十分です。
麺類だけに偏る日が続くようであれば、卵や大豆製品、野菜などを無理のない範囲で組み合わせて、主食、副菜、主菜、牛乳乳製品、果物のバランスに近づけていきましょう。※9
なお、吐き気、腹痛、飲み込みにくさがある場合は、原因によって適した食べ方が変わりますので、医師に相談してください。
Q2. 食欲不振では何科を受診すればよいですか?
受診先に迷う場合は、まず内科やかかりつけ医へ相談するとよいでしょう。済生会も、胃痛や吐き気、下痢、発熱、体重減少を伴う場合は消化器科または内科をすすめています。※1
症状の中心がどこにあるかによって、適した窓口は変わります。ストレスや抑うつ症状が目立つ場合は精神科や心療内科、持病がある場合はかかりつけ医が候補になります。口の痛みが原因で食べられないときは歯科、薬を飲み始めてから食欲が落ちたときは処方した医師や薬剤師に相談してください。迷ったときも、まず相談すれば適切な診療科につないでもらえます。
まとめ:夏の食欲不振は暑さだけと決めつけず対処しよう
食欲不振とは、食べていないにもかかわらず食欲がわかない状態を指します。記録的な暑さが続く夏には食事量が減りやすくなりますが、背景にあるのは暑さだけではありません。寝苦しさによる睡眠不足、ストレスや消化器の病気、感染症、薬の副作用など、季節を問わない原因が重なっていることもあります。
食べられないときは、一度に無理をせず、食べやすいものを少量ずつとることから始めてください。麺類に偏りやすい時期ですので、卵や大豆製品、野菜を少しずつ足しながら、水分もこまめに補給していきましょう。
あわせて、冷房で室内を涼しく保ち※10、寝床のなかを快適に整えて睡眠時間を確保することも、繰り返さないための土台になります。※5※11
食事や水分をほとんど摂れない、意図せず体重が減っている、発熱や腹痛、嘔吐を伴うという場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。今日食べられた分を認めながら、少しずつ調子を取り戻していけますように。
・参考
※1 食欲不振 | 済生会
※2 食欲不振 | 健康長寿ネット
※3 2025年夏(6月〜8月)の天候 | 気象庁
※4 旬の食材で夏バテ予防レシピ | 農林水産省
※5 健康づくりのための睡眠ガイド2023 | 厚生労働省
※6 令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況 | 総務省消防庁
※7 熱中症になったときには | 環境省
※8 家庭でできる食中毒予防の6つのポイント | 厚生労働省
※9 「食事バランスガイド」について | 農林水産省
※10 暑さ指数(WBGT)について | 環境省
※11 快眠のための環境作り | 健康長寿ネット
※12 体重減少 | 済生会










