目次
監修者
松本 恭
「健康の秘訣はぐっすり眠ること」がモットーで、これまでウォーターベッド、ウッドスプリングベッド、西式健康枕、ハンモックなどさまざまな寝具の寝心地を追求してきた睡眠マニア。偶然出会ったコアラマットレス®︎の快適さに感銘を受け、メンバーとして参加。上級睡眠健康指導士としての知識を通して、より多くの人に快眠を届けたいと願っている。
「仕事をしながらチャットを返し、通知に反応しながら資料を作り、移動中もスマートフォンで情報を確認する」といったマルチタスクが当たり前になっていませんか。そんな毎日が続くと、しっかり眠っているはずなのに頭が重かったり、些細なことでイライラしてしまったりと、体よりも先に脳が悲鳴を上げていることがあります。
私自身、かつては「効率よく仕事をこなすには同時並行が一番だ」と信じ込み、複数のウィンドウを開いて常に通知に即レスするスタイルを貫いていました。しかし、ある時期から急に集中力が途切れやすくなり、単純な入力ミスを連発してようやく、自分の脳が「切り替えコスト」で限界を迎えていることに気づきました。気合いや根性で乗り切ろうとするのをやめ、意識的に「今はこれだけをやる」と決めて取り組むようにしたところ、仕事終わりの頭の疲労感が劇的に軽くなったのを覚えています。
本記事では、上級睡眠健康指導士の資格を持つコアラマットレス社員の松本が、マルチタスクがなぜ脳を消耗させるのかという仕組みを分かりやすく整理します。脳疲労が引き起こす集中力の低下や感情の乱れといったサインを解説したうえで、今日から実践できるシングルタスクへの切り替え方や、脳をしっかり休ませるための休息・睡眠のコツを具体的にご紹介します。
マルチタスクは脳の切り替えにより疲れやすい
しかし、人間の脳は実際には複数の作業を同時に処理しているのではなく、注意の焦点を高速で切り替えることで同時に作業しているかのように見せているにすぎません。
この切り替えには、「スイッチングコスト」と呼ばれる認知的なコストが毎回かかります。ある作業から別の作業へ注意を向け直すたびに、前の作業の処理を中断し、新しい作業のための文脈を脳内に再構築する必要があり、その繰り返しによって脳の注意資源をじわじわと消耗させていきます。
人間の脳が一度に扱えるワーキングメモリの容量には限界があると言われ、複数の作業が同時進行している状態はその容量をすぐ圧迫します。土木学会の研究では、視覚処理と言語処理の二重課題において、心的資源の総量が個人の上限を超えない設定でも、資源配分が適切でなければ二重課題干渉が発現し、誤答率が有意に高くなると示されています。※1。
つまり、単純に「疲れているから間違える」というだけでなく、複数の作業に注意を分散させること自体がパフォーマンスを直接下げる要因になっているということです。
現代の仕事環境は、スマートフォンやチャットツールからの通知が絶え間なく届くという特徴があり、通知が増えるほど脳が注意を切り替えるという積み重ねによって、一日の終わりには大きな疲労感として現れます。「なんとなく疲れた」という感覚の多くは、体の疲れだけでなく、こうした脳の切り替えコストが蓄積した結果である可能性が十分にあるのです。※2
マルチタスクによって脳疲労が生じやすい日常の習慣
脳疲労は特別な状況だけで起こるものではありません。毎日の仕事や生活を振り返ると、意図せずマルチタスクを自分から生み出してしまっている場面が意外と多いことに気づきます。
厚生労働省の令和5年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、現在の仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスを感じる事柄があると答えた労働者の割合は82.7%に上り、「仕事の量」も39.4%と上位を占めています。※3
仕事量が増すほど認知的な負荷は高まり、脳疲労が起きやすい状況が日常的につくられているというわけです。
次の3つは、特に脳疲労につながりやすい日常の習慣です。自分の行動と照らし合わせながら読んでみてください。
習慣1. 通知を見ながら別の作業をする
スマートフォンやPC上のチャットアプリから通知が届くたびに画面を確認し、すぐに返信してから元の作業に戻る。このような行動を繰り返していると、脳は絶え間なく注意の向け先を切り替え続けなければいけません。
重要なのは、通知そのものよりも「都度反応する行動」が脳への負担になるという点です。通知音が鳴るたびに「確認しなければ」という意識が生まれ、集中が途切れてしまいます。元の作業に注意を戻すためには一定の時間がかかり、短時間の確認でも作業効率が大きく損なわれます。
まず作業中は通知をオフにし、チャットやメールの確認時間をあらかじめ決めましょう。そしてスマートフォンを視界から外すことが重要です。小さな変化に思えますが、脳への切り替えコストを大幅に減らすことができます。
習慣2. 休憩を取らずに長時間作業を続けている
集中しているときほど休憩を後回しにしてしまいがちですが、長時間にわたって休憩なしで作業を続けると、注意力が低下しミスや判断の遅れが増えることが知られています。脳の注意資源は有限で、消耗したまま使い続けると効率が下がるばかりでなく、翌日への疲労持越しの原因にもなります。
厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」では、1日の作業時間が長くなりすぎないよう管理し、1時間以内を1作業サイクルとして、次のサイクルとの間に10〜15分の作業休止を取ることが推奨されています。また、作業サイクル中にも1〜2回の小休止を入れることが望ましいとされており、一連の作業は2時間以内に収めることが理想です。※4
脳にとって休憩は怠けではなく、パフォーマンスを維持するために欠かせない時間です。「あともう少しで終わるから」という気持ちで休憩を先延ばしにする習慣は、脳疲労を知らないうちに積み重ねていく原因の一つなのです。
習慣3. 寝る直前までスマホや動画を見続けている
夜、布団に入ってからもスマートフォンでSNSをチェックしたり、動画を視聴したりする習慣は、脳疲労と睡眠の質の低下を同時に招きます。就寝前に大量の情報を目や脳に取り込むと、脳が情報処理を続けようとして興奮状態から抜け出せません。
厚生労働省のガイドブック「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、就寝前や深夜のパソコン・スマートフォン使用が睡眠不足を助長し、慢性的な睡眠不足は仕事の効率の低下にもつながるとしています。※5
就寝前のスマートフォン使用が睡眠休養感の低下と関連していることも指摘しており、十分な睡眠時間を確保しているつもりでも「よく眠れた」という感覚が得られにくくなります。
眠ること自体は確保できていても、睡眠の質が下がれば脳の回復は不十分なまま翌朝を迎えることになりますから、夜のスマートフォン習慣は、脳疲労を慢性化させる隠れた要因の一つとして見直す価値があります。
関連記事:うたた寝の効果を最大化する方法|15分で疲労回復する昼寝のコツと理想的な寝具選び
脳が疲れているときに現れやすいサイン
そのため、脳疲労が蓄積していても「単なるやる気不足」「性格の問題」と思い込み、適切なケアが遅れてしまうことがあります。
脳疲労のサインは、仕事面・気分面・睡眠面の3つの軸で現れやすいとされています。「最近こういうことが増えたな」と感じるものがあれば、脳疲労との関連を疑ってみてください。
サイン1. 集中が続かずミスが増える
仕事中に文章を読み飛ばしてしまう、数字の入力ミスが増える、何に取りかかればいいか判断できない、決断するのに時間がかかる。こうした変化は、脳疲労のサインである可能性があります。
これらは能力や注意力そのものの問題ではなく、注意資源が消耗した結果として起きやすい現象です。注意を向け続けるための「燃料」が尽きかけた状態では、同じ作業をしていても精度が下がるのは自然なことです。「最近ミスが多い」「集中が続かない」と感じたときは、自己嫌悪に陥る前に、まず脳疲労という可能性を頭に置いてみましょう。判断力の低下は作業効率の悪化に直結するため、早めに気づいて対処することが重要です。
サイン2. イライラや不安感で気持ちが休まらない
脳疲労が続くと、感情をコントロールする余裕が失われていきます。普段なら気にしない小さなことに過反応してしまう、漠然とした不安がぬぐえない、人と話すのが億劫に感じる、些細なことで気分が沈むといった変化が現れることがあります。
認知的な余裕がなくなると、感情の調整に使われる脳のリソースも同時に削られます。イライラや不安の状態になると集中はさらに困難になり、そのことが新たなストレスを生んで疲労が深まるという悪循環に陥りやすいです。「気持ちの問題」だけと捉えず、認知負荷との関係として理解することが、適切なケアへの第一歩です。
サイン3. 寝ても疲れが抜けず眠りが浅くなる
「毎日7〜8時間は眠っているのに疲れが取れない」「夜中に目が覚める」「朝起きても体が重い」という状態は、睡眠の時間よりも質が低下しているサインです。
日中のマルチタスクによる過剰な切り替えは、脳が興奮状態を保ちやすくします。その状態が夜まで続くと、寝入りが浅くなり深い睡眠が得られにくくなります。厚生労働省の調査では、強いストレスを抱えたまま就寝すると睡眠休養感が低下することが示され、日中の認知負荷の高さが夜の眠りの質に直接影響することがわかっています。※5
睡眠の悩みが続いているときは、夜の環境だけでなく日中の過ごし方にも原因が隠れている可能性を考えてみてください。
シングルタスクに切り替え脳疲労を抑えるコツ
精神論ではなく、今日から行動を少し変えるだけで脳への負荷を着実に減らすことができます。仕事中に実践できる3つのコツを紹介します。
コツ1. 短時間のシングルタスクに取り組む
最初から長時間の集中を目指す必要はありません。まずは15分や30分といった短い時間を決め、その間は1つの作業だけに集中する時間をつくることから始めましょう。「1つのことだけをやる時間」をあらかじめ設定することで、通知や別のタスクへの誘惑を意識的にシャットアウトしやすくなります。
25分の集中と5分、50分の集中と10分の休憩といったリズムを繰り返す「ポモドーロ・テクニック」はその有効な手段の一つです。短時間でも意識的にシングルタスクの時間を確保するだけで、脳が1つのことに集中する感覚を取り戻しやすくなります。積み重ねが作業効率と集中力の回復につながっていくので、マルチタスクが当たり前になっている人ほど、「1つだけに向き合う時間」の効果を実感しやすいでしょう。
コツ2. 通知を切り余計な脳の切り替えを減らす
通知の管理は、すぐに効果が出やすい脳疲労対策の一つです。まずは作業中のスマートフォンやPCの通知をオフにするか、重要な連絡先のみに絞ってください。
チャットツールやメールの確認は「午前10時」「昼休み後」「夕方17時」など時間を決めてまとめてチェックするルールにすると、都度の切り替えを大幅に減らせます。個人の工夫だけでなく、チームや職場でルールを共有できると実行のハードルはさらに下がります。スマートフォンを作業デスクの引き出しの中に入れる、あるいは別の部屋に置くだけでも、通知への意識が薄まり集中しやすい環境を整えられるでしょう。
コツ3. 休憩をスケジュールに組み込む
休憩は「疲れたら取るもの」ではなく、「あらかじめスケジュールに組み込むもの」として考え直すことが重要です。疲れを感じてから休憩を取ろうとしても、その頃には集中力やパフォーマンスがすでに大幅に低下しています。
厚生労働省のガイドラインを踏まえると、1時間に1回は意識して作業を中断し、軽い休憩を取ることが理想的です。※4
席を立って数分間歩く、画面から目を離して遠くを見る、肩や首を軽くほぐすといった簡単な過ごし方で、脳と体の緊張をリセットできます。「忙しいから休憩できない」と感じているときこそ、計画的な休憩を入れましょう。
関連記事:【医師監修】慢性疲労の治し方|休んでも疲れが取れない原因と回復への正しいステップ
マルチタスクによる脳疲労を回復させる習慣
単発の対処から一歩進んで、脳疲労がたまりにくい日常をつくる視点を持つことが大切です。生活リズムの中に無理なく取り入れやすい3つの習慣を紹介します。
習慣1. 夜は脳への刺激を減らして休ませる
仕事の悩みを夜まで引きずる、就寝前にメールや仕事のチャットを確認する、気になることがあると頭の中で何度も考え直してしまうという習慣は、脳を就寝時間になっても覚醒状態に置き続けます。脳が興奮状態のまま布団に入っても、深い眠りに入りにくいため、翌朝の疲労感につながります。
夜は意識的に「脳のシャットダウン時間」を設けましょう。就寝1〜2時間前にはスマートフォンから離れ、仕事に関する情報の確認をやめます。※5
代わりに読書や入浴、軽いストレッチなど、情報処理の負荷が低い行動に切り替えると、脳が翌朝の活動に向けて回復する時間を確保できます。翌日の集中力と判断力が少しずつ高まってくるでしょう。
習慣2. 意識的にぼんやりする時間をつくる
脳には、何もしていないように見えるときに活発に働く「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる神経回路があり、ぼんやりとした状態の時に記憶の整理や情報の統合、感情の処理を行います。いわば、脳の「自動整理モード」ですね。
スキマ時間ができるとすぐにスマートフォンを手に取る習慣は、この回路が働く時間を奪ってしまいます。通勤中や入浴中、散歩中にスマートフォンを見ずに過ごすだけで、脳はDMNに入れます。1日10〜15分程度の「何もしない時間」を意識的につくり、脳疲労の回復を行いましょう。特別な道具も場所も必要なく、今すぐ始められる習慣です。
習慣3. 睡眠環境を整えて睡眠の質を上げる
脳疲労の回復において、睡眠は最も重要な時間です。睡眠時間を確保するだけでなく、眠りの質を上げることが脳の回復効率を大きく左右します。
寝室の環境として、光・温度・音の3つが特に影響しやすい要素です。就寝時の部屋はできるだけ暗く静かにし、室温は体が快適に感じる18〜22℃程度を目安に調整します。自分に合った寝具を整えることも眠りの深さに影響しますので、体圧を均等に分散できるマットレスや寝返りが打ちやすい環境を整えましょう。厚生労働省の調査では、睡眠休養感を高めるためには寝室環境の見直しが有効な要素として示されています。※5
日中の疲れをしっかり回復させるためにも、寝る環境そのものを丁寧に整えてください。
改善しないときは医療機関に相談する
日常の習慣を見直し、シングルタスクや休憩を意識しながらセルフケアを続けても、疲労感・集中力の低下・気分の落ち込みが数週間経っても改善されない場合は、脳疲労だけでなく別の要因が関わっている可能性があります。
日常生活や仕事に支障が出ている状態が長引いている場合、睡眠の乱れが2週間以上続いている場合、食欲の著しい低下がある場合、気分の落ち込みや無気力感が2週間以上続いている場合などは、一人で抱え込まずにかかりつけ医や心療内科・精神科に相談することを検討してください。※6。
こうした症状は、うつ病や適応障害、過労の蓄積などと関係していることもありますので、注意が必要です。※3
不調が長引いているときは医療のサポートを積極的に活用してください。
まとめ:マルチタスクの脳疲労は仕組みを知って習慣を見直そう
マルチタスクによる脳疲労は、気合いや根性の問題ではありません。脳が高速で切り替えを繰り返すことによる注意資源の消耗、通知や情報による切り替え頻度の増加、休憩不足、そして夜の刺激の積み重ねによって、じわじわと進行していくものです。
集中が続かない、ミスが増える、イライラしやすい、寝ても疲れが取れないといった不調は、こうした脳への負担が積み重なったサインです。まず自分の状態に気づき、今日の働き方と休み方を少し変えていきましょう。
シングルタスクの時間を意識して確保すること、通知の確認を時間で区切ること、休憩を先にスケジュールに入れること、夜は脳への刺激を減らすこと、そして眠りの質を高める環境を整えること。これらの工夫を少しずつ日常に取り入れて行くことが大切です。睡眠の質をさらに高めたい方は、寝室環境の整え方や体圧分散に関する記事も参考にしてみてください。
参考文献
※1 二重課題における注意資源配分と干渉効果に関する研究 | 土木学会
※2 ながら行動が集中力を下げる理由 | PHP研究所
※3 令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況 | 厚生労働省
※4 情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン | 厚生労働省
※5 健康づくりのための睡眠ガイド2023 | 厚生労働省
※6 マルチタスク疲れの正体と、月曜から始める脳の休め方 | こころのクリニック日吉









