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監修者

森田 麻里子
医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家
2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016
夜中に何度も起きる赤ちゃん。授乳や抱っこでようやく寝たと思ったら、布団に下ろした瞬間に泣いてしまう——。
そんな毎日が続くと、「ネントレ(ねんねトレーニング)って本当に必要なの?」「泣かせるなんて、赤ちゃんの心や脳に悪影響はないの?」と不安になるママ・パパは少なくありません。
ネットやSNSでは「ネントレで夜泣きが減った」「自分で眠れるようになった」という声もあれば、「やらなきゃよかった」「後悔している」といった意見も見かけます。情報が多すぎて、何を信じればいいのかわからなくなる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、「ネントレとは何か」という基本から日本の赤ちゃんの睡眠事情、公的データを踏まえた必要性、いつから・どう進めるのかなどをニュートラルに整理し、自分の家庭に合った選択ができる判断材料となる情報をお届けします。
ネントレとは?意味・目的と日本の赤ちゃんの睡眠事情
まずは、ネントレ(ねんねトレーニング/スリープトレーニング)の基本的な定義と目的を整理しつつ、様々なデータを用いて日本の乳幼児の睡眠時間・就寝時刻の実態と日本でネントレが話題になる理由を紹介します。
ネントレ(ねんねトレーニング)の基本的な意味と目的
ネントレとは、「ねんねトレーニング」の略称で、「スリープトレーニング」とも呼ばれます。赤ちゃんが授乳や抱っこに頼りすぎず、自分で眠りに入る力を身につけるための関わり方を指します。
誤解されがちですが、ネントレ=泣かせっぱなし、という意味ではありません。
目的はあくまで、赤ちゃんと親の睡眠の質を整えること。夜泣きをゼロにすることや、早く一人で寝かせることがゴールではなく、「健康的な睡眠をとるための習慣をつける」ことに重きが置かれています。
日本の乳幼児の睡眠時間と就寝時刻の現状
厚生労働省e-ヘルスネットでは、1〜2歳児の推奨睡眠時間を11〜14時間と紹介しています。しかし、日本の子どもの平均睡眠時間は、その推奨時間を下回る、もしくは下限付近にあると指摘されています。
就寝時刻に関しては、2001年出生の子どもを対象にした調査において、4歳6か月時点で21時台就寝が最も多く(50.1%)、21時前に寝ている子は5人に1人以下という結果が出ていました。さらに、江崎グリコ株式会社が実施した調査では、0〜2歳児を対象にした調査では、「21時までに寝かせたい」と考える親が約7割いる一方、実際にそれを達成できている家庭は5割以下でした。
このように、日本では「理想」と「現実」の間にギャップがあり、子どもが夜型・短時間睡眠になりやすい環境にあることが分かります。
ネントレが注目される背景とメリット・デメリット
こうした背景から、夜泣きによる親の睡眠不足や、共働き・核家族化による育児負担の増加を受けて、ネントレが注目されるようになりました。
主なメリット
・夜間覚醒の回数が減る可能性
・赤ちゃんが眠るリズムをつかみやすくなる
・親の睡眠とメンタルが安定しやすい
主なデメリット・注意点
・赤ちゃんが泣いているのを聞き続けることへストレスを感じる
・方法が合わないと「後悔」につながる
・家庭環境によっては続けにくい
ネントレは万能ではなく、赤ちゃんに合う・合わないが分かれる選択肢であることを理解しておくことが大切です。
ネントレはいつから?月齢別の目安と始める前に整えたいこと
では、ネントレはいつからやればいいのでしょうか?日本の睡眠指針や発達面を考慮した現実的な目安を提示します。さらに、ネントレ以前に整えるべき生活リズムや寝る環境、まだネントレを急がない方が良いケースなど、スタートラインに立つための準備事項をお伝えします。
ネントレを検討しやすい月齢の目安
一般的に狭義のネントレ(睡眠改善のために寝かしつけ方を変えるトレーニング)は、生後6か月以降に行うことができます。生後6か月になる頃には、夜間覚醒は1〜2回程度になることが多いためです。
夜間覚醒の回数が多めだったり、寝かしつけに長時間かかっている場合でも、改善できる可能性があります。
まだネントレを急がないほうがよいケース
以下のような場合は、状況が落ち着いてからネントレを始めましょう。
・発熱や体調不良が続いている
・引っ越しや保育園入園など環境の変化が大きい
・親自身が極度の疲労や不安を抱えている
ネントレは「やらなければいけないもの」ではありません。ネントレをすること自体が親の負担になってしまう部分があるので、余力が全くない場合にはおすすめできません。
始める前に整えたい生活リズムと寝る環境
ネントレを始める前に、次のような基本を整えるだけでも寝つきが改善することがあります。
・早寝早起きをする
・朝は同じ時間に起きて光を浴びる
・日中は適度に体を動かす
・夕方以降は強い光やスマホを控える
・就寝時間や就寝前の流れ(お風呂→絵本→布団など)を固定する
・寝室は暗く静かな環境とし、室温は少し涼しめにする
これらは、ネントレをしない場合でも有効な土台づくりであり、ネントレをする前にこれらの環境が整っていることが必須条件です。
代表的なネントレの方法とステップ
いよいよここからは、ネントレのやり方を紹介していきます。代表的な方法のうち、家庭で取り入れやすく、日本の生活文化(川の字で寝る・同室寝)にも合いやすいアプローチを中心に解説します。いきなり「一人部屋」「泣かせっぱなし」を前提にせず、抱っこ・授乳から少しずつ距離を取っていくステップや、見守りをしながら進める方法などを中心にお伝えします。
抱っこ・授乳から少しずつ離れるステップ
抱っこや授乳をすぐにやめるのではなく、少しずつ時間を短くしていく選択肢もあります。
・完全に寝る前に布団に下ろす
・泣いたら抱っこする
を何度も何度も繰り返して慣らしていく方法や、
・授乳で寝落ちしてしまう直前に赤ちゃんの口を外す
・徐々に外すタイミングを早くしていく
といったように、徐々に授乳での寝落ちから卒業していく方法があります。
ただし、このような方法は、ネントレというよりは「自分で眠るための練習」のような位置づけです。3,4か月〜6か月程度の赤ちゃんではしっかりしたネントレがおすすめできないため、こうした方法を選択してもらう場合があります。
6か月以上の赤ちゃんでもなかなか改善が見られないケースは珍しくありませんが、数週間で効果を出したいということであれば、次に説明するネントレをおすすめします。
泣かせっぱなしにしない見守り方
「ネントレ=泣いても無視する」というイメージが不安な方は、見守り型の方法も選択できます。
赤ちゃんをお布団に寝かせたらそばに座り、寝るまで見守りましょう。最初は優しくトントンをしたり、「大丈夫よ、ねんねよ」のように短い声掛けをしても構いません。日毎にトントンや声掛けを減らし、最終的になくしていきます。
続けるためのコツ
ネントレは数日で結果が出るものではなく、数週間単位で様子を見ることがうまく続けるコツです。寝室環境や生活リズムをしっかりと整えた後に始めること、そして一旦始めたら、体調不良等の際を除き、ブレずに続けることが大切です。
ネントレがつらいと感じたとき・向いていない家庭の特徴
次に、よくあるつまずき・後悔パターンや無理にネントレを続けないほうがよいサイン、ネントレなしでもできる睡眠ケアの工夫などを紹介します。「やらない」「途中で辞める」という選択があるという点を押さえておきましょう。
よくあるつまずきと「後悔」パターン
「泣き声がつらすぎた」「赤ちゃんが不安そうに見えた」など、後悔を感じるケースは珍しくありませんが、ネントレはけっして親だけのためのものではありません。あくまでも赤ちゃん自身がぐっすり眠れるように導くためのものです。
赤ちゃんはほぼ必ず泣きますが、「かわいそう」ではなく「自分で寝られるように頑張っているんだね」とポジティブな気持ちで見守れるよう、親自身がしっかり納得し、余裕を持って始めることが大切です。そこまで納得できない場合は、ネントレはせずもう少し様子を見て、ゆっくり考えていくのがおすすめです。
ネントレを無理にしないほうがいいサイン
・親のメンタルが限界に近い
・5日〜1週間ほど経っても全く改善が見られない
・家庭環境的にルール維持が難しい
こうした場合は、一度立ち止まることも立派な判断です。自治体の保健センターや小児科など、専門機関への相談を選択肢に含めても良いかもしれません。
ネントレをしない場合にできる睡眠ケアの工夫
ネントレをしなくても、
・生活リズムの見直し
・寝る前のルーティン
・睡眠環境の調整
といった工夫で改善する家庭もあります。
「ネントレをしたほうがいい」「セルフねんねさせないといけない」と考える必要はありません。親子とも健康的な睡眠をとるための手段として、ご自身のご家庭にとって本当に必要なのかどうかを判断してみてください。
安全な睡眠環境と寝具の選び方の基本
乳児の睡眠事故を防ぐために気をつけたいポイント
子ども家庭庁では、
・柔らかすぎる寝具
・掛け布団や枕
・ぬいぐるみ
などが窒息や乳幼児突然死症候群のリスクを高めるとしています。
また、赤ちゃんの周囲には何も置かないのが基本です。
添い寝・同室寝のリスクと上手な付き合い方
こども家庭庁は、大人の身体が赤ちゃんに覆い被さったり口や鼻を塞いでしまったりする危険がある「添い寝」に対して注意喚起をしています。特に、以下の場合の添い寝は危険です。
・添い寝している人が眠気を引き起こしたり、注意力を低下させる薬を服用したりしている場合
・添い寝している人が飲酒をした場合
・赤ちゃんが早産や低出生体重で生まれた場合
日本ではいわゆる「川の字」で寝る家庭が多いですが、その場合も赤ちゃんの布団は親の布団と別に用意し、できれば距離を離して設置するのがおすすめです。
赤ちゃんが眠りやすいマットレス・寝具の条件
赤ちゃんの寝具は、硬めで平坦であることが安全上重要なポイントです。また通気性がよいものを選ぶと、睡眠の質を高められる可能性があります。
関連記事:子供や赤ちゃんと一緒に寝ることができるファミリータイプのマットレス!選び方よおすすめのマットレス
まとめ|ネントレを「やる/やらない」を選べるようになるために
ネントレとは、赤ちゃんを無理に一人で寝かせる方法ではなく、睡眠を整えるための一つの選択肢です。日本の子どもは夜型・短時間睡眠になりやすい環境にあるからこそ、必要性を感じる家庭もあれば、合わない家庭もあります。
大切なのは、
・正しい情報を知ること
・安全な環境を整えること
・自分たちの家庭に合う形を選ぶこと
ネントレをする・しないに正解はありません。赤ちゃん、そして親自身の睡眠を守る視点で、納得できる選択をしていきましょう。




