睡眠コラム by 森田 麻里子2025年4月22日読了目安時間: 7

【医師監修】睡眠の質を見直そう:専門医監修の不眠症チェックで早期発見

森田 麻里子
Child Health Laboratory 代表 / 医師

医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家

2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016年南相馬市立総合病院にて麻酔科医として勤務。2017年の第1子出産をきっかけに、2018年より乳幼児の睡眠問題についてのカウンセリングや講座、企業と連携したアプリ監修など行っている。2019年昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤勤務を経て、現在は大人の睡眠カウンセリングや企業向け睡眠講座も手掛ける。

「ベッドに入ってもなかなか眠れない」「夜中途中で起きてしまう」「目覚まし時計が鳴るよりもずっと早く起きてしまう」「全然疲れが取れない」など感じたことはないでしょうか。不眠症とは、夜間に十分な眠りが得られず、日中の生活に影響を及ぼす睡眠障害の一種です。現代においては多くの人が不眠に悩まされており、早期に対策を行うことが重要とされています。

本記事では、医師監修のもと不眠症の概要や原因、簡単にできるセルフチェック方法から具体的な改善策までを詳細に解説します。仕事や育児、家事などに忙しくしている方こそ自分の睡眠状態を客観的に把握し、適切な対処を行うためのヒントにしていただければ幸いです。

不眠症とは?


不眠症を理解するために、その定義や特徴を踏まえながら、種類と症状を概観します。

不眠症は、眠りたくても眠れないことによって日中の活動に支障が出る状態を指します。単なる寝不足とは異なり、精神面や身体面、そして生活習慣など多岐にわたる要因が絡み合って症状を引き起こします。とくに交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかないことにより、体が休まりにくい状態となることも少なくありません。

不眠症の症状が続くと、集中力の低下や気力の喪失などが起こりやすくなります。放置していると仕事の能率や人間関係にも大きな影響を及ぼすため、早期のセルフチェックや専門家の診断が大切です。

不眠症の定義と特徴

一般的に、不眠症は入眠困難(寝つきが悪い)、中途覚醒(夜中に目が覚める)、早朝覚醒(予定より早く目覚める)のいずれか、もしくは複数現れるのが特徴です。これらの症状によって疲労感や日中の眠気が強くなり、生活の質が下がるなど、日常生活への支障が出ている場合に不眠症と呼ばれます。

特に、この状態が数週間以上続く、もしくは慢性化している場合に不眠症と呼ばれることが多いです。原因はストレスや生活習慣の乱れだけでなく、疾患や薬の影響など多岐にわたります。

不眠症の種類と症状

不眠症には多様なタイプがあり、それぞれ症状が少しずつ異なります。代表的な種類としては入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒が挙げられます。

このように症状のパターンが異なるため、自分がどのタイプに当てはまるのかを把握することが大切です。自分の睡眠の特徴を知ることで、より具体的な改善策を見つけやすくなります。ただしこれらのタイプに完全に分かれるわけではなく、複数の症状が同時に起こることもよくあります。

入眠困難

布団に入っても寝つくまでに30分以上かかる場合は入眠困難の可能性があります。原因としてストレスや悩み事が頭から離れず、脳が興奮状態のまま眠りに入れないケース等が考えられます。

中途覚醒

夜中に何度も目が覚めてしまい、再び寝付くのに時間がかかる場合を指します。睡眠途中での覚醒が頻繁になると、深い睡眠を得にくくなり、翌日に強い疲労を感じることがあります。

早朝覚醒

設定した起床時間よりもかなり早く目覚めてしまい、その後眠れなくなる状態です。特に高齢者に多くみられますが、ストレスやうつ状態とも関係が深いとされています。

不眠症チェックリストとセルフチェックの重要性

自分の睡眠状態を把握し、早期に対策を行うために、不眠症チェックリストを活用しましょう。

不眠症の要因は多岐にわたるため、まずは客観的に自分の睡眠状況を知ることが必要です。セルフチェックを行うことで、不眠症に該当するかどうか、どのようなタイプの不眠症なのかを把握できるきっかけになります。

簡単なチェック項目を確認するだけでも、早期発見や改善に大きく役立ちます。特に2週間以上セルフケアを続けても睡眠状況が改善しない場合は、専門医に相談することが推奨されています。不眠症のセルフチェックで一般的に使われるものがアテネ不眠尺度です。本尺度は,WHO(世界保健機構)が中心となって設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」が作成した不眠の自己評価尺度です(※1)。内容はこちらから確認できるので是非ご活用ください。(※2)。

※1:アテネ不眠尺度の論文
※2:厚生労働省「長時間労働の医師への健康確保措置へのマニュアル」p63参照

セルフチェックのチェック項目

不眠症チェックを行う際は、眠りの深さや時間帯だけでなく、日常生活において表れるさまざまなサインを幅広く確認することが大切です。下記の項目は代表的なチェックリストとして活用できます。

チェックすることで、自分の状態を数値化・可視化でき、専門家に相談する際の参考資料としても役立ちます。

入眠までの時間

布団に入ってから実際に眠りにつくまでの時間を確認することで、入眠困難の程度を把握できます。30分以上寝つけない日が頻繁にある場合は、不眠症の兆候と考えられます。ただし、夜に時計を確認するのは良い睡眠をとるためには逆効果になります。夜中に時計は見ずに、朝起きたときの大体の感覚で、寝つきにどのくらいかかったかを記録するようにしましょう。

夜中に目覚める頻度

連夜のように何度も目が覚める場合は、中途覚醒の傾向があるかもしれません。夜間の覚醒が増えるほど、熟睡感が低下する可能性が高くなるので注意が必要です。

総睡眠時間

トータルでどの程度の睡眠時間が確保できているかを確認します。平均的には6~8時間程度が望ましいとされますが、個人差があります。自分に合った睡眠時間を知ることが大切です。

日中の眠気や集中力の低下

日中に強い眠気を感じたり、集中力を維持できない場合は、夜間の睡眠不足が原因かもしれません。こうした症状が続くと、日常生活や仕事のパフォーマンスに大きく影響します。

簡易セルフチェックで得られる情報

簡単なセルフチェックであっても、自分の睡眠スタイルや不眠症の可能性を大まかに把握できます。睡眠時間や眠気の程度を記録しておくと、適切なタイミングで医療機関を受診する目安にもなります。

入眠までの時間、中途覚醒の回数、睡眠時間などはスマートフォンのアプリなどを活用すると、手軽に記録をすることができます。

不眠症の原因を理解する


不眠症の背景には、心理的要因や身体的要因など、複数の原因が考えられます。

不眠症は多くの場合、単独の原因だけでなくいくつもの要因が重なって引き起こされます。ストレスや生活リズムの乱れといった身近な要因から、病気や薬の副作用など専門的な知見が必要な場合もあります。

原因を正確に把握することで、最適な対策や治療法を選択しやすくなります。特に長期的に睡眠が乱れている場合は、自分の状況を振り返り、思い当たる要因を洗い出すことが大切です。

心理的要因とストレス

仕事や人間関係でのプレッシャー、不安感が強いときなど、交感神経の働きが優位になり眠りにくい状態になります。ストレスが蓄積し続けると循環的に不眠症が悪化するケースも少なくありません。

不眠症チェックを行う際は、日常的なストレス度合いもあわせて確認し、必要に応じてストレスを軽減する方法を検討するとよいでしょう。
世界的に使用されているストレスのセルフチェックはPSS(Perceived Stress Scale:知覚されたストレス尺度)が有名です(※3)。こちらから参照してストレスのセルフチェックをお試しください(※4)。

※3:PSSの論文
※4:p.7 Appendix参照

身体的要因と疾患

身体の痛みや呼吸器系のトラブル、またホルモンバランスの乱れなどが原因で不眠が生じる場合もあります。高血圧や心疾患などと関連していることもあるため、放置せずに専門家に相談することが重要です。

基礎疾患がある場合は、その治療と並行して睡眠に関するケアが行われることが多いです。自己判断での生活改善だけでは不十分な場合があります。

生活リズムや環境の影響

不規則な就寝・起床時間や夜勤など、生活リズムの乱れは体内時計を狂わせる大きな要因です。室内の騒音や室温、照明の明るさといった環境面も安眠を妨げる可能性があります。

日々の生活習慣を振り返り、乱れがあるならできる範囲で修正することが大切です。特に休みの日でも大幅に睡眠時間を変えず、一定のリズムを保つ工夫がポイントです。

薬物や刺激物の影響

カフェイン飲料やアルコールを過度に摂取すると、睡眠リズムが乱れる一因になります。利尿作用があり、脳への刺激も大きく、眠りが浅くなることがあります。

また、服用中の薬が不眠を誘発しているケースもあります。気になる症状がある場合は、主治医や薬剤師に相談し、薬の変更や調整を検討してください。

不眠症の症状を改善する方法


不眠症の改善には生活習慣の見直しから専門的な治療まで、さまざまなアプローチがあります。

まずは生活習慣や睡眠環境を整えることから始めるのが一般的です。適切な寝具や規則正しい生活リズム、リラクゼーションなどを試すだけでも不眠症の症状が緩和することがあります。

しかしながら、個人差が大きいのも特徴です。十分なセルフケアを行っても改善が見られない場合は、早めに専門医を受診し、根本原因の解決を目指すことが大切です。

睡眠の質を改善するためのまとめ記事「睡眠の質を向上させる方法8選」もありますのでぜひ参考にしてください。

生活習慣の見直し

日々の生活リズムを整えることは、不眠症チェックの第一歩でもあります。食事の時間や睡眠時間を規則的に確保することで、体内時計が安定し、自然な睡眠が促されるようになります。

特に就寝前に強い光を浴びないようにする、スマートフォンを操作しすぎないなど、生活全体を見直すことが効果的です。

規則的な就寝と起床時間の確保

毎日同じ時間に寝起きすることで、体内時計が整いやすくなります。平日と休日のリズムを極端に変えすぎないことも、安定した睡眠サイクルの維持に役立ちます。朝起きたら必ず太陽光を浴びましょう。光を目から吸収することで体内時計が整います。ただし布団に入ってもなかなか寝付けない場合は、就寝時間が遅くなったとしても、眠くなってから布団に入るようにしましょう。

適度な運動と昼寝の取り方

定期的な運動は、夜ぐっすり眠るために有効です。ただし、就寝直前の激しい運動はかえって脳を興奮させ、入眠を妨げる可能性があります。日中に運動をするか、就寝時間の2-3時間前には運動が終わるように調整しましょう。

また、昼寝をする場合は20~30分程度の短い時間に抑えると、夜の睡眠の質が向上しやすくなります。

ストレスや不安への対策

不眠症チェックで原因にストレスが関係していると感じたら、ストレスを軽減する手段を積極的に取り入れることが大切です。日記をつけたり、気軽な運動をしたり、自分に合った方法を模索してみましょう。

特にメンタル面の不調を長く抱えている場合は、医療機関やカウンセリングを利用し、不安感を和らげるアプローチを行うことが有効です。

リラクゼーション方法

呼吸法や瞑想など、心身をリラックスさせるテクニックを用いることで、入眠しやすい状態を作り出します。瞑想アプリや音楽を活用し、寝る前の緊張をほぐすのもおすすめです。

カフェイン・アルコール摂取の制限

眠りを妨げる可能性のあるカフェインは、夕方以降摂取を控えるように努めるとよいでしょう。アルコールは一時的に気分をリラックスさせる面もありますが、睡眠構築を乱し、中途覚醒を増やすため注意が必要です。

睡眠環境の整備

寝具や部屋の状態を整えることで、睡眠品質の向上が期待できます。自分の体格や好みに合った枕やマットレスを選び、心地よい空間を保つことが大切です。

また、室内環境を適切な温度・湿度に設定し、静かで落ち着いた場所を確保すると眠りへの移行がスムーズになります。

快適な寝具や室温管理

硬すぎないマットレスや自分に合った枕を利用することで、体への負担を減らし、寝返りがしやすくなります。室温は高すぎず低すぎず、一般的には18~22度程度が快適とされています。

ブルーライト対策

就寝前にスマートフォンやパソコンを使い続けると、ブルーライトやコンテンツそのもの影響で脳が覚醒しやすくなります。就寝1時間前からはスマートフォンやパソコンの使用は控えましょう。

医療機関での治療法

生活改善を試しても改善が見られない場合には、医療機関を受診することが望ましいです。不眠症状の背景に別の疾患が隠れている可能性もあるため、早めの診断が重要です。

専門医による診断の結果に応じて、認知行動療法や薬物療法など、より専門的なアプローチが検討されます。

専門医による診断

睡眠外来や精神科などを受診することで、客観的なデータを基に睡眠状態を評価できます。症状や生活習慣を詳しくヒアリングし、根本的な原因究明につなげます。

認知行動療法の利用

不安や誤った思い込みが原因となっている場合、認知行動療法で考え方や睡眠習慣を根本から改善する方法があります。これは副作用のリスクが少ない点がメリットです。

薬物療法の利点と注意点

睡眠薬による治療は即効性が得られることがありますが、副作用や依存リスクも考慮しなければなりません。医師の指導のもと、用量や使用期間を適切に管理することが重要です。

不眠症を放置するリスク


不眠症を長期間放置すると、心身に様々な悪影響が及ぶ可能性があります。

放置された不眠症は、生活のあらゆる面に影響を与える恐れがあります。単に睡眠不足だけではなく、メンタルヘルスや身体の健康管理にも悪影響をおよぼす可能性があります。

早めに不眠症チェックを行い、継続的な不眠に気づいた場合は適切な対処を考えることが、健康的な毎日を送るために不可欠です。

精神的健康への影響

眠れない状態が続くと、イライラや気分の落ち込みなど、精神的なバランスを崩しやすくなります。さらに抑うつや不安障害を引き起こす可能性もあり、日常の対人関係に支障をきたすこともあります。

早い段階で睡眠障害に気づき、ストレスケアや専門家のアドバイスを受けることで、悪循環を断ち切ることが可能になります。

身体的健康への悪化

慢性的な睡眠不足は、自律神経の乱れや免疫力の低下を招きがちです。さらに、高血圧や糖尿病といった生活習慣病のリスクが高まるとも言われています。

軽度の不眠だからと放っておくと、思わぬ大きな健康被害につながることがあるため、軽視せずに対処することが重要です。

仕事や生活の質への影響

不眠は集中力や注意力を低下させ、作業効率や学習能力の低下を引き起こします。重大なミスや事故につながるリスクも高まり、職場や学校での評価にも影響しかねません。

また、日常生活全般にわたって疲労感が続き、趣味や家族とのコミュニケーションに支障をきたす場合もあります。

まとめと次のステップに向けて

自分の睡眠状態を正しく把握し、必要に応じて専門家に相談するなど、早期改善を図りましょう。

不眠症チェックを行い、自分の睡眠の問題点を早めに見つけることが改善への第一歩です。生活習慣や環境を見直し、過度なストレスや刺激物の摂取を控える対策をコツコツと続けることが大切です。

セルフケアだけで改善が難しい場合は、医療機関での診断や治療を受けることで、より専門的なアプローチが可能になります。放置せずに行動を起こすことで、心身両面の健康を守ることができるでしょう。