
南 茂幸
理学療法士の資格を持つ睡眠コンサルタント。睡眠について数名から100名以上の規模でセミナー講師として登壇、他にもコンサルティング、ラジオ出演、睡眠グッズ監修等幅広く活躍。「睡眠の質が人生の質」と捉え、睡眠は自分への投資であると考え、現在出版準備中。
「明日から仕事が始まる」と思うと、翌日の業務や職場の人間関係、時間通りに起きられるかといったさまざまな不安が頭をよぎり、なかなか寝付けない人は多いものです。
特に日曜日の夜は、週末の生活リズムの乱れが影響しやすく、いつもと同じように眠ろうとしても目が冴えてしまったり、翌日の仕事を考えることでストレスやプレッシャーを感じ心が落ち着かなかったりするケースがあります。
真面目に仕事を取り組む方や責任感を持って仕事に向かう方ほどストレスやプレッシャーを感じやすいです。
この記事では、睡眠コンサルタントの南 茂幸がそうした「明日仕事だと思うと眠れない」状態を引き起こす原因から、具体的な解消法や専門家への相談タイミングまで、深い視点を交えて詳しく解説します。
明日仕事だと思うと眠れない原因
仕事の前日には様々な要因で睡眠の質が低下しがちです。原因を把握することで、より的確な対策が取れるようになります。
多くの場合、ストレスや翌日への緊張感が心身に大きな負担をかけ、まとまった睡眠を妨げる波及効果をもたらします。生まれつき睡眠に不安がない人でも、仕事量が急に増えたり人間関係に悩みがあったりすると、夜の休息が不十分になりがちです。
さらに週末に夜更かしをしてしまうと、体内時計がずれて月曜日の朝に合わせづらくなり、結果として睡眠不足に陥るケースが見られます。こうした背景を正しく理解し、自分の状況に合った対策を取ることが大切です。
ストレスや不安が引き起こす睡眠障害
日常的に抱えるストレスや不安は、自律神経のバランスを崩しやすくします。交感神経が優位に働くと身体が興奮状態になり、リラックスするのが難しくなるため、深い眠りを妨げるのです。
特に仕事の締め切りや重要な取引や商談、人間関係の悩みが頭から離れないときは、ベッドに入った途端さまざまな考えが浮かび、入眠が遅れてしまいます。こうした状態を放置すると、慢性化した睡眠障害へと移行する可能性があるため、早めに対策をとることが肝心です。
仕事のプレッシャーと翌日への恐れ
上司の評価や顧客対応といった業務上のプレッシャーは、不安感を増幅させやすい要因の一つです。ちょっとしたミスやクレームに対する恐れが大きくなると、「明日が来てほしくない」という心理が働き、気持ちの切り替えがうまくいきません。
寝不足状態のまま朝を迎えるとパフォーマンスが低下するため、不安がさらに増長される悪循環を生み出します。この悪循環を断ち切るためには、翌日の準備やストレスマネジメントが欠かせません。
生活リズムや睡眠環境の問題
休日に遅くまで起きてしまう、または平日よりも1時間以上の朝寝坊をするような生活リズムの乱れは、体内時計を狂わせる大きな要因です。一度狂ったリズムはなかなか元に戻りにくく、月曜日の夜に眠れず、火曜日以降も疲れが抜けきらない状態が続きます。
また、寝具が合っていなかったり部屋の温度・照明の調整が不十分だと、眠りが浅くなり夜中に何度も目が覚めてしまうことがあります。自身のライフスタイルや部屋の環境を客観的に見直し、整えていくことが快眠への近道です。
カフェインやアルコール摂取の影響
夕方以降にコーヒーや紅茶などのカフェイン飲料を過度に摂取すると、身体が覚醒状態を維持しやすくなり、就寝時間が遅れる原因となります。さらにカフェインは効果が5〜7時間持続するため、思った以上に睡眠に影響するのです。
アルコールは一時的にリラックスさせるように感じますが、実際は睡眠の深さを妨げる性質があります。飲酒後に入眠できたとしても、夜中や早朝に目が覚めることが増えるため、結果的に疲れが取れにくくなる点に注意しなければなりません。
眠れない場合の対策とリラックス法
まずは、ストレス緩和や身体をリラックスさせる方法から取り組んでみましょう。
不安によって緊張状態にある身体と心をほぐすには、リラクゼーションを習慣化するのが効果的です。ストレッチや呼吸法、瞑想などは簡単に始められ、精神的な安定を促す役割があります。
また、自分に合ったリラックス法を見つけられれば、短時間でも深いリフレッシュが期待できます。以下に具体的な対策や環境づくりのポイントをまとめます。
ストレスや不安への具体的対処法
ストレスが眠れない原因として大きな割合を占めるなら、一度リストアップして現状を“見える化”することが重要です。例えば、仕事の優先事項や期限、心配事をノートに書いて整理してみると、自分の思考や不安の根源がはっきりとわかりやすくなります。
どうしても解決が難しい場合は、上司や同僚、あるいはカウンセラーなどの第三者に相談するという手段もあります。プロの視点を借りることで、必要な対応策や解決策を客観的に導き出せることも少なくありません。
深呼吸や瞑想でリラックス
意識的な深呼吸は、交感神経から副交感神経へと切り替えやすくし、心拍数を落ち着かせるのに役立ちます。実際に深呼吸がストレス緩和に及ぼす影響を検討した実験では、健常成人女性15名を対象に、ストレス負荷後深呼吸を行った群と安静を保った群を比較した結果、深呼吸群で唾液アミラーゼ活性が有意に低下し、ストレス緩和効果があったと報告しています(※1)。枕元で数分間、呼吸に意識を向けるだけでもリラックス効果があります。さらに、瞑想やマインドフルネスを取り入れると、頭の中を整理する効果も期待できます。マインドフルネスも効果があり、集団マインドフルネス瞑想訓練を2週間実施した群と対照群を比較し、訓練群でストレス反応の有意な低減が観察されたと報告されています(※2)。難しく捉えず、静かに呼吸のリズムに集中するところから始めるのがおすすめです。
参考※1「深呼吸によるストレス緩和効果」、※2「集団マインドフルネス瞑想訓練のストレス低減効果」
リラックスを促すツボ押しや軽いストレッチ
身体に蓄積された疲労や緊張を和らげるには、ツボ押しや軽いストレッチが手軽で効果的です。特に首や肩、足裏などは、血行を促すだけでなく、精神的にも落ち着きをもたらします。
毎日数分でも続けることで、就寝前の習慣として定着させやすくなります。身体がほぐれると入眠もスムーズになるため、忙しい方こそ取り入れてみるとよいでしょう。
考えすぎを防ぐための習慣化
頭の中が考え事でいっぱいになるときは、あえて整理する時間を設けることが大切です。就寝前に数行の日記やメモを書き出しておくと、翌日に持ち越さなくて済むため、心が軽くなる効果があります。
考えすぎによる不安を少しでも和らげるために、好きな音楽を聞いたり、リラックスできる映像作品を見るのも良い方法です。ただし、ブルーライトを発するスマホやPCはできるだけ避けるなど、道具の使い方には気を遣いましょう。
月曜日を迎えるための準備
月曜日の朝に焦らなくてもいいよう、仕事道具や服装の準備をあらかじめ整えておくと安心感が得られます。明日の予定をざっくり決めておくことも大切で、アラームの設定なども含めて事前の準備を習慣化するのがおすすめです。
休日のうちにやるべきことを終わらせておけば、日曜日の夜のストレスは格段に減り、落ち着いて眠りにつけるメリットがあります。
転職する
どうしても今の仕事が合わない、あるいは職場環境が改善見込みのないほど深刻な場合には、思い切って新しい環境を検討する方法もあります。ストレスの大半が職場にあるなら、転職という選択肢も“不眠症状”を根本から解決する可能性があります。
現職でのキャリアをどう評価するか、生活面でのリスクはどうするかなど、総合的に考える必要がありますが、精神的負担の軽減を最優先に判断することも重要です。
理想的な睡眠環境を整える方法
快適に休める空間づくりは、眠れない状態を改善するために欠かせません。部屋の温度や明るさ、寝具など、意外と軽視されがちな要素が睡眠の質を左右します。
できるだけ自分にとってリラックスできる工夫を試し、合わないと感じたら柔軟に調整してみることが、理想的な睡眠環境への近道です。
室温や湿度、寝具の見直し
寝室の室温は18~22度、湿度は50~60%が理想とされています。これらの条件を満たすことで、体温調節がしやすくなり、安定した睡眠を確保しやすくなります。
さらに、マットレスや枕などの寝具は、現在の体格や睡眠姿勢に合ったものを選ぶと疲れが取れやすくなるでしょう。寝具を変えるだけで目覚めがすっきりするケースも珍しくありません。
ブルーライトを避けた事前準備
就寝前にスマホやパソコン画面を見続けると、脳が刺激されて覚醒しやすくなります。寝る前は画面を目にしない、あるいはブルーライト対策フィルターや暗所モードを活用するといった工夫が必要です。
どうしても必要な作業があるなら、画面の輝度を下げるなどしてできる限り目を守りましょう。日の光に近い明るい光が思いのほか脳に影響を与えるため、控えめな照明の部屋で過ごすのが理想的です。
音楽や香りを取り入れる工夫
安眠用BGMや自然音、ヒーリングミュージックなどを就寝前に流すと、リラックス状態を保ちやすくなります。自律神経を整える効果が期待できるため、深い睡眠につながるケースも見られます。
アロマオイルやお香を活用し、自分の好きな香りを漂わせるのも一案です。嗅覚を刺激することで気分が落ち着き、心地よい眠りへと誘導されやすくなります。
サプリメントの活用
サプリメントは睡眠薬ではなく、健康栄養補助食品という扱いです。つまり、栄養素の補給が目的となります。有名なプロテインもサプリメントの一つです。睡眠のために作られたサプリメントがあり、これらには科学的に睡眠の質を高めると研究によって示されたものも存在します(機能性表示食品)。どうしても寝れない時や不安や悩みが強い時などは活用してみるのも方法です。
生活習慣を見直して改善する方法
日頃の生活習慣を意識的に変えることで、不眠の根本的な改善に取り組むことができます。
不眠の改善には、単なるリラックス法や環境づくりだけでなく、生活リズム全体の見直しが欠かせません。特に仕事のスケジュールや休日の過ごし方を把握し、習慣として定着させることで安定した睡眠を実現できます。
体内時計に合わせた活動や食事、運動を心がけることで、自然と“夜には眠くなる”サイクルが確立します。以下では、代表的な生活習慣の改善ポイントを解説します。
規則正しい生活リズムを作る
毎日ほぼ同じ時間に起床し、決まった時間に就寝する習慣を身につけると、自然に眠りにつきやすくなります。土日に平日よりも1時間を超える寝坊をすると体内時計が乱れやすくなります。休日もあまりに大幅な寝坊を避けることで、週明けの体調管理もスムーズに進みます。
体内時計がしっかりと働くようになると、眠気のタイミングも安定し、寝つきの悪さや中途覚醒が減るでしょう。まずは無理のない範囲で少しずつリズムを整えていくことが肝心です。
適度な運動や食事の工夫
日中の適度な運動で体を疲れさせると、夜には自然と睡眠欲求が高まります。ウォーキングや軽い筋トレ、ストレッチなど、継続しやすい運動を取り入れるのがおすすめです。運動はストレス発散につながりリフレッシュ効果も期待できます。
また、寝る直前に暴食をすると胃腸が活発に働き、睡眠の質を下げる可能性があります。一方で適度な炭水化物やたんぱく質を夕食で摂取すると、リラックス状態を維持する上で役立つことも多いのです。
就寝前のカフェイン摂取やスマホ使用の制限
カフェインは摂取してから5~7時間ほど効果が持続するため、夜にコーヒーやエナジードリンクを飲む習慣がある場合は見直すことが重要です。軽く飲んだつもりでも眠りにくくなる場合があります。
スマホやタブレットなどの電子機器から発せられるブルーライトも、脳を活性化させ休まりにくくします。就寝30分前には画面を見ない、通知をオフにするなど、意識的に使い方をコントロールしましょう。
快眠につながる夜のルーティン
お風呂にゆっくり浸かる、ストレッチをする、温かいハーブティーを飲む、軽く読書をするなど、就寝前にゆったりとした時間を過ごすと心身が穏やかになります。これを夜のルーティンとして確立すると、自然と入眠しやすい状態が整うでしょう。
同じ行動を毎晩繰り返すことで「これをしたら寝る」というスイッチが入りやすくなるのもポイントです。睡眠前には、自分がリラックスできる習慣を意識的に取り入れてみてください。
専門家に相談するべきタイミング
状況が深刻な場合、専門家の意見を仰ぐことで適切な治療や指導を受けられます。
眠れない日々が長期化し、生活や仕事に大きな支障を来している場合は、早めに医療機関や専門家へ相談したほうがよいでしょう。自己流の対策だけでは改善が見込めないケースもあります。
専門家の診断やカウンセリングを受けることで、不眠の原因をはっきり捉え、必要とあれば薬物療法なども検討できます。深刻化する前に、プロの手を借りる選択肢を持つことは大切です。
慢性的な不眠が続く場合
数週間から数か月に及んで十分に眠れない状態が続く場合は、慢性的な不眠症に移行している可能性があります。睡眠不足により集中力が低下し、普段以上のストレスを感じやすくなるリスクも高いです。
自己判断で済ませず、クリニックや睡眠外来を受診して原因を突き止め、適切な治療法を探ることが効果的な解決への近道となります。
心理的負担が大きい場合の心療内科受診
仕事や人間関係によるストレスがあまりにも強いと、うつ病や不安障害などの心理的な問題につながる可能性があります。心療内科で相談すれば、専門家が心の状態を診断し、必要な治療を提案してくれます。
重いストレスを長期間放置してしまうと、メンタル面だけでなく身体面にも悪影響を及ぼすため、早めのアクションが功を奏します。
睡眠薬の必要性と使用上の注意点
医師の診断のもとで睡眠薬が処方される場合は、使用上の注意点をしっかり守ることが大前提です。服用間隔や量を誤ると、副作用リスクが高まります。
特に長期間の自己判断による服用は、依存や効き目の減弱などの問題を引き起こす可能性があります。専門家の指導のもとで、適切な方法を選ぶようにしましょう。
まとめと快眠への第一歩
原因を知り、対策を実践しつつ必要に応じて専門家に相談することで、睡眠トラブルの改善を目指しましょう。
明日仕事だと思うと眠れないという悩みは、多くの人が抱えている現代病のひとつとも言えます。しかし、その原因の多くはストレスや生活リズムの乱れ、睡眠環境の不備など、意識を変えて対処できる要素が含まれています。
日頃のケアと対策を続けることで睡眠の質は高まり、翌朝の目覚めも快適になります。必要に応じて専門家に相談する選択肢も常に頭に入れておきながら、できる範囲の改善策から少しずつスタートしてみることをおすすめします。