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監修者

松岡 雄治
地方国立大学医学部卒業後、横浜市内で初期臨床研修を経て、関東の基幹病院で勤務中。
資格:医師国家試験合格、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級
暑さでよく眠れなかった翌日は、「睡眠不足のまま外出すると、熱中症になりやすいのでは」と心配になる人もいるでしょう。
睡眠不足は体調不良のひとつとして、熱中症の発症に影響する可能性があります。ただし、睡眠不足だけで熱中症になるわけではありません。気温や湿度、脱水、運動量、持病など、環境・体・行動の条件が重なって発症します。
この記事では、睡眠不足と熱中症の関係や、必要な睡眠時間の考え方、夜間の熱中症を防ぐ方法を解説します。熱中症が疑われるときの対処法も確認し、暑い季節を安全に過ごしましょう。
睡眠不足で熱中症になりやすい理由
環境省は、睡眠不足を熱中症の発症に影響する体調不良のひとつに挙げています。睡眠不足だけで熱中症になるわけではありませんが、暑い環境で活動するときの体温調節や体調管理に影響する可能性があります。
主に考えられるのは、体温調節機能への影響、疲労の蓄積、集中力や判断力の低下です。
1. 体温調節機能に影響する
人の体は、皮膚の血流を増やしたり汗をかいたりして、体内の熱を外へ逃がします。ところが、睡眠不足の状態では、暑い環境における体温調節の反応が変化する可能性があります。
環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」では、普段より睡眠時間を短くした翌日に運動すると、体温や発汗に変化が生じ、体温調節機能が低下する可能性があると説明されています。
睡眠不足になることでまったく汗が出なくなるわけではありませんが、自律神経の乱れによって「熱を逃がすための適切な発汗」が遅れやすくなってしまうのです。環境や運動量、年齢などによって反応が異なるため、汗の量だけで熱中症の危険性を判断しないことが大切です。
※出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」
2. 疲労が重なり体への負担が大きくなる
睡眠が足りないと、疲労感が残りやすくなります。その状態で高温多湿の環境に入り、運動や作業を続けると、普段と同じ活動でも体への負担が大きくなる可能性があります。
特に、前日から疲れが残っている、食事や水分を十分にとれていない、暑さに慣れていないといった条件が重なる場合は注意が必要です。
睡眠不足を感じる日は、暑い場所での長時間の活動や激しい運動を避けましょう。予定を変更できない場合は、涼しい場所で休む回数を増やしてください。
3. 集中力が低下して暑さ対策が遅れやすくなる
睡眠不足によって強い眠気や集中力の低下が生じると、水分補給や休憩を後回しにする可能性があります。体調の変化を見落とし、暑い環境で無理を続けてしまうことも考えられます。
そのため、感覚だけに頼らず、活動を始める前に体調や暑さ指数(WBGT)を確認することが大切です。休憩する時刻をあらかじめ決め、定期的に水分を補給しましょう。
頭痛や吐き気、めまいなどがある場合は、活動を始めないか、すぐに中止してください。睡眠不足であることを家族や職場の人へ伝え、ひとりで無理を続けないようにしましょう。
夜間の熱中症に注意が必要な理由
夜間の熱中症に注意が必要な主な理由は、日中から残る暑さと疲労、就寝中の水分損失、症状への気づきにくさの3つです。
日没後も建物や地面に蓄えられた熱が残り、寝室の温度が下がらないことがあります。さらに、睡眠中は水分を補給できず、体調の変化にも気づきにくいため、夜間も熱中症への注意が必要です。
1. 日中の暑さと疲労が夜まで続く
暑い場所で過ごした日は、発汗や体温調節によって体に負担がかかっています。日没後も室温が高いままだと、疲労が残った状態でさらに暑さへさらされることになります。
また、寝苦しさで何度も目が覚めると、十分な睡眠をとれません。睡眠不足のまま翌日も暑い環境で活動すれば、疲労と暑さが重なる状態が続きます。
夜間の頭痛や吐き気、起床時の強いだるさなどを、単なる寝不足と決めつけないことが大切です。
2. 就寝中も水分を失う
人は睡眠中も、呼吸や発汗によって水分を失います。暑い寝室では発汗量が増える可能性があり、眠っている間は自分の意思で水分を補給できません。
特に、日中から水分が不足している場合や、飲酒後、発熱・下痢などがある場合は、就寝中に脱水が進む可能性があります。
ただし、寝汗をさほどかいていないと感じても、呼吸や皮膚から目には見えない不感蒸泄があるため、油断せずに水分補給を習慣にしましょう。起床時の口の渇きや尿量、立ちくらみなど、ほかの変化もあわせて確認しましょう。
3. 睡眠中は症状に気づきにくい
睡眠中は、頭痛や吐き気、めまいなどの症状が起きても、目覚めるまで気づかない可能性があります。ひとりで寝ている場合は、周囲の人が体調の変化を見つけにくい点にも注意が必要です。
夜中に目が覚めて頭痛や吐き気、強いだるさなどを感じた場合は、寝苦しさや睡眠不足だけが原因と考えず、熱中症の可能性も確認してください。
呼びかけへの反応がおかしい、自力で水分を飲めないといった場合は、すぐに救急車を呼びます。
熱中症のリスクを下げるには何時間の睡眠が必要?
熱中症を防げる睡眠時間が、ひとつの数値で決まっているわけではありません。必要な睡眠時間には年齢差や個人差があるため、時間だけでなく、起床時の休養感や日中の眠気も確認する必要があります。
厚生労働省は、成人に対して6時間以上を目安に、必要な睡眠時間を確保するよう勧めています。ただし、6時間眠れば熱中症を防げるという意味ではありません。
「何時間寝れば熱中症になりませんか?」という疑問に対する明確な正解はありません。厚生労働省は6時間以上を推奨していますが、たとえ6時間寝ても、朝起きて『体がだるい』と感じるなら、熱中症リスクは高い状態だと言えます。数字だけにとらわれず、日中の疲れを翌日に持ち越していないかをチェックしましょう。具体的には、朝起きた時にしっかりと休めた感覚(睡眠休養感)をバロメーターにするとよいです。
睡眠時間が普段より短いだけでも影響する
環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」では、普段より睡眠時間を1.5時間程度短くした条件でも、翌日の運動時に体温や発汗へ影響が見られた研究が紹介されています。
ただし、「何時間未満なら熱中症になる」という一律の境界はありません。普段より睡眠時間が短く、起床後も眠気や疲労が残っている日は、暑い場所での活動量を減らしましょう。
また、前夜の睡眠時間だけでなく、数日間にわたる睡眠不足にも注意が必要です。毎日の就寝・起床時刻や日中の眠気を記録すると、普段との違いを把握しやすくなります。
睡眠時間を確保しにくい場合の工夫については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:忙しくて寝る時間がない人へ|睡眠不足をためない現実的な対策
昼寝で眠気は取れても睡眠不足は補いきれない
短い昼寝は、一時的に眠気を軽減する助けになります。ただし、夜の睡眠不足を完全に補ったり、熱中症のリスクをなくしたりするものではありません。
昼寝をする場合は、午後の早い時間に15〜20分程度を目安にしましょう。長い昼寝や夕方以降の昼寝は、夜の寝つきに影響する可能性があります。
また、昼寝をする部屋も冷房などで涼しく保つ必要があります。高温になる車内や冷房のない部屋を、昼寝の場所に選ばないでください。
昼寝後も強い眠気やだるさが残る場合は、回復したと判断して無理に活動せず、運動や屋外作業を控えましょう。夜の睡眠不足が続く場合は、昼寝だけで補おうとせず、仕事や生活時間を含めて見直すことが大切です。
熱中症を予防する睡眠環境の整え方
暑い夜の熱中症を防ぐには、冷房を適切に使い、寝室に熱や湿気をこもらせないことが大切です。設定温度ではなく、寝床付近の室温と体調を確認しながら調整しましょう。
ここでは、空調、水分補給、寝具、飲み物の4点から、睡眠環境の整え方を解説します。
1. エアコンで寝室を快適な温度に保つ
環境省の資料では、快適に眠れる室温の上限は28℃とされています。ただし、28℃はエアコンの設定温度ではなく、実際の室温の目安です。
寝床付近に温湿度計を置き、暑さや寝汗を感じる場合は、28℃以下でも冷房を調整してください。快適に感じる温度は、住居や湿度、寝具、年齢、体調によって異なります。
冷風が体へ直接当たらないよう風向きを変え、扇風機やサーキュレーターで室内の空気を循環させましょう。冷房を切った後に室温が上がる場合は、朝まで運転する方法もあります。
高齢者や乳幼児は暑さを訴えにくい場合があるため、周囲の人も室温や体調を確認してください。
就寝中のエアコンの設定や電気代の抑え方については、以下の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:寝る時のエアコン設定はどうする?|適正温度と電気代を抑える使い方
夜間熱中症で救急搬送される方の多くが、「冷えすぎるのが嫌で、エアコンをタイマーで切っていた」とおっしゃいます。途中でエアコンが切れると、夜中に急激に室温が上がってしまいます。冷房の風が体に直接当たらないように工夫しつけたままにするなど、室温のコントロールを工夫してみましょう。
※出典:環境省「熱中症環境保健マニュアル2022」
2. 就寝前と起床時に水分を補給する
睡眠中も汗や呼吸によって水分が失われるため、就寝前と起床時に水分をとりましょう。一度に大量に飲むのではなく、日中からこまめに補給することが大切です。
汗を多くかいた日は、食事から適度な塩分もとります。経口補水液は脱水が疑われるときの選択肢であり、日常の水分補給として大量に飲むものではありません。
夜間頻尿を気にして水分を極端に控えると、脱水につながる可能性があります。心臓や腎臓の病気などで水分を制限されている人は、医師の指示を優先してください。
夜中に目が覚めたときにも飲めるよう、枕元に倒れにくい容器で水を用意しておくと安心です。
3. 夏に適した寝具で熱と湿気を逃す
夏は、通気性や吸湿性があり、汗をかいても洗いやすい寝具を選びましょう。寝床に熱がこもる場合は、厚い敷きパッドや重い掛け物を減らします。
接触冷感寝具も選択肢ですが、冷たく感じる効果は一時的な場合があります。寝具だけで室温を下げることはできないため、冷房と組み合わせてください。
寝具が汗で湿ったら交換し、十分に乾燥させます。マットレスの下や壁際に湿気がたまりやすい場合は、日中に換気しましょう。
寝苦しい夜に寝床の熱と湿気を減らす方法は、以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:寝苦しい夜の対策とは?暑くて眠れない原因と今夜からできる快眠のコツを解説
4. 寝る前のアルコールとカフェインを控える
アルコールは寝つきをよくするように感じても、睡眠を浅くし、夜中に目が覚める原因になります。暑い夜の水分補給を、酒だけで済ませないようにしてください。
カフェインには覚醒作用があるため、夕方以降にとると寝つきを妨げる場合があります。コーヒーだけでなく、緑茶、紅茶、エナジードリンクなどにも含まれています。
就寝前の水分補給には、水やカフェインを含まない飲み物を選びましょう。飲酒量を自分で減らすことが難しい場合は、医療機関へ相談してください。
熱中症が疑われるときの対処と受診の目安
暑い環境で頭痛や吐き気、めまい、強いだるさなどが現れたら、熱中症を疑ってすぐに活動を中止します。睡眠不足による不調と決めつけず、涼しい場所へ移動してください。
対処を判断するポイントは、意識がはっきりしているか、自力で水分を飲めるかの2点です。
1. 涼しい場所へ移動して体を冷やす
冷房の効いた室内や風通しのよい日陰へ移動し、衣服をゆるめます。首の周りや脇の下、脚の付け根などを冷やしましょう。
意識がはっきりしていて自力で飲める場合は、経口補水液などで水分と塩分を補給します。吐き気が強くて飲めない場合は、無理に飲ませず医療機関を受診してください。
応急処置をしても症状が改善しない場合も、医療機関への搬送が必要です。回復したように見えてもひとりにせず、その日は暑い場所での活動を再開しないでください。
2. 意識がはっきりしないときはすぐ救急車を呼ぶ
呼びかけへの反応がおかしい、意識がない、けいれんがある場合は、すぐに救急車を呼びます。自力で水分を飲めない場合も、速やかな受診が必要です。
救急車を待つ間も、涼しい場所へ移動させ、衣服をゆるめて体を冷やします。飲み物が気道に入るおそれがあるため、意識がはっきりしない人には水分を与えないでください。
救急隊には、症状が現れた時刻や暑い環境にいた時間、持病、服用中の薬などを、わかる範囲で伝えましょう。
まとめ:十分な睡眠と暑さ対策で熱中症を防ごう
睡眠不足は、体温を調節する自律神経の働きを乱し、熱中症のリスクを大きく高めてしまいます。日中の暑さ対策はもちろんですが、夜間の睡眠環境を整えてしっかりと体を休めることが、何よりの予防策になります。
熱中症から体を守るための具体的なポイントは以下の通りです。
- 6時間以上の睡眠を目安にし、翌朝の「スッキリ起きられたか(休養感)」を大切にする
- 室温が上昇しそうな場合には、エアコンは途中で切らず、朝まで室温を26〜28℃に保つ
- 就寝前、起床時、夜中に目が覚めたときにも、こまめに水分を補給する
- 通気性や吸湿性の良い寝具を選び、寝床内の熱や湿気を逃がす
- 頭痛やめまいなどの異変を感じたらすぐに涼しい場所で体を冷やす(※自力で水が飲めない場合や意識がおかしい場合は迷わず救急車を)
睡眠、空調、水分補給、寝具をまとめて見直し、暑い夜も安全に休める環境を整えましょう。











