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監修者

田中 貫平
医師・メンター・タッチベースドマインドフルネス/shinsetsu-tion考案者・Gallup認定ストレングスコーチ・インド中央政府公認ヨガインストラクター
2013年英国シェフィールド大学医学部卒。
手稲渓仁会病院にて初期研修後、2020年九州大学病院心療内科に入局。国際医療福祉大学成田病院では緩和ケアチームにも所属。2024年からはフリーランスの医師として活動している。一般の方から学生、経営者、スポーツ選手など幅広い層のクライアントに対して傾聴およびマインドフルネスの実践指導や心理療法を提供、あらゆる病気や未病(不眠症も含む)の治療や予防改善に取り組んでいる。
「今夜も眠れないかもしれない」そんな不安を抱えながらベッドに入っていませんか?
ベッドに入ってから30分、1時間と時間だけが過ぎて、明日の仕事のためにも早く寝なければと考えるほど眠れなくなる。スマートフォンで「寝る方法」を検索してしまう。こうした経験がある方はきっと少なくないはずです。実は、日本人の4人に1人が睡眠に関する悩みを抱えており、特に「寝つきの悪さ(入眠困難)」は現代人の大きな課題となっています。日本は先進国の中でも睡眠不足が深刻な国として有名です。厚生労働省の調査によると日本人成人の20.6%が慢性的な不眠症状態にあり、睡眠時間が6時間未満の人は、全体の4割を超えています。1)
睡眠トラブルの原因は、ストレスや不安、生活リズムの乱れなどさまざまです。つらい不眠症を一刻も早く解決したいと思う一方で、睡眠薬には頼りたくないという方も多いでしょう。
本記事では、睡眠の質を改善する呼吸法について解説します。ご紹介するのは科学的に効果が実証されたものです。睡眠と呼吸の密接な関係から、呼吸法の具体的な手順、呼吸法の効果を最大限高める方法までわかりやすく説明します。
まずは薬に頼らず自分にできることから、と考えている方はもちろん、睡眠の質を少しでも良くしようとお考えの方にもおすすめです。今夜から実践できる「あなたに合った呼吸法」を見つけて、質の高い睡眠を実現しましょう。
なぜ呼吸法が睡眠改善に効果的なのか?自律神経との関係を科学的に解説

呼吸法が睡眠改善に有効なのは、特定の呼吸パターンが自律神経を介してリラックス作用をもたらし、入眠を促すためです。自律神経には、心身を興奮させて活動的にする交感神経と、リラックスさせて休息へと導く副交感神経の2つがあり、このバランスが快眠の鍵を握っています。
呼吸が自律神経に与える影響のメカニズム
呼吸と自律神経はお互いに影響し合っています。これは、身近な例を思い返すとよくわかります。例えば、ストレスや不安を感じると、交感神経が優位になり、心身は興奮状態となり呼吸は速く浅くなります。この状態では、緊張してなかなか入眠できません。逆にリラックスしていて副交感神経が優位なときには、呼吸は深くゆっくりとしたものになり、スムーズに寝付くことができます。
呼吸法は、この呼吸と自律神経のつながりを利用して、「呼吸パターンを整えることで、副交感神経を優位にしてリラックスを促す方法」といえます。意識的に、副交感神経が優位な時のように深く大きな呼吸をすることで、副交感神経を優位にすることができます。特に、ゆっくりと深く息を吐く(呼気)動作は、横隔膜を大きく動かし、副交感神経である迷走神経を刺激するメカニズムを働かせることができます。心拍数も下がり、リラックスした状態へと導くことができます。2)ヨガや瞑想でも取り入れられていますね。
日本体力医学会の研究では、腹式呼吸(呼気と吸気の比率が2:1)が副交感神経活動を亢進させ、その効果は30分後まで持続することが実証されています。3)
睡眠の質と呼吸パターンの関係性
睡眠の質と呼吸パターンもまた互いに影響しています。睡眠のステージと呼吸パターンはともに変化しています。ノンレム睡眠(深い睡眠)では、規則正しくゆっくりとした呼吸を、レム睡眠(浅い睡眠)では、不規則な呼吸をそれぞれおこなっています。
睡眠中の呼吸をコントロールすることはできませんが、副交感神経が優位な(リラックスした)状態で入眠することで、深い睡眠への移行がスムーズに行われ、良質な睡眠の時間を長くすることが期待できます。逆に、睡眠時無呼吸症候群などで、睡眠時に無呼吸になると交感神経の活動が高まり、睡眠の質が低下してしまいます。4)

今夜から実践できる睡眠改善のための呼吸法5選

睡眠に関する呼吸法は数多くありますが、中には効果が不確かなものもあります。本記事では、科学的に効果が実証されている、快眠におすすめの呼吸法を5つ厳選して紹介します。それぞれのやり方と特徴を理解し、あなたに合った方法を見つけてください。
1. 4-7-8呼吸法:アメリカ発の即効性テクニック
4-7-8呼吸法は、ハーバード大卒のアメリカの医学博士、アンドルー・ワイル医師が提唱した、ヨガの要素を取り入れた呼吸法です。即効性が高く、緊張や不安を感じているときに特に効果的です。
- 息を吐く:まず、口から「フーッ」と音を立てながら、体内の空気をすべて吐き出します。
- 息を吸う:口を閉じ、鼻から4秒かけて息を吸う。
- 息を止める: 7秒間、息を止める。
- 息を吐く:口から「フーッ」と音を立てながら、8秒かけて息を吐く。
- 4.を終えたら 2.に戻って呼吸を繰り返す(3サイクル程度)
3サイクルほど終えると心身がリラックスし、自然と眠りに誘われやすくなります。この方法で重要なのはこの4:7:8という比率です。息止めの時間が長く感じたり、吐く息が続かなかったりするときには、すべての時間を半分にするなどしても問題ありません。6)
この方法は、安倍元首相が実践していたことでも話題になりました。
2. 腹式呼吸:副交感神経を優位にする基本技法
腹式呼吸は、呼吸法の基本です。お腹を意識することで、横隔膜が大きく動き、リラックスに深く関係する副交感神経が優位になります。横隔膜には迷走神経という副交感神経の代表的存在の神経が分布しています。
- 仰向けになり、お腹に手を置く。
- 鼻からゆっくりと息を吸う。このとき、お腹が膨らんでいることを感じる。
- 口からゆっくりと息を吐く。このとき、お腹がへこんでいくのを感じる。
腹式呼吸のリラックス効果に関する研究では、息を吐く時間を吸う時間の倍(呼気:吸気=2:1)にすることで効果が高まり、ストレスなどで交感神経が緊張状態にある人でより効果が大きかったと報告されています。また、息を吐く時間を長くとることで、心臓、肺の反射といった生理的な反応を利用して、副交感神経優位の状態にシフトしていることがわかっています。3)
3. 丹田(たんでん)呼吸法:日本古来の瞑想的アプローチ
丹田呼吸法は、古来よりヨガや座禅で用いられてきた呼吸法です。おへその約10cm下にある「丹田(たんでん)」を意識することで、精神的な安定とリラックスを促します。
- 仰向けになり、両手をおへその下に置く。
- 鼻からゆっくりと息を吸い込む。丹田に空気がたまるようなイメージを持つ。
- 口からゆっくりと息を吐く。空気を丹田から押し出すイメージを持つ。
この呼吸法を繰り返すことで、心が落ち着き、眠りやすい状態になります。7)
4. 大の字呼吸法:初心者に最適な簡単メソッド
大の字呼吸法は、誰でも簡単に実践できる、初心者にぴったりの呼吸法です。
- ベッドに仰向けになり、手足を広げて大の字になります。
- 鼻から息を吸うとき、体が浮かび上がるようなイメージを持つ。
- 口から息を吐くとき、体がベッドに沈み込んでいくようなイメージを持つ。
イメージしながら呼吸法を繰り返すことで、心身の緊張がほぐれ、自然とリラックスできます。
5. 米軍式呼吸法:2分で眠りにつく軍隊メソッド
米軍で採用されている呼吸法は、戦場というひどい騒音やストレス環境でも速やかに休息することができるようにする方法です。
- まず 顔の筋肉をリラックスさせる。いきなり緩めるのが難しい場合、はじめにギュッと顔の筋肉に力を入れて2-3秒で脱力させてみましょう。
- 次に 首→肩→腕→指先の順に上半身を脱力させる。
- 最後に 太もも→ふくらはぎ→足先の順に下半身も力を抜く。
体が重く布団に沈み込んでいくイメージを持つのがコツです。
- これに合わせて呼吸のリズムを整えていきます(4秒吸って、4秒止めて、4秒吐く 「4・4・4呼吸法」が推奨されています)。
- 穏やかな景色のイメージをします(青空の下でハンモックに揺られている自分、湖面をカヌーでゆっくり進んでいる風景、星空の下で静かに深呼吸している自分)
- 何か考えてしまう場合は、「今は考えない」と自分に言い聞かせて、最初からやるようにすると良いでしょう。
手順が多く感じるかもしれませんが、うまくできなくても焦る必要はありません。慣れたらスムーズにできるので繰り返しトライしましょう。
関連記事:2分で熟睡!米軍式睡眠法のやり方と効果
6. グラウンディング:監修者が伝える呼吸法
監修者の田中医師がセッションでクライアントさんに教えている呼吸法です。不安や考え事で頭がいっぱいな時、東洋医学では「気逆」と呼ばれ、気が上半身に集まってしまっています。グラウンディングでは、息を吐く時に意識を下半身に向けて気を落としていくことで、落ち着きやリラックスすることを目的にしています。なお「気」を感じられなくても心配ありません(田中医師は気を感じることが不得手です)。
- 仰向けか座位の姿勢など楽な体勢をとります。
- 自分の好きなリズムと深さでよいので、鼻から吸って鼻または口から吐く深呼吸をしていきます。緊張や不安が強い時には吐く息を吸う息よりも長くします。
- 数分それを続けたら、吸う時には下腹部(丹田の辺り)まで深く息を吸い込み、吐く時に体が地面や床などと触れている体の身体感覚(触覚)も同時に意識します(仰向けなら背面、座位なら下半身)。深く息を吸い込むのが難しい場合には吸える範囲で深く吸い込みます。息を吐く時には体が触れている部分の感覚を忘れないことが重要です。
- リラックス効果を高めたいのであれば、息を吐く時には、イメージを連動させることもできます。たとえば仰向けであれば、温かい場所に沈み込むイメージ、座位であれば上半身を大木、下半身を大木の根っこに見立て、その大木が深く根を伸ばすイメージなどなど、自由に連想することもできます。
呼吸法の効果を最大化する3つのポイント

呼吸法の効果を最大限に引き出し、さらに質の高い睡眠を実現するためのポイントを3つ紹介します。
最適な実践タイミングと頻度
呼吸法の最も効果的な実践タイミングは、寝る前です。ベッドに入ってから眠れないとき、他にも心身が緊張しているときに試してみましょう。また、日に何回実践しても問題ありません、リラックスしたいタイミングで呼吸法を実践する習慣をつけるとよいでしょう。呼吸法による効果には個人差があります。ある研究では、呼吸法を5分以上続けた場合、ほとんどの人の脳波にα波が出現した(リラックス効果が現れた)と報告されています。8)
3サイクルや2分といったそれぞれの呼吸法に設定された回数・時間ではあまり効果を感じられない方は、5分以上を目安にすると良いでしょう。
睡眠環境の整え方
呼吸法でリラックスしても、寝具をはじめとした睡眠環境が不快だと睡眠の質が悪くなってしまいます。
- 室温・照明:快適な室温に設定して、照明を消してなるべく部屋を暗くしましょう。
- マットレス:体を直接支えるマットレスは睡眠の質を大きく左右します。腹式呼吸がしやすい仰向けの姿勢で、体を自然な形で優しく支える体圧分散性に優れたマットレスを選びましょう。また、同じ姿勢で蒸れない通気性も重要です。
呼吸法が効かない時の対処法
呼吸法を試しても効果が感じられない場合、不眠症や他の睡眠障害が潜んでいる可能性があります。自己判断せずにまずは医療機関に相談してみましょう。不眠症は、不眠症状(寝付けない、途中で目覚めてしまう、朝早く目覚めてしまう)といった症状に加えて、日中の活動に支障をきたしている場合に診断されます。日中に眠気や集中力低下を感じたり、仕事や運転中のミスに心当たりがある場合には速やかに受診しましょう。9)
今夜から始める、あなたに合った呼吸法で質の高い睡眠を

この記事では、睡眠の質を改善するための5つの呼吸法を紹介しました。呼吸法は、簡単でありながら自律神経をコントロールできる数少ない方法であり、睡眠薬に頼らず快眠へと導くための強力な入眠テクニックです。
今回紹介した呼吸法はいずれも今夜からできる簡単な方法です。ぜひ快適な方法はどれか、まず試してみましょう。併せて行うと効果的なのは寝具の見直しです。コアラマットレスのような良質な寝具は、身体をしっかりと支えることで、長時間同じ姿勢でも体圧をうまく分散し、蒸れもなくなるため、身体への負担が少なくなり、呼吸も安定して質の高い睡眠を実現してくれます。
不眠症は決して珍しい症状ではありません。あなたに合った呼吸法を見つけるとともに、この機会に睡眠環境全体を見直すことで、快眠への第一歩を踏み出しましょう。
【参考文献】
- 厚生労働省 令和5年国民健康・栄養調査報告
- Michiko, Tanaka(2015) Autonomic nervous responses during the controlled abdominal breathing using the diaphragm in the elderly
- Sakaki, K. (2001) The Effects of Abdominal Breathing on Autonomic Nervous Function in Women: The Relationship among Individual Differences in Autonomic Nervous System Activity in Supine Position at Rest. Japanese Journal of Physical Fitness and Sports Medicine, 50, 105-118.
- 厚生労働省 睡眠と生活習慣病との深い関係
- 佐藤和彦:リラクセーション手法としての呼吸法 J-STAGE 心身健康科学 5 巻 2 号 p. 93-101,2009
- Weil Video: Breathing Exercises: 4-7-8 Breath
- 丹田呼吸法 呼吸の極意 診療研究 第593号2023.12 水上 和之
- 有田秀穂:セロトニン欠乏脳, 日本放送出版協会 pp.84-93, 2003
- 厚生労働省 | 健康づくりのための睡眠ガイド2023
メタディスクリプション
呼吸法が睡眠の質を高めることをご存知でしょうか。米国の軍隊で採用されている方法など、医学的に効果が高いと考えられる呼吸法の手順を徹底解説。呼吸法を活用してぜひ今日から睡眠の質を高めましょう。










