睡眠コラム by Koala Sleep Japan2025年5月22日読了目安時間: 8

睡眠コンサルタント監修|なぜ止まらない?生あくびの科学と意外な体内メカニズム

南 茂幸
理学療法士/睡眠コンサルタント

理学療法士の資格を持つ睡眠コンサルタント。睡眠について数名から100名以上の規模でセミナー講師として登壇、他にもコンサルティング、ラジオ出演、睡眠グッズ監修等幅広く活躍。「睡眠の質が人生の質」と捉え、睡眠は自分への投資であると考え、現在出版準備中。

「会議中や作業中に生あくびが出てしまい、集中できない」「寝不足じゃないはずなのに生あくびが止まらない」「ストレスが多いから生あくびが増えた気がする」「そもそも生あくびって悪いことなのかな」など感じてないでしょうか。生あくびは、単なる眠気だけが原因ではなく、さまざまな要因から引き起こされる可能性があります。本記事では、睡眠コンサルタントの南 茂幸が生あくびの仕組みや頻発する原因、考えられる病気との関連性、そして対処法までを総合的に解説します。日常の中でよく見られる生あくびですが、実は体からのサインとして重要な意味を持つこともあるのです。

日常の生活習慣やストレス、睡眠状態が深く関わっていることも多いため、まずは基本的な知識を押さえながら、対策のヒントを見つけていきましょう。ストレスや過労を放置すると、思わぬ病気のリスクを高めるケースもあります。早めに正しい知識を身につけ、適切に対処することが大切です。

生 あくびの基本とその特徴

生あくびの特徴を理解することで、その背景にある体内メカニズムへの理解を深めましょう。

生あくびは、眠気だけではなくさまざまな生理的・心理的要因が背景となる点が特徴的です。脳の活動や体内への酸素供給との関連が指摘されており、日常のいたるところで突然出ることも少なくありません。自然に起こるため軽視されがちですが、実は体の不調を知らせるサインのひとつとして捉えられるケースもあります。特に頻繁に生あくびが続く場合は、より深い要因を探る必要があるかもしれません。

生 あくびとは何か

生あくびとは、明確な眠気を感じていないにもかかわらず突如として出るあくびのことで、脳や身体の状態の変化を反映するとされています。脳の温度調節やストレス、集中力の低下、酸素不足など、多岐にわたる要因が関わっているのが特徴です。通常のあくびと異なり、無意識に繰り返し出ることも多く、時には健康面のシグナルとして注目される場合があります。

通常のあくびとの違い

通常のあくびは深い眠気やリラックス状態に伴って自然に出ることが多いのに対し、生あくびは眠気以外の刺激でも引き起こされるのが大きな違いです。たとえば、集中力の途切れや疲労感、急激な温度変化など、小さなきっかけも生あくびを誘発します。また、生あくびは脳内の化学物質バランスや自律神経の影響も強く、睡眠不足だけに限定されない複雑な背景を持つ点が注目されています。

生 あくびが出る理由

生あくびが出る理由はひとつではなく、脳のクールダウンやストレスホルモンの増減、疲労度合いなどが複合的に作用すると考えられています。特に集中力が要求される場面で脳の温度が上がると、それを冷却するためにあくびを促すメカニズムが働く可能性があります。さらに、ストレスや不安が高まることでも脳の温度が上がることや呼吸が浅くなり、結果的にあくびを通過点とする深呼吸を求める場合もあります。実際にラットの実験で、ストレスを受けたり興奮状態になるとラットの脳温は通常より上昇したと報告されてます(※1)。また、ヒトでも精神的ストレスや認知負荷がかかると脳温が上昇することが認められています(※2)。こうした要因が重なることで、生あくびとして頻発する状況が生まれやすくなるのです。

※1:Brain temperature fluctuations during physiological and pathological conditions.

※2:Brain temperature homeostasis: Physiological fluctuations and pathological shifts.

脳の温度調節と覚醒促進

生あくびが脳の温度調節に関与するという説は、呼吸による冷気の取り込みが脳への血流をクールダウンさせる点に着目したものです。あくびの際に大きく息を吸い込むと、脳内温度がわずかに下がり、眠気や倦怠感を軽減して覚醒度を高める効果があると考えられます。これは長時間の集中作業や高ストレス環境下でしばしば観察され、体が自然に行うリフレッシュの一種ともいえます。

酸素不足の解消

生あくびのもう一つの大きな役割として、深い呼吸を促すことで酸素不足を補う働きがあります。特に仕事などで集中していると、無意識のうちに呼吸が浅くなるため、脳内の酸素供給が不十分になりがちです。その結果として、あくびをきっかけに大きく息を吸い込むことで一時的に酸素を増やし、脳の活性を取り戻すと考えられています。

生 あくびが頻発する主な原因

生あくびの背後には、生活リズムや身体の状態に起因するさまざまな原因が潜んでいます。

頻繁に生あくびが出る場合、その背景にはさまざまな身体的・精神的な要因が隠れていることがあります。睡眠習慣や食生活、ストレスの度合いなど、日常のライフスタイルが大きな影響を及ぼすケースは少なくありません。特に過労気味の状態であくびが増えるのは、脳や体に充分な休息が行き届いていないサインとも考えられます。こうした原因を丁寧に見極めることで、早期の対処や予防策へとつなげられるでしょう。

脳の酸素不足とその影響

集中作業や長時間のデスクワークなどで呼吸が浅くなると、脳へ運ばれる酸素が不足しやすくなります。この状態が続くと眠気に似た倦怠感が生じ、生あくびを誘発するきっかけとなります。脳の酸素不足はパフォーマンスの低下も招きやすいので、適度に休憩を挟んだり深呼吸を意識したりする工夫が必要です。

睡眠不足や睡眠不良

十分な睡眠を確保できていないと、体や脳の疲労回復が不完全なまま日中を過ごすことになります。その結果、生あくびが頻発しやすくなり、集中力や記憶力の低下にもつながります。また、睡眠時間は足りていても質が低い場合には同様の症状が出るため、寝具や寝室環境を整えるなどの改善策を検討するとよいでしょう。

疲労やストレスによる影響

過度な疲労や精神的ストレスは、自律神経のバランスを乱し、体が思うように休めない状態を引き起こします。これにより中途覚醒や睡眠の質の低下が生じ、生あくびが増える要因となることが考えられます。疲労やストレスを感じたときは、意識的に音楽やアロマ、趣味などリラックスの時間を設け、適度な運動や趣味で気分転換を図ることが大切です。

自律神経の乱れ

自律神経が乱れると、呼吸や血圧、胃腸の働きなど多くの生理機能に影響が及びます。特に交感神経が過剰に働くと呼吸が浅くなりがちで、酸素不足を補うために生あくびが増える可能性があります。生活リズムを整えたり、ストレスマネジメントを行ったりすることで、ある程度は改善が期待できるでしょう。

生あくびが示す可能性のある病気と注意点

生あくびが、身体の不調や重大な疾患のサインになる場合もあります。見逃さないためのポイントを整理しましょう。

生あくびそのものは生理現象のひとつですが、頻度が高く、ほかの不調が重なる場合には、なんらかの病気が潜んでいるかもしれません。脳や循環器系などに問題があると、あくびを通じて脳への酸素供給を増やそうとする働きが強く出る可能性があります。日常生活で見過ごしがちな症状ですが、早めに気づくことで重篤化を防げる場合も少なくありません。症状の持続や悪化がみられる際は、専門の医療機関を受診することが重要です。

脳に関連する疾患

脳には多くの血管や神経が集まっているため、些細な異常があくびの増加として表面化することがあります。脳の血流が不十分な時は、あくびを促して酸素を多く取り込もうとする反応が起きるともいわれます。こうした背景から、脳に関する疾患と生あくびには一定の関連があると考えられています。

脳梗塞と脳出血

脳梗塞や脳出血などの脳血管障害では、血管の詰まりや破れによって脳組織への酸素供給が深刻に低下します。これに伴う神経のダメージや血流の不整合が生あくびとして現れる可能性があります。突然の激しい頭痛や手足に痺れや麻痺がある、歩くとふらふらする、呂律が回らないなど神経症状をともなう際は、早急に医療機関で診察を受けることが大切です。

脳腫瘍

脳腫瘍は腫瘍による圧迫や血流障害を引き起こし、結果として脳に十分な酸素が行き届きにくい状態を生むことがあります。酸素不足を補うためにあくびが増えるケースもあり、生あくびが長期的に続く場合には注意が必要です。頭痛や吐き気、視力変化などの症状が伴う場合は早めの検査を検討しましょう。

循環器や全身性の健康問題

心臓や血管の疾患があると、全身、とりわけ脳への血流が不十分になりやすく、生あくびの頻度が上がることがあります。特に貧血や低血圧などの血行不良に関する問題は、脳の酸素不足を招きやすい点が特徴です。体のだるさや冷え、動悸などの症状がある場合は、早期に検査を受けて原因を特定することが重要です。

貧血

貧血とは血液中の赤血球やヘモグロビンが不足した状態で、細胞や組織へ十分な酸素を運べなくなります。脳も酸素不足から生あくびを促すことがあり、疲れやすさやめまい、動機、息切れなどを伴う場合が多いのが特徴です。症状が頻繁に出るならば、食事内容の工夫や必要に応じた鉄分を補給できるサプリメントの利用など、原因に合わせた対処が望まれます。

低血圧

血圧が低い状態が続くと、心臓から送り出される血液量が少なくなりやすく、結果として脳へ十分な酸素や栄養が行き届きにくくなります。生あくびが多い人の中には低血圧傾向の方も多く、立ちくらみや疲労感が日常的に見られることがあります。適度な塩分摂取や水分摂取、筋力アップを図るなど、生活習慣の改善で症状を緩和できる可能性があります。

狭心症と心疾患の兆候

狭心症やその他の心疾患があると、血液を効率よく循環させることが難しくなり、脳へ十分な酸素を供給できないケースがあります。これが激しい息切れや胸の痛みとともに生あくびとして現れることもあるため、従来の疲労感と異なる不調を感じたら注意が必要です。放置すると心不全など重篤な状態を引き起こすリスクが高まるため、早めの診断と治療は不可欠です。

その他の疾患や状態

女性の場合はホルモンバランスの変化や更年期障害が原因となり、生あくびが増えるケースもあります。また、睡眠障害などの呼吸の乱れがあると、自然と酸素不足に陥りやすいため注意が必要です。さらに、運動不足や体温調節の不良もあくびを誘発しやすい要因であり、トータルで身体のコンディションを整える努力が重要になります。

更年期障害とホルモンバランスの乱れ

更年期障害ではエストロゲンなどのホルモンが急激に変動し、自律神経が乱れやすくなります。体温調整や血液循環に影響が及ぶ結果として、生あくびが増えることも少なくありません。症状がつらい場合は、婦人科や更年期外来などを受診し、必要に応じてホルモン補充療法やサプリメントを検討するとよいでしょう。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠中に呼吸が何度も止まる睡眠時無呼吸症候群は、日中の極端な眠気や生あくびの原因として知られています。呼吸停止により脳が慢性的な酸素不足に陥り、補償的にあくびが増える形となるのです。いびきや肥満、起床時の頭痛などが見られる場合は、この疾患を疑って専門の検査を受けることが大切です。

熱中症やめまいを伴う場合の注意点

炎天下や高温多湿の環境下で体温が上昇すると、脳を冷却しようとする生理反応がより顕著になります。生あくびとともにめまいや頭痛が出る場合には、急激な熱中症のリスクが高まっている可能性があります。速やかに涼しい場所へ移動し、水分と塩分を補給する、首や脚の付け根を冷やすなどの対処が必要となるため、早めの対応が望まれます。

生あくびへの対処法

生活習慣の工夫やストレスケアによって、生あくびの発生頻度を軽減することが期待できます。

生あくびを軽減するためには、まず日常生活のリズムを整え、十分な休息と栄養を確保することが基本となります。さらにストレスをこまめに解消し、体内環境を整えるよう意識することで、あくびが出にくい体づくりを目指すことができます。個々のライフスタイルに合った方法を見つけ、習慣化するのが重要です。

生活習慣の見直しと改善

規則的な就寝と起床による睡眠スケジュールやバランスのとれた食生活、適度な運動は、体と脳を健全な状態に保つために欠かせません。これらを意識するだけでも、酸素不足や疲労の蓄積を減らして生あくびを防ぎやすくなります。特に忙しい現代人こそ、生活習慣を見直すことが思わぬ不調を改善するきっかけになります。生活習慣を見直すことで睡眠改善をするのは下記の記事を参照ください。

適切な睡眠時間の確保

人によって必要な睡眠時間は異なりますが、おおむね6~8時間程度が目安とされています。深い睡眠をしっかりと確保することで、脳の疲労が和らぎ、生あくびの原因となる酸素不足や眠気を抑えることができます。就寝前はスマートフォンなどの強い光を避け、リラックスした体勢、リラックスできる寝具で寝つけるよう工夫してみましょう。

バランスの良い食事と栄養摂取

貧血や栄養不足を防ぐためには、鉄分やビタミンB群などを含む食品を意識的に摂取することが大切です。食事の偏りを避け、適切なタンパク質やミネラルを含むバランスの良い献立を心がけることで、脳をはじめ全身への酸素供給をサポートできます。外食やコンビニ食が多い方は、サラダや果物を追加するだけでも改善につながります。

定期的な運動とストレッチ

ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動を行うことで、血行が促進され、脳への酸素供給もスムーズになります。さらに、運動後にストレッチを取り入れると筋肉の緊張が緩和され、リラックス効果も高まります。忙しい日々の中でも無理のない範囲で体を動かす習慣をつけることで、あくびを減らすだけでなく、健康全般の維持にも役立ちます。

ストレス軽減やリラクゼーションの実践

ストレスが溜まると自律神経のバランスが崩れやすく、生あくびの原因となる呼吸の乱れが生じやすくなります。ゆっくりとお風呂に入ったり、好きな音楽を聴く時間を作るなど、自分に合ったリラクゼーション法を継続的に取り入れましょう。心と体をほぐすことは、結果的にあくびの頻度を抑える効果につながります。

深呼吸や瞑想

深い呼吸を意識することで、体内の酸素供給を高め、緊張状態を和らげることができます。深呼吸がストレス緩和に及ぼす影響を調べた実験では、健常成人女性15名を対象に、ストレス負荷後深呼吸を行った群と安静を保った群を比較した結果、深呼吸群で唾液アミラーゼ活性が有意に低下し、ストレス緩和効果があったと報告しています(※3)。特に瞑想は呼吸に意識を向けながら精神を落ち着かせる効果があるため、集中力が高まりストレス緩和にはうってつけです。短い時間でも、定期的に行うことで生あくびの予防に役立ちます。

※3:「深呼吸によるストレス緩和効果

短時間の昼寝を取り入れる

午後の時間帯に短い昼寝を取ることで、脳の疲れをリセットし、生あくびを減らす効果が期待できます。仮眠は15~30分程度が適度とされ、長時間の昼寝は逆に夜の睡眠を妨げることがあります。昼寝は午後3時までに終わるように注意してタイミングを見計らった短い休息を習慣化することで、作業効率や集中力の向上にもつながります。

身体を温める生活習慣を心がける

外気温の変化や冷暖房の効きすぎによって体が冷えると、自律神経が乱れやすく生あくびが増える可能性があります。ゆっくりと入浴したり、暖かい服装を意識することで血行を血めぐりよくし、酸素をスムーズに行き渡らせることができます。特に女性や高齢者などは冷えに敏感な場合が多いため、衣類や寝具などを見直して快適な温度環境を保つようにしましょう。

医療機関の受診が必要な場合

生あくびが続く、あるいは他の症状を伴う場合は、早めの受診が推奨されます。

生あくびが一時的な要因ではなく長期的に続く場合や、めまいや吐き気などの追加症状が出ている場合には、原因が深刻な疾患にある可能性を考慮しなければなりません。自己判断で放置すると症状が悪化し、治療が遅れる恐れもあります。早期に検査を行うことで、万が一の病気を早期発見し、適切な治療につなげることが重要です。

生 あくびが頻繁に発生し、日常生活に支障があるケース

あくびの回数があまりにも多くて仕事や家事に集中できない場合は、通常の眠気や疲労では済まされない可能性があります。脳や心臓など体の機能に異常が生じているケースもあるため、早めに専門医の診察を受けることで大事に至る前に対処できるでしょう。

他の症状が併発している場合

特に頭痛、めまい、吐き気、胸の痛みなどが生あくびに同時に起きるときは、重篤な疾患のサインであることがあります。これらの症状が頻繁に現れるようなら、自己判断ではなく医師の視点が必要です。原因を正確に突き止めるためにも、不調を放置せずに早期受診を心がけましょう。

睡眠時無呼吸症候群が疑われる際

夜間のいびきがひどい、睡眠時に呼吸が止まっているようだと指摘されたなど、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合は専門の検査を受けることが大切です。この症候群を放置すると、日中の強い眠気だけでなく、高血圧や心筋梗塞など他の合併症リスクが高まります。適切な治療や生活改善により症状が大きく改善するケースも多いため、一度専門医に相談してみましょう。

MRIやCT検査が必要になる症状

脳梗塞や脳腫瘍などが疑われる場合、MRIやCTスキャンによる詳細な画像検査が欠かせません。視覚や言語機能の障害(呂律が回らないなど)、顔や手足のしびれなど、神経症状とともに生あくびが続くときは、できるだけ早く医療機関に相談して原因究明を行いましょう。早期発見と適切な治療が、重篤な後遺症を防ぐ要となります。

まとめ

生あくびの仕組みや原因を総合的に捉え、必要に応じた対策や受診を行うことが重要です。

生あくびは生活習慣やストレス、疾病など多岐にわたる要因で引き起こされる複雑な現象です。無自覚な眠気や疲労、脳や循環器系の不調まで、その背景にはさまざまなメカニズムが隠れています。日頃のセルフケアと専門医のサポートを適切に組み合わせることで、思わぬリスクを回避し、健康的な毎日を送る手助けとなるでしょう。