睡眠コラム by Koala Sleep Japan2025年9月29日読了目安時間: 5

【医師監修】寝不足で食欲が止まらない理由とは?睡眠とホルモンの関係を科学的に解説

田中 貫平
icam取締役 / 医師(現職:Sleep Rest Clinic幕張、いずみ医院 溝の口、AL CLINIC)

医師・メンター・タッチベースドマインドフルネス/shinsetsu-tion考案者・Gallup認定ストレングスコーチ・インド中央政府公認ヨガインストラクター

2013年英国シェフィールド大学医学部卒。

手稲渓仁会病院にて初期研修後、2020年九州大学病院心療内科に入局。国際医療福祉大学成田病院では緩和ケアチームにも所属。2024年からはフリーランスの医師として活動している。一般の方から学生、経営者、スポーツ選手など幅広い層のクライアントに対して傾聴およびマインドフルネスの実践指導や心理療法を提供、あらゆる病気や未病(不眠症も含む)の治療や予防改善に取り組んでいる。

夜中にお腹が空いたり、お腹が空いていると眠れない、そんな経験をしたことがありませんか?「食欲が止まらない…」その原因は睡眠不足かもしれません。実は多くの研究で睡眠と食欲の関係が明らかになっているのです。

本記事では、睡眠不足と過食について研究データや公的機関の資料をもとに解明します。 4人に1人が睡眠不足という私たち日本人にとって、睡眠不足による悪影響は他人事ではありません。心当たりがある読者様は、ぜひ最後までご覧ください。

睡眠不足で食欲が増す3つの科学的メカニズム

睡眠不足になると、なぜか無性に甘いものやジャンクフードが食べたくなったりしますよね。まずは睡眠不足が食欲増進を引き起こす主要な3つのメカニズムについて、最新の研究結果をもとに詳しく解説していきます。

寝不足で食欲が増す科学的メカニズム

1. 食欲ホルモン「レプチン」と「グレリン」のバランス崩壊

食欲に関係するホルモンには、レプチンとグレリンがあります。 食欲を抑えてくれるのがレプチンで、食欲を増進するのがグレリンです。 これらが脳に「お腹がいっぱい」「お腹が空いた」とシグナルを発信し食欲をコントロールしています。

 

ホルモン 分泌場所 役割 食欲への影響 睡眠不足時の分泌量
レプチン 脂肪細胞 満腹中枢を刺激 抑える 減少
グレリン 摂食中枢を刺激 増進する 増加

 

睡眠時間が短くなることで、これらのホルモンバランスが崩れてしまうので注意が必要です。

2. 前頭前皮質の機能低下による判断力の低下

睡眠不足は食欲だけでなく、私たちの判断や衝動にも影響を及ぼします。 睡眠不足になると衝動を抑える力が弱まってしまうそうです。その結果、普段なら我慢できる砂糖や脂肪を多く含む高カロリー食品を食べたくなってしまいます。

このような睡眠不足と食欲への影響は、複数の研究で示されています。主な研究結果を以下の表にまとめます。1)

 

研究・調査名 比較グループ 主な結果・ポイント
スタンフォード大学 睡眠5時間 vs 8時間 ・グレリン(食欲増進ホルモン)14.9%増加  

・レプチン(食欲抑制ホルモン)15.5%減少

ペンシルベニア大学 8時間睡眠 vs 徹夜 ・徹夜グループは高カロリー・高脂肪食品を選びやすく、摂取カロリーが高い傾向
コロンビア大学 睡眠不足 vs 十分な睡眠 ・ジャンクフードへの脳の反応が活発化  

・脂質・糖質への欲求が高まる

 

3. 体内時計の乱れとBMAL1遺伝子の活性化

このリズムを刻む司令塔の役割を果たしているのが、私たちの細胞一つひとつに存在する「時計遺伝子」です。 この時計遺伝子の中で特に注意したいもののひとつが、食べたものを脂肪として蓄える「BMAL1(ビーマルワン)」です。

BMAL1は夜間に活発化し、特に午後10時~午前2時頃に活性のピークを迎えます。 つまり、夜遅い時間に食事をすると、最もBMAL1が活発な時間帯と重なってしまうため、効率よく食事を脂肪として蓄積してしまうのです。これが「夜食が太りやすい」科学的な理由です。2)

 

日本人の睡眠不足の実態と食欲への影響

私たち日本人の睡眠時間は、 極めて短いことが世界的にも有名です。 働き盛り世代の睡眠不足が健康被害に影響があるのはもちろん、その個人個人の健康被害が日本全体の経済的な損失にも影響するという統計データもあります。続いて、私たち日本人の睡眠不足についての具体的な統計データを解説していきましょう。

6時間未満睡眠の日本人は約4割という現実

厚生労働省の調査で、私たち日本人の約4割が慢性的な睡眠不足になっていることがわかりました。特に働き盛り世代の睡眠不足が深刻で、30代から50代の男性の4割以上は睡眠時間が6時間未満でした。女性も同様で40代は51.5%、50代は50.9%と半数以上が十分な睡眠をとれていません。

同調査では 睡眠不足の要因にも触れています。 20代では男女ともに「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」が、30代〜40代男性では「仕事」が最大の睡眠不足の要因でした。一方、30代女性では「育児」が最多です。このように世代間によって要因は様々ですが、私たち日本人の多くが睡眠不足になっていることがわかります。

睡眠不足による経済的損失は年間76万円の差

睡眠不足は、注意力や判断力にも大きな影響があります。その結果、仕事の生産性、経済的な損失にも関わる問題になりえます。睡眠の質と収入の関係を調査したデータをご紹介します。 この調査では、 睡眠の質が良いグループと睡眠の質に改善が必要なグループでは、年間で76万円も損失額に差があることがわかりました。 睡眠不足が健康だけでなく収入にも影響がある大きな問題として捉えることができる調査結果ではないでしょうか。3)

 

睡眠の質 年間経済的損失額
問題なし 約89万円
要改善 約165万円

 

睡眠不足による食欲増進を防ぐ5つの実践的対策

寝不足と食欲のメカニズムについてご紹介してきました。 ここからはその対策について、すぐに始められる具体的な5つの対策をご紹介します。

睡眠不足による食欲増進を防ぐ5つの対策

1. 成人は最低6時間以上の睡眠時間を確保する

食欲をコントロールするためにも、睡眠時間を十分に確保することが大切です。厚生労働省は、成人の推奨睡眠時間を6時間以上としています。食欲と睡眠が大きく影響しているように、睡眠時間と肥満リスクにも相関関係がみられます。睡眠時間が短いほど肥満リスクは高まります。

7〜8時間睡眠と短時間睡眠を比較したコロンビア大学の研究では、以下のような結果も出ているようです。

  • 睡眠時間が6時間の人:23%増加
  • 睡眠時間が5時間の人:50%増加
  • 睡眠時間が4時間の人:73%増加

肥満リスクを下げるために、睡眠時間が6時間以上確保できているか、生活習慣を振り返ってみてはいかがでしょうか。 4)

2. 就寝3時間前までに夕食を済ませる

私たち体内には、食べたものを脂肪として蓄える「BMAL1(ビーマルワン)」という「時計遺伝子」があります。このBMAL1は夜間に活性化するため、夜間の食事を脂肪として蓄積してしまいます。そのため、3時間前までに夕食を済ませることが、肥満防止で重要です。 もし食事が遅くなる場合は、消化が良く低カロリーなものを選ぶなどの工夫が必要です。

3. 起床後すぐに太陽光を浴びて体内時計をリセット

私たちの体内時計(サーカディアンリズム)は厳密には24時間周期ではありません。そのため毎日リセットしないと、少しずつ後ろにずれてしまいます。このずれが夜型化を招き、睡眠リズムを乱す原因となります。

体内時計をリセットする最も強力なスイッチは、起床後に浴びる太陽光です。 曇りや雨の日でも効果的ですから、朝起きたらまずはカーテンを開けて部屋に光を取り込みましょう。

4. 就寝前のスマホ・ゲームを控える

スマートフォンやデジタルゲームが普及してから、それらは私たちの睡眠時間を短くする要因になっています。特に若い世代ほどその傾向が強く、20代の男女の約43%が就寝前にスマホやゲームなどに夢中になっているようです。

【年代別:就寝前にスマホ・ゲームなどに熱中する人の割合】

 

年代 男性(%) 女性(%)
20代 43.2 42.7
30代 26.8 26.8
40代 18.2 18.8

 

スマホやPC、ゲーム機などのブルーライトは脳を覚醒させます。睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌が減り、寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下したりするのです。

この問題の対策として効果的なのがデジタルデトックスです。 就寝1〜2時間前からは、意識的にスマホやゲームから離れましょう。代わりに読書や音楽鑑賞、軽いストレッチなどリラックスタイムを作るのがおすすめです。ブルーライトカット機能、夜間モードなどで画面の輝度を最小限する工夫も有効です。5)

5. 睡眠環境を整える(温度・湿度・寝具の見直し)

快適な睡眠環境は、良質な睡眠に欠かせません。寝室の温度や湿度は睡眠の質に大きく影響します。「温度」「湿度」「寝具」について推奨されている睡眠環境をご紹介します。6)

温度:快適な睡眠には、暑すぎず寒すぎない室温を保つことが重要です。温度を16-26℃に保つことが良いとされています。

湿度:寝室の快適な湿度は50~60%が推奨されています。湿度がこの範囲にあると、呼吸がしやすく、喉や肌の乾燥を防ぎ、カビやダニの繁殖も抑えられます。

寝具:体に触れる面積が大きいマットレスから見直すことがおすすめです。体に合ったもので体圧分散に優れたものを選びましょう。

疲れが取れない、起床時に体の痛みがあるなどのお悩みがある読者様は、「 体圧分散しやすい」「通気性が良い」「適度な弾力性がある」このようなマットレスをぜひ試してみてください。

関連記事:自分に合うマットレスはどれ?種類や選び方のポイントを徹底解説

良質な睡眠で食欲をコントロールし健康的な生活を

本記事では、睡眠不足が食欲を乱す科学的なメカニズムと、具体的な改善策を解説しました。改めて、睡眠不足による主な影響をまとめます。

  • 食欲が増してしまう
  • 脂肪を蓄えやすくなる
  • 心身の健康や仕事の生産性にも影響する

 

まとめ

私たち日本人の4割が睡眠不足という現状では、十分な睡眠の確保は簡単ではありません。 いきなり睡眠時間を増やすのは難しいでしょう。だからこそ、取り入れやすい小さな工夫を続けることが重要と考え、本記事でも5つの方法をご紹介しました。

朝日を浴びて体内時計をリセットする、夜の過ごし方を少しだけ工夫するなど、継続していけば体はきっと応えてくれます。ご紹介した中から最も始めやすいと感じるものをまず一つ、始めてみてはいかがでしょうか。

参考

※1 寝不足と食欲に深い関係が!_ 睡眠不足が人を太らせる! , 睡眠不足で食欲が増すのはなぜ?食欲を抑える方法も解説

※2 睡眠不足と肥満の関係 | 兼松ウェルネス株式会社

※3 2024年版有職者10,000人の睡眠調査結果報告 | 株式会社ブレインスリープのプレスリリース

※4 「健康づくりのための睡眠ガイド 2023」を公表 睡眠不足は肥満のもと

※5  睡眠時間が6時間未満の人は、男性 37.5%、女性40.6%。 睡眠時間が6時間未満の割合は男性37.5%、女性40.6%

※6 健康づくりのための睡眠ガイド2023