目次
監修者
松本 恭
「健康の秘訣はぐっすり眠ること」がモットーで、これまでウォーターベッド、ウッドスプリングベッド、西式健康枕、ハンモックなどさまざまな寝具の寝心地を追求してきた睡眠マニア。偶然出会ったコアラマットレス®︎の快適さに感銘を受け、メンバーとして参加。上級睡眠健康指導士としての知識を通して、より多くの人に快眠を届けたいと願っている。
「赤ちゃんが寝たのに自分だけ目が冴えてしまう」「体は限界なのに、いざ横になると頭がフル回転して眠れない」——。産後の寝不足のなかで訪れるこの「眠れない」時間は、本当につらく、孤独を感じるものですよね。
私自身、これまで多くのお母さんたちから「夜中、時計の針が進むのを見て焦燥感にかられる」という悩みを聞いてきました。産後の体は、急激なホルモンの変化と、赤ちゃんを守るための本能的な「警戒モード」が同時に発動している、いわば特殊な興奮状態です。脳が「今は休んでいる場合じゃない!」と勘違いして、睡眠スイッチをロックしてしまっているようなもの。
本記事では、上級睡眠健康指導士の資格を持つコアラマットレス社員の松本が、産後の脳が「寝不足なのに眠れない」本当の理由をわかりやすく紐解きます。夜間授乳後のスムーズな再入眠を助ける具体的な光のコントロール術や、脳の緊張をほどく「横になるだけ休息法」、そして一人で抱え込みすぎないための周囲への頼り方までを詳しく解説します。
産後に寝不足なのに眠れないのは珍しくない
赤ちゃんのお世話で睡眠が細切れになりやすいだけでなく、眠れる時間ができたときでも脳や体が緊張状態から抜け出せず、眠りに入れないという経験をしているお母さんは多くいます。
産後1か月の褥婦を対象とした国内の研究では、睡眠満足度や睡眠に関する習慣と主観的な精神健康感に関連があることが示唆されています。※1
「眠れていないのは自分だけかも」と孤独に感じている方も、まずは自分の状態を正しく理解することから始めてみましょう。
赤ちゃんが寝ても自分が眠れない状態とは
産後に眠れない状態は、単純に「時間がない」だけではありません。赤ちゃんが寝ている間に自分も眠ろうとするとき、「すぐに泣き出すかもしれない」「もうすぐ次の授乳時間だ」という気持ちが頭の中にあると、体を横にしていても脳が休めない状態になります。次の授乳や夜泣きに備えて意識を保ち続けることで、安心して眠れる心理状態になりにくいのです。
また、授乳後にそのまま眠れたとしても、30分や1時間ごとに目が覚める状態が続くと、深い眠りに到達しにくく「寝た気がしない」と感じることも珍しくありません。産後の睡眠は、時間の長さだけでなく、安心して眠れる体制が整っているかどうかにも大きく左右されます。
眠れない自分を責めなくてよい理由
「疲れているのに眠れない自分は、母親として弱いのではないか」と感じる方もいるかもしれませんが、そう思う必要はありません。出産を境に、睡眠リズム、ホルモンバランス、体の感覚、生活環境のすべてが急激に変化します。この変化の中で育児への緊張が加わると、体がどれだけ疲れていても、自律神経が休息モードに切り替わりにくい状態になってしまいます。
眠れないのは意志の弱さや体力不足ではなく、産後の体に起こりやすい生理的・心理的な変化の結果です。この記事の後半では、その状態に合わせた具体的な対策を紹介していきます。「自分でなんとかしなければ」と一人で抱え込まずに、読み進めてみてください。
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産後に寝不足なのに眠れない主な原因
自分の状態がどのパターンに当てはまるかを整理すると、取り組みやすい対策が見つかりやすいでしょう。産後ハイ、夜間授乳、ホルモンバランスの変化、育児ストレスと、それぞれの原因がどのように「眠れる状態なのに眠れない」につながるのかを見ていきましょう。
夜間授乳や夜泣きで睡眠が細切れになる
産後しばらくは赤ちゃんの胃が小さく授乳間隔が短いため、新生児期から生後3か月ごろまでは2〜4時間おきに授乳が必要なことが多いです。このサイクルで夜間も起き続けると、睡眠時間だけでなく睡眠の連続性が大きく失われます。
人が深い眠り(ノンレム睡眠)に到達するには、ある程度まとまった時間が必要です。短時間で何度も目が覚める状態が続くと、深い眠りに入る機会がほとんどなくなり、体が疲労から十分に回復できません。「寝ているはずなのに疲れが取れない」「眠っても眠っても眠い」と感じる理由のひとつは、睡眠の質が時間の長さに見合っていないことにあります。
産後ハイで体は疲れているのに目が冴える
出産という大きな出来事の後、体内にアドレナリンが分泌されることで、心身が興奮した状態になることがあります。これが一般に「産後ハイ」と呼ばれる状態です。体はとても疲れているはずなのに気持ちが高ぶって眠気を感じにくくなります。
産後ハイは一時的なものですが、人によっては出産後数日から数週間、場合によっては3か月程度続くこともあるといわれています。この時期は「眠れる気がしない」「夜中に目が覚めると今度はなかなか眠れない」という経験をしやすい状態です。無理に眠ろうとするとかえって焦りが強まるため、体を横にして休むだけでも回復につながると考えてください。
ホルモンバランスや自律神経の変化で眠りにくくなる
妊娠中はエストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが大幅に増加していますが、出産を境にこれらのホルモンが急激に低下します。この変化が自律神経の働きに影響を与え、寝つきにくさ、夜中に目が覚める、眠りが浅いといった状態が起こりやすくなります。
産後は授乳に関わるホルモン(プロラクチンなど)の変化も加わるため、体内の環境が大きく揺れ動いている時期です。ホルモンバランスや自律神経の乱れによる不眠は、本人が意識的にコントロールできるものではありません。自分の努力が足りないと思わず、「体の変化として起こっていること」として受け止めましょう。
育児への不安やストレスで頭が休まらない
赤ちゃんが泣き止まない、授乳がうまくいかない、上の子の対応や家事との両立が不安、といった精神的な緊張が続くと、体が「休んでよい」という状態に入りにくくなります。「次に何かあったらすぐ対応しなければ」という緊張感が続く限り、横になっていても脳が休息モードに切り替わりません。
特に、夜間の赤ちゃんの様子が気になって、眠れそうになっても「異変がないか確認したい」という気持ちが働く場合、心理的な緊張は一晩中続きやすくなります。眠れない原因が「睡眠そのものの問題」ではなく「安心して休める体制がないこと」にあると気づくと、対策の方向が変わってきます。
夜間授乳後に眠れないときの対策
授乳そのものは避けられませんが、授乳後の環境や行動を少し調整することで、再入眠しやすくなることがあります。今夜からすぐに試せる工夫を紹介します。
授乳中の照明を明るくしすぎない
夜間に授乳するとき、赤ちゃんの顔が見えるようにと部屋の電気を全灯にしている方がいますが、これが再入眠の妨げになることがあります。産後1か月の母親114名を対象にした研究では、夜間授乳の際に照明を明るくしない母親のほうが睡眠の質が高く、入眠・覚醒のリズムが整っていたという結果が報告されています。※2
明るい光を浴びると、覚醒を促すホルモン(コルチゾールなど)が分泌されやすくなり、脳が「朝」と認識して目が冴えやすくなります。夜間授乳のときは、足元灯やナイトライトなどを使い、赤ちゃんのそばだけをうっすら照らす程度にしておくと、授乳が終わった後に眠りに戻りやすいです。
スマホや時計を見すぎない
スマホで育児情報を調べたり、SNSを見たりして気を紛らわそうとする方も多いですが、スマホの画面から出るブルーライトは脳を覚醒させる働きがあり、目が冴えて眠れなくなることが多いです。
「今何時だろう」と何度も時計を確認する行動も、「次の授乳まであと何時間しかない」という計算につながり、焦りを生みます。夜間授乳の際は、スマホを手の届かない場所に置く、通知をオフにする、時計を見る回数を最小限にすることを意識してみてください。授乳時間の記録はアプリではなく、終わった後に一度だけ入力する程度にとどめると、夜間の焦りが軽くなります。
横になるだけでも休息と考える
「眠らないと体が回復しない」と思うと、眠れないこと自体がストレスになり、さらに眠りにくくなるという悪循環が生まれやすいです。授乳が終わって赤ちゃんが寝ついたとき、自分は眠れなくても、目を閉じて体の力を抜いて横になるだけでも体は一定の休息を取ることができます。
眠れなくてもよい、という気持ちで横になり、自然と眠りに入るよう意識してみてください。ゆっくりとした腹式呼吸(4秒かけて吸い込み、6〜8秒かけてゆっくり吐き出す)を繰り返すだけでも、副交感神経が優位になりやすくなり、体がリラックスに向かいます。「眠れなかった」と考えるよりも「横になって体を休めた」と思い直すと、精神的な余裕が少しずつ出てくるでしょう。
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日中の過ごし方で眠りやすさを整える
日々の生活習慣の積み重ねが睡眠の質に影響しますから、できることからひとつずつ取り入れて、続けることを意識してみてください。
朝に光を浴びて生活リズムを整える
夜間授乳で昼夜のリズムが崩れやすい産後は、朝の光を意識的に取り入れることで体内時計をリセットする習慣が効果的です。朝起きたらカーテンを開けて自然光を部屋に入れる、晴れた日には赤ちゃんと一緒に窓際で数分過ごすだけでも、脳は「朝が来た」と認識しやすくなります。
自律神経の働きを整えるうえでも、朝の光は有効といわれています。外出が難しい時期でも、カーテンを開けて日光を取り込む習慣をつけて、昼夜のリズムを保ちましょう。特別な道具は必要なく、毎朝の小さな行動として続けていくことがポイントです。
赤ちゃんが寝たら家事より休息を優先する
赤ちゃんが昼寝をしている間に、洗い物や洗濯、片付けを終わらせたいと思う気持ちは自然なことです。しかし、夜の睡眠が十分に取れていない時期は、赤ちゃんが寝たときこそ、できる限り自分も横になることを優先してみてください。
家事を後回しにすることに罪悪感を感じる方も多いですが、母親の体と心の回復は、育児を継続するための基盤です。完璧に家事をこなすより、ごく短い時間でも目を閉じて体を横にすることで、午後からの育児に向かえる余力が変わります。「赤ちゃんが寝たら一緒に横になる」ことを、育児のルーティンのひとつとして考えてみましょう。
カフェインや昼寝のタイミングを見直す
眠気に対処するためにコーヒーやお茶を飲むことは珍しくありませんが、カフェインの摂取時間には気をつけることが大切です。カフェインの覚醒効果が消えるまでには数時間かかるため、午後3時以降に摂取すると夜の寝つきに影響することがあります。完全にやめる必要はありませんが、カフェインは午前中から昼すぎまでに楽しむことを意識してみてください。
また、日中の昼寝についてはタイミングと長さが重要です。30分以内の短い昼寝は疲労回復に効果的ですが、夕方以降に長く眠ると夜の寝つきが遅くなることがあります。昼寝をするなら午後2時ごろまでに、15〜30分程度を目安にすると、夜間の睡眠の質を妨げにくくなります。産後は完璧なスケジュール管理は難しいので、できる日にできる範囲で調整する程度でかまいません。
家族や周囲に頼って眠る時間をつくる
夜間授乳や赤ちゃんのお世話を一人で抱えていると、体を休める時間が構造的に確保できなくなります。厚生労働省の資料でも、産後は夜間授乳や子どものお世話で眠れない状態が続きやすく、家族の協力が回復のために重要であることが示されています。※3
頼ることは、育児を長く続けるための賢い選択です。
夜の対応をひとりで抱え込まない
「授乳は自分しかできない」と思っていると、夜間のすべてを一人で担いがちになります。しかし、授乳以外の夜間対応(おむつ替え、寝かしつけ、赤ちゃんを泣き止ませる)はパートナーや家族に任せられます。たとえば「夜10時から翌2時の間はパートナーが担当する」というように前半だけ交代制にするだけでも、まとまった睡眠時間を確保しやすいでしょう。
また、搾乳したミルクや粉ミルクを活用して、夜間授乳そのものをパートナーに代わってもらうことも有効です。「全部自分でやらなければ」という気持ちを少し緩めて、具体的に依頼できることを一つひとつ伝えてみてください。
産後ケアや自治体の相談先を確認する
家族に頼ることが難しい場合や、眠れない状態が長引いている場合は、自治体の産後ケア事業を利用することも選択肢として知っておいてください。全国の多くの自治体では、産後の母親と赤ちゃんを対象に、助産師や保健師によるサポートを受けられる産後ケアの制度があります。日帰り型・宿泊型のケアや、自宅訪問型の支援が受けられる地域もあります。
まず「お住まいの市区町村名 産後ケア」や「お住まいの市区町村名 保健師 相談」で検索するか、出産した病院や産婦人科に問い合わせてみてください。一人で限界まで頑張る前に、使える制度を活用する姿勢が大切です。
産後うつや睡眠障害が心配なときの相談目安
しかし、眠れない状態が続くことで心身への影響が大きくなる場合もあるため、自己判断だけで抱え込まないことが大切です。早めに相談を検討したほうがよい状態の目安を紹介します。ただし、ここで紹介するのはあくまでも相談の目安であり、診断を行うものではありません。
気分の落ち込みや不安が続く場合
産後うつ病は産後の母親の約10%に発症するといわれており、産後3か月以内に発症することが多いとされています。出産直後に涙が出やすくなったり気分が沈んだりする「マタニティブルーズ」は多くの場合1〜2週間でおさまりますが、気分の落ち込みや強い不安、気力の低下などが2週間以上続く場合は、産後うつ病を疑う目安になります※4。
「泣き止まない」「何もかもがつらく感じる」「育児への関心が持てない」「自分が悪いのだという強い気持ちが続く」といった状態がある場合は、よくあることだからこそ早めに専門職に相談しましょう。かかりつけの産婦人科、保健師、助産師、または心療内科に相談することを検討してみてください。
眠れない状態が何日も続く場合
厚生労働省の資料では、産後の母親がほとんど眠れない状態が数日間続くと幻聴や妄想が出現することがあるそうです。※3
重篤な状態に進まないためにも、早めに相談することが重要です。「眠れる機会があるのにほとんど眠れない日が数日続いている」「眠ろうとするたびに強い焦りや不安が出る」「日中の判断力や育児の動作に支障が出ている」という状態になっている場合は、セルフケアだけで様子を見るのをやめて、専門職への相談を検討してください。
相談先は、かかりつけの産婦人科・産科クリニック、市区町村の母子保健窓口(保健師・助産師への相談)、心療内科・精神科などがあります。産後うつ病のスクリーニングにはEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)が用いられることがありますが、診断は必ず精神科医が行う必要があります。※4
困ったときはまず身近な保健師や助産師に声をかけることから始めても問題ありません。
よくある質問
産後の寝不足はいつまで続くのか
赤ちゃんの睡眠リズムや授乳間隔は個人差があるため、一概に「○か月で終わる」と断言することは難しい状況です。一般的には、生後6か月ごろを過ぎると夜間の授乳回数が減り、まとまった睡眠時間が取れるようになってくる赤ちゃんも増えてきます。最もつらいとされる時期は新生児期から生後3か月ごろで、この時期を過ぎると少しずつ睡眠リズムが整ってくることが多いようです。
ただし、眠れない状態が長期化してつらさが増している場合は、家族への相談や自治体の産後ケアを活用することも考えてみてください。
入院中から眠れないのは大丈夫か
出産直後は、興奮(産後ハイ)、会陰切開や帝王切開の痛み、後陣痛、赤ちゃんのお世話、病室の環境などが重なって眠れないことがあります。入院中に眠れないこと自体は珍しくありませんが、強い不安感や気分の大きな落ち込み、自分を傷つけたいという気持ちが出る場合は、入院中であってもすぐに担当の助産師や医師に伝えてください。
入院中は専門家が身近にいる環境ですので、「眠れていないのですが」と正直に伝えることが大切です。体の痛みや不快感が眠りを妨げている場合も、遠慮なく相談しましょう。
授乳後に目が冴えるときはどうすればよいか
夜間授乳後に目が冴えてしまうときは、まず部屋の照明を暗めに保つこと、授乳中・授乳後にスマホを見ないようにすること、時計の確認を最小限にすることが基本の対策です。それでも眠れないときは、「眠れなくていい、横になって体を休めるだけで十分」と考えて、目を閉じて深呼吸を繰り返してみてください。無理に眠ろうとすればするほど焦りが強くなるため、「眠れなくても横になっているだけで休息になる」という考え方が、授乳後の再入眠の助けになります。
産後に寝不足なのに眠れないときは原因を知り休める仕組みをつくろう
産後に寝不足なのに眠れない状態は、夜間授乳・産後ハイ・ストレス・ホルモンバランス・自律神経の変化などが重なって起こりやすいものです。疲れているのに眠れないのは意志や体力の問題ではなく、産後の体と心に起こりやすい変化です。まずその状態を正しく理解することが、対策を始める第一歩になります。
夜間授乳後の照明を暗くする、スマホを手元から離す、眠れなくても横になる、朝に光を浴びて生活リズムを整える、赤ちゃんが寝たら一緒に横になる、家族に夜の対応を分担してもらう、自治体の産後ケアを活用する、といった工夫を、できるものからひとつずつ取り入れてみてください。
気分の落ち込みや強い不安が2週間以上続く場合、またはほとんど眠れない日が続いて日常生活に支障が出ている場合は、かかりつけの産婦人科や保健師、心療内科に相談することを検討しましょう。
・参考
※1 産後1か月の褥婦における睡眠と主観的精神健康感の関連 | 日本公衆衛生雑誌










