目次
監修者

松岡 雄治
地方国立大学医学部卒業後、横浜市内で初期臨床研修を経て、関東の基幹病院で勤務中。
資格:医師国家試験合格、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級
生理が近づくと何もしたくなくなり、いつもなら片づく仕事や家事に手がつかない自分を責めてしまう方もいるのではないでしょうか。無気力や集中力の低下、眠気は、月経前症候群(Premenstrual Syndrome : PMS)の症状として知られています。
まずは無理に乗り切ろうとせず、仕事や家事の負担を減らして休むことが大切です。ただし、毎月のように生活へ支障が出る場合は、婦人科への相談も必要となります。
この記事では、生理前のセルフケアと睡眠の整え方、婦人科を受診する目安を解説します。生理前の過ごし方を見直したい方は、ぜひ最後までご覧ください。
生理前にやる気が出ないときの対策
生理前の無気力への対策は、心身の負担を減らすことと、生活のリズムを整えることです。無理にがんばらないことや軽い運動、食事の見直し、体を温めるなど、その日の体調に合わせて方法を選びましょう。
1. 無理にがんばらない
やる気が出ない日は、予定に優先順位をつけ、急がない用事は別の日へ回しましょう。家事や育児も、すべてを普段どおりにこなそうとすると負担が増します。たとえば食事を簡単にする、家族に頼るなど、その日に省ける作業を探してみてください。
また、症状と月経日を記録しておくと、不調が起こりやすい時期がわかり、集中力が必要な作業を体調のよい時期に進めておけます。つらい日は最低限の用事だけにして、休む時間を確保しましょう。
ホルモンの急激な変化によって脳と体が強制的に休息モードにさせられているだけで、決してあなたの甘えや怠けではありません。どうかご自身を責めすぎず、今は「省エネで過ごす時期なのだ」と考え方をかえてみてください。
2. 軽い運動やストレッチをする
体調に余裕がある日は、気分転換としてウォーキングやストレッチなどの軽い運動を取り入れましょう。気分転換やリラックスする時間をつくることは、PMSのセルフケアのひとつです。
外へ出る気力がないときは、椅子に座ったまま肩を回す程度でも構いません。生理前はだるさやむくみが出ることもあるため、運動の強さや時間を決めつけず、終えたときに心地よいと感じる範囲に留めましょう。
3. 食事の内容を見直す
食事は抜かず、主食だけに偏らないよう、野菜やたんぱく質を含むおかずを組み合わせましょう。玄米や全粒粉パン、野菜など、食物繊維の多い複合炭水化物を積極的にとることも、PMSのセルフケアのひとつです。
甘いものが欲しくなっても、精製された糖を多く含む菓子やアルコールはとりすぎに注意しましょう。間食は量を決めておくと、食べすぎを防ぎやすくなります。
4. 体を温める
冷えを感じるときは、温かい飲み物や腹巻、カイロなどを使い、心地よく過ごせるようにしましょう。カイロは肌へ直接貼らず、低温やけどを防ぐために就寝中の使用は避けるようにしましょう。
手足が冷える場合は、靴下やひざ掛けで調整する方法もあります。暑さやのぼせがある日は、無理に温めないよう注意しましょう。
生理前にやる気が出なくなる原因
生理前のやる気の低下には、女性ホルモンの変動や、それに伴う眠気・睡眠の変化が関わっていると考えられています。
PMSの詳しい原因はまだ明らかになっておらず、ホルモンの変動にストレスなどの要因が重なることで、心身の不調が現れるとされています。
エストロゲンの減少
生理が近づくと、エストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌量が低下します。排卵から次の生理までの期間を黄体期といい、その後半にはプロゲステロンもともに減少します。
こうしたホルモンの変動が、脳内で情報を伝える神経伝達物質などの働きに影響し、気分の落ち込みや集中力の低下につながると考えられています。PMSには、気分の安定に関わる神経伝達物質「セロトニン」の関与も指摘されています。
プロゲステロンの増加
排卵後に分泌量が増えるプロゲステロン(黄体ホルモン)には、眠気を強める作用があります。黄体期に日中の眠気が強くなる背景には、このホルモンの働きが関わっています。
そのため、生理前に仕事や家事が手につかないと感じるときは、意欲の低下に加えて、眠気が活動の妨げになっている場合も考えられます。
睡眠の質の低下
生理前は、女性ホルモンや体温の変化によって眠りが浅くなり、日中の眠気が強まることがあります。
黄体期には、脳や臓器など体の内部の温度である「深部体温」の1日の変動が小さくなります。こうした体温リズムの変化も、生理前の眠りの浅さに関わると考えられています。
PMS・PMDDとは?
生理前の不調には、症状の重さによって主に以下の2つに分けられます。
月経前症候群(Premenstrual Syndrome:PMS)
生理前の3〜10日ほど続く心と体の不調です。生理が始まると症状が軽くなる、または消えることが特徴です。
月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder:PMDD)
PMSのなかでも特に心の症状(強い気分の落ち込みやイライラ、不安など)が重く、仕事や家事、人間関係などの日常生活に大きな支障が出る状態を指します。
診断に際しては、症状の内容や生活への影響に加え、生理周期との関係を確認します。日々の体調と生理日を記録しておくと、不調が現れる時期や程度を医師に伝えやすくなります。
生理周期に関係なく不調が続く場合は、PMS・PMDD以外の病気が関わっている可能性もあるため、婦人科や心療内科などで相談しましょう。
睡眠の質を改善する方法
睡眠の質を改善するには、生活リズムと寝室環境を整えることが大切です。生理前に眠りにくさや日中の眠気を感じるときは、朝の光の浴び方や寝る前の過ごし方を見直してみましょう。
体調に合わせて、取り入れやすい方法から始めてください。
1. 朝日を浴びる
起床後はカーテンを開け、朝の光を取り入れましょう。朝に光を浴びると体内時計が調整され、睡眠と覚醒のリズムが整いやすくなります。
また、日中に明るい光を浴びることは、夜に分泌されるメラトニン(眠気を促すホルモン)にも関わります。外出が難しい日は、明るい窓辺で過ごすなど、室内でできる工夫から取り入れてみましょう。
2. 15〜20分の仮眠を取り入れる
日中の眠気が強いときは、昼休みなどに15分程度の短い仮眠を取り入れましょう。短時間の昼寝は、午後の眠気をやわらげるのに役立ちます。
仮眠をとるときは、静かで落ち着ける場所を選び、アラームを設定しておくと長く寝すぎるのを防げます。
生理前の抗えないほどの眠気には、我慢せずに仮眠をとることがおすすめできます。ただし、体をすっきりさせるには「15〜20分で起きる」、「遅くとも15時まで」という2つの鉄則があります。30分以上寝てしまうと脳が深い睡眠に入り、起きても『睡眠慣性』という強烈なだるさや頭の重さに襲われることがあります。また、夕方以降の仮眠は夜の睡眠の質を落とし、翌日の不調を悪化させることもあるため、早めの仮眠を心がけましょう。
3. 寝る少し前に入浴する
入浴は、就寝の約1〜2時間前を目安にしましょう。入浴で体を温めると、その後に手足などから熱が逃げ、深部体温が下がることで寝つきやすくなります。
入浴後もほてりが続く場合は、湯温を下げるなどして調整してください。体調に合わせ、無理なく入れる温度や時間にすることが大切です。
4. 寝る前のスマホ・カフェインを控える
寝る前はスマートフォンの使用を控え、部屋の照明も暗めにしましょう。夜に強い光を浴びると、メラトニンの分泌が抑えられ、寝つきに影響することがあります。
カフェインにも覚醒作用があるため、夕方以降は飲み物の選び方に気をつけましょう。コーヒーや紅茶などを、水や麦茶といったカフェインを含まない飲み物に替えるとよいでしょう。
また、眠るための飲酒も控えてください。寝酒は一時的に寝つきをよくしても、夜中に目が覚めやすくなるなど、睡眠の質を下げる原因になります。
5. 寝室環境を整える
寝室は暑すぎず寒すぎない温度に保ち、光や音が気にならない環境に整えましょう。エアコンや掛け物を使い、その日の体感に合わせて調整してください。
寝具は、保温性に加えて、汗などの湿気を吸収し、外へ逃がしやすいものを選びます。蒸れが気になる場合は、シーツや掛け布団の素材・厚さを見直してみましょう。
また、掛け布団の重さやマットレスの沈み込みによって、寝返りが妨げられていないかも確認してください。楽な姿勢で眠れることも、寝具選びの大切なポイントです。
婦人科を受診する目安
生理前の無気力や気分の落ち込みで日常生活に支障が出る場合は、婦人科を受診しましょう。仕事や学校を休んでしまう、身近な人との関係に影響が出るといった変化も、相談の目安です。
受診時は、症状や生理日を記録したものがあれば持参すると、医師に説明しやすくなります。「仕事に集中できない」「家事に取りかかれない」など、生活で困っていることも具体的に伝えてください。
つらさを我慢し続けず、自分に合う対処法を医師と一緒に考えていきましょう。
専門的な治療について
PMS・PMDDの治療では、症状や体質に応じて薬が使われることがあります。主な治療には、次のようなものがあります。
- 低用量ピル:排卵を抑え、女性ホルモンの変動を小さくする
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(Selective Serotonin Reuptake Inhibitor:SSRI):脳内のセロトニンの働きを高め、気分の落ち込みなどをやわらげる
- 漢方薬:症状や体質に合わせて処方する
- 対症療法:鎮痛薬などで、痛みをはじめとする個々の症状をやわらげる
どの治療が適しているかは、医師と相談して一緒に決定していきます。気になる症状や治療への希望を伝え、薬の効果や副作用についても説明を受けましょう。
まとめ:生理前にやる気が出ないときは無理をしない
生理前のやる気の低下には、女性ホルモンの変動や眠気、睡眠の変化などが関わっています。思うように動けない日は、仕事や家事の負担を減らし、休む時間を確保しましょう。
体調に余裕があるときは、軽い運動や食事の見直しに加え、朝の光を浴びる、寝る前の過ごし方や寝室環境を整えるなど、できることから取り入れてみてください。
不調で日常生活に支障が出る場合は、婦人科で相談しましょう。ひとりで抱え込まず、自分に合う対処法を見つけていくことが大切です。











