睡眠コラム by 松岡 雄治2025年10月29日読了目安時間: 7

【医師監修】寝る前の牛乳の効果とは?6万人データで判明した睡眠への影響と正しい飲み方

森田 麻里子
Child Health Laboratory 代表 / 医師

医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家

2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016年南相馬市立総合病院にて麻酔科医として勤務。2017年の第1子出産をきっかけに、2018年より乳幼児の睡眠問題についてのカウンセリングや講座、企業と連携したアプリ監修など行っている。2019年昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤勤務を経て、現在は大人の睡眠カウンセリングや企業向け睡眠講座も手掛ける。

「寝る前に温かい牛乳を飲むとよく眠れる」という話を聞いたことはありませんか?しかし同時に「牛乳は太りやすい」「寝る前に飲むと虫歯になる」あるいは「逆効果である」といった賛否両論の意見を聞いたこともあり不安になるかもしれません。

実は、厚生労働省の報告では、日本人の4人に1人が睡眠に関する悩みを抱えています。1)

夜なかなか寝付けない、朝起きても疲れが取れない、睡眠の質を改善したいと思っている方はたくさんいます。睡眠薬には頼りたくないけど、自然な方法で安眠を得たいと考えるのは自然なこなのとです。

「寝る前の牛乳」は本当に効果があるのか、この記事では、牛乳が睡眠に与える効果について、2024年に発表された日本人6万人の最新研究データと厚生労働省の最新ガイドラインをもとに徹底解説します。科学的根拠に基づいた最適な飲み方と、太る、虫歯になるといったデメリットへの対策を知り、ぜひ質の高い睡眠を実現しましょう。

牛乳と睡眠の間の3つの関連【最新研究で判明】

牛乳の睡眠への効果は、日本人を対象とした大規模な研究で具体的に数値化して示唆されているものもあります。ここでは、最新の研究で判明した牛乳が睡眠を改善する可能性や、牛乳に含まれる栄養素が疲労回復をサポートする効果について解説します。

1. 不眠症リスクが9%低下:6万人の調査結果

日本人の約6万人を対象とした労働安全衛生総合研究所による最新の横断研究(2024年)では、牛乳の摂取頻度と不眠症のリスクに明確な関連があることが判明しました。2)

  • 牛乳を1日1回以上摂取する人は、週1回未満の人と比較して不眠症のオッズ比が0.91(およそ9%のリスク低下)と有意に低いというデータが出ています。
  • 特に女性において効果が確からしいことがわかり、牛乳が日本の成人の不眠に対して予防的な役割を果たす可能性が示唆されました。

2. 睡眠の質が向上:早稲田大学の大規模調査

一般社団法人Jミルク、牛乳乳製品健康科学会議の学術研究費の助成を受けて早稲田大学の研究チームが9,879人を対象に実施した大規模な調査でも、牛乳と良い睡眠の関連が示されています。3)

  • 牛乳や乳製品を高摂取する人(週4〜6回以上)は、ソフトドリンクを高摂取する人と比較して平日の睡眠時間が長く、睡眠の質が良好で、抑うつ傾向が低いことが判明しました。
  • 他にも、入眠時間、睡眠薬の使用、日中の覚醒困難の3項目でも牛乳が睡眠に役立つことを示唆する結果が出ています。
  • 牛乳は、睡眠の量だけでなく、「質の良い」睡眠に貢献している可能性が示されています。

ただしこの研究では、牛乳を飲むことが睡眠に良い影響を与えているのか、それとも良い睡眠をとっている人の牛乳の摂取量が多いのかは明らかにされていません。また、牛乳以外の要因が影響した可能性は考慮されていません。

3. 疲労回復効果:成長ホルモンの分泌促進

睡眠中は、体のダメージを修復し、細胞を再生させる「成長ホルモン」が多く分泌されます。特に深い睡眠であるノンレム睡眠中に最も活発に作られるメカニズムのため、睡眠の質を高めて深い睡眠の時間を確保することは成長ホルモン分泌の観点からも有用です。4)

  • 牛乳に含まれる良質なタンパク質やビタミンB群は、この成長ホルモンの分泌をサポートし、細胞の修復や疲労回復を促す働きがあります。特に、ビタミンB2は「発育ビタミン」と呼ばれ、成長期の子どもで不足すると成長障害を起こします。

牛乳の睡眠効果を生む3つの成分とメカニズム

牛乳は、主に以下の3つの成分が神経や睡眠ホルモンに作用することで、睡眠に良い影響を与える可能性があります。

トリプトファン:メラトニン(睡眠ホルモン)生成の原料

トリプトファンは必須アミノ酸の一つです。「必須アミノ酸」とは、体内で合成できず、食事から摂取する必要があるアミノ酸のことを意味します。

トリプトファンは睡眠ホルモン(メラトニン)を作る上で、最も重要な原料のため、食事から十分にトリプトファンを摂取していることが良質な睡眠に欠かせないということです。

  • メラトニン生成の時間差:トリプトファンは脳に運ばれ、日中に「セロトニン」という精神安定ホルモンに変換されます。そして、夜になって周囲が暗くなると、セロトニンが「メラトニン」に変換され、眠気を促します。5)
  • トリプトファンを摂取してからそれが吸収され、利用されるまでには時間がかかります。朝にトリプトファンを摂取することが夜のメラトニン分泌を増加させることが報告されています。6)

カルシウム:神経の興奮を鎮める効果

カルシウムは骨や歯を作るだけでなく、神経の伝達や筋肉の収縮に深く関わっています。7)カルシウムには神経の興奮を抑え、鎮静作用をもたらす働きがあります。リラックスのためにはカルシウムが不足しないように、十分摂取することが大切です。

ビタミンB群:睡眠の質を高める栄養素

牛乳はビタミンB2やビタミンB12など、体のエネルギー代謝に不可欠な栄養素を豊富に含んでいます。ビタミンB群は神経の働きを正常に保ち、疲労回復にも役立ちます。ビタミンB12は光感受性を高め、体内時計のリズムを整える作用があると言われています。これらの栄養素が不足すると、疲労感が増したり、睡眠の質が低下しやすくなると考えられます。

 

効果的な飲み方:タイミング・温度・量の最適解

牛乳の効果を最大限に引き出し、デメリットを避けるための最適な飲み方を解説します。

朝と夜、どちらが効果的?驚きの研究結果

トリプトファンからメラトニンへの変換に時間がかかるため、夜の安眠を目的とするなら、朝の摂取が最も効果的です。朝食時に牛乳を飲むなどしてトリプトファンを十分に摂取することで、トリプトファンが日中にセロトニンに変わり、夜に最適なメラトニンの分泌へとつながります。就寝前は、トリプトファンの効果よりも、「ホットミルクによるリラックスと体温調整」という即効性のある効果を目的とします。

ホットミルクvs冷たい牛乳:温度による違い

寝る前に飲むならどちらかというとホットミルクがおすすめです。温かい飲み物を飲むと、一時的に上がった体温が下がるタイミングで自然な眠気が訪れるという効果が出る可能性があります(深部体温のコントロール)。また、温かさが胃腸への刺激を和らげ、心理的な安心感も得られます。逆に冷たい飲み物は胃腸を刺激し、体を冷やすため、交感神経を優位にさせ、寝つきを悪くする可能性があります。

適切な量は?100ml〜200mlが目安

過剰摂取はデメリットを高めるため、適量を守りましょう。就寝前に飲む場合は、消化への負担を考慮し、コップ半分〜1杯程度(100ml〜200ml)が最適です。

 

寝る前の牛乳で心配される3つのデメリットと対策

寝る前に牛乳を飲む場合に心配されがちな「太る」「虫歯」「血糖値」の3つのデメリットについて、科学的に検証してみましょう。健康意識が高い人はこれらの問題点を気にして、寝る前の牛乳を控えているケースもあるかもしれませんが、正しく理解して対策を講じることで解決できます。

1. 太る心配は?カロリーと飲むタイミングで解決

牛乳は脂質を含みますが、適量であれば大きな問題はないでしょう。牛乳200mlのカロリーは約130kcalで、1日の総摂取カロリーに占める割合はわずかです。カロリーを意識するあまり夕食代わりと考えて食事を抜いたりするのは控えましょう。また逆に、寝る直前に大量摂取を避け、飲む量をコントロールしましょう。ダイエット中など、このカロリーが気になる場合は、低脂肪牛乳を選んだり(200mlあたり90kcal程度)、寝る前ではなく日中に飲むのが良いでしょう。

2. 虫歯のリスク:乳糖の影響と予防法

牛乳に含まれる「乳糖」は、虫歯の原因となる糖分です。寝る前に牛乳を飲んだ後は、必ず歯磨きを行って、口内に乳糖が残らないようにしましょう。

3. 血糖値への影響:糖尿病の人の注意点

牛乳は糖分を含むため、血糖値を上昇させる作用があります。糖尿病の治療中の人や、血糖値の厳密な管理が必要な人は、寝る前の摂取について必ず主治医に相談してください。

 

牛乳でお腹を壊してしまう人は

牛乳に含まれる乳糖は、本来小腸でラクターゼという乳糖分解酵素によって分解されます。しかし、ラクターゼが少ないと分解されていない乳糖はそのまま大腸に向かいます。大腸に進んだ乳糖は腸内細菌によって分解されますが、この過程でガスや酸が産生されてお腹が張ったり、腹痛が生じたりするのです。

また、乳糖は水を引き込むため、便の水気が増して下痢をもたらすのです。(乳糖不耐症)このような場合は無理に牛乳を飲む必要はありませんが、乳製品は十分なカルシウム摂取に役立つ食品です。以下のような工夫をすることで、牛乳や乳製品を摂りやすくなります。8)

  • 数回に分けて飲む

一回の摂取量を少なくすることで乳糖が分解しやすくなります。

  • 温めて飲む

温めると腸への刺激が減るうえ、ラクターゼの働きが活発になります。

  • ヨーグルトやチーズを食べる

ヨーグルトは乳酸菌の発酵によって乳糖の20〜40%が分解されています。チーズも生成過程で乳糖の多くが取り除かれています。

  • 乳糖を抑えた飲料を選ぶ

乳糖を約80%分解した乳飲料も販売されています。

 

牛乳が苦手な人への代替案:睡眠改善の選択肢

乳糖不耐症でなくとも牛乳が苦手な人もいると思います。同じ効果が期待できる代替案を紹介します。

豆乳:植物性タンパク質の選択肢

豆乳は牛乳と同様に、トリプトファンを含みます。ホット豆乳として飲むと、温かい飲み物のリラックス効果も得られます。

ヨーグルト・チーズ:発酵乳製品の効果

ヨーグルトやチーズなどの発酵乳製品もトリプトファンが豊富です。ヨーグルトは腸内環境の改善も期待できます。乳糖が少ないため、乳糖不耐症の方にもおすすめできます。

その他の食品:バナナ・卵・納豆など

メラトニン生成の原料となるトリプトファンは、卵、納豆、カツオ、ごまなど、様々な食品に含まれています。これらの食品を朝食に積極的に取り入れることで、夜の睡眠を改善できる可能性もあります。

関連記事:睡眠の質を上げる飲み物10選と飲むタイミングについて解説!

まとめ:毎日の牛乳で質の高い睡眠を

最新の科学的な知見によると質の高い睡眠には朝の牛乳が効果的と示されています。特に、日本人6万人のデータは、牛乳が不眠症の予防に役立つ可能性を示唆しています。朝に牛乳を飲むことで、牛乳に含まれるトリプトファンが日中にセロトニンに変換され、寝る頃には十分な睡眠ホルモン(メラトニン)が供給されるようになります。一方、夜にホットミルクを少量飲むと、リラックスを促すことが期待できます。

質の高い睡眠は、食事だけでなく、マットレスなどの睡眠環境も重要です。 

FAQ

Q.寝る前の牛乳は何時間前に飲むのが効果的ですか?

A.牛乳に含まれるトリプトファンの摂取によるメラトニン生成を目的とするなら、「朝」が最も効果的です。寝る前に飲みたい場合は、就寝の30分程度前に100〜200mlのホットミルクを飲むのが良いでしょう。

Q.寝る前に牛乳を飲むと太りますか?

A.適量(100ml〜200ml)であれば、太る心配は少ないです。気になる場合は、低脂肪牛乳を選ぶ、夜ではなく朝に飲むなど工夫するとよいでしょう。

Q.寝る前に牛乳を飲むと身長は伸びますか?

A.寝る前に牛乳を飲むと身長が伸びるという確かなデータはありません。しかし、牛乳に含まれるタンパク質やカルシウムは、その成長の材料になるため、間接的にサポートします。カルシウムは夜間に骨に沈着しやすい性質があるため、夕方や夜の摂取も有効だとされています。9)また、良質な睡眠によって分泌される成長ホルモンが身長を伸ばすためには必要なため、睡眠の質を高めることがポイントになります。朝に牛乳を飲むと、睡眠を促すメラトニンが夜間、十分に分泌されやすくなり、睡眠の質を高められる可能性もあります。

 

参考文献

1)厚生労働省 令和5年国民健康・栄養調査

https://www.mhlw.go.jp/content/001435384.pdf

2)Sato Y, et al. The association between milk and dairy products intake and insomnia symptoms among Japanese adults in community-based cohort. Nutr Health. 2025 Sep;31(3):1179-1188.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39319405/

3)一般社団法人 Jミルク 牛乳乳製品の摂取量が「睡眠」「抑うつ」「健康感」に与える効果とは

https://www.j-milk.jp/report/study/health/f13cn00000000wqh-att/hn0mvm0000004jnt.pdf

4)日本睡眠学会 ノンレム睡眠とレム睡眠

https://www.jssr.jp/basicofsleep2

5)厚生労働省 メラトニン

https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-062

6)日常生活における受光履歴とトリプトファンの食事摂取が睡眠に及ぼす影響

https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-23370106/23370106seika.pdf

7)厚生労働省 カルシウム

https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/food/ye-042

8) Jミルクファクトブック よくわかる!乳糖不耐

https://www.j-milk.jp/report/study/h4ogb40000003zae-att/h4ogb40000003zcp.pdf

9)一般社団法人 日本乳業協会 乳と乳製品のQ&A

https://nyukyou.jp/dairyqa/2107_003_343/