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監修者

森田 麻里子
医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家
2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016
「電車でウトウトしたときに突然、体がビクッと動いて目が覚めてしまって恥ずかしかった」「高い所から落下する感覚とともに手足が勝手に動いた」。このような経験はありませんか?
この現象は「ジャーキング」と呼ばれ、成人の約7割もの人が経験する、誰にでも起こる生理現象です。1)しかし、疲れが溜まっている時やストレスを感じている時期に頻繁に起こると、「もしかして病気なのでは?」「睡眠の質が悪いのでは?」と不安になる方も少なくありません。実際、ジャーキングが頻発すると入眠が妨げられ、翌日の疲労感や集中力低下につながることもあります。
この記事では、ジャーキングの原因と「体がビクッとなる」メカニズムを医学的な観点から正しく解説します。厚生労働省の推奨基準に基づき、ジャーキングの頻度を減らすための具体的な改善方法と、質の高い睡眠を取り戻すための睡眠環境の整え方を段階的にご紹介します。
ジャーキング(入眠時ミオクローヌス)とは?医学的なメカニズムを解説
ジャーキングは、医学的には入眠時(睡眠時)ミオクローヌスと呼ばれる現象です(「jerk」は急にぐいっと引っぱることを意味する言葉です)。ミオクローヌスとは、筋肉の意図しない瞬間的な収縮を意味する医学用語です。生理的な現象とされています。
ジャーキングが起こる瞬間と身体の状態
ジャーキングは、入眠時の脳の誤作動と考えられています。覚醒状態(興奮状態)から睡眠状態(抑制状態)へ移行するときに、その切り替えがうまくいかないと、筋肉を緊張させるための信号が出てしまい、ビクッと動くというわけです。1)
高い所から落ちる夢と同時に起こることが多いとも言われますが、そうでない場合に起こることも多く、別のものではないかという説もあります。ジャーキングはまだ十分には解明されていない部分もあるのです。
ジャーキングと似た症状との違い
ジャーキングが生理的な単発的な現象であるのに対し、病的なミオクローヌスは周期的に起こる点が大きく異なります。2)3)
| 症状 | 発生のタイミング | 動きの特徴 | リスクと対応 |
| ジャーキング | 入眠時に単発(一瞬) | 体がビクッと大きく一度動く | 基本的に無害
入眠が妨害される可能性 |
| 周期性四肢運動障害 | 睡眠中に周期的(規則的)に繰り返し | 手足のピクつきが20〜40秒ごとに起こる | 中途覚醒や日中の眠気が起こることも |
| むずむず脚症候群 | 安静時、特に夕方〜夜間に強い | 不快感や痛みを伴い、足を動かさずにはいられない | 入眠困難
夜間覚醒 |
| 睡眠時てんかん | 睡眠中 | 発作に伴う規則的なけいれんや意識障害 | てんかんとしての治療が必要 |
ジャーキングが起こりやすい5つの原因

ジャーキングの頻度が高くなるのは、心身が十分にリラックスできていないときや寝姿勢が快適でない時です。以下の5つの主要因を見直しましょう。
1. 疲労の蓄積による影響
激しい疲労や筋肉疲労が蓄積すると、筋肉の緊張と弛緩のコントロールが不安定になります。脳もリラックスしきれないため、ジャーキングが誘発されやすくなると考えられます。令和5年の厚生労働省の調査では、成人の40%以上が6時間未満の睡眠時間と明らかになっています。疲労を蓄積しすぎないようにしましょう。4)
2. ストレスと自律神経の乱れ
精神的なストレスや不安は、自律神経のバランスを崩し、入眠時に交感神経(興奮)が優位な状態にしてしまうことがあります。脳がリラックスした状態への移行をスムーズに行えず、誤作動して不随意な運動が起こりやすくなると考えられます。
3. 不適切な睡眠姿勢
寝心地の悪い場所や姿勢はジャーキングを誘発します。デスクワーク中の昼寝や電車の椅子で座って寝るなどの不自然な姿勢は、首や背中の筋肉に負担をかけ、体が緊張したまま眠りに入るため、睡眠への移行がスムーズに行えないと考えられます。また、急な脱力を脳が落下と誤認しやすくなる可能性も考えられます。
4. カフェインやアルコールの影響
就寝前の嗜好品は脳の覚醒レベルを高め、ジャーキングを起こしやすくします。カフェインは脳を興奮させ、アルコールは一時的に入眠を促すものの、その後の睡眠を浅くすることが知られています。5)覚醒と睡眠の不安定な状態を長引かせるためジャーキングを誘発する可能性があります。
5. 慢性的な睡眠不足
睡眠不足が蓄積されている睡眠負債の状態になると、脳は通常通り機能できなくなってしまいます。通常は抑制されるはずの反射や不随意な運動が起こりやすくなります。睡眠不足が肥満や高血圧など生活習慣病のリスクをも高めます。さらに睡眠時間を確保していても朝起きた時に体がしっかり休まった感覚「睡眠休養感」が十分にあることが重要です。不十分な場合、見かけ上の睡眠が足りていても十分休んでいるとはいえません。
ジャーキングを改善する5つの対策方法
ジャーキングの頻度を減らすための質の高い睡眠を得る具体的な対策方法を確認しましょう。
1. 睡眠環境を整える(温度・湿度・照明)
体が深くリラックスできる環境は、スムーズに睡眠に移行することでジャーキングの発生を抑えます。
- 温度・湿度:室温は18〜27℃、湿度は50〜60%を目安に調整しましょう。寝具の内部、つまり体の周りは33℃程度、湿度50%を目標にして快適な温度・湿度に保つことが重要です。6)
- 照明:就寝1〜2時間前に照明を暗くし、スマートフォン等のブルーライトを避けることで、入眠を促すホルモンであるメラトニンの分泌を妨げないようにします。
2. 規則正しい睡眠リズムの確立
体内時計を整えて睡眠の質を上げることが、ジャーキングの発生を減らす基本です。毎日同じ時間に起床し、週末の寝だめは、しても2時間を超えないように留めるよう心がけましょう。週末の寝溜めのみでは、慢性的な睡眠不足を解消することは難しいです。もし寝溜めする場合でも毎日の睡眠時間はきちんと確保しましょう。
3. 日中の適度な運動習慣
日中の適度な運動は夜の睡眠を深くします。ウォーキングや筋トレなどの運動を習慣づけることで、睡眠の質を向上させ、スムーズな入眠を促すことでジャーキングを減らせる可能性があります。就寝前の激しい運動は交感神経を活性化させて寝つきを悪くするため、ジャーキングのリスクです。強度の高い運動は就寝3〜4時間前までに終えましょう。
4. 就寝前のリラクゼーション
不安やストレスによる筋肉の緊張を解くことも効果的な対策です。ぬるめのお風呂(就寝90〜120分前)、深呼吸、瞑想、ストレッチなど、自分に合ったリラックス法を実践し、副交感神経を優位にします。
関連記事:睡眠の質を劇的に改善する呼吸法5選!今夜から実践できる入眠テクニック
5. 体に合った寝具の選び方
ジャーキングを予防するには、寝姿勢を安定させ、快適な睡眠を提供する寝具も大切です。ポイントは体圧分散性と通気性です。寝返りをサポートし、体の一部に偏って圧力をかけないマットレスを選びましょう。
ジャーキングが頻発する場合の注意点と病院受診の目安
ジャーキングは生理現象ですが、頻発して睡眠をひどく妨げたり、他の症状を伴ったりする場合は別の病気の可能性もあります。そのようなときは専門の医師を受診しましょう。
医療機関を受診すべきタイミング
- 頻度:頻回に続き、ジャーキングによって入眠が妨げられている場合。
- 日中への影響:強い眠気や集中力の低下、疲労の蓄積が続く場合。
- 症状:入眠時以外にも、ぴくつきが起こる場合や、手足のぴくつきが周期的に規則正しく起こる場合など。
睡眠専門外来での検査と治療
睡眠に問題を抱える人は国民の4〜5分の1に及び、経済損失も多額と試算されています。睡眠の問題は、もはや国全体の問題といえます。睡眠医療に対する高いニーズに応えるために、睡眠学会は睡眠認定制度を作り、知識と経験を持つ医療従事者を専門家として認定しています。7)
睡眠外来では、問診や睡眠日誌の記録に加え、睡眠ポリグラフ検査等を行うことがあります。これにより、ジャーキングと、病的な周期性四肢運動障害や睡眠時てんかん等を鑑別し、症状に応じた生活習慣改善の指導や薬物療法等が提案されます。
ジャーキングに関するよくある質問
(https://elements.envato.com/question-mark-LJDL3LS)
子供や赤ちゃんのジャーキングは心配ない?
小児や赤ちゃんのジャーキングも生理現象であり、心配はありません。成長とともに自然に減少します。赤ちゃんの場合、入眠時ミオクローヌスとは違う生理現象がみられていることもあります。
モロー反射:生後4ヶ月頃までは音や光に反応して、パッと両手を大きく広げるような動きをすることがあります。生理的な反応で、成長と共になくなるため心配無用です。8)
ジタリネス:乳児前半頃までは、ジタリネスという震えに似た現象も見られます。ビクッと動くようなものではなくワナワナとした震えです。これは神経が過敏になっていることで起こるものですが、生理的な現象です。9)
熱やけいれんなど、他の症状を伴う場合や、同じ間隔で周期的に発作を起こしたり繰り返す場合、赤ちゃんの様子に不安がある場合には、小児科を受診してください。
妊娠中にジャーキングが増える理由
妊娠中はホルモンバランスの変化や、お腹の中の赤ちゃんの成長による身体的な負担、血行不良などが原因で、ジャーキングが増える可能性があります。妊娠初期に問題がなくてもお腹の子が大きくなるにつれて、影響が前面に出てくることもあります。横向きで寝るなど、姿勢を工夫しつつ、通気性や体圧分散性のよいマットレスなど、寝具の見直しも併せて検討しましょう。
高齢者のジャーキングの特徴
高齢者は睡眠が浅くなる傾向があります。また、睡眠効率も若年者に比べて低下しやすいため、ジャーキングが起こりやすくなる可能性があります。また、周期性四肢運動障害など、他の睡眠障害や病気の表れである可能性もあるため、日中の眠気がひどいなど他の症状がある場合は専門医に相談しましょう。
まとめ:ジャーキングと上手に付き合い、質の高い睡眠を手に入れよう

ジャーキングは疲労やストレスが原因で起こりやすくなる、誰にでも起こる生理現象です。
ジャーキングの頻度を減らし、質の高い入眠を実現するための方法として、睡眠環境の見直しも大切です。特に、体に合った寝具は心身の緊張を解き、スムーズな入眠をサポートします。
FAQ
Q.ジャーキングとミオクローヌスの違いは何ですか?
A.ジャーキングは、医学的な名称を入眠時ミオクローヌスといいます。そのため、ミオクローヌス(筋肉や筋肉群に起こる素早い稲妻のような収縮)の一種です。ミオクローヌスはあらゆる状況で起こる筋肉の素早い収縮を意味するのに対してジャーキングは寝入りばなとタイミングが限定されている点が違いです。
Q.ジャーキングがひどい場合はどうすれば改善できますか?
A.特別な治療法はありませんが、睡眠そのものを改善する多角的なアプローチが良いと考えられます。具体的には、疲労を溜めすぎないようにして、ストレスを軽減し、睡眠の質を高めて不安定な入眠を減らす工夫が大切です。他にも、安定した姿勢で入眠すること、カフェインやアルコールなどの摂取をコントロールすること、慢性的な睡眠不足を解消することも重要です。
Q.ストレスが原因でジャーキングは起こりますか?
A.はい、ストレスが原因でジャーキングが起こる可能性があります。ジャーキングのメカニズムはまだ完全に解明されてはいませんが、入眠がスムーズにできないことが関与していると考えられています。ストレスは、慢性的な疲労、あるいは不眠の原因となる上、入眠を妨げることもあるため原因となる可能性があります。
参考文献
1)Walters AS. Clinical identification of the simple sleep-related movement disorders. Chest. 2007 Apr;131(4):1260-6.
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17426241/)
2)MSDマニュアル 周期性四肢運動障害(PLMD)およびレストレスレッグス症候群(RLS)
3)成人における睡眠中のてんかん発作 神 一敬 臨床神経生理学 48巻1号
(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscn/48/1/48_40/_pdf/-char/ja)
4)厚生労働省 令和5年 国民健康・栄養調査報告
(https://www.mhlw.go.jp/content/001435384.pdf)
5)厚生労働省 健康づくりのための睡眠ガイド2023
(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf)
6)厚生労働省 快眠のためのテクニック -よく眠るために必要な寝具の条件と寝相・寝返りとの関係
(https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-01-003)
7)日本睡眠学会の睡眠医療認定制度と人材育成 清水徹男
(https://www.niph.go.jp/journal/data/61-1/201261010005.pdf)
8)日本小児神経学会「小児神経学的検査チャートの手引き」
(https://www.childneuro.jp/about/6438/)
9) 難病情報センター 早期ミオクロニー脳症










