目次
監修者

本多 洋介
群馬大学医学部卒業。
伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院(いずれも循環器内科)を経て、Myクリニック本多内科医院院長。
- 免許・資格
総合内科専門医、循環器内科専門医、日本心血管インターベンション学会専門医、軽カテーテル的大動脈弁植え込み術指導医(Sapienシリーズ、Evolutシリーズ)
夜中に突然ふくらはぎを襲う強烈な痛みで目が覚め、「また始まった……」と布団の中で耐えた経験はありませんか。
私自身も、慌てて足を動かしたことでかえって痛みが長引き、翌朝まで違和感が残ったことがあり、こむら返りは対処を知っているかどうかで回復の早さが大きく変わると実感しました。こむら返りは決して珍しい症状ではなく、多くの人が経験している身近なトラブルですが、原因や仕組みが分からないまま不安だけが残りがちですね。
本記事では、上級睡眠健康指導士でコアラマットレス社員の石川が、夜中に起きたときに今すぐ安全にできる治し方から、なぜ睡眠中に起こりやすいのかというメカニズム、そして再発を防いでぐっすり眠るための具体的な予防策までを、信頼できる根拠データをもとに分かりやすく解説していきます。
こむら返りとは何が起きている状態か
夜中に突然ふくらはぎが強く引きつり、思わず声が出るほどの痛みを感じる症状は、一般的に「こむら返り」と呼ばれています。体の中ではどのようなことが起きているのでしょうか。
「こむら」とは、ふくらはぎを指す古い日本語であり、医学的には「有痛性筋痙攣(ゆうつうせいきんけいれん)」と定義されています※1。これは、自分の意思とは無関係に筋肉が異常に収縮し、その状態が解除されないまま続くことで、鋭い痛みを伴う現象を指します。単なる疲れや一時的な違和感とは異なり、神経と筋肉の制御バランスが崩れた結果として起こる点が特徴です。
このように、こむら返りは偶然起こる現象ではなく、明確な生理学的背景を持っています。
こむら返りが起こるメカニズム
筋肉は、神経からの電気信号によって「縮む」「ゆるむ」を繰り返しながら動いています。通常は、筋肉が過度に縮みすぎたり、急に引き伸ばされたりしないように、腱や筋肉に備わったセンサーがブレーキ役として働いています。この調整機能によって、私たちは無意識のうちに安全な動作を保っています。
ところが、脱水や電解質バランスの乱れ、冷え、疲労などが重なると、この神経の制御がうまく働かなくなることがあります。その結果、筋肉に「縮め」という信号だけが一方的に送り続けられ、異常な収縮状態に陥ります。これが、こむら返りの正体です※1。特にふくらはぎは、体重を支えながら細かな調整を担う筋肉であるため、神経の誤作動の影響を受けやすい部位です。
発生しやすい年齢・生活習慣の特徴
日本人を対象にした1,354人規模の調査によると、こむら返りの経験率は年齢とともに上昇する傾向が確認されています※2。特に50代以降では、多くの人が一度は夜間のこむら返りを経験しており、60代以上では「頻繁に足がつる」と自覚する人の割合がさらに高くなります。
加齢に伴い、筋肉量の低下や血流の変化が起こることで、神経と筋肉の協調が乱れやすくなるのに加えて、日常的な運動不足による筋力低下や冷房・冬場の冷え、発汗後の水分やミネラル補給不足などが重なると、こむら返りのリスクはさらに高まります。これらの要因は単独で作用するというよりも、生活習慣の積み重ねとして影響する点が重要です。
睡眠中に起きやすい理由
就寝中は、起きているときと比べて体の調整機能が低下しやすくなります。特に仰向けで眠っていると、足首が自然に伸びた状態になり、ふくらはぎの筋肉が縮みやすい姿勢になります。この状態では、わずかな神経の誤作動でも筋肉が過剰に反応しやすくなります。
さらに、睡眠中は体温が下がって血流が緩やかになるため、筋肉が冷えやすいです。この状態で寝汗による軽度の脱水が起こると、体内のミネラルバランスが崩れ、神経の興奮が抑えにくくなります。これらの条件が重なると、深夜や明け方に突然のこむら返りが起こりやすくなるのです。
このように、こむら返りは偶発的な痛みではなく、年齢、生活習慣、睡眠環境が複雑に関係した結果として生じる現象であることが分かります。
関連記事:【上級睡眠健康指導士監修】睡眠と寝る前の運動の関係って?よく眠るためにはどれくらい運動するといい?
こむら返りが起きた時の正しい治し方
こむら返りが起きた瞬間は、強い痛みで驚き、思わず足をばたつかせたくなります。しかし、このときに勢いよく動かすと、筋肉や腱を傷めてしまうおそれがあります。
まずは深呼吸をして落ち着き、ゆっくりと対処することが何より重要です。日本医師会も、こむら返りへの対応として「急激な動作を避け、筋肉をゆっくり伸ばす」ことを基本として挙げています※1。
実際に痛みが出たときに安全に行える対処法を、順を追って説明していきます。
ふくらはぎの筋肉をゆっくり伸ばす
こむら返りが起きた直後に最も効果が期待できるのが、ふくらはぎのストレッチです。座った姿勢、または仰向けのままでも構いませんので、つった側の足のつま先を両手で持ち、自分の体の方向へ少しずつ引き寄せます。このとき、アキレス腱を伸ばす感覚を意識しながら、反動をつけずに行うことが大切です。
急に強く引っ張ると、筋肉の防御反射が働き、かえってけいれんが強まることがあります。10秒から20秒ほどかけて、じんわりと伸ばすことで、異常な収縮が徐々に緩み、痛みが軽減しやすくなります※1。痛みが完全に消える前でも、無理のない範囲で呼吸を止めずに続けることがポイントです。
温めて血流を改善する方法
痛みが少し引いてきた段階では、患部を温めることが有効です。蒸しタオルや使い捨てカイロをふくらはぎに当てると、血管が広がり、筋肉への血流が改善されます。冷えた状態では筋肉が硬くなりやすく、けいれんが長引く原因になるため、温めることで回復を助ける効果が期待できます。
ただし、発症直後の激しい痛みが続いている最中に無理に温める必要はありません。ストレッチで収縮が緩んだあとに、心地よいと感じる温度で行うことが大切です。熱すぎる刺激は皮膚トラブルの原因にもなるため、注意しながら使用してください。
痛みが治まった後にするケア
こむら返りの痛みが引いた後は、ふくらはぎを強く揉んだり、すぐに歩き回ったりする必要はありません。手のひらで軽くさする程度のマッサージを行い、筋肉の緊張をやさしく解いていきます。その後、白湯や水を少しずつ飲み、水分補給を行うことで、神経や筋肉の働きを安定させる助けになります。
翌朝まで違和感や軽い張りが残ることもありますが、その場合は激しい運動や長時間の歩行を控え、様子を見ることが勧められます。痛みが繰り返し起こる、もしくは日中も頻繁につる場合には、背景に別の疾患が隠れている可能性もあるため、医療機関への相談が必要です※1。
こむら返りの主な原因(生活習慣・体調・環境)

「なぜ自分だけ、こんなに頻繁に足がつるのだろう」と感じる人は少なくありません。こむら返りは偶然起こる現象ではなく、多くの場合、日々の生活習慣や体調、置かれている環境が複雑に影響しています。原因を知ることで、予防や再発防止につなげることが可能になります。
日常生活と深く関わる要因と冷えや血流、さらに病気との関係について解説します。
生活習慣が関わる原因
こむら返りの原因として最も多いのが、水分やミネラルの不足です。筋肉の収縮と弛緩は、カルシウムやマグネシウム、カリウムといった電解質のバランスによって調整されています。このバランスが崩れると、神経の興奮が抑えられず、筋肉が異常に収縮しやすいです※1。
特に睡眠中は、寝汗によって気づかないうちに水分が失われやすく、脱水状態に傾きやすくなります。飲酒後にこむら返りが起こりやすいのも、アルコールの利尿作用によって体内の水分やミネラルが排出されやすくなるためです。また、運動不足による筋力低下や、逆に慣れない運動による筋疲労も、神経と筋肉の調整機能を乱す要因になります。
こうした生活習慣の積み重ねは、自覚がないままリスクを高めているのです。
冷えや血行不良が引き起こすケース
足元の冷えは、こむら返りにとって大きな引き金になります。体が冷えると血管が収縮し、筋肉への血流が低下します。その結果、筋肉は硬くなり、わずかな刺激でも誤った収縮信号が出やすくなります。
冬場の寒さだけでなく、夏の冷房による冷えも注意が必要です。特に就寝中は体温が下がりやすく、薄着や冷房の風が直接足に当たることで、ふくらはぎの筋肉が冷え切ってしまい、この状態に脱水や疲労が重なると夜間のこむら返りが起こりやすくなります※1。
病気が隠れている可能性
こむら返りが毎日のように起こる、日中でも頻繁に起こる、あるいは痛み以外の症状を伴う場合には、単なる生活習慣の問題ではない可能性も考えられます。日本医師会の資料でも、特定の疾患がこむら返りの背景に存在することがあるとされています※1。
例えば、糖尿病では神経障害によって筋肉の制御が乱れやすくなり、腎臓や肝臓の疾患では体内の電解質バランスが崩れやすくなります。また、下肢静脈瘤による血流障害や、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどの整形外科的な問題が関与するケースもあります。
こむら返りそのものは命に関わる症状ではありませんが、「頻度が明らかに多い」「徐々に悪化している」と感じる場合には、体からのサインとして受け止め、一度医療機関で相談することが大切です。
関連記事:【医師監修】周期性四肢運動障害とは?原因と対処法について解説
起きた時の正しい対処は、深呼吸して落ち着き、つま先を手前にゆっくり引いて筋肉を伸ばすことです。急激に動かすと筋肉を傷める恐れがあります。痛みが引いたら患部を温め、軽くマッサージしてください。
予防には、就寝前の水分・ミネラル補給、ふくらはぎのストレッチ、足元の冷え対策が基本です。重い掛け布団は足先を押し下げるため避けましょう。
芍薬甘草湯は一定の効果がありますが、すべての人に効くわけではなく、長期服用は副作用のリスクがあります。頻繁に繰り返す場合は、糖尿病や神経障害などの可能性もあるため、医療機関への相談をお勧めします。
こむら返りを繰り返さないための予防方法

こむら返りは一度経験すると、「また今夜も起きるのでは」と不安になり、睡眠の質そのものを下げてしまいます。しかし、発生の背景を踏まえた生活習慣の見直しを行うことで、再発の頻度は十分に下げることが可能です。日本人を対象とした調査でも、年齢が高くなるほど発症頻度が増えることが示されており、早めの予防が重要であることが分かっています※1。
日常生活の中で無理なく取り入れやすい予防の考え方を、具体的な視点から整理していきます。
水分・ミネラル補給
こむら返りの予防において基本となるのが、水分とミネラルの補給です。筋肉の収縮と弛緩は、体内の電解質バランスによってコントロールされていますが、就寝中は寝汗によって気づかないうちに水分が失われやすいため、寝る前に少量の水を摂取しておくと脱水状態を防ぎやすいです。
また、マグネシウムやカリウムなどのミネラルが不足すると、神経の興奮が抑えにくくなり、筋肉がつりやすくなるため、日頃の食事に海藻類や果物などを意識的に取り入れましょう。
就寝前の軽いストレッチ
寝る直前まで体を動かさずにいると、筋肉は縮みやすい状態のまま固まってしまいます。就寝前にふくらはぎやアキレス腱をゆっくり伸ばしておくと、神経と筋肉の緊張を和らげる効果が期待できます。
強い運動を行う必要はなく、呼吸を止めずに気持ちよい範囲で行うことが大切です。夜間に起こりやすい神経の過剰な興奮を抑え、こむら返りの予防につなげるためにも、軽いストレッチを習慣化しましょう。
寝具・寝姿勢の見直し
睡眠中の姿勢や寝具は、こむら返りの起こりやすさに影響します。特に重すぎる掛け布団は、足先を下方向に押し下げやすく、ふくらはぎが収縮しやすい姿勢を作ってしまうため、無意識のうちに筋肉へ負担がかかって、夜間のけいれんを招くことがあります。
足首が自然な角度を保てるよう、軽くて保温性のある寝具を選びましょう。寝返りが打ちやすい環境を整えることも、血流を保つうえで役立ちます。
体を冷やさない習慣
冷えは、こむら返りを引き起こす大きな要因の一つです。入浴時に湯船にしっかり浸かることで、全身の血行が促進され、筋肉が柔らかい状態を保ちやすくなります。シャワーだけで済ませる習慣が続くと、ふくらはぎの冷えが残りやすくなるため注意が必要です。
また、夏場であっても冷房によって足元が冷えることは珍しくありません。就寝時に薄手のレッグウォーマーなどを活用し、ふくらはぎを冷気から守る工夫は、季節を問わず有効です。
筋肉疲労を溜めない生活
ふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれ、歩行によって血液を心臓へ戻すポンプの役割を担っています。日常的に体を動かす機会が少ないと、このポンプ機能が低下し、血流が滞りやすくなります。その結果、筋肉が疲労しやすく、こむら返りのリスクが高まります。
激しい運動を行う必要はありませんが、無理のない範囲でのウォーキングや軽い体操を継続し、筋肉の柔軟性と血流を保ってください。疲労を溜め込まない生活リズムを意識することが、長期的な予防につながります。
漢方薬は効くのか?一次データから分かること

こむら返りの対策として、多くの人が一度は耳にするのが芍薬甘草湯です。即効性があると言われる一方で、「本当に効くのか」「飲み続けて大丈夫なのか」と疑問を感じる人も少なくありません。この点については、厚生労働省が公表している一次データが参考になります。
厚生労働省の令和4年度調査によると、「効果があったと思われる症状」として最も多く報告されたのが、こむら返りで65件でした。一方で、「効果がなかったと思われる症状」でも、こむら返りが38件と最も多く報告されています。この結果から、芍薬甘草湯は一定の有効性が示唆されるものの、すべての人に同じように効く薬ではないことが分かります。※3
このデータを踏まえたうえで、まずは効果の出方に差が生じる理由について見てみましょう。
効果があるケースとないケース
芍薬甘草湯は、筋肉の急激な収縮を和らげる作用を持つとされ、こむら返りが起きた直後に服用すると、比較的早く痛みが軽減する人がいます。その一方で、服用しても変化を感じない人が一定数存在することも、調査結果から明らかです※1。
この差には、体質や年齢、脱水やミネラル不足の程度、そのときの疲労状態などが関係していると考えられます。例えば、水分不足や冷えが主な原因で起こっている場合には、薬の効果を感じにくいこともあります。つまり、芍薬甘草湯は「条件が合えば助けになる薬」であり、こむら返りの原因そのものを解消する万能薬ではありません。
漢方薬だけに頼らず、日常のセルフケアを並行して行うことが重要です。
漢方薬に依存せずできるセルフケア
こむら返りの根本的な対策として欠かせないのは、生活習慣の見直しです。筋肉の異常な収縮は、脱水や冷え、筋疲労、睡眠中の姿勢など、日々の積み重ねによって引き起こされます。そのため、ストレッチや水分補給、体を冷やさない工夫といったセルフケアを継続することが、再発防止には不可欠です。
芍薬甘草湯は、夜中に突然起こった強いこむら返りに対する「一時的なレスキュー」として位置づけるのが現実的です。普段からのケアを怠ったまま薬だけで対処しようとすると、効果を実感しにくいだけでなく、別の問題を招きかねません。
使用する際の注意点(一般論)
芍薬甘草湯には「甘草」という生薬が含まれています。甘草は適切に使用すれば有用ですが、長期間にわたって常用すると、血圧の上昇やむくみ、低カリウム血症などを伴う偽アルドステロン症と呼ばれる副作用のリスクが指摘されています※3。
そのため、頻繁に服用する必要がある場合や、他の薬を併用している場合には、自己判断で続けるのではなく、医師や薬剤師に相談することが大切です。
まとめ
こむら返りは、体が発している「疲れが溜まっている」「少し休んでほしい」というサインの一つです。もし夜中に足がつってしまっても、慌てずにゆっくり筋肉を伸ばし、落ち着いて温めることで痛みは和らぎやすくなります。
また、再発を防ぐためには、日頃の水分補給やストレッチ、冷え対策、睡眠環境の見直しといった複合的なアプローチが欠かせません。芍薬甘草湯は状況によって助けになることがありますが、それだけに頼るのではなく、生活全体を整える視点が重要です。
治し方と予防のポイントを整理したうえで、今夜から少しずつ実践していきましょう。
参考
※1 健康の森 こむら返り | 日本医師会
※2 日本人におけるこむら返りの疫学的検討 |『日本静脈学会雑誌』14巻3号
※3 令和4年度 医薬品副作用報告の概要(漢方薬) | 厚生労働省










