目次
監修者

森田 麻里子
医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家
2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016
夏の暑さが厳しくなると、「日中ずっと眠い」「体がだるくて集中できない」といった体調不良を訴える人が増えます。こうした強い眠気や倦怠感が、実は熱中症の初期症状の可能性があることをご存じでしょうか。
総務省消防庁の発表によると、令和6年(2024年)5月〜9月の熱中症による救急搬送者は97,578人に上り、調査開始以来最多を記録しました。死亡者は120人、重症者は2,178人と、熱中症は今や誰にとっても身近な命のリスクとなっています。※1
本記事では、熱中症による眠気が起こるメカニズムから、通常の眠気との見分け方、緊急時の対処法、そして予防のための睡眠環境改善までを、最新の医学的知見に基づいて詳しく解説します。
熱中症で眠気が起こる3つのメカニズム

強い眠気や意識がぼんやりする感覚は、熱中症の進行を示す危険なサインです。
ここでは、日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」「熱中症診療ガイドライン2015」に基づき、眠気が起こる3つの医学的メカニズムを整理します。※2・3
1. 体温調節機能の破綻による中枢神経への影響
人間の体は、体温を一定に保つために汗をかいたり血流を変化させたりして調整しています。しかし、高温多湿の環境下でこの機能が破綻し始めると、皮膚に血液が集まるため脳血流が低下し、脳を含む中枢神経に影響を与えます。めまい、立ちくらみや大量の発汗、筋肉痛が出ることがあります。これは身体を十分に冷やすことが出来ず、水分や塩分が足りなくなり始めているサインであり、危険信号と言えます。
関連記事:なぜ止まらない?生あくびの科学と意外な体内メカニズム
2. 脱水による脳血流の低下
熱中症では発汗によって大量の水分と塩分が失われます。これにより血液量が減少し、脳への血流が低下します。脳が十分な酸素や栄養を受け取れなくなると、意識がもうろうとし、眠気や倦怠感として現れます。
厚生労働省の熱中症予防対策でも、水分及び塩分の摂取が推奨されています。※4
3.高体温による脳機能の低下
さらに脱水が進行し過度の体温上昇が起こると、脳機能が低下して意識障害やけいれんが現れます。これは熱中症でも最重度の状態で、死亡率は20%を超えると言われています。
熱中症による眠気と通常の眠気を見分ける5つのチェックポイント

「単なる夏バテや寝不足のせいでは?」と思ってしまう人も多いですが、熱中症による眠気には明確な特徴があります。以下の5つのチェックポイントを確認してみましょう。
1. 頭痛・吐き気・めまいの有無
熱中症による眠気は、頭痛・吐き気・めまい、倦怠感などを伴うことが多いのが特徴です。これらの症状が同時に出ている場合は、すでに体温上昇や脱水が進行している可能性があります。
2. 発汗の状態(大量発汗または無汗)
初期の段階では大量の汗をかきますが、重症化すると逆に汗が出なくなるケースもあります。汗が出ないのに体温が高い状態は特に危険です。
3. 体温の上昇(37.5℃以上)
体温が37.5℃を超える発熱を伴う眠気は要注意です。一般的に計測される腋窩温に比べて、深部体温はおおよそ0.5〜1℃程度高いとされています。感染症による発熱との区別が難しい場合もありますが、受診して診断を受けましょう。熱中症の場合は、身体を冷やして水分や塩分を十分に摂取することが大切です。
4. 筋肉のけいれんや硬直
ふくらはぎや太もも等がつる「熱けいれん」は、体内の電解質バランスが崩れているサインです。筋肉のけいれんは、熱中症の初期段階と考えられます。
5. 高温環境での活動歴
発症前に「炎天下での作業」「エアコンのない室内での長時間滞在」などがあった場合は、熱中症を強く疑うべきです。環境省の「熱中症予防情報サイト」では、暑さ指数(WBGT)と熱中症のリスクについて解説されています。※5
熱中症による眠気への緊急対処法4ステップ

熱中症による眠気や倦怠感を感じた時点で、すぐに以下の応急処置を行うことが重要です。重症化を防ぐための4ステップを紹介します。初期対応を時系列で解説しますので参考にしてください。※6
1. 涼しい場所への移動と安静
まずはエアコンの効いた室内や日陰に移動し、衣服を緩めて体を休めましょう。体を横にして安静を保つことで、熱の放散を助けます。
2. 効果的な体温冷却方法
首・脇の下・太ももの付け根など、太い血管が通る部位をアイスパックや氷で冷やすと効果的です。濡れタオルと扇風機を併用して気化熱による冷却を行うのも有効です。
3. 適切な水分・塩分補給
自分で水分が摂れる状態であれば、経口補水液(ORS)やスポーツドリンクで水分と塩分を補いましょう。心臓や腎臓の疾患などで水分・塩分摂取について医師からの指示がある人は、それに従ってください。意識がもうろうとしている場合は、誤嚥の危険があるため飲水を控え、速やかに救急要請を行いましょう。
4. 医療機関受診の判断基準
次のような場合は、すぐに119番通報してください。
- 呼びかけに反応しない
- 自力で水分が取れない
- 体温が下がらない
- 症状が改善しない
厚生労働省は、①返事がおかしい、②ぼーっとしているなど、普段と様子がおかしい場合も異常等ありとして取り扱うことを推奨しています。※4
こうした状態を「重篤化リスクあり」と位置付けており、早期搬送が救命率を大きく左右するのです。
睡眠不足が熱中症リスクを高める理由と対策

夜間の寝苦しさ(熱帯夜)による睡眠不足は、翌日の熱中症リスクを高めることが強く示唆されています。日本気象協会と睡眠コンサルティングの西川株式会社の共同研究の報告では、熱中症救急搬送者が多い日の前夜は、被験者の中途覚醒時間が長く、睡眠効率(寝床の中にいた時間のうち、実際に眠っていた時間の割合)が低い傾向にあったことがわかりました。※7
前夜の睡眠との関係
中途覚醒が2時間以上続いたグループは、睡眠中の平均気温が約24℃。一方、中途覚醒が10分未満のグループは、夜の平均気温は約22℃と約2℃の差があり、夜間平均気温が上がるにつれて中途覚醒時間が長くなる傾向でした。また、睡眠効率については、65%未満のグループの夜間平均気温は24.5℃、95%以上のグループは21.5℃と3℃の差がありました。
熱帯夜でも快眠するための環境づくり
熱帯夜を乗り切るには、室温25〜26℃・湿度50〜60%を目安にエアコンを使用しましょう。冷気が直接体に当たらないよう、風向きを天井側に設定するのがコツです。
また、通気性の良い寝具や吸湿性の高いマットレスを選ぶことで、発汗による体温調節を助けます。快眠環境を整えることは、熱中症予防の第一歩です。
(Koala Sleep Japan 株式会社より:寝ている間の余計な熱や蒸れが気になる方は、こちらをご参照ください。)
年代別・場所別の熱中症予防対策

熱中症は年齢や生活環境によって発生しやすい場所が異なります。環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」をもとに、年代・場所別の対策を整理します。※8
高齢者の住宅内熱中症対策
熱中症死亡者の56.5%が家庭内(庭を含む)で発生しています。特に高齢者は暑さを感じにくく、エアコンを我慢する傾向が強いため、「室温28℃を超えたら冷房をつける」を目安に使用を習慣化しましょう。
職場での熱中症予防システム
令和6年の職場での熱中症死傷者は1,257人(前年比14%増)です。※3
建設業・製造業を中心に多くなっています。WBGT(暑さ指数)活用や作業時間の短縮が求められています。他にも、テントやネットを貼るなど日よけを作る、喉の乾きに関係なく定期的に水分や塩分の補給をするなど職場では熱中症予防対策の徹底と、初期対応の迅速化が鍵となります。
子どもの熱中症サインの見極め方
子どもは体温調節機能が未発達で、汗をうまくかけません。また、地面に近いほど気温が高くなりますが、身長の低い子どもはより高温の環境になります。「顔が赤い」「元気がない」「ぐったりしている」などの変化に気づいたら、すぐに日陰や屋内に避難させ、水分補給を行いましょう。
まとめ:熱中症による眠気を見逃さず、適切に対処するために
眠気や倦怠感は「少し疲れただけ」と見過ごされがちですが、実は熱中症の初期症状であることも少なくありません。早期の冷却・水分と塩分の補給・医療機関受診が命を守る鍵です。また、睡眠不足は熱中症リスクを高めます。寝苦しい夜もエアコンや通気性の良い寝具を上手に使い、快適な睡眠環境を整えましょう。
「夜の眠りが翌日の健康を左右する」──その意識を持つことが、夏を安全に乗り切る第一歩です。
参考
※1:総務省消防庁令和6年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況
※2:「熱中症診療ガイドライン2024」
※3:「熱中症診療ガイドライン2015」
※5:環境省_熱中症予防情報サイト
※6:厚生労働省 熱中症予防のための情報・資料サイト
※7:睡眠と熱中症の関係性における調査結果レポートを公開|tenki.jp
メタディスクリプション
熱中症による眠気は意識障害の前兆かもしれません。2024年データでは熱中症搬送者9.7万人と過去最多。前夜の睡眠不足が熱中症リスクを高めることも判明。症状チェックリストと具体的な対処法を医学的根拠と共に解説します。










