目次
監修者

本多 洋介
群馬大学医学部卒業。
伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院(いずれも循環器内科)を経て、Myクリニック本多内科医院院長。
- 免許・資格
総合内科専門医、循環器内科専門医、日本心血管インターベンション学会専門医、軽カテーテル的大動脈弁植え込み術指導医(Sapienシリーズ、Evolutシリーズ)
「最近、微熱が続いている」「風邪でもないのに37℃台の熱が続く」こんな症状に心当たりはありませんか?近年、このような微熱の背景には、感染症ではなく、眠れない状態が続くことによって自律神経が乱れる「心因性発熱(ストレス性高体温症)」が関係している場合があります。
心因性発熱は風邪やインフルエンザと違って、体温調節を担う脳の仕組みがうまく働かなくなることで起こります。そのため解熱剤を使っても熱が下がりにくいのが特徴です。
本記事では、そのメカニズムと薬に頼らず今すぐ実践できる具体的な対処法を詳しく解説します。その場しのぎの対症療法ではなく、健康的な睡眠習慣を身につけて、日中のパフォーマンスを取り戻すヒントとしてぜひ参考にしてみてください。
眠れない状態で熱が出る「心因性発熱」とは?風邪との違いと医学的メカニズム
1.心因性発熱とは?|風邪とは異なる「自律神経の発熱」
眠れない状態が続いた結果、熱が出る症状は心因性発熱(ストレス性高体温症、または機能性高体温症)と呼ばれます。これは、風邪をはじめとしたウイルスや細菌による感染症が原因ではなく、自律神経の乱れによって体温調節がうまくいかなくなることで起こります。そのため、解熱剤を使っても熱が下がりにくく、血気検査でも炎症反応がみられないことが多いのが特徴です。
2.心因性発熱の医学的メカニズム|交感神経の過剰な興奮と体温中枢の誤作動
心因性発熱の一番の要因は、ストレスによる交感神経の過剰な興奮です。眠りが浅い、途中で何度も目が覚める、常に緊張が抜けない ー こうした状態が続くと交感神経が優位になり続けます。交感神経の興奮は、脳の体温調節中枢(視床下部)に作用し、エアコンの設定温度を上げるように、私たちの体温の「設定値」そのものを上げてしまうのです。その結果、熱を産生しやすくなる、末梢血管が収縮して熱が逃げにくくなるという状態が同時に起こり、深部体温が下がらないまま、発熱として症状が現れます。
身近な例として、試験前やコンテスト前など強い緊張場面では、私たちの体温は普段より少し高いことがわかっています。これも交感神経が活発になることで、体温が上がる一例です。1) また、労働安全衛生総合研究所の研究によると、睡眠不足では午後の深部体温が、通常時に比べて0.3℃上昇することが報告されています。2)
3.眠れない状態が体温をリセットできなくなる理由
私たちの深部体温は、体内時計(サーカディアンリズム)によっても24時間周期で変化しています。本来であれば、入眠前に深部体温は低下し、夜間の睡眠中に最も低くなり、覚醒に向けて再び上昇するという、「体温リセット」のサイクルが存在します。しかし眠れない状態が続くと、この体内時計が乱れて、夜になっても深部体温が低下せず、微熱や倦怠感や頭重感が抜けにくいといった症状が生じやすくなります。
4.風邪の発熱との違い(見分け方)
一般の風邪やインフルエンザに代表される感染症では、病原体が体内に入ると免疫細胞が反応して炎症性サイトカインを放出して、結果として発熱の症状がでます。このサイトカインに対して解熱剤は効果を及ぼすのですが、心因性発熱ではサイトカインの放出が主な原因ではないため、解熱剤の効果に乏しくなります。また、感染症では一日を通して発熱がみられることが多い一方、心因性発熱では、午前中は比較的落ち着いていて、午後から夜にかけて体温が上がりやすい傾向があります。
| 風邪・感染症 | 心因性発熱(ストレス性) | |
| 原因 | 病原体と戦う際に放出される炎症性サイトカイン | 自律神経の乱れ(交感神経の過緊張) |
| 解熱剤 | 効果あり | 効果に乏しい |
| 血液検査 | 炎症反応が上がる | 異常がないことが多い |
| 熱の傾向 | 終日高い | 午後~夜に上がりやすい |
5.セルフチェックリスト|心因性発熱の可能性を確認
以下のチェック項目に多く当てはまる場合には、心因性発熱かもしれません。
- 37℃台の微熱が続く
- 解熱剤を飲んでも熱が下がらない
- 発熱する前に仕事や育児などで強いストレスがあった
- 頭痛やめまいがある、だるい・疲れやすいと感じる
- 睡眠不足が慢性化している、不眠の症状がある
- 午前中より午後から夜にかけて熱が上がる傾向がある
寝れない状態による発熱の2つのタイプ|高熱型と微熱型の特徴

心因性発熱は、ストレスの種類や持続期間によって、高熱が出るタイプと微熱が続くタイプに分けられます。
1.高熱型(38℃以上)|一時的な強いストレスで急激に上昇
仕事のプレゼンや試験など、急で一時的に強いストレス(急性ストレス)に暴露された直後、まれに38℃以上までに体温が急激に上昇することがあります。原因となるストレスが解消すると、速やかに解熱することが特徴です。
2.微熱型(37℃台)|慢性的なストレスで持続
仕事や育児で、慢性的な睡眠不足、継続的なストレスがかかることが原因となって37℃台の微熱が持続するタイプです。症状は、微熱のほかに、倦怠感、頭痛を伴うことが多く、。ストレスが軽減しても、自律神経の回復に時間がかかるためすぐには解熱せず、長期化する傾向があります。
今すぐできる!寝不足による発熱を改善する5つの対処法

心因性発熱では、そのメカニズムのために薬が有効ではありません。そのため、自律神経を整え、睡眠の質を改善することが基本です。
1.睡眠時間と睡眠の質を見直す|睡眠負債を解説
心因性発熱では、単に寝る時間が短いだけでなく、「眠りが浅い」「途中で目が覚める」といった状態が続くことが問題になります。
厚生労働省は、成人の睡眠時間の目安を6〜8時間としています。3)
睡眠時間が短いことは、生活習慣病のリスクにもなります。日本人男性労働者約4万人を対象とした調査データでは、睡眠時間5時間未満で肥満リスクが1.13倍、メタボリックシンドロームのリスクが1.08倍に上昇することが示されており、生活習慣病の観点からも睡眠不足解消の重要性が裏付けられています。3)
2.呼吸法で自律神経を整える|4-7-8呼吸法の実践
交感神経の過剰な興奮を抑え、副交感神経を優位にする呼吸法は、自律神経の緊張を和らげ熱を下げるのに効果的とされています。呼吸法を就寝前や熱を感じたタイミングで数回ゆっくりと行っていきましょう。
実践方法
- 息を4秒かけて鼻から吸い込む。
- 息を7秒間止める。
- 息を8秒かけて口から吐き出す。
この呼吸法が難しい場合には、息止めはいれず、秒数にこだわらなくてかまいません。自分のペースで、吸う息より吐く息を長くする腹式呼吸を行うだけでも、自律神経を整える効果が期待できます。
3.就寝1〜2時間前の入浴で深部体温を調整
就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂に浸かると、一度上がった体温が下がることで自然な眠気を促すことができます。38~40℃のぬるめのお湯に10~15分ほどつかりましょう。
4.日中の軽い運動で体温調節機能を改善
日中に体温調節を促す運動を行うことは、睡眠不足による体温調節機能が鈍くなるのを防ぎます。たとえば、適度な有酸素運動(ウォーキングなど)はストレス解消に効果的なだけでなく、発汗と末梢血管の拡張を促し、夜に熱が放散するのをスムーズにすることに繋がります。
逆に激しい運動は交感神経を刺激してしまうため睡眠に影響してしまいます。軽く汗ばむ程度の強度で、就寝の3時間前を目安に済ませるようにしましょう。4)
5.朝の光を浴びて体内時計をリセット
体内時計をリセットするには、朝の光を浴びることが最も重要です。朝の太陽光を浴びることで体内時計が整い、日中に分泌されるセロトニンが活性化します。このホルモンが夜になると睡眠ホルモンであるメラトニンの材料となるため、、夜にはこのメラトニンの分泌によってよく眠れるというわけです。15〜30分ほど、太陽光を浴びるようにしましょう。なお、曇りの日でも屋外の光で十分効果があります。
改善の鍵は、睡眠の質を高めて自律神経を整えることです。4-7-8呼吸法で副交感神経を優位にし、就寝1?2時間前の入浴で深部体温を調整、朝の光を浴びて体内時計をリセットしましょう。
ただし、2週間以上微熱が続く、日中の強い眠気や集中力低下がある、睡眠中に異常な体の動きがある場合は要注意です。睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害などの睡眠障害が隠れている可能性があります。総合内科や睡眠外来を受診し、適切な診断を受けましょう。
病院を受診すべき3つのサイン|睡眠障害が隠れている可能性
心因性発熱の対処法を実践しても症状が改善しない場合、あるいは寝不足の解決自体ができない場合には、他の病気や睡眠障害の可能性があるため、病院を受診しましょう。
1.2週間以上微熱が続く
生活習慣の改善を2週間続けても微熱が続く場合や、症状が悪化している場合には、心因性発熱以外の内科的疾患の可能性も考慮し、総合内科などをまずは受診しましょう。
2.日中の強い眠気や集中力低下がある
日中の眠気が強い、集中できない、疲労感が抜けないといった症状がある場合には、睡眠時無呼吸症候群をはじめとした睡眠障害が隠れている可能性があります。睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に大きないびきをかいたり、呼吸が止まってしまう無呼吸発作を起こすことが特徴です。心当たりがある方は一度、睡眠外来を受診しましょう。
3.睡眠中に異常な体の動きがある場合
睡眠中に寝返りをうつ程度であれば問題ありませんが、手足が勝手に動いたり、足がむずむずする不快感で目が覚めたりするなど、異常な体の動きがある場合には受診を検討しましょう。これらは、それぞれ周期性四肢運動障害、むずむず脚症候群という睡眠障害の一種で、睡眠の質を大きく下げてしまいます。これらの睡眠障害では、夜間に自律神経の緊張が繰り返されるため、結果として心因性発熱や微熱が長引く一因となることがあります。神経内科などを早めに受診することが大切です。
眠れない状態による発熱は改善できる|質の良い睡眠で健康的な毎日を

眠れないことが続く状態による発熱(心因性発熱)は、「交感神経の過剰な興奮」と「深部体温の調節がうまくいかないこと」が原因で起こります。睡眠不足で体温が上昇することを示唆した研究報告もあります。
心因性発熱は、炎症による反応ではないため、病院で行う採血検査などでも異常が見つからないことがあるほか、感染症と違って解熱薬が有効ではありません。そのため、薬に頼らず根本的な原因となっている自律神経にアプローチすることが重要です。本記事で紹介した対処法を実践し、質の良い睡眠を確保しましょう。
呼吸法や入浴による深部体温の調整といった日々の生活習慣改善にくわえて、寝具をはじめとした就寝環境を見直すことも重要です。優れた寝具は体温調節を助け、睡眠中の不快感をはじめとしたストレスを軽減することができます。
生活習慣、睡眠環境の見直しを通じて寝不足を改善し、心身ともに健康的な毎日を取り戻していきましょう。
【参考文献】










