睡眠コラム by 南 茂幸2025年7月30日読了目安時間: 6

【医師監修】2日寝ないとどうなる?体と脳に現れる緊急シグナル4つ

森田 麻里子
Child Health Laboratory 代表 / 医師

医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家

2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016年南相馬市立総合病院にて麻酔科医として勤務。2017年の第1子出産をきっかけに、2018年より乳幼児の睡眠問題についてのカウンセリングや講座、企業と連携したアプリ監修など行っている。2019年昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤勤務を経て、現在は大人の睡眠カウンセリングや企業向け睡眠講座も手掛ける。

人は寝ないとどうなるのでしょうか。「徹夜してでも終わらなければいけないことがある」、「どうしてもやらなければいけないことがある」と忙しくされている方や「寝るのがもったいない」、「もっとやりたいことに時間を使いたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。

睡眠不足になると、集中力や記憶力の低下が起こり、仕事や学業でのパフォーマンス低下に繋がります。睡眠不足や断眠によって、免疫力の低下やイライラするなど感情の起伏が激しくなることも少なくありません。本記事では、このように睡眠不足や睡眠負債が溜まるとどのような症状が出るのかなど寝不足や不眠が脳や身体に与える影響について解説します。また、睡眠不足にならないように日常から取り組める改善方法について共有します。睡眠の重要性を認識して、質の高い睡眠を確保しましょう。

 

2日寝ないと起こりうる状態とは? 睡眠不足が招く初期症状

 

徹夜をした時や寝不足が続くと、最初に現れるのは集中力や記憶力の低下です。頭がぼんやりして集中できなくなったり、些細なミスが増えたりします。その結果、仕事や学業で失敗する可能性があります。また、精神面や感情面への影響として判断力が低下するほか、体力的疲労感が増加しだるさを感じることもあります。

このように睡眠不足は気付かぬうちにいろんな場面に悪影響を及ぼしかねません。睡眠不足による変化を一つずつ確認していきましょう。


1日目の睡眠不足で感じやすい変化

たった1日でも、睡眠不足になると様々な変化が起こります。最初に起こるのは集中力の低下です。16〜24時間睡眠を取らないでいると、注意力や集中力が著しく低下します。17時間起き続けた状態の反応速度は、血中アルコール濃度0.05%と同等と言われ、集中力や注意力に加えて記憶力も低下することが分かっています。そのため、会話内容をすぐ忘れたり、作業に時間がかかったりする症状が現れ、ケアレスミスが増え作業パフォーマンスが低下しやすいです。※1

それだけではなく、睡眠不足の状態では気分やモチベーションにも影響があります。報酬への反応が敏感になり、精神的影響にも関わるほか、感情の制御が乱れて趣味や他者との交流が億劫に感じることも少なくありません。※2

1日程度の睡眠不足であれば、パワーナップや睡眠不足を感じた日の夜に早く寝ることでリカバー可能です。

 

連続の断眠が体にもたらすリスク

連続の断眠不足は、精神状態にイライラや不安感の増大など大きな変化をもたらします。不安や抑うつ自殺傾向など負の感情反応を増幅させるだけでなく、社会的な行動をも低下させるため、引きこもりを増加させます。※3

同様に、睡眠の質が低下して日中の機能障害が生じると、社会的排除、自己制御能力、感情制御の障害に影響を与えることも報告されています。※4

このため、感情の起伏が激しくなったり、他者と距離を置くようになったりとコミュニケーションがスムーズにいかないことが増えてくるのです。加えて、睡眠不足によって免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。睡眠時間が5時間未満の人は睡眠時間が8時間の人に比べて、風邪をこじらせて肺炎になるリスクが1.4倍になるとされています。※5

 

睡眠不足が体に及ぼす主な悪影響

睡眠不足になると、生活習慣病のリスクが高まる、集中力が低下する、風邪を引きやすくなる、頭痛やめまいがするなど様々な影響が出ることも深刻な問題です。例えば、睡眠不足による体重増加や肥満リスクの上昇があると言われています。睡眠時間が7〜8時間の人は、肥満や高血圧、脂質異常症リスクが低くなり、睡眠が短くなるほどこれらの病気のリスクが高まるのだそうです。※6

食欲を促すグレリンというホルモンが増加し、食欲を抑えるレプチンというホルモンが減少するのも睡眠不足による症状のひとつで、肥満になりやすいという特長があります。日頃感じている身体の不調は睡眠不足が原因かもしれません。詳しく見ていきましょう。

 

免疫力の低下と感染症リスクの増大

細胞の修復やエネルギー補充が不十分になる

睡眠中は成長ホルモンが分泌されます。睡眠不足や睡眠の質が悪いと、十分に成長ホルモンが分泌されないため、細胞の修復や新陳代謝、エネルギーの再補充が不十分になります。また、体の防御機能が低下し、ワクチンを接種しても抗体反応が低下することが報告されています。※7

4時間睡眠を1晩しただけで、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の活性が72%に低下したとの報告も注目です。※8

リンパ球の一種であるNK細胞は、体内に侵入した異物や異常細胞を攻撃・排除する役割があり、ウイルスやがんの増殖を防いでくれますが、睡眠不足の影響で働きが悪くなって感染症リスクが増大するというわけです。

頭痛やめまいがする

 睡眠不足が続くとストレスを感じやすくなり、ストレスに対応するためコルチゾールというストレスホルモンを分泌させます。コルチゾールは交感神経を刺激するため、ストレスが続くと自律神経のバランスが失われて頭痛やめまい、耳鳴り、動機などの不調が引き起こされることがあります。睡眠時間とうつ・不安との関係では、睡眠時間が5.5時間未満の中学生は、睡眠時間を十分に取っている生徒と比べて、うつや不安の症状がある割合がが3倍以上となっていたことも分かっているのです。※9

 

睡眠不足が脳機能へ与える影響

 

睡眠不足が脳へ与えるダメージは軽視できません。集中力や注意力の低下、記憶力の低下など様々な影響を及ぼし、パフォーマンスが低下していても、それに気づいてない方がほとんどです。この記事を読みながら自分を振り返ってみましょう。

 

集中力や判断力の低下と仕事・学業への支障

睡眠不足が集中力や判断力を低下させ、パフォーマンスを著しく低下させることはすでに分かっています。ある研究では、睡眠時間4時間、6時間、8時間でそれぞれ14日間続けるグループと、3日間徹夜するグループにわけて注意力等の変化を計測しました。その結果、睡眠時間が4時間のグループは最大2日、6時間のグループは最大1日の徹夜をした状態に相当するパフォーマンスとなりました。それだけではなく、パフォーマンスが低下したことにほとんど気づいてなかったと報告されているのです。※10

24名(男女12名ずつ)が一晩の睡眠制限をした場合のワーキングメモリテストを実施した研究では、特に女子で客観的には記憶パフォーマンスが低下した一方で、自己評価ではパフォーマンスに影響していないと判断していることが分かりました。※11

このように睡眠不足は脳の機能を低下させますが、本人は自覚していないままパフォーマンスが低下していることになります。文章を読んでも内容が頭に入らない、言われたことを忘れてしまう、思ったような成績を上げられないなど仕事や学業へ知らないうちに影響しかねません。

感情のコントロールが難しくなる

睡眠不足になると感情のコントロールも効きにくくなることが分かっています。一晩徹夜した人は、通常通り睡眠をとった人に比べて扁桃体の活性化が60%以上も高くなり、理性や感情抑制を担う前頭前皮質との機能的結合が大幅に低下していました。※12

扁桃体は恐怖、怒り、不安など特にネガティブな感情に関わる重要な役割を持っています。扁桃体が活性化するということは、些細な刺激でイライラしやすくなるということです。

 

短期・長期の断眠実験に見る人体への深刻な影響

(画像)

人は寝ないとどうなるのでしょうか。11日間眠らないという挑戦をした高校生がいます。その結果、断眠後2日目から怒りっぽくなり、次第に集中力を欠いた上、4日目には妄想が出現、7日目には会話も困難になったそうです。つまり、2日寝ないと、身体的には問題はなくても精神的にはかなり危険な状態に陥ります。人の進化の過程において睡眠が消えることがなかったということは、睡眠は人が生きていくために不可欠な要素であるという証左といえます。

 

日常からできる睡眠不足の予防策

 

睡眠不足がたった一晩だったとしても心身ともに悪影響を及ぼすこと、徹夜ではなくても睡眠時間が短い日を続けると気づかないうちにパフォーマンスが低下することはすでにお伝えしました。睡眠時間をしっかり確保し、睡眠の質を高めることが重要です。睡眠の質を高めるために日頃からできる行動をお伝えします。

生活リズムを整える重要性と朝の太陽光の活用

質の良い睡眠を作るために最も重要なことは、体内時計を整えることです。体内時計が整うと、ホルモンや体温などの調整ができるようになり、特に睡眠には欠かせないメラトニンというホルモンの分泌が安定することで自然な眠気を感じ、深い眠りに繋げてくれます。メラトニンが分泌されるタイミングは体内時計の影響で決まっています。

体内時計を整えるためには、起床時間と就寝時間をある程度一定に保ち生活リズムを安定させることが大切です。平日と休日で起床時間や就寝時間を大幅に変えてしまうと、体内時計が乱れかねません。できるだけ、一定の時間で行動しましょう。また、夜は強い光を浴びないことが大切です。夜に光を浴びると、外は夜なのに脳が昼だと勘違いして体内時計が乱れやすいです。特に、寝る前1時間程度はスマホやPCなどは控えましょう。部屋の照明を暖色に変えたり、調光によって自然と暗くしていく工夫も大切です。

そして、朝起きたら日の光を浴びることが大切です。光を浴びることで体内時計がリセットされます。 そのほか、日中に運動をする、食事をする時間を一定にするといった工夫も体内時計を整え、睡眠の質を高める助けになるでしょう。

食事・栄養のバランスを見直すポイント

夕食のタイミングは睡眠の質に影響します。寝る直前まで食事をしていると、消化器官の動きによって体が”活動モード”になってしまい、眠りにくくなります。夕食は就寝の2~3時間前に済ませることが理想です。

良質な睡眠には朝食の内容も大切です。睡眠ホルモンであるメラトニンは、セロトニンから作られ、セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られます。摂取したトリプトファンから日中にセロトニンが分泌され、夜にメラトニンに変わるという流れです。トリプトファンは乳製品、大豆製品、バナナなどに多く含まれています。また、ビタミン、ミネラルも代謝や体内時計を調整するためには必須です。トリプトファンを意識しつつ、ビタミン、ミネラルの補給を忘れないようにしましょう。忙しくてバランスの良い食事が摂れない場合はサプリメントの活用も検討してみてください。

 

まとめ・総括:2日寝ない状態を避け、質の高い睡眠を確保しよう

睡眠不足は脳や身体に多大なる影響をもたらします。一晩寝ないだけ、睡眠時間を短くするだけと軽く考えてはいけません。集中力や注意力、記憶力などの低下をもたらします。また、風邪をひきやすくなり、感情コントロールが乱れてイライラしやすくなるため、仕事や学業、プライベートなど様々な場面に影響してしまいます。睡眠時間を確保し、睡眠の質を高めるためには、生活リズムを整えて体内時計を調整したり、食事や栄養バランスを意識したりすることが欠かせません。場合によっては、寝具や睡眠環境を見直すことも必要でしょう。日々の生活を整え、睡眠時間を確保して質の高い睡眠を手に入れませんか。

参考

※1 Fatigue, alcohol and performance impairment

※2 Sleep deprivation amplifies striatal activation to monetary reward

※3 Sleep Loss and the Socio-Emotional Brain

※4 The impact of sleep quality on emotion regulation difficulties in adolescents: a chained mediation model involving daytime dysfunction, social exclusion, and self-control

※5 A prospective study of sleep duration and pneumonia risk in women

※6 The association between sleep duration, body mass index and metabolic measures in the Hordaland Health Study

※7 Sleep and vaccine administration time as factors influencing vaccine immunogenicity

※8 Partial sleep deprivation reduces natural killer cell activity in humans

※9 Sleep Duration Associated with the Lowest Risk of Depression/Anxiety in Adolescents

※10 The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation

※11 A single night of sleep loss impairs objective but not subjective working memory performance in a sex-dependent manner

※12 The human emotional brain without sleep — a prefrontal amygdala disconnect