目次
監修者

後平 泰信
医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院(名称変更) 病院長 現職。
【研究分野】睡眠全般、睡眠時無呼吸症候群、内科全般、循環器内科、スポーツ医学、遠隔医療、地域医療
明るくハキハキとした話し方で、専門的な内容もわかりやすく伝える。特に睡眠医療の分野で多数の講演・メディア出演歴があり、CPAP治療やいびき・睡眠負債など、広く深い見識から生活に密着したあらゆる話題にも柔軟に対応。寝具などスリープテック領域の開発や監修にも多数関わった実績あり。
若返りや身長アップといった効果が謳われる成長ホルモン。「食べ物で増やせる」「筋トレをすると増える」「睡眠が大事」など、成長ホルモンに関する情報は断片的で、何を信じて何から手をつければいいのか判断するのが難しいです。
子どもの身長が気になる保護者の方もいれば、大人になってから「疲れが抜けない」「体脂肪が落ちにくい」と感じ、加齢による成長ホルモンの分泌低下を不安に思う方もいます。
この記事では、成長ホルモンが出やすいタイミングと体内でのホルモンの役割を解説し、睡眠・食事・運動の順に、効果が出やすい行動をまとめています。さらに、成長ホルモンに関連するといわれるアルギニンなどの話題の成分やサプリメントに対する期待値と注意点も整理します。
本記事を読むことで、過剰な情報に振り回されず、成長ホルモンについて必要な知識を正しく知り、毎日に活かすことができるようになります。
成長ホルモンとは 役割と分泌の基本
成長ホルモンを増やすためには、まず「いつ」「何のために」分泌されるホルモンなのかを正確に把握する必要があります。
成長ホルモンの働き 成長だけでなく代謝と回復にも関係
成長ホルモン(HGH:ヒト成長ホルモン)は、脳の底にある下垂体(かすいたい)という器官から分泌されるホルモンです。
子どもの頃は、骨を伸ばし筋肉を発達させる「成長」の主役として働きます。一方、大人にとっても、傷ついた細胞の修復、疲労の回復、体脂肪の燃焼、肌つやの維持、免疫力の維持などに深く関わっています。そのため、大人の間では代謝を保つ「若返りホルモン」と呼ばれることもあります。子どもから大人まで誰にとっても重要なホルモンということです。
分泌のタイミング 入眠直後の深い睡眠が重要
成長ホルモン分泌の大部分は、実は夜間の睡眠中に集中しています。一日中、一定の量が分泌されているわけではありません。
成長ホルモンは睡眠初期に訪れる深い睡眠(ノンレム睡眠)のタイミングに盛んに分泌されます。※1
レム睡眠とノンレム睡眠は、一晩の睡眠中に約90分前後の周期で繰り返されているため、眠りについた最初の約90分間にいかに深く眠れるかが、成長ホルモン分泌の最大の鍵を握ります。※2
子どもと大人で目的が違う 身長と若々しさの整理
「成長ホルモンを増やす」という目的は、年代によって大きく異なります。
子ども(成長期)の場合は、低身長の予防や健やかな発育が主な目的です。一方、大人の場合は、加齢とともに減少する分泌量を少しでも維持し、細胞の修復、肌つやの維持などによって疲労回復やコンディション調整につなげることが目的となります。目的は違っても、分泌を促す体内のメカニズムと生活習慣の基本ルールは共通しています。
成長ホルモンを増やす3本柱 睡眠・栄養・運動の優先順位
特定の食べ物や筋トレだけに集中して対策しても、成長ホルモンは効率よく分泌されません。実生活では、「睡眠→栄養→運動」の優先順位で環境を整えると効果的です。
成長ホルモンのゴールデンタイムである入眠してから最初の眠りを良質なものにするとともに(睡眠)、その材料を欠かさず(栄養)、成長のための刺激を適度に入れる(運動)ことで効率よく成長ホルモンの分泌を促すことができます。サプリメントなどはあくまでも補助的なもので、過度の期待をせず、生活を整えることが重要です。
まず睡眠!分泌の土台を作る
成長ホルモンは、睡眠初期にその大部分が分泌されるため、やはり最も重視すべきは睡眠の質と量です。
どんなに高価なサプリメントを飲み、激しい運動をしても、入眠直後の徐波睡眠(深い睡眠)が正しく確保できなければ成長ホルモンの分泌が損なわれます。まずは睡眠を阻害する要因を取り除くことから始めます。具体的には、就寝前の行動や、カフェイン、光、室温などを調整します。
次に栄養。材料不足を防ぐ
睡眠の土台ができたら、次に身体づくりや回復の「材料」となる栄養を揃えます。
成長ホルモンそのものを特定の食べ物だけで劇的に増やすことは困難です。しかし、分泌を促すアミノ酸(タンパク質)や、身体の機能を助けるミネラル(亜鉛、マグネシウム、鉄分など)が不足すると、せっかく分泌された成長ホルモンが成長や回復を促していても十分に効果を発揮することができません。
そして運動!刺激として取り入れる
睡眠と栄養が整った上で、分泌を後押しする「物理的な刺激」として運動を取り入れます。
筋肉に負荷をかけることで、身体は「組織を修復し、さらに強くしなければならない」と認識し、成長ホルモンの分泌量が高めます。ただし、運動のタイミングや強度を誤ると睡眠の質を下げてしまうため、正しい組み合わせ方が必要です。
睡眠で成長ホルモン分泌を高める 今日からできる習慣
入眠直後の深い睡眠(徐波睡眠)を確実に確保するための具体的な行動を確認しましょう。これに沿って行えば、みなさんの睡眠も正しく確保することができます。
眠りの質を上げる最重要ポイント:入眠直後を守る
成長ホルモンを最大限に引き出すには、布団に入ってから速やかに深い眠りに到達する必要があります。
そのためには、就寝時刻をできるだけ固定し、体内時計を整えます。また、就寝1〜2時間前にぬるめのお風呂に浸かると、一度上がった体温が下がることで自然な眠気を促すことができます。※3
夕方以降のカフェインと血糖値急上昇を避ける
「寝つけない」「中途覚醒する」という事態を防ぐため、睡眠前の行動にも気をつけます。
厚生労働省の健康づくりガイドラインにおいても、夕方以降のカフェイン摂取は入眠困難や徐波睡眠の減少を招くと指摘されています。※3
コーヒーだけでなく、緑茶やエナジードリンク、栄養ドリンクの摂取時間にも注意します。
また、就寝直前の食事は厳禁です。食後に血糖値が急上昇し、それを下げるためにインスリンが分泌されている間は、成長ホルモンの分泌が強く抑え込まれてしまいます。夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませ、空腹に近い状態で眠りにつくとよいでしょう。※4
寝室環境を整える 光・温度・音の基本
睡眠環境の物理的な不快感は、深い睡眠を妨げる直接的な原因となります。
寝室の遮光カーテンで外からの光を遮り、就寝前のスマートフォンなどのブルーライトへの曝露をやめて、脳の興奮を防ぎます。また、入眠時の深部体温の低下を助けるためには、背中側に熱がこもらない通気性と、寝返りを妨げない適度な体圧分散性を持つ寝具が重要になります。
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食事と栄養で支える タンパク質・ミネラル・食べ方の設計
成長ホルモンの働きを支えるための、食事の具体的な設計方法を解説します。
基本はタンパク質 不足しやすい人のチェック
身体の組織を作る主原料となるのがタンパク質です。
朝食をパンだけで済ませている人や、間食に糖質ばかり摂っている人は、1日の総タンパク質摂取量が不足しがちです。肉や魚だけでなく、ゆで卵、納豆、豆腐などの大豆製品を毎食少しずつ足すことで、無理なく摂取量を増やすことができます。
ミネラル(亜鉛・マグネシウム・鉄)を食事で補う
タンパク質の合成を助け、身体の調子を整えるミネラルも意識的に取り入れます。
亜鉛は牡蠣や牛肉に、マグネシウムは海藻やナッツ類に、鉄分はレバーやほうれん草に多く含まれます。これらを「これだけ食べれば良い」と単一の食材に偏らせるのではなく、日々の食事の副菜としてバランスよく摂取できることが理想です。また、過剰摂取は胃腸障害などのリスクがあるため、通常の食事から補いましょう。
夜の食べ方 睡眠を邪魔しない工夫
夜の食事は、睡眠の質と成長ホルモンの分泌に直結します。
どうしても帰宅が遅くなり夕食が就寝直前になる場合は、消化に時間のかかる揚げ物や脂身の多い肉を避けます。うどんや豆腐など、胃腸への負担が少ない消化の良いものを選び、量も腹八分目に抑えることで、睡眠中の胃腸の働きを最小限にし、深い眠りを守ります。
厚生労働省は、帰宅が遅い場合の対応として、夕食を2回に分けて食べる分食(おにぎりなどの主食を夕方に摂り、帰宅後の遅い時間におかずなどの副食を軽く摂る)を進めています。体内時計が乱れにくく、夜間の睡眠への影響も比較的小さいと考えられる方法です。※3
運動・筋トレで分泌を促す 続けやすいメニュー例
運動は成長ホルモン分泌の強力なスイッチになります。実践しやすい取り入れ方を整理します。
筋トレの基本 大筋群を使うメニューに寄せる
筋肉に負荷がかかり、乳酸などの疲労物質が蓄積すると、脳下垂体が刺激されて成長ホルモンが分泌されます。
太ももや背中などの「大筋群(大きな筋肉)」を使う種目が適しています。特別な器具は不要です。自宅で行うスクワットや、階段の昇り降りなど、下半身をしっかり使う自重トレーニングから始めましょう。
有酸素運動の取り入れ方 継続できる頻度と時間
ジョギングやウォーキング、縄跳びなどの有酸素運動も有効です。
運動初心者の場合、最初から毎日長距離を走ると疲労が蓄積し、かえって体調を崩します。週に2〜3回、1回20〜30分程度の「軽く汗をかくレベル」から運動習慣をスタートさせます。
運動強度の目安と注意点 やりすぎより睡眠優先
運動の強度(METs:メッツ)が高いほど、成長ホルモンの分泌量が増加する傾向があるという国内研究の報告があります。例えば、自転車運動よりも走る運動の方が、成長ホルモンは分泌されやすいことが報告されています。※5
しかし、強度を上げれば良いというわけではありません。息が激しく上がるほどの高強度トレーニングを就寝の1時間前までに行うと、交感神経が優位になりすぎて夜眠れなくなります。※3
運動は夕方から就寝までに十分な時間をあけて行うか、睡眠時間が削られるくらいなら睡眠を優先する、としましょう。
サプリ・成分・治療の注意点 期待値の調整と安全性
成分やサプリメントに関する誇大広告に惑わされないためにはどのように判断したらよいでしょうか。
よくある成分(アルギニン・オルニチン等)の位置づけ
アルギニン、オルニチン、グルタミンといったアミノ酸や、DHEAなどのホルモン前駆体が、成長ホルモンの分泌に関与することは事実です。
しかし、これらはあくまで「食事から摂取するタンパク質の一部」です。睡眠不足や不規則な食生活を放置したまま、特定の成分だけをサプリメントで大量に摂取しても、根本的な解決にはなりません。生活習慣を整えた上での「補助」として考えることが大切です。
身長が伸びるサプリの注意点 誇大広告に引っ張られない
「飲むだけで身長が伸びる」と謳うサプリメントには注意しましょう。
国立健康・栄養研究所や日本小児内分泌学会によれば、サプリメントに含まれる程度のアルギニンやカルシウム製剤の経口摂取によって、直接的に成長ホルモンの分泌が促進され、身長が伸びるという医学的・科学的な根拠は確認されていません。※6
広告表現に引っ張られず、冷静に判断することが重要です。
受診を検討すべきサイン 子どもの低身長と大人の不調
生活習慣を整えても改善が見られない場合、自己判断でサプリメントに頼り続けるのは危険です。
子どもの場合、母子手帳の成長曲線を大きく下回っている、あるいは急に身長の伸びが止まったなどのサインがあれば、小児内分泌の専門医への相談を検討します。
大人の場合も、日常生活に支障をきたすほどの強い疲労感や睡眠障害が続くようであれば、背後に睡眠障害などの疾患が隠れているおそれがあるため、一般内科や睡眠外来を受診する目安となります。
まとめ:成長ホルモンを増やす近道は睡眠を整えること
成長ホルモンを自然に増やすためには、サプリメントや特定の食べ物に依存するのではなく、正しい優先順位で生活を整えることが近道です。
最大の鍵は「入眠直後の深い睡眠(徐波睡眠)」です。就寝前のカフェインを控え、夕食を早めに済ませて空腹状態で眠りにつくことから始めましょう。その土台の上に、タンパク質を中心とした栄養バランス、有酸素運動や筋トレを積み上げることで、十分な成長ホルモンの分泌が実現します。
ひとつの要素に過度な期待を持つのではなく、今日からできる具体的なステップで実行に移しましょう。本記事を読み終えたら、スムーズな入眠を助ける就寝前習慣と寝室環境の見直しから始めてみることをおすすめします。
関連記事:今日から実践できる、毎日の快眠ルーティン
参考
※4 厚生労働省 解説書 良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと
※5 運動強度(METs)と成長ホルモン分泌の関連について 宇都宮由依子、橋田 誠一
※6 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報




