目次
監修者

松岡 雄治
地方国立大学医学部卒業後、横浜市内で初期臨床研修を経て、関東の基幹病院で勤務中。
資格:医師国家試験合格、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級
「以前より早く目が覚めるようになった」「6時間ほどしか眠れない」「夜中に何度も起きてしまう」。60代になり、若い頃のように7〜8時間ぐっすり眠れなくなると、睡眠不足ではないか、健康に悪いのではないかと不安になる方は少なくありません。
日中の眠気や疲れが残ると、年齢のせいなのか、何らかの不眠のサインなのか判断に迷うこともあるでしょう。しかし、60代で睡眠時間が短くなることは、多くの人が経験する自然な変化です。
この記事では、60代の睡眠時間の目安や、睡眠が短く・浅くなりやすい理由を解説します。睡眠時間の長さだけに捉われず、日中の眠気や休養感をもとに、自分に合った睡眠を見直すヒントとしてお役立てください。
60代の睡眠時間の目安
厚生労働省が示す基準によると、60歳以上は「6〜8時間」の目安が示されています。※1
ただし、適切な睡眠時間には個人差があり、年齢によっても異なります。睡眠時間よりも「日中の状態」や「睡眠休養感(睡眠で休養が取れた感覚)」に注目するとよいでしょう。
日中に強い眠気がなく、生活に支障がなければ、睡眠時間が短めでも過度に心配する必要はありません。朝起きたときのすっきり感や、日中の集中力を目安にしましょう。反対に、時間を気にして無理に寝床で長時間過ごすと、睡眠の質を下げるおそれがあります。
なお、厚生労働省の調査では、「ここ1か月に睡眠で十分に休養が取れている」と回答した人の割合は、60歳以上で男性87%、女性85.3%と報告されています。※2
これは、他の年代と比べて比較的高い水準です。
※1 国立健康・栄養研究所「健康日本21(第三次)目標一覧」
60代で睡眠時間が短くなる理由
加齢とともに、睡眠が浅く短くなるのは、体の変化による自然な現象です。この原因としては、体内時計の乱れや睡眠のしくみ自体の変化が挙げられます。なぜ以前と同じように眠れなくなるのか、その背景を解説します。
1. 体内時計が前倒しになり早く目が覚めやすい
60代以降は、概日リズム(約24時間周期の体内時計)が前倒しになりやすくなります。そのため夜早く眠くなり、朝早く目が覚める傾向が強まります。早朝に目が覚めること自体は、加齢に伴う自然な変化です。早朝の覚醒をすべて「不眠」と決めつける必要はありません。
就寝が早すぎると、その分だけ早朝に目が覚めやすくなります。気になる場合は、「就寝時刻が早すぎないか」「日中の活動量は足りているか」を見直してみましょう。
2. 深い睡眠が減り夜中に目覚めやすくなる
加齢に伴い、深いノンレム睡眠(脳も体も休息する深い睡眠段階)が減り、全体的に眠りが浅くなります。夜中に1〜2回目が覚めること自体は、珍しいことではありません。再びすぐに眠れて、日中に支障がなければ、過度に心配する必要はないでしょう。
ただし、何度も目が覚める、再び眠れない、日中に強い眠気があるといった状態が続く場合は、生活習慣を見直すサインと考えられます。
睡眠時間ごとの特徴
睡眠時間は「5時間」「6時間」「7〜8時間」、それぞれで注目すべきポイントが異なります。睡眠時間だけで不安になったりするのではなく、日中の体調や寝床で過ごす時間もあわせて考えることが大切です。
1. 5時間睡眠は日中の不調がないか確認する
5時間睡眠は60代では短めですが、すぐに異常とは言えません。判断の目安になるのは、日中の状態です。次のような症状がないかを確認してみましょう。
- 日中の眠気
- 強い疲労感
- 集中力の低下
- 意図しない居眠り
このような不調が見られなければ、その人には十分な睡眠時間である可能性があります。一方、不調がある場合は、慢性的な睡眠不足の可能性があります。生活習慣や寝室環境を見直すことを検討しましょう。
2. 6時間睡眠は60代では珍しくない
6時間睡眠は、60代では標準的な範囲のひとつです。日中に支障がなければ、過度に不安になる必要はありません。もし6時間眠っても疲れが取れない場合は、睡眠の質に目を向けてみましょう。寝床に入る時間や、夜間に目が覚める回数をチェックすると、原因が見えてくることもあります。
3. 7〜8時間眠る場合は寝床の時間も見る
7〜8時間眠れている場合は、健康的な範囲といえるでしょう。ただし、寝床にいる時間(床上時間)が適正かどうかも、確認しておきたいポイントです。厚生労働省の睡眠ガイドでは、高齢者が寝床で過ごす時間が8時間を超えて長くなると、健康面のリスクにつながる可能性があると指摘されています。※3
実際の睡眠時間に対して、寝床にいる時間が長すぎないか注意しましょう。長く眠っているのに休養感がない場合は、就寝時刻や起床時刻を固定するなど、睡眠効率を高める工夫が役立つでしょう。
60代が睡眠の質を下げやすい生活習慣
睡眠時間だけでなく、生活習慣が睡眠の質を大きく左右します。例えば、寝酒や、喫煙習慣は眠りの質を下げてしまうことが指摘されています。以下の項目をチェックし、睡眠を妨げる行動をとっていないか見直してみましょう。
1. 昼寝が長いと夜の寝つきに影響する
昼寝は、長くとりすぎると夜の寝つきを妨げる場合があります。厚生労働省の資料では、30分以上の昼寝習慣が将来の健康面のリスクを高める可能性が指摘されています。※3・4
日中に強い眠気を感じる場合は、昼食後から15時までの間に、30分以内の短い昼寝にとどめましょう。夕方以降の長い昼寝は夜の眠りに影響しやすいので、避けるのがおすすめです。
2. 寝床にいる時間が長いと眠りが浅くなりやすい
実際に眠っている時間と、布団やベッドにいる時間は、分けて考える必要があります。「眠れないから早く寝床に入る」という行動は、かえって寝つきを悪くすることがあります。
寝床で眠れない時間が続くと、「寝床は眠れない場所」という誤った認識をもつようになるとされており、高齢になるほど床上時間は長くなりやすいので、意識して短くする工夫が役立つでしょう。眠くなってから寝床に入るよう心がけると同時に、起床時刻を一定に保つと睡眠リズムが安定しやすくなります。
60代の快眠のために見直したいポイント
睡眠時間を無理に伸ばすのではなく、質を高める行動から始めてみましょう。朝の光、日中の活動量、寝室環境など、今日からできる工夫を取り入れてください。
1. 朝の光と日中の活動で睡眠リズムを整える
朝の光を浴びることは、睡眠リズムを整える基本です。朝起きたらすぐにカーテンを開けて朝日を浴びると、体内時計が整いやすくなります。
日中は、散歩や家事など、無理なく体を動かす時間をつくりましょう。適度な活動量を確保することが、夜の深い睡眠につながると考えられています。特別な運動でなくても、日常のなかで体を動かす機会を増やすことから始めれば十分です。
2. 寝室の光・音・温度を整える
寝室や寝具の環境が、眠りの妨げになっているケースもあります。部屋が明るすぎないか、騒音はないか、温度は快適かをチェックしてみましょう。
夕方以降は部屋を暗めに調光し、寝るときには部屋をしっかり暗くするのがおすすめです。光の量を意識することで、自然な眠気が出やすくなります。あわせて、自分に合う寝具を使っているか、寝返りのしづらさがないかも確認しておきたいポイントです。
3. 眠れない状態が続くときは専門家に相談する
睡眠不足を抱え込みすぎず、専門家の力を借りることも大切です。受診の目安を知っておきましょう。
- 日中の強い眠気や生活への支障、長期間続く不眠がある場合は注意が必要である
- 気分の落ち込みや、大きないびき・無呼吸が疑われる場合は、かかりつけ医や睡眠外来に相談する
60代の睡眠時間でよくある質問
60代の睡眠時間について、よく質問される内容に回答します。
Q1. 60代で10時間寝るのは寝すぎ?
10時間という長さよりも、「眠れている時間」と「寝床にいる時間」を分けて考えることが大切です。
実際に眠れている時間は短いのに、寝床に長くいるだけの可能性があります。長く寝床にいるのに疲れが取れない場合は、睡眠効率や生活リズムの乱れを疑ってみましょう。
Q2. 60代で夜中に何度も目が覚めるのは普通?
夜中に目が覚めること自体は、加齢に伴う自然な変化です。ただし、その程度によって対応が変わります。
数回目が覚めてもすぐに再び眠れて、日中に支障がなければ、しばらく様子を見て問題ありません。一方、再び眠れず翌日の疲労感が強い場合は、生活習慣の見直しを検討しましょう。
Q3. 60代は何時に寝て何時に起きるのが理想?
就寝時刻にこだわるよりも、起床時刻を一定にすることを優先しましょう。起きる時間がそろえば、睡眠リズムは安定しやすいです。
早く寝すぎると、夜中や早朝に目が覚めやすくなるため、ライフスタイルに合わせて、無理のないスケジュールを考えることが大切です。
60代の睡眠時間は長さだけでなく質と日中の状態で考えよう
60代の睡眠時間は6〜8時間がひとつの目安ですが、6時間程度でも日中に支障がなければ過度に不安になる必要はありません。加齢によって睡眠が短く浅くなるのは自然な変化です。「8時間寝なければ」という思い込みを手放すことが大切です。長く寝床に居すぎないこと、そして朝の光や日中の活動量を見直すことが質のよい睡眠につながります。
ただし、5時間睡眠で不調がある、10時間寝ても疲れが取れない、夜中に何度も目覚めてつらいといった状況が続く場合は、医師に相談しましょう。
また、睡眠の質を整えるうえでは、寝室環境や寝具を見直すことも有効な方法のひとつです。ご自身の睡眠を、無理のない範囲で見直すきっかけにしてみてください。





