睡眠コラム by 南 茂幸2025年11月25日読了目安時間: 5

【医師監修】高齢者の理想的な睡眠時間は?年齢による睡眠の変化と質を高める方法

森田 麻里子
Child Health Laboratory 代表 / 医師

医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家

2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016年南相馬市立総合病院にて麻酔科医として勤務。2017年の第1子出産をきっかけに、2018年より乳幼児の睡眠問題についてのカウンセリングや講座、企業と連携したアプリ監修など行っている。2019年昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤勤務を経て、現在は大人の睡眠カウンセリングや企業向け睡眠講座も手掛ける。

「夜中に何度も目が覚める」「若い頃のようにぐっすり眠れない」「朝早く目が覚めてしまう」ーこうした悩みを感じている高齢者は少なくありません。65歳を過ぎると、平均的な睡眠時間は約6時間前後まで短くなります。しかし、これは加齢による自然な変化であり、決して異常ではありません。

九州大学の「久山町研究」によると、60歳以上を対象にした調査で、睡眠時間が5.0〜6.9時間の人が最も認知症リスクが低いことがわかりました。一方、5時間未満では2.64倍、10時間以上では約2.23倍もリスクが上昇するという結果も示されています(※1)。つまり、「8時間眠らないと健康に悪い」という考えは高齢期には当てはまりません。

本記事では、

  • 加齢によってなぜ睡眠が浅く短くなるのか
  • 年齢別の理想的な睡眠時間
  • 睡眠の質を高める具体的な方法
  • 医療機関を受診すべき睡眠障害のサイン

について、最新の研究データをもとにわかりやすく解説します。

 

高齢者の睡眠時間が短くなる5つの理由

高齢者になると「寝てもすぐに目が覚める」「朝早く目が覚めてしまう」といった変化が現れます。これは、体内時計の変化や日中活動量の低下、メラトニンなどのホルモン分泌、生活リズムの変化などによって起こる自然な現象です。ここでは、その主な5つの理由を見ていきましょう。

1. 加齢による深い睡眠(ノンレム睡眠)の減少

若い頃は、脳や身体をしっかり休める深い眠り(深いノンレム睡眠)が全体の約20%を占めています。しかし、65歳を過ぎるとこの深い眠りが10-15%と大幅に減少し、代わりに浅いレム睡眠が増える傾向があります(※2)。

深い睡眠が減ることで、夜間に目が覚めやすくなり、熟睡感が得られにくくなります。これは「老化現象」の一部であり、健康な人にも自然に起こる変化です。

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2. 体内時計の前倒しによる早寝早起き傾向

人間の体内時計(概日リズム)は、加齢とともに前倒しになることがわかっています。これは体温やホルモン分泌のリズムが早まるためで、夜になると眠気が早く訪れ、早朝に目が覚めやすくなるのです。

そのため、「夜明け前に目が覚める」という早朝覚醒も自然な現象です。早起きの程度にもよりますが、十分に睡眠時間がとれていて、朝多少早くても常識の範囲内の時間であれば、無理に再び眠ろうとするより、起きて朝日を浴び、軽く体を動かすほうが体内リズムを整えるうえで効果的です。

3. 日中活動量の低下による睡眠必要量の減少

退職や外出機会の減少により、日中の活動量が減ることも睡眠時間の短縮につながります。また、人との交流が減ることで脳への刺激が減ることも関係することがあります。体があまり疲れていないと、当然ながら長時間眠る必要がなくなります。軽い運動や家事などで心地よい疲労を感じることが、夜の眠りの質を高めるポイントとなるでしょう。

4. メラトニン分泌量の加齢による減少

睡眠を促すホルモン「メラトニン」は、脳の松果体から分泌され、夜になると増加して眠気を引き起こします。しかし、このメラトニン分泌は加齢とともに減少します。さらに、外出が減って日光を浴びる時間が短くなると、メラトニンの生成がさらに低下しやすくなるのです。

朝の光を浴びることは、体内時計を整えるだけでなく、夜の眠気を自然に導くためにも重要です。

5. 寝床にいる時間が長すぎることによる睡眠効率の低下

「なかなか眠れないから」といって早めに布団に入り、長く寝床にいると、かえって睡眠効率が悪化します。国立精神・神経医療研究センターの2022年の研究(図4)では、「睡眠休養感のない長い床上時間」は総死亡リスクを上げることが判明しました。

つまり、「長く横になっている=良い睡眠」ではありません。
眠くなってから布団に入り、寝床にいる時間を8時間以内に抑えることが、質の高い睡眠につながります。

 

年齢別の理想的な睡眠時間と健康リスク

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、年齢が上がるほど必要な睡眠時間は短くなります。※3

年齢 平均的な睡眠時間
25歳 約7時間
45歳 約6.5時間
65歳 約6時間

 

では、65歳以上の高齢者にとって最も健康的な睡眠時間とはどのくらいなのでしょうか。

65歳以上の高齢者は6〜7時間が最適

前述の久山町研究では、5〜6.9時間の睡眠をとる高齢者が最も認知症リスク及び死亡リスクが低いことが明らかになりました。つまり、「6時間程度の睡眠でも健康に問題はない」ことが科学的に裏付けられています。むしろ、長時間眠りすぎるとリスクが高まることに注意が必要です。

睡眠時間が短すぎる場合の健康リスク

前述の研究では、睡眠時間が5時間未満では5〜6.9時間と比較して認知症リスク・死亡リスクとも約2倍の増加が確認されています。ただし、5〜6.9時間はひとまとめに解析されているため、5時間睡眠と6時間睡眠のどちらが良いのか、または差がないのかといったことはこの研究からはわからない点に注意しましょう。

睡眠時間が長すぎる場合の健康リスク

国立がん研究センターを中心として共同で行われているJPHCの研究では、10時間以上眠る人の死亡リスクが男性約1.8倍、女性約1.7倍に上昇することが確認されています。※4
そして、長時間の「床上時間」は実際の睡眠時間が短く、寝つけないままの時間や中途覚醒の時間が長くなっている場合が多いのです。
6〜7時間程度の睡眠時間を確保しても「休んだ気がしない」「だるさが取れない」という方は、睡眠時間ではなく睡眠の質(睡眠休養感)に目を向けましょう。

 

高齢者の睡眠の質を高める7つの実践方法

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健康的な睡眠の鍵は、睡眠の質にあります。特に「睡眠休養感」に着目することが大切です。ここでは、厚生労働省日本睡眠学会の推奨事項をもとに、高齢者が今日からできる日中の活動、光の活用など7つの実践方法を紹介します。

1. 日中の活動量を増やし適度な疲労を作る

散歩や軽い体操、家事など、無理のない範囲で体を動かしましょう。日中に適度な疲労を感じると、夜に自然な眠気が訪れやすくなります。特に午前中の活動は、体内時計の調節にも良い効果を与え、睡眠リズムを整える効果があります。

2. 朝の光を浴びて体内時計をリセット

起床後は太陽光を浴びることで、体内時計がリセットされます。これによりメラトニン分泌のリズムが整い、夜に自然な眠気を感じやすくなります。窓越しの光でも効果はありますが、できれば10分程度の外出で太陽光を浴びながら身体も動かすのが理想的です。

3. 寝床にいる時間を8時間以内に制限

長く寝ることが良い睡眠というわけではなく、長く布団に入っていれば長く眠れるというわけでもありません。眠くなってから布団に入り、朝は一定の時間に起きる習慣をつけましょう。睡眠時間が短くても、日中の生活に支障が出なければ問題ありません。

4. 昼寝は15時前に30分以内に留める

昼寝は午後の眠気を軽減する効果があります。ただし、長すぎる昼寝(30分以上)や夕方以降の昼寝は夜の睡眠を妨げるため、15時前に30分以内を目安にしましょう。

5. 寝室環境を整える(温度・湿度・光・音)

快適な睡眠には環境づくりが欠かせません。理想的な寝室環境は、室温18〜26度・湿度50%程度を目安にしましょう。また、遮光カーテンで光を遮り、静かな環境を保ちましょう。枕やマットレスも、首や腰への負担が少ないものを選ぶことが大切です。

6. ストレス管理とリラックス法の実践

「眠らなければ」と焦る気持ちは、かえって脳を覚醒させてしまいます。就寝前は、深呼吸やストレッチ、軽い読書などでリラックスする時間を取りましょう。寝る直前のテレビやスマホは、眠気を妨げるので避けるのがベターです。

7. 睡眠日誌をつけて自分の睡眠パターンを把握

「何時に寝て、何時に起きたか」「夜中に目覚めた回数」などを簡単に記録するだけでも、自分の睡眠傾向が見えてきます。医師に相談する際にも、睡眠日誌は非常に役立ちます。夜中に時計は見ず、朝起きたときに思い出して大まかに記録するようにしましょう。

 

医療機関を受診すべき睡眠障害のサイン

イメージ画像:https://elements.envato.com/senior-caucasian-woman-lying-on-sofa-receiving-blo-ZCF8RFY→2MGオーバー

年齢による自然な変化とは別に、次のような症状がある場合は、医療機関での診断を受けましょう。

  • 大きないびきや呼吸の停止(睡眠時無呼吸症候群の可能性)
  • 脚のむずむず感で眠れない(レストレスレッグス症候群の可能性)
  • 気分の落ち込みや食欲不振を伴う不眠(うつ病による睡眠障害の可能性)

これらは加齢だけでなく病気による影響も考えられるため、早めの受診が安心です。

 

まとめ:高齢者の睡眠は「量より質」を重視しよう

65歳以上の理想的な睡眠時間は6〜7時間「8時間眠れない」と焦る必要はありません。大切なのは、日中元気に活動できるかどうかです。

睡眠の質(睡眠休養感)を高めるためには、

  • 日中の活動を増やす
  • 朝の光を浴びる
  • 寝床にいる時間を長くしすぎない

といった日常の積み重ねが何よりも効果的です。「よく眠れない」と感じたら、睡眠時間ではなく睡眠の質を見直してみましょう。

参考

※1:Association Between Daily Sleep Duration and Risk of Dementia and Mortality in a Japanese Community

※2:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15586779/

※3:健康づくりのための睡眠ガイド2023

※4:The Association Between Habitual Sleep Duration and Mortality According to Sex and Age: The Japan Public Health Center-based Prospective Study

 

メタディスクリプション

65歳以上の高齢者の理想的な睡眠時間は6〜7時間。
久山町研究など日本人10万人以上のデータから、認知症リスクを下げる適切な睡眠時間と、睡眠の質を高める具体的な方法を専門家の知見とともに解説します。