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監修者

古川 由己(Yuki Furukawa)
所属:東京大学 大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 臨床精神医学教室 / ミュンヘン工科大学医学部精神科・心理療法科
プロフィール:日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。
関連リンク:ブログ、Google scholar, Research Map, X (Twitter)
最近「眠れない」と感じていませんか?
「布団に入ってもなかなか寝つけない・・」
「夜中に何度も目が覚める」
「朝早く目が覚めてしまう」
そんな夜が続いていませんか?
こうした状態が続くと、心も体も疲れてしまいます。
この記事では、不眠症の原因と、今日からできるやさしい改善方法をご紹介します。
不眠症ってどんな状態?
- 眠ろうとしても眠れない
- 夜中に目が覚めて寝られない
- 朝早く目が覚める
このように睡眠の質や量に問題があり、とても辛い、もしくは、昼間の生活に支障をきたす状態が続くと、「不眠症」と呼ばれることがあります。
いわゆる寝不足(「睡眠不足症候群」という正式名称もあります)とは違って、寝るための時間や環境がきちんとあるにも関わらず眠れない、というのが不眠症の特徴です。
多少眠れなくても特につらいと感じないし昼間も問題がないという場合は不眠症とは診断されません。
心身の不調と関係することも多いです。うつ病・不安障害や生活習慣病などの心身の不調から不眠症になることもありますし、不眠症から心身の不調につながることもあります。スッキリ眠れると心身の不調が改善されることも多いです。※1
なぜ眠れなくなるの?不眠症の主な原因
不眠症になるきっかけには様々なものがあります。原因の分類方法もいろいろなものがありますが、ここでは1番有名で治療をするうえでも役に立つ、Spielmanの3Pモデルを紹介します。※2
3Pモデルは、predisposing factor (素因)、 precipitating factor (増悪因子)、 perpetuating factor (遷延因子) の頭文字をとったものです。
① 素因
まずは素因です。素因とは、不眠症になりやすい性格や遺伝などのことです。不眠症と関係しますが、基本的には素因だけでは不眠症にはなりません。素因に加えて、後から述べる増悪因子や遷延因子が関連することが多いです。
ものごとを考えすぎてしまう
ものごとを考えすぎてしまう傾向のある人は、不眠になりやすいと言われています。仕事や人間関係、将来の心配など、頭の中が休まらないと眠りづらくなります。
関連記事:【医師監修】いろいろ考えすぎて眠れない時の対処法12選
生活リズムの乱れ
育児介護、夜勤やシフト勤務などで生活リズムが整いづらいと、不眠になりやすいと言われています。寝る時間や起きる時間が毎日バラバラだと、体内時計が乱れて眠りにくくなります。
寝室の環境
暑すぎる・寒すぎる・うるさい、などの場合、、なかなかしっかり眠ることはできません。寝室の環境を整える必要があります。
ただし、寝やすいと感じる環境は人によって様々です。暗くないと眠れない人が、明るくないと眠れない人と同じ部屋で寝ている場合、寝づらく感じるでしょう。アイマスクを活用するなどの工夫が必要かもしれません。
遺伝傾向
これまでの双子研究から、不眠症に関しても遺伝的な影響があることが知られています。※3
② 増悪因子
増悪因子とは、短期的な不眠症状の原因となる因子のことです。「こういうできごとがあると眠れなくなることがあるよね」と多くの方が思うことばかりです。
心理的ストレス
心理的なストレスがかかると眠れなくなる、というのは誰しも経験があるでしょう。人間関係のストレス、仕事上のストレスで眠れなくなるということは珍しくありません。ネガティブなことだけでなく、一般的にポジティブなことでも眠れなくなることがあります。大事なテストやプレゼンの前だけでなくて、楽しみなイベントの前にも眠れなくなることがありますよね。
体の不調
体に痛みがあると眠れなくなることがあります。例えばコロナワクチンを打った場所が腫れて痛みがあって眠りづらくなるということがありえます。腰痛で寝るための姿勢をうまく取ることができないという人もいます。
更年期や、睡眠時無呼吸なども関係していることがあります。うつ病などのこころの不調と睡眠も相互に関係しています。
③ 遷延因子
遷延因子とは、不眠症状を長引かせてしまう因子のことです。増悪因子が誰が見ても不眠に繋がりそうだと思えることが多いのに比べて、遷延因子は意外に思われるかもしれません。
長い時間横になること
意外に思われるかもしれませんが、長い時間横になることは不眠症状を長引かせてしまう代表的な原因です。実際、不眠症状が出たときに横になる時間を長くする人ほど不眠症が長引く傾向があることが知られています※4。不眠症状のある方の多くは、なんとか寝ようとして朝遅くまで布団の中にいたり、昼寝をしようとしてみたり、早くから横になろうとしがちです。しかしそうしても余計に眠りが浅くなってしまうという悪循環に陥りがちです。
寝床での睡眠とは関係のない行動
不眠症の人の多くは寝床で眠れない時間を過ごしていることが多く、「寝床=眠る場所」から「寝床≠眠れないで辛い場所」になっています。寝床で睡眠以外の行動をしていると、余計にそれが身についてしまうのです。
眠れないから布団で音楽を聞いてみたり、考え事をしたり、(ダメだとは知りつつも)いつのまにかSNSを眺めてしまったり、という方は少なくありません。SNSが悪影響だな、SNS中毒になってしまっているなと自覚している人は、デジタルデトックスを検討してみてください※5。世界で一番頭が良い人達が、いかに中毒的に使ってもらうかに知恵を絞ってできあがっているのがSNSなのでなかなか手ごわいですが。。。
アルコールやカフェイン
昼間の眠気をなんとかしようとカフェインをたくさんとるかたもいますが、とりすぎはよくありません。動悸がして焦燥感や不安が強くなる方もいます。特に夕方以降のカフェイン飲料は避けるようにしましょう。
「寝酒」という言葉があるように、寝付くためにお避けに頼る方もいますが、これも実は逆効果です。たしかに寝付きは少し良くなるのですが、アルコールが代謝される過程で覚醒作用のある物質ができるので、夜中に目が冷めやすくなります。トイレが近くなるのとあいまって、睡眠が浅くなってしまい、トータルとしては不眠症状が長引いてしまいます。
今日からできる不眠症のセルフケア
不眠症治療の一番のおすすめは「不眠の認知行動療法」です。なんと、睡眠薬よりも効果があります。「なんか難しそう」と思われるかもしれませんが、ここではそのエッセンスを紹介します。※6,7
① 毎日同じ時間に起きよう
よく眠れなかったという日も、眠れた日も、同じ時間に起きるようにしましょう。
② 昼間は横にならないようにしよう
よく眠れないと、昼寝をして睡眠時間を確保したくなるかもしれませんが、昼寝をしてしまうと次の夜に眠れなくなってしまいます。昼寝はせずに、眠気を次の夜にとっておくようにしましょう。どうしても昼寝がしたい場合でも、午後3時まで、30分までにしておきましょう。夕方以降に寝たり、長く寝たりしてしまうと、次の夜に眠れなくなってしまいます。
③ 夜はしっかり眠くなってから横になろう
なんとか早く寝ようとして、眠くもないのに早い時間から横になる方がいます。眠くもないのに横になっても、眠れません。しっかり眠くなってから横になるようにしましょう。
④ 眠れなくて辛くなったら一度布団から出よう
そろそろ眠れそうだから横になったのに、布団に入ったら目が冴えてしまう、ということもあるでしょう。なかなか眠れずに辛くなってきたら(時間としては15分とか20分が目安とされますが、時間にこだわりすぎないようにしましょう)一度布団から出るようにしましょう。布団では寝る、寝る以外のことはしない、ということを徹底します。
布団から出たら、暗めの部屋でリラックスできることをして過ごしましょう。スマホや仕事など、目が覚めるようなことはさけましょう。またしっかり眠くなってから横になりましょう。
「眠れない」ときに試したい3つの方法
無理に寝ようとしない
眠れないときに、まず思い出していただきたいのは、時々眠れないことがあるのは、自然なことだということです。
あまり眠れなくても気にせず、いつも通りの生活リズムを保つようにしてください。睡眠時間を取り戻そうとして長めに昼寝をしたりすると次の夜余計眠れなくなってしまいます。
「寝なきゃ」と思うほど緊張して眠れなくなってしまいます。
一度ベッドを離れる
なかなか寝られなくて辛く感じるようであれば、一度ベッドを離れてください。布団では寝る、寝る以外のことはしない、ということを徹底しましょう。静かに読書をしたり音楽を聞くなどして、眠気が戻ってきたら寝床に戻ってください。
あえて遅寝早起き
もう一つおすすめなのが、あえて遅寝早起きをしてみることです。不眠症になると、横になる時間が実際に眠れる時間よりも長いために、睡眠が細切れになりがちです。あえて遅寝早起きをすることで細切れになった睡眠がまたまとまったものになります。
それでも眠れないときは、病院に相談してみよう

眠れない状態が1ヶ月以上続いたら、我慢せず専門家に相談をしてみてください。不眠症は他の様々な疾患と合併することがあります。かかりつけ医がいる場合はまずかかりつけ医に相談してください。不安や気分の落ち込みが強い場合は精神科、いびきや寝ている間に、呼吸が止まると指摘されたことがある場合は、耳鼻咽喉科などが候補になるでしょう。いずれにせよ受診したときに眠れない以外にも気になることがあればしっかりと伝えるようにしてください。
病院でできること
不眠症の治療法では、睡眠薬よりも不眠の認知行動療法が優先されるわけですが、残念ながら日本では保険でカバーされていません。長らく睡眠薬による治療だけが行われてきており、医療者の間でも不眠の認知行動療法自体まだあまり知られておらず、ほとんどのクリニック・病院では睡眠薬処方しかされないのが現状です。
睡眠薬ではなく不眠の認知行動療法を希望される場合は、不眠の認知行動療法をやっている医療機関・カウンセリングオフィスを探す必要があります。ワークブックに取り組んでみたり、オンラインカンセリングで取り組むという選択肢もあります。
医療機関の受診を積極的に検討した方が良いのは、不眠以外の症状もある場合です。不眠症以外の病気の検査や治療も必要かもしれません。
以前は合併症がある不眠に関しては、合併症の治療が優先されていました。しかし今では、合併症がある場合でも不眠症は独立した疾患としてしっかり治療対象とすべきだというふうに変わってきています。不眠症の治療を優先するか、合併疾患の治療を優先するか、同時並行して進めるかは主治医の判断になります。
睡眠薬について
依存性を心配される方もいらっしゃいますが、近年は依存の心配が少ないとされる新薬も出ています。不眠の認知行動療法ほどではありませんが、睡眠薬も不眠症に有効です。従来の薬に比べて高価なのがやや問題ですが、薬を希望するか、どのようなタイプを希望するかと言うのも主治医に伝えるようにしてください。「依存性が心配です。依存性がないと言われているものはありますか?」などと聞いていただけるとよいと思います。
よく眠れる生活を続けるために
よく眠れる生活を続けるためには、毎朝同じ時間に起きたり、昼間にしっかり活動するということを意識するとよいでしょう。
ただし、不眠症が改善しても、人生には色々な出来事があるので、また眠れないこともあります。そのときはまた、眠れないことがあるのは自然であることを思い出して、生活リズムを崩さないようにしましょう。
まとめ|眠れない夜に焦らず、自分をいたわることから
不眠症の治し方では「無理に寝ようと頑張りすぎない」ことが大切です。ぜひ、眠れないからといって焦らずに、同じ時間に起きる・昼寝をしない・しっかり眠くなってから横になる、ということを意識してみてください。薬を使わない「不眠の認知行動療法」も役に立つかもしれませんが、場合によっては睡眠薬も助けになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 不眠症は自然に治りますか?
一時的な不眠症状は自然に治ることも多いですが、一度長引いてしまうと自然に改善する確率はそこまで高くありません。不眠症状が長引いてしまっている場合は医療機関での相談も検討してください。
Q2. 睡眠薬に頼っても大丈夫ですか?
睡眠薬をすでに使っていて眠れている場合、主治医の先生と相談しながら上手に付き合っていただければ大丈夫です。睡眠薬を減らしたい、やめたい、という場合は、自己判断せずに主治医の先生と相談しながら進めてください。
睡眠薬をまだ使っておらず、眠れなくてどうしようか迷っている場合、不眠の認知行動療法をうけることを検討してください。不眠の認知行動療法が実行できない場合や、効果が不十分であった場合、睡眠薬を検討してください。医師の指導のもとで慎重に使っていただければ大丈夫です。
Q3. 寝る前におすすめの飲み物は?
誰にでもおすすめの飲み物というのはありませんが、やめておいた方が良い飲み物はあります。カフェイン飲料とお酒です。また、あまり水分をとりすぎるとトイレが近くなってしまうかもしれません。リラックスできると感じるものを少量飲むくらいがよいのではないかと思います。
Q4. 不眠症に効くサプリはありますか?
不眠症に効くことが科学的に証明されたサプリメントはありません。欧州不眠症ガイドライン2023には「生薬療法(西洋ハーブ・漢方を含む)は、エビデンス不足のため不眠症治療には推奨されない (A).」と明記されています。
市販薬によく使われているジフェンヒドラミンを使う方もいますが、こちらも「エビデンス不足およびリスクを考慮し、抗ヒスタミン薬は不眠症治療に推奨されない (A)」です。※8
参考
1.Hertenstein E, Trinca E, Wunderlin M, et al. Cognitive behavioral therapy for insomnia in patients with mental disorders and comorbid insomnia: A systematic review and meta-analysis. Sleep Med Rev. 2022;62:101597. doi:10.1016/j.smrv.2022.101597
2.Spielman AJ. Assessment of insomnia. Clin Psychol Rev. 1986; 6(1):11–25.
3.Barclay NL, Kocevska D, Bramer WM, Van Someren EJW, Gehrman P. The heritability of insomnia: A meta-analysis of twin studies. Genes Brain Behav. 2021;20(4):e12717. doi:10.1111/gbb.12717
4.Perlis ML, Morales KH, Vargas I, et al. The natural history of insomnia: Does sleep extension differentiate between those that do and do not develop chronic insomnia?. J Sleep Res. 2021;30(5):e13342. doi:10.1111/jsr.13342
5.Calvert E, Cipriani M, Dwyer B, et al. Social Media Detox and Youth Mental Health. JAMA Netw Open. 2025;8(11):e2545245. Published 2025 Nov 3. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.45245
6.Furukawa Y, Sakata M, Furukawa TA, Efthimiou O, Perlis M. Initial treatment choices for long-term remission of chronic insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Psychiatry Clin Neurosci. 2024;78(11):646-653. doi:10.1111/pcn.13730 日本語解説ブログ
7.Furukawa Y, Sakata M, Yamamoto R, et al. Components and Delivery Formats of Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia in Adults: A Systematic Review and Component Network Meta-Analysis. JAMA Psychiatry. 2024;81(4):357-365. doi:10.1001/jamapsychiatry.2023.5060
8.Riemann D, Espie CA, Altena E, et al. The European Insomnia Guideline: An update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023. J Sleep Res. 2023;32(6):e14035. doi:10.1111/jsr.14035. 日本語訳: 古川由己. 監修: 山本隆一郎, 中島俊, 坂田昌嗣. 2025. URL: https://yukifurukawa.jp/european-insomnia-guideline-2023/



