睡眠コラム by 八木 宏美2026年7月31日読了目安時間: 3

【対談企画】常夏のシンガポール、霧のイギリス。3カ国で暮らした医師と巡る、世界の”休み方”くらべ

田中 貫平
icam取締役 / 医師(現職:Sleep Rest Clinic幕張、いずみ医院 溝の口、AL CLINIC)

医師・メンター・タッチベースドマインドフルネス/shinsetsu-tion考案者・Gallup認定ストレングスコーチ・インド中央政府公認ヨガインストラクター

2013年英国シェフィールド大学医学部卒。

手稲渓仁会病院にて初期研修後、2020年九州大学病院心療内科に入局。国際医療福祉大学成田病院では緩和ケアチームにも所属。2024年からはフリーランスの医師として活動している。一般の方から学生、経営者、スポーツ選手など幅広い層のクライアントに対して傾聴およびマインドフルネスの実践指導や心理療法を提供、あらゆる病気や未病(不眠症も含む)の治療や予防改善に取り組んでいる。

「日本人は世界一眠れていない」——OECD(経済協力開発機構)の調査で、日本人の平均睡眠時間は加盟国のなかでも最下位クラス、とよく言われます。

でも、いきなり「短い」と言われても、ピンと来ないですよね。そもそも、ほかの国の人はどんなふうに眠り、休んでいるのでしょう?

この記事では、学生時代をシンガポールで、医療をイギリスで学び、今は日本で診療している心療内科医・田中先生と弊社社員の八木の対談から、3カ国の”休み方”を旅するようにのぞいてみます。比べてみると、日本ならではの「眠りの良さ」も見えてきました。

(※「なぜ日本人は眠れないのか」という原因の深掘りは第2回で、「どうすればいいのか」という解決のヒントは第3回でお届けします。まずは肩の力を抜いて、世界の眠りを旅してみてください。)

常夏のシンガポール:冬がないから、つい夜更かし

田中先生が高校時代を過ごしたシンガポールは、一年中、夏。

冬がないぶん夜遅くまで活動できてしまい、みんなどこか睡眠時間が短めになる、と先生は振り返ります。さらにシンガポールは小さな都市国家。コンパクトに、効率よくまとまっていて——

「ある意味、隠れて営々と。そういうところでは、睡眠を削ってでもやる、っていうのはあるかもしれない」(田中先生)

勤勉でスマートな国の、ちょっと意外な裏側。常夏のリゾートのイメージとは違う、”眠りを削る効率社会”の一面がありました。

霧のイギリス:太陽を”充電”しに、スペインへ

対照的に、医療を学んだイギリスは、田園が広がる地方都市。「柵の向こうに牛がいる」ようなのどかな環境だったそうです。

ただし、日照時間が短く、どんよりと曇りがち。

田中 貫平 医師
田中 貫平 医師
気分がふさぎがちになるところもあったし、それでちょっと眠気が来て、長く寝たいなっていう感じにはなりますね

だからイギリスの人たちは、長期休暇になるとスペインなど太陽の国へ出かけ、まるで日光を”充電”するように陽を浴びるのだとか。曇りの日でも光は十分あるとはいえ、慢性的に陽が足りないと、身体は「もっと光がほしい」と訴える。眠りに関わるホルモン・メラトニンの生成にも、光は深く関わっています。

ちなみに豆知識。「イギリス料理=まずい」は、半分は誤解だそう。移民の人たちが営むケバブやピザ、インド・トルコ系のレストランはおいしく、ちょっと高級なパブ「ガストロパブ」もある。食でストレスをためることは、あまりなかったといいます。

子どもとの”添い寝”、和室で眠る——日本ならではの眠りの風景

日本に目を移すと、文化のユニークさが見えてきます。

たとえば「添い寝」。 日本(やアジア圏)では子どもと一緒に寝るのが当たり前ですが、個人主義の国では0〜1歳から子どもを別室に寝かせることも珍しくありません。

和室に布団を敷いて眠る感覚も、海外にはあまりないもの。旅館に泊まったときの、あの独特の落ち着き——あれもまた、日本ならではの”眠りの風景”です。

実は、日本には”眠りにいい文化”がたくさんある

「世界一眠れていない」なんて聞くと、日本がすべてダメみたいに思えてきますが——とんでもない。日本には、眠りにいい文化がちゃんとたくさんあると先生は言います。

その筆頭が、お風呂。 

田中 貫平 医師
田中 貫平 医師
湯船にゆっくり浸かって体を温める習慣は、海外にはなかなかない、立派な”睡眠資産”です。イギリスのセントラルヒーティング(家じゅうに寒い場所がない暖房)と同じくらい、誇れる文化と言えます。
日本も文化的には、睡眠にいいことをいっぱい取り入れているはずなんだけど、なぜか眠れない人が多いっていう、矛盾を感じますね
八木
八木

「日本も文化的には、睡眠にいいことをいっぱい取り入れているはずなんだけど、なぜか眠れない人が多いっていう、矛盾を感じますね」

そう、いい習慣はちゃんとある。それなのに、なぜ日本人は眠れないのか。

ここには、気候や文化だけでは説明できない、もう少し根深い”日本らしい理由”がありそうです。

3カ国を旅してみると、眠りは「個人の努力」だけでなく、気候・文化・歴史にそっと形づくられているのが分かります。日本人の睡眠が短いのも、だらしないからではない——その入口が見えてきました。

次回は、「なぜ日本人は眠れないのか」を、もう一歩踏み込んで考えます。オンオフの切り替え、”頑張りすぎ”の正体、そして「女性のほうが眠れていない」という不思議について。

👉 第2回:なぜ日本人は眠れないのか(社会・考察編) 👉 第3回:「日中が幸せなら、夜は眠れる」世界基準の良質な睡眠とは(解決編)

(本記事は心療内科医・田中先生への対談取材をもとに構成しています。健康上の不安がある場合は、医療機関にご相談ください。)