
五藤 良将
千葉県立東葛飾高校卒、防衛医科大学校医学部卒。その後に自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどの勤務を経て2019年9月に継承開業に至る。
- 免許・資格
医師免許、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医、日本医師会産業医、スポーツドクター、日本美容内科学会評議員
「ナマケモノは1日20時間寝る」と聞いたのに、ネットでは15時間や9時間といったバラバラな数字が並んでいて混乱することがあります。差が大きく、どれを信じればよいか迷いますね。実は、これらの数字のばらつきは前提条件の違いによるものです。
この記事では、よく引用されるそれぞれの数値について前提条件を整理し、どのようにこの差が生まれるかまで解説します。置かれた環境や計測方法の違いから紐解くことで、ナマケモノの眠りの実態がクリアに見えてきます。読み終える頃には、情報の背景を含めて納得感を持って説明できるようになるでしょう。
ナマケモノの睡眠時間の目安はどれくらい?
ナマケモノの睡眠時間は、置かれている環境によって「15〜20時間」と「約9.6時間」の二つの目安に分かれます。一般向けの解説や動物園の紹介では長時間睡眠が強調される一方、野生個体を対象とした研究では人間とそれほど変わらない数値が示されています。前提条件を分けることが、正しい理解への近道となります。
よく見かける「20時間」「18〜20時間」はどういう文脈の数字か
18〜20時間という数字は、主にランキング形式の記事や一般的な動物紹介で広く使われている紹介値です。コアラなどの他の長時間睡眠をする動物と同列に語られるシーンでよく使われます。この数字は、外敵の心配がなく食事が保障された飼育環境下で、生活の様子を観察した数字であり、生き物としての眠りを厳密に測ったものではないことに注意が必要です。
研究で示される「約9〜10時間」とは何を測っているのか
研究論文によると、ナマケモノの脳波計測に基づく平均睡眠時間は1日約9.6時間というデータが得られています。※1
これは単にじっとしている時間を数えるのではなく、野生のナマケモノに脳波計を装着して、脳の活動から睡眠段階(NREM睡眠やREM睡眠)を計測した結果判明したものです。このように、生理学的な定義に基づいた計測では、これまで信じられていた「20時間」よりも大幅に短いナマケモノの睡眠実態が明らかになっています。
この差からもわかるように、睡眠時間を考える上で、「測定方法」と生活環境などの「条件」の情報は不可欠なのです。
種や環境で目安が変わることを先に押さえる
ナマケモノには指の数によってフタユビナマケモノとミユビナマケモノがいます。ナマケモノに限らず、生き物は種類によって生活リズムが異なるため、種名が記載されていない場合には参考として理解するか、出典を確認するとより正確です。国内の動物園が公式ページで公開している情報では、種名まで明記されることが多く、数値の信頼性が高いといえます。
数字がバラつく理由:野生と飼育、計測と観察の差
検索結果に数時間の幅が出る主な要因は、生活環境の違いと、睡眠そのものをどう定義して測ったかの違いに集約されます。
野生と飼育で生活リズムが変わりやすい
野生のナマケモノは、エサを求めて移動したり、捕食者から身を守るために警戒を続けたりする必要があります。 これに対し、飼育下ではエサは供給される上、安全が確保されており、環境も快適な状態で保たれるため、活動量が低下し休息時間が延びやすくなります。生命維持にかかる負荷の差が、そのまま睡眠時間の差として現れます。
「睡眠時間」の定義が記事ごとに違う
睡眠と、単に目を閉じてじっとしている休息を混同しているケースが多く見られます。 脳波を用いた厳密な計測では覚醒状態を正しく判定できますが、見た目だけの観察では「動かない時間」がすべて睡眠とカウントされがちです。これにより、観察ベースの数値は計測ベースの数値よりも大きくなる傾向があります。
ランキングを見る際には、「計測」か「観察」か、種名が書かれているかをチェックするとよいでしょう。
ランキング記事の数字は根拠が省略されやすい
比較のしやすさを優先するランキング形式では、出典や計測条件が省かれやすい性質があります。 結論だけを手早く知りたい場面では有用ですが、正確な生態を知るためには、一次情報や専門的な研究報告との照合が必要です。
国内施設が示すフタユビナマケモノの睡眠時間
国内の公的な動物園が公開している種別ページを確認すると、飼育下でのリアルな目安が見えてきます。
京都市動物園の記述から分かること
国内の代表的な動物園のプロフィールでは、フタユビナマケモノについて「15〜18時間は眠っている」と幅をもたせて紹介されています。学名や夜行性の性質とあわせて記載されており、日中の展示で寝ている姿が多いことの根拠として示されています。※2
国内施設の紹介値は「厳密計測」ではなく「一般向け目安」として扱う
施設公式の数値は、来園者が観察できる生態に基づいた指標として捉えましょう。つまり計測装置を用いて脳波を確認した厳密な意味での生物としての睡眠とは異なる可能性が高いです。これは、来園者の視点から考えると、生物としての厳密な睡眠時間よりも、観察対象としてのナマケモノがどう見えるかが多くの人にとって重要であることからも納得できます。
なぜナマケモノは長く眠るのか
ナマケモノが長時間休む理由は、厳しい自然界を生き抜くための合理的な生存戦略の結果です。
代謝が遅いと「省エネの暮らし」になりやすい
ナマケモノの主食である木の葉は、得られるエネルギーが極めて少なく、消化にも膨大な時間がかかります。 少ない燃料で身体を維持するために、筋肉量を削り、基礎代謝を最小限に抑える「低燃費モード」を選択しています。動きをゆっくりにし、活動時間を短縮することは、エネルギーの枯渇を防ぐための賢い選択でもあるのです。
樹上生活と行動パターンが「寝ているように見える」を生む
高い樹上でぶら下がる姿勢は、地上に降りるリスクを避け、外敵から見つかりにくくする役割を果たします。動かずにじっとしている時間は、単なる休息であると同時に、周囲の気配を探る警戒の時間でもあります。観察者にとって「ずっと寝ている」ように見える姿は、安全を確保しながらエネルギーを温存する、洗練された樹上生活の形です。
まとめ
ナマケモノの睡眠時間については、飼育下で休息している時間(15〜20時間)と、野生で生物としての睡眠を測定した時間(約9.6時間)とがあります。
この差は、睡眠の定義(観察か計測か)と安全性の差によって生まれます。ナマケモノが環境に合わせて睡眠を最適化するように、私たち人間にとっても「ここは安全だ」と脳が確信できる環境を整えることは、休息の質を左右する重要な要素です。上質な寝室環境を実現することは、自然と質の高い回復につながります。
例えば、周囲のノイズを遮断し、包み込まれるような寝心地を追求した環境設計]を見直すことも、穏やかな夜を迎えるための合理的な選択肢となるのと同様と言えるでしょう。
参考




