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監修者

松岡 雄治
地方国立大学医学部卒業後、横浜市内で初期臨床研修を経て、関東の基幹病院で勤務中。
資格:医師国家試験合格、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級
「よく寝る動物は結局どれが1位なのか」「コアラは本当に22時間も寝るのか」と気になって調べても、記事によって数値がバラバラで困惑したことはないでしょうか。ランキングをサクッと知りたいだけなのに、根拠や前提(野生か飼育下かなど)が書かれておらず、どれを信じればいいか迷う方も多いはずです。
よく寝る動物の筆頭は我が社のシンボルでもあるコアラですが、その時間は環境や測り方で変動します。ランキングを調べると「22時間」や「18時間」など数値に幅があるのは、野生と飼育下での観察条件が異なるためです。
この記事では、睡眠時間を決める要因を「エネルギー収支」と「安全戦略」の2つの論理で整理します。数値の背景にある生態を紐解くことで、動物たちの眠りの仕組みを体系的に理解できます。
よく寝る動物ランキングTOP5 睡眠時間の目安を一覧で比較
動物の睡眠時間は、主に「何を食べているか」「どこで寝るか」によって決まります。代表的な長時間睡眠の動物と、その目安の睡眠時間は以下の通りです。
| 順位 | 動物名 | 1日の睡眠時間の目安 | 特徴 |
| 1位 | コアラ | 約18〜20時間 | ユーカリの葉の解毒にエネルギーを消費 |
| 2位 | ナマケモノ | 約15〜20時間 | 筋力が少なく、極端な省エネ生活を送る |
| 3位 | アルマジロ | 約17〜19時間 | 地中の安全な巣穴でまとまって眠る |
| 4位 | トラ | 約15〜16時間 | 肉食動物として一度の狩りで大量のエネルギーを補給 |
| 5位 | ハムスター | 約14時間 | 夜行性で、昼間を中心に分割して眠る |
1位 コアラ:解毒と省エネ
コアラは(飼育下・観察条件によるが)18〜20時間前後/最大22時間とされることもあります。主食であるユーカリには毒素が含まれており、解毒に多くのエネルギーを割く必要があるためです。低栄養な食事から得た貴重なエネルギーを活動ではなく、生命維持に集中させています。
2位 ナマケモノ:徹底した低代謝
ナマケモノの睡眠時間は、野生では9〜10時間程度ですが、飼育下ではより長くなる傾向があります。筋肉量が極端に少なく代謝が低いため、活動を最小限に抑える生存戦略をとっています。外敵の有無が睡眠時間に大きく影響する典型例です。
3位 アルマジロ:安全な寝床の確保
アルマジロも、意外なほど長く眠ります。種や条件で差がありますが、一般的には1日18時間前後の睡眠をとるとされています。アルマジロは地中の頑丈な巣穴という外敵から襲われるリスクが極めて低い場所を確保できているため、無防備な状態を長時間維持することが可能です。
4位 トラ:狩りと休息のバランス
トラなどの大型肉食動物は、15〜16時間と1日の約3分の2を休息に充てます。これは、高カロリーかつ豊富なたんぱく質を含む食事を一度に摂取して、次の狩りに備えてエネルギーを温存する生活スタイルが理由です。
食物連鎖の頂点に立つ彼らは、襲われる心配が少ないことも長時間眠れる要因です。ただし、眠っている間も周囲の音には反応するなど、完全に無防備な状態ではないと考えられています。
5位 ハムスター:環境に合わせた小刻みな眠り
ハムスターは1日あたり14時間以上眠りますが、一度に寝るわけではありません。夜行性の性質を持ち、外敵を警戒しながら昼間を中心に細切れに休息をとります。飼育環境下の安全性が確保されると、より深い眠りが見られるようになります。
寝ない動物ランキングTOP3 睡眠が短い理由もあわせて理解する
一方で、ほとんど眠らない動物も存在します。主に草食動物に多く見られますが、これは「生き残るための適応」の結果です。報告によって差が大きいですが、およその目安となる時間と、どのような状況かを確認しましょう。
| 順位 | 動物名 | 1日の睡眠時間 | 特徴 |
| 1位 | キリン | 約2時間 | 捕食リスクが高いため立ったまま短時間の睡眠をとる |
| 2位 | ウマ | 約3時間 | 立位で休息し、横臥は短時間のみ |
| 3位 | ウシ | 約4時間 | 反芻(はんすう)に多くの時間を費やす |
| 番外編 | 海の大型動物 | 泳ぎながら休息し、長時間は止まらない | |
| 番外編 | 生活リズムで短く見える動物 | 細切れに睡眠をとっているケース |
1位 キリン: 警戒心
キリンは地球上で最も睡眠時間が短い動物の一つです。野生では、20分程度の「居眠り」を繰り返すことが多く、それらを合計した睡眠時間は2時間程度と言われます。ただ、睡眠(sleep position)は数分〜非常に短い推定もあり、“休息”を含むかで2時間など幅が出ている可能性があります。これは捕食者から身を守るための安全戦略といえます。
2位 ウマ :立ったまま眠る仕組みと睡眠の分け方
ウマは「立ったまま眠る」ことで有名です。足の構造をロックすることで、筋肉を使わずに立った状態を維持できます。ただし、立ったままの状態で行われるのは主に浅い眠り(レム睡眠ではない休息)です。脳をしっかり休ませる深い眠り(ノンレム睡眠)の際は、安全を確認した上で数十分ほど横になることがわかっています。
3位 ウシ :反芻と休息の関係
ウシの睡眠時間は、採食と「反芻(はんすう)」に左右されます。一度飲み込んだ草を口に戻して噛み直す反芻は、1日に8時間以上行われることもあります。この反芻の間、ウシはうとうとした休息状態にありますが、完全な睡眠ではありません。私たちがイメージする睡眠は1日4時間程度を分散してとっています。
番外編 :海の大型動物 休息が短いと推定される例
ザトウクジラなどの海の大型哺乳類は、睡眠時間が短い生物によくランクインする生物で、睡眠時間が短い“とされる”ことがあるが、海棲大型哺乳類は睡眠の計測が難しく、研究では“休息(resting)”で評価されることが多いです。
しかし、ここで注意すべきなのは、睡眠時間でなく休息時間である点です。これは、海の大型動物の睡眠時間を正確に確認することが難しいため休息時間(「遊泳速度が0.2m/s以下」かつ「尾びれの動きを止めて停止している状態」が1分以上持続する時間)を設定しているのです。単純に、「睡眠時間」との比較ができないため要注意です。
番外編 :生活リズムで短く見える動物 分割睡眠の考え方
他に、睡眠時間が短い動物ランキングにランクインする生物には、分割睡眠(細切れの眠り)を行っているものもいます。このタイプの生物は、人間のように「夜にまとめて8時間」というリズムではなく、24時間の中で短時間の休息を何度も繰り返します。
ランキングによっては、一度に連続して寝る時間を比較していることがあります。それだけ見ると、分割して眠りをとる動物は、「寝不足」のようですが、一日でみるとまとまった時間を確保できていることがあります。
なぜ睡眠時間が違うのか 長い・短いを決める2つの要因
動物たちの睡眠時間の差は、偶然決まるものではありません。そこには、進化の過程で身につけた明確なロジックが存在します。
1 エネルギー収支 食性と代謝で睡眠が長くなる
睡眠時間を決める第一の要因は、エネルギー収支です。
- 低栄養の食事:コアラのようにユーカリなどの消化が悪く低栄養なものを食べる動物は、活動を控え、解毒と消化にエネルギーを集中させる必要があります。
- 高カロリーの食事:一方で、ライオンなどの肉食動物は、一度の食事で大量のエネルギーを得られるため、狩りの時間以外を睡眠に充てることが合理的です。
単に食事を摂るだけ摂って怠けているのではなく、「燃費」を最大化するための賢い戦略なのです。
2 安全戦略 捕食リスクと休息場所で睡眠が短くなる
第二の要因は、安全戦略(捕食リスク)です。
- 襲われる側(草食動物): 無防備な睡眠時間を削り、常に外敵を警戒する必要があります。
- 休息場所の質: 巣穴や木の上など、外敵が来ない「安全な寝床」を確保できる種ほど、睡眠時間は長くなる傾向にあります。
キリンが極端に短いのは、巨体ゆえに隠れる場所がなく、常に緊張状態にあるためです。
睡眠時間だけでは測れない 特殊な睡眠パターン3例
動物の中には、私たちが想像する「眠り」の常識を覆す方法で休息をとる種がいます。
1 イルカ:半球睡眠で泳ぎながら休む
イルカは脳を半分ずつ交互に眠らせる半球睡眠を行います。右脳が眠っているときは左目が閉じ、左脳が活動して泳ぎや呼吸を制御し、一定時間経過すると左右が交替する仕組みです。外敵を警戒しながら24時間泳ぎ続け、意識的に水面で呼吸をすることが可能になります。
2 鳥:飛びながら眠る 研究で分かったこと
「鳥は飛びながら眠る」は、実は“空でたっぷり熟睡する”という意味ではありません。2016年にNature Communicationsで発表された研究では、海上を長期間飛び続けるオオグンカンドリに脳波計を装着し、飛行中にも睡眠に特有の脳活動が出ることを初めて示しました。一方で睡眠は1日平均約42分と非常に短く、地上よりも片側の脳だけが眠る“半休睡眠”が増えるなど、周囲への注意を優先した形になりやすい特徴がありました。
つまり、飛行中の睡眠は、睡眠不足を解消するための「通常の睡眠」というより、飛行を続けるために挟み込まれる「短い休憩」に近い、と考えられます。
3 休息と睡眠の境界 眠り方が違うと時間も違って見える
前述のように、何をもって「睡眠」と定義するかで、ランキングの数値は変わります。これが、ランキングによって順位が大きく変動する一因です。
- 脳波上の「睡眠」:生理学的に脳が休息している状態。
- 行動上の「休息」:体が止まっているが、意識はある状態。
この境界線は、種によって曖昧であるため、「睡眠時間」として発表される数値には、定義の違いによるばらつきが含まれています。
データを見るときの注意点 ばらつきが出る理由
動物の睡眠ランキングを比較する際は、以下の3つの「ばらつきの要因」を知っておくことが大切です。
個体差 年齢や体調で睡眠時間は変わる
人間と同様に、動物も年齢によって睡眠時間が変化します。一般に、成長期の子供や高齢の個体は睡眠が長くなる傾向があります。また、怪我や病気の際も、回復のために睡眠配分が変わります。
環境差 野生と飼育下で活動量が変わる
野生では「捕食圧(天敵の存在)」や「餌を探す時間」があるため、睡眠は短くなる傾向があります。一方で、動物園などの飼育下では、安全と食事が保障されているため、野生に比べて睡眠時間が大幅に延びることが多いです。
測り方の違い 睡眠と休息の定義で数値が変わる
「見た目で寝ているように見える時間」を数えたデータと、脳波を計測して「脳が眠っている時間」を割り出したデータでは、結果に大きな差が出ます。ランキングの順位がサイトごとに異なるのは、引用しているデータの計測方法が違うからなのです。
よく寝る動物はランキングと理由をセットで理解すると面白い
よく寝る動物の睡眠時間の差は、その動物が生きていくための「生存戦略」と深く結びついています。睡眠時間の数字そのものよりも、なぜ彼らがその眠り方を選んだのかという「ロジック」には生き物の神秘が詰まっており、睡眠への理解もより深まります。
私たちは、食事が確保された日々と安全な寝床だけでなく、さらに快適な睡眠環境を整備することもできます。様々な困難と直面する現代社会を生き抜くため、私たちも自分に合った最適な睡眠を検討してみましょう。




