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監修者

森田 麻里子
医師・小児スリープコンサルタント・睡眠専門家
2012年東京大学医学部医学科卒。
亀田総合病院にて初期研修後、2014年仙台厚生病院、2016
「しっかり寝ているのに日中眠い」「ストレスが溜まると一日中寝てしまう」—そんな悩みを抱えていませんか?
ストレスと睡眠不足が深刻化している現代社会では、過眠(かみん)」と呼ばれる症状が出やすくなります。本記事では、ストレスが過眠を引き起こすメカニズムから、最新の統計データ、セルフチェック方法、そして具体的な改善策までを医学的根拠に基づいて詳しく解説します。※1・2
ストレスが過眠を引き起こす3つのメカニズム

過眠とは、夜に十分な睡眠を取っているにもかかわらず、日中に強い眠気が続く状態を指します。原因は多岐にわたりますが、その中でも「ストレス」は要因の一つです。ストレスによる過眠のメカニズムは、大きく以下の3つです。
1. 自律神経の乱れによる睡眠・覚醒リズムの崩壊
慢性的なストレスを受けると、交感神経が優位になり、心身が「戦う・逃げる」モードに入りやすくなります。この状態が長く続くと脳が過覚醒(かかくせい)状態になってしまいます。その結果、夜の睡眠の質が低下し、翌日になって反動的に強い眠気が現れるのです。
このような睡眠のトラブルには、自律神経の乱れが関係しています。厚労省のデータでも、睡眠で十分に休養が取れていない人が2割に達しており、「睡眠休養感」の低下は心血管疾患や糖尿病、高血圧などのリスク増加とも関連していると指摘されています・※2・3
2. ストレス性うつ病に伴う過眠症状
強いストレスが続くと、心のバランスが崩れ、うつ病を発症することがあります。うつ病というと「眠れない」イメージが強いですが、実は「過眠」を伴うタイプもあります。特に、抑うつが強くない「非定型うつ病」では、10時間以上眠っても眠気が取れないというケースも少なくありません。
これは、ストレスにより自律神経や脳内の神経伝達物質(セロトニンやドーパミンなど)が乱れ、何らかの形で脳の覚醒維持機構に不調が生じている可能性が考えられています。
3. 心理的な現実逃避としての過眠
「眠っている間だけは、現実を忘れられる」—と強いストレスを感じる人の中には、無意識にこのような心理状態に陥ることがあります。これは、心理学的に「防衛機制」と呼ばれるもので、現実から一時的に逃避するために睡眠を選ぶ行動が現れるのです。
例えば、職場の人間関係や責任の重さなどからくるストレスが、心の負担を大きくし、無意識に「眠ることで回避しよう」とする傾向を生むことがあります。このタイプの過眠は、精神的ストレスのサインである可能性が高いといえるでしょう。
【最新データ】日本の労働者が抱えるストレスと睡眠の実態
ストレスが睡眠の質に与える影響を理解するためには、まず現在の労働環境を知る必要があります。ここでは、最新の調査データから日本の働き盛りが抱えるストレスと睡眠問題を見ていきましょう。
労働者の82.7%が感じる強いストレスの内訳
令和5年労働安全衛生調査によると、労働者の82.7%が「仕事や職業生活で強い不安や悩みを感じている」と回答しています。※1
ストレスの内容として最も多かったのは「仕事の失敗、責任の発生等」で39.7%、続いて「仕事の量」が39.4%、そして「対人関係」が29.6%でした。これらの割合は前年度から増加しており、社会全体のストレス負荷が上昇していることがわかります。こうしたストレス環境は、自律神経を乱し、結果として過眠やその他の睡眠障害を引き起こすリスクを高めます。
40〜50代の睡眠不足が深刻化している現実
令和5年国民健康・栄養調査では、40〜50代の4割以上が1日6時間未満の睡眠しか取れていません。働き盛りの世代は責任も重く、残業や家庭の負担も増えるため、睡眠時間を削りがちです。
しかし、睡眠時間が6時間を下回ると、注意力の低下や判断ミスの増加、生活習慣病のリスク上昇など、さまざまな問題が起こることがわかっています。
睡眠の質低下による年間165万円の経済損失
BRAIN SLEEPとNTT東日本が発表した2024年の「睡眠偏差値調査」では、睡眠の質に大きな課題がある人は、質が良い人と比べて年間約76万円もの経済損失が生じていることが報告されています。
睡眠の状態が悪い人の特徴は、時間外労働が多いことと、就寝前のスマートフォン使用です。スマホは視聴するコンテンツそのものが脳を興奮させる上に、ブルーライトも脳を覚醒させてメラトニンの分泌を抑制します。これによって入眠が妨げられたり睡眠の質が低下したりすることが知られています。
ストレス性過眠のセルフチェック項目
「自分はストレス性の過眠かもしれない」と感じたら、まずはセルフチェックをしてみましょう。以下の3つの観点から簡易的に判断できます。
日中の眠気の頻度と強さをチェック
- 人と話している時や運転中など、通常寝ないような場面で眠くなる
- 週に3回以上、強い眠気で作業に集中できない
- 仮眠を取ってもすっきりしない
これらに複数当てはまる場合、日中の眠気がかなり高いレベルに達している可能性があります。
睡眠時間と睡眠休養感の評価
- 8時間寝ても疲れが取れない
- 朝の目覚めが悪く、頭がぼんやりする
- 休日に10時間以上寝てもスッキリしない
睡眠時間だけでなく、「休養感が得られているか」が重要な指標です。睡眠の質が低下していると、どれだけ寝ても疲労が残ります。
ストレス症状との関連性チェック
- イライラや不安感が強い
- 集中力や意欲の低下が続く
- 食欲の変化(過食または食欲不振)がある
これらの精神的ストレス反応に当てはまるものが多い場合は、ストレス性の過眠である可能性も考えていく必要があります。
ストレス性過眠を改善する5つの実践的方法
過眠は、生活習慣とストレス管理を整えることで改善できるケースがあります。ここでは、睡眠環境の整備など今日から始められる5つの対策を紹介します。
1. 規則正しい睡眠スケジュールの確立
就寝・起床時間を一定に保つことで、体内時計(概日リズム)が整います。体内時計が整うことにより睡眠の質が改善されます。極端な週末の寝だめは逆効果です。平日とのリズムのズレが生じると、月曜の朝に強い眠気が出やすくなりますから、休日の朝寝坊は2時間までにしておきましょう。
2. ストレス対処法の実践
ストレスはため込まず、小まめに発散することが大切です。1日15分でも構わないので、散歩や軽い運動、音楽鑑賞などのリラクゼーション習慣を取り入れましょう。深呼吸や瞑想も副交感神経を刺激し、リラックス効果を高めます。
3. 睡眠環境の最適化
- 室温:18〜26℃
- 照明:就寝1時間前から間接照明に切り替え、スマホなどのブルーライトも避ける
- 騒音対策:必要であれば耳栓やホワイトノイズの活用
また、マットレスや枕の硬さや通気性も重要です。自分に合わない寝具は睡眠の質を著しく下げるため、見直してみましょう。
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4. 日中の活動量を増やす
デスクワーク中心の人は、日光を浴びる時間を意識的に作ることが大切です。朝に5〜10分でも太陽光を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の入眠がスムーズになります。また、お散歩など軽い運動を取り入れることで精神的なリフレッシュに加え、適度な肉体的疲労感により睡眠の質が改善されやすいです。
5. カフェイン・アルコールの適切な管理
カフェインは摂取後も数時間覚醒作用が続くため、就寝5時間前以降は控えるのが理想です。また、アルコールも一時的に眠気を誘うものの、睡眠後半の質を下げる原因になります。寝る4時間前以降の飲酒は避けましょう。
医療機関を受診すべきタイミングと治療法

セルフケアを続けても改善しない場合は、医療機関での専門的な治療を検討しましょう。1人で悩まずに専門家に相談することだけでも安心感を持てることでしょう。
2週間以上改善しない場合は受診を検討
ストレス対処や生活リズムの改善を2週間程度続けても日中の眠気が改善しない場合、医療機関で相談しましょう。仕事や運転等を含め、日常生活に支障が出るようであれば、より早めの受診が推奨されます。
受診する診療科の選び方
過眠の原因が身体的なものか、心理的なものかで最終的に治療を受ける診療科は異なります。ただし自分自身で原因を突き止めることは難しいので、迷う場合はどちらでも構いません。
- 身体的原因(ナルコレプシーなど):睡眠外来
- 精神的原因(ストレス・うつなど):心療内科
初診では、睡眠時間の記録や生活リズムのメモを持参すると、診断がスムーズに進みやすいです。
医療機関での検査と治療の流れ
主に行われる検査は以下の通りです。
- 睡眠ポリグラフ検査:脳波や呼吸を測定
- MSLT検査:日中の眠気を数値化
治療では、認知行動療法(CBT)や薬物療法が用いられることもあります。特にストレス由来の過眠は、心理療法と生活改善の併用が効果的です。
まとめ:ストレス性過眠は適切な対策や治療で改善可能
ストレスが原因の過眠は、放置すると仕事や人間関係、健康に深刻な影響を及ぼします。生活リズムの見直しとストレス管理を行えば、症状改善ができる場合もあるでしょう。
まずは眠気度合いや夜の睡眠の状態、ストレス状態のセルフチェックを行い、できる範囲のセルフケアを始めてください。そして、2週間程度続けても改善しない場合は、医師の診察を受けることが大切です。
質の高い睡眠こそ、ストレスに負けない心と身体を作る第一歩です。
参考
※1:令和5年労働安全衛生調査(個人調査)
※2:令和5年国民健康・栄養調査










