目次
監修者

本多 洋介
群馬大学医学部卒業。
伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院(いずれも循環器内科)を経て、Myクリニック本多内科医院院長。
- 免許・資格
総合内科専門医、循環器内科専門医、日本心血管インターベンション学会専門医、軽カテーテル的大動脈弁植え込み術指導医(Sapienシリーズ、Evolutシリーズ)
発熱で夜に眠れなくなるつらさは、実際に体験した人でなければ分からないものです。
私自身も、忙しい時期に風邪をひいて38度台の熱が出た夜、布団に入っているのに体が熱くて落ち着かず、時計を気にしながら何度も寝返りを打った経験があります。「しっかり寝なければ治らない」と頭では分かっているのに、眠れない焦りがかえって体を緊張させてしまい、翌朝さらにぐったりしてしまいました。
実は、発熱時に眠れなくなるのは意志や気合の問題ではなく、深部体温の上昇や免疫反応、自律神経の変化といった科学的な理由があります。
本記事では、上級睡眠健康指導士でコアラマットレス社員の松本が、熱で眠れない原因を医学的な視点から整理しながら、解熱剤の使い方や体温調節のコツ、睡眠環境の整え方など、今夜から実践できる現実的な対策を詳しく解説します。
発熱時に眠れなくなる3つの科学的メカニズム

発熱すると眠れなくなるのは、単に体がつらいからではありません。実際には、体内で起こっている生理学的な変化が、睡眠の仕組みそのものを妨げています。
ここでは、深部体温の変化、炎症性サイトカインの働き、自律神経のバランスという3つの観点から、なぜ発熱時に眠りにくくなるのかを整理していきます。
仕組みを理解することで、「眠れない自分はおかしいのではないか」という不安を和らげ、適切な対処につなげていきましょう。
深部体温が下がらないと眠れない理由
私たちの体は、眠りに入る前に深部体温を下げることで、自然な眠気を引き起こす仕組みを備えています。通常は、就寝前になると手足の血管が広がり、皮膚から熱を外へ逃がすことで、体の内部の温度がゆるやかに低下します。この深部体温の低下が、脳に「眠る時間が来た」というサインを送ります。※1
しかし、発熱時は体内で熱を産生し続けている状態にあるため、熱放散がうまく進まず、深部体温が高いまま維持されやすくなります。その結果、布団に入っても体が休息モードに切り替わらず、入眠に時間がかかったり、浅い眠りになったりしやすくなるのです。
炎症性サイトカインがもたらす睡眠への影響
発熱の背景には、免疫反応の活性化があります。風邪やインフルエンザ、コロナなどの感染症にかかると、体を守るために炎症性サイトカインと呼ばれる物質が分泌されます。この物質は体温を上昇させる一方で、ノンレム睡眠を増やす作用も持っています。※2
そのため、発熱時には強い眠気を感じることがありますが、同時に睡眠のリズムが乱れやすくなります。眠っているようで何度も目が覚めたり、熟睡感が得られなかったりするのは、炎症性サイトカインによる影響を受けるためです。眠気と不眠が同時に存在する状態が、発熱時の睡眠をより不安定なものにしています。
発熱による自律神経バランスの乱れ
さらに、発熱は自律神経の働きにも影響を与えます。体調不良や痛み、体温上昇があると、体は危機に対応するため交感神経が優位になりやすいです。本来、スムーズな入眠には副交感神経が優位になることが欠かせませんが、発熱時はその切り替えがうまくいかなくなります。※3
その結果、動悸が気になったり、汗をかきやすくなったり、筋肉の緊張が抜けなかったりといった症状が続き、入眠困難や中途覚醒につながります。体が回復を優先するあまり、睡眠の質が犠牲になってしまうのです。
このように、発熱時に眠れなくなるのは、体が正常に防御反応を働かせている結果です。無理に眠ろうと焦るよりも、体の状態を理解し、休息を最優先に考えることが回復への近道になります。
発熱時でも快眠するための5つの実践的対処法

発熱によって眠れなくなる仕組みが分かったところで、次に重要になるのは「では、実際にどう行動すればよいのか」という視点です。発熱時の睡眠対策で意識したいのは、無理に深く眠ろうとすることではなく、体の回復を妨げない形で休息を支えることです。
ここでは、医療情報にもとづいた5つの具体的な対処法を、実践しやすい形で解説していきます。
解熱剤を使うべきタイミングと注意点
解熱剤は、発熱そのものを治す薬ではなく、つらさを一時的に和らげるための手段です。
小児科医療機関の解説によると、体温が38度以上あり、つらくて眠れない、水分が十分にとれないといった状況では、解熱剤の使用が検討されます。※4
特に就寝前に使用することで、一時的に体温が下がり、入眠しやすくなるケースは少なくありません。
市販薬を選ぶ場合には、アセトアミノフェンを主成分とするものが比較的体への負担が少ないとされています。ただし、用量や服用間隔を守らずに使い続けると、かえって体調を崩す原因になるので注意しましょう。熱を下げること自体を目的にするのではなく、眠りや水分摂取を助けるための補助的な手段として位置づけることが大切です。
室温と湿度を最適に保つ方法
薬の使用と並んで、睡眠環境の調整も発熱時の快眠には欠かせません。睡眠専門医の監修記事では、寝室の室温はおおむね18〜22度、湿度は50〜60%程度が睡眠に適した目安とされています。※5
発熱時には、暑すぎる環境では熱がこもりやすく、反対に冷えすぎると悪寒や筋緊張が強まります。
エアコンや加湿器を使用する際は、風が直接体に当たらないように風向きを調整し、必要に応じて短時間の換気を取り入れ室内の空気のこもりを防いでください。室温と湿度を整えることは、体温調節の負担を減らし、眠りを妨げる要因を一つずつ減らすことにつながります。
効果的な水分補給のタイミングと方法
発熱時には、汗や呼吸によって体内の水分が失われやすくなり、脱水状態が不眠を悪化させることがあります。そのため、水分補給は睡眠対策の一部として考える必要があります。就寝前にはコップ一杯程度の水分をとり、夜中に喉が渇いたときにすぐ飲めるよう、枕元に飲み物を用意しておくと安心です。
脱水が疑われる場合には経口補水液が有効ですが、政府広報オンラインでも説明されているように、あくまでも脱水時に用いる特別な食品であり、日常的に大量摂取するものではありません。※6
症状が軽い場合には水や薄めたスポーツドリンクを選び、体調に応じて使い分けましょう。
楽な寝姿勢と寝具の調整テクニック
発熱時には、呼吸のしやすさや体への負担を減らす姿勢を意識することが、睡眠の質を左右します。鼻づまりや咳がある場合には、頭や上半身を少し高くすることで呼吸が楽になり、途中で目が覚めにくくなります。肩枕やタオルを使い、首や肩に無理な角度がかからないよう調整するとよいでしょう。
また、吸湿性と通気性に優れたパジャマや寝具を選ぶことで、寝汗による不快感を軽減できます。掛け布団は一枚にこだわらず、体温に応じてかけたり外したりできる状態にしておくと、夜間の中途覚醒を減らせます。
入眠を促すリラックス法
発熱時であっても、自律神経を整えるためのリラックス法は一定の効果が期待できます。布団の中で行える方法としては、ゆっくりとした腹式呼吸や、筋肉を順番に緩めていく筋弛緩法が取り入れやすいでしょう。呼吸のリズムを整えることで、副交感神経が働きやすくなります。
また、手浴や足浴で末端を温めると、熱放散が促され、結果として深部体温が下がりやすいです。香りに敏感でなければ、ラベンダーやカモミールといった穏やかな香りを取り入れる方法も、心身の緊張を和らげる一助として有効でしょう。無理のない範囲で行うことが、発熱時のリラックスには欠かせません。
対処の基本は、解熱剤を就寝前に適切に使い、室温18?22℃・湿度50?60%に保つことです。頭や上半身を少し高くすると呼吸が楽になり、水分を枕元に用意しておきましょう。完璧に眠ろうと焦る必要はありません。横になって目を閉じているだけでも体は休息しています。
ただし、38度以上の高熱が3?4日続く、水分が取れない、意識がもうろうとする、呼吸が苦しい場合は早めの受診が必要です。迷ったら♯7119に相談してください。発熱時の快眠は回復への近道です。
症状別・感染症別の睡眠対策のポイント

発熱時の基本的な対処法に加えて、感染症の種類や現れている症状に応じた工夫を取り入れることで、睡眠の質はさらに改善しやすくなります。
感染症ごとに特徴的な症状が異なるため、自分の状態に合った対策を選ぶことが、回復を早める近道です。
ここでは、代表的な感染症とよくみられる症状別に、睡眠を妨げにくくするためのポイントを整理していきます。
インフルエンザ・コロナウイルス感染時の注意点
インフルエンザは、38度以上の高熱に加え、関節痛や筋肉痛、頭痛、全身の強い倦怠感を伴いやすい感染症です。そのため、一晩中ぐっすり眠ることが難しく、断続的な睡眠になりやすい傾向があります。※7
高熱が続く場合は、無理に長時間眠ろうとせず、短い休息をこまめにとる意識が大切です。
一方、新型コロナウイルス感染症では、発熱や咳に加えて、味覚や嗅覚の低下が起こることがあります。食事量や水分摂取量が減り、体力や回復力が落ちやすくなります。※8
睡眠環境を整えることに加えて、飲みやすい形で水分や栄養を補給できるよう工夫してください。いずれの感染症でも、隔離中は生活リズムが乱れやすいため、昼夜のメリハリを意識し、眠る時間帯の環境をできるだけ一定に保つことが、睡眠の安定につながります。
頭痛・関節痛がある時の対処法
頭痛や関節痛が強いと、横になるだけで不快感が増し、入眠が難しくなることがあります。頭痛がつらい場合には、アイスパックや冷たいタオルを短時間、額やこめかみに当てると痛みが和らぐことがあります。ただし、冷やしすぎると体が緊張して逆効果なため、様子を見ながら行ってください。
関節痛があるときは、痛みの出にくい姿勢を探し、クッションやタオルで関節を支えると負担が軽減されます。解熱剤や鎮痛薬を使用する際には、発熱を抑えたいのか、痛みを和らげたいのかという目的を意識して選ぶことが重要です。
また、炎症が強いと感じる場合には冷湿布、血行不良やこわばりが気になる場合には温湿布を選ぶなど、症状に応じた使い分けが睡眠の妨げを減らします。
咳・鼻づまりで眠れない時の工夫
咳や鼻づまりは夜間に悪化しやすく、睡眠を分断する大きな原因になります。咳が出るときには、仰向けよりも横向きや上体を少し起こした姿勢を取ると気道が楽になり、咳が落ち着きやすいです。※9
枕やクッションを使い、首や背中に無理がかからない角度を探すことがポイントです。
また、空気が乾燥していると咳や鼻づまりが悪化しやすいため、加湿器を使って湿度を保ちましょう。蒸しタオルで鼻の周りを温めると、鼻腔が広がり、呼吸がしやすくなることもあります。咳止め薬を使用する場合には、就寝直前のタイミングを意識することで、夜中に目が覚める回数を減らしやすくなります。
日本人の睡眠実態から学ぶ発熱時の睡眠管理

ここで少し視点を広げ、日本人全体の睡眠状況から発熱時の睡眠管理を考えてみましょう。
発熱そのものが睡眠を妨げる要因であることは確かですが、実はその影響を大きくしている背景として、平時からの睡眠不足が挙げられます。普段の睡眠習慣が整っていない状態で体調を崩すと、回復により多くの時間とエネルギーを要することになります。
働き世代に多い睡眠不足の実態
厚生労働省の令和元年国民健康・栄養調査によると、睡眠時間が6時間未満の人は男性で37.5%、女性で40.6%にのぼり、特に男性の30〜50代、女性の40〜50代では4割を超えています。※10 仕事や家庭の責任を担う世代ほど、慢性的な睡眠不足に陥りやすい現状が浮かび上がります。
さらに、令和5年の国民健康・栄養調査結果の概要でも、6時間未満睡眠の割合は依然として高く、日本人全体が睡眠負債を抱えた状態にあることが示されています。※11
このような状況で発熱すると、免疫反応や体力回復に必要な休息が十分に取れず、症状が長引いたり、回復が遅れたりするリスクが高まります。発熱時の不眠は突発的な問題ではなく、日常の睡眠不足が表面化した結果ともいえるのです。
睡眠休養感を高めることの重要性
近年は、単に睡眠時間を確保するだけでなく、「睡眠でしっかり休めたと感じられるかどうか」、いわゆる睡眠休養感が重視されています。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠休養感の低さが健康リスクや死亡リスクの上昇と関連することが示されています。※12
十分な時間眠っていても疲労感が抜けない状態が続くと、体の回復力や免疫力が低下しやすくなります。発熱時こそ、断続的な睡眠であっても体が休まっている感覚を得られる環境づくりが重要になります。量を追い求めるのではなく、少しでも質の高い休息につなげる意識が、回復への近道です。
医療機関を受診すべきタイミングと判断基準

ここまで紹介してきたセルフケアは、多くの場合で回復を支えてくれますが、すべてを自宅で対処できるわけではありません。体のサインを見逃さず、医療機関の力を借りる判断も重要です。
38度以上の高熱が数日続いている場合や、水分がほとんど取れない状態が続く場合、意識がもうろうとする、呼吸が苦しいと感じるといった症状がみられる場合には、早めの受診が必要です。※13
一般的に、38度以上の発熱が3〜4日以上続く場合や、41度を超える高熱、微熱が5日以上続く場合は受診を考えましょう。※14
病院に行くべきか、救急車を呼ぶべきか迷ったときには、救急相談ダイヤル♯7119を活用すると安心です。♯7119では、医師や看護師が症状を聞き取り、適切な対応について電話で助言してくれます。※15
一人で判断を抱え込まず、相談できる窓口を知っておくことも、発熱時の大切な備えです。
まとめ:発熱時の快眠は回復への近道

発熱時に眠れなくなるのは、深部体温の上昇や免疫反応による自然な体の働きです。そのため、無理に完璧な睡眠を取ろうと焦る必要はありません。解熱剤の適切な使用や睡眠環境の調整、水分補給や姿勢の工夫を取り入れることで、体は少しずつ回復へ向かっていきます。横になって目を閉じているだけでも、体は確実に休息しています。
そして、こうした回復力の土台になるのが、平時の睡眠習慣です。質の良いマットレスや寝具で日常的に睡眠環境を整えておくことは、発熱したときの回復スピードにも影響します。つらい夜を乗り越える力を高めるためにも、普段から寝室の睡眠環境を整えることを意識しておきましょう。
・参考
※1 睡眠と体内時計・深部体温|厚生労働省 e-ヘルスネット
※2 寝汗とほてりで眠りが妨げられる|すみだ両国クリニック
※3 自律神経の乱れと体調不良|済生会 医療コラム
※4 発熱時の解熱剤の使い方|グランベリーチャイルドクリニック
※5 浅い眠りを改善する方法|睡眠医療ネット
※6 経口補水液の正しい使い方|政府広報オンライン
※7 インフルエンザの症状|日本臨床内科医会監修
※8 新型コロナウイルス感染症における嗅覚・味覚障害|厚生労働省
※9 咳で眠れないときの対処法|呼吸器内科東京
※10 令和元年 国民健康・栄養調査結果|厚生労働省
※11 令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要|厚生労働省
※12 健康づくりのための睡眠ガイド2023|厚生労働省
※13 発熱時に受診すべき目安|二川診療所 医療コラム
※14 高熱が続くときの受診判断|沢井製薬 医療監修コラム
※15 救急安心センター事業(♯7119)|厚生労働省




