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監修者
石川 恭子
コアラマットレス®︎のショールームで、お客様が「運命のマットレス」に巡り合えるようお手伝いしているカリスマコンシェルジュ。お客様の眠りの悩みに耳を傾ける中で、今すぐ活用できる睡眠の知識を届けたいと上級睡眠健康指導士の資格を取得。コアラ®︎のマットレスを通じて、毎日眠ることが待ち遠しくなるワクワク感を提供したい。
水族館でイルカを眺めていると、「この子たち、いつ寝ているんだろう」と不思議に思ったことはありませんか。私自身、子どもと一緒に水族館を訪れたとき、ずっと泳ぎ続けているイルカを見て「疲れないのかな」「水の中で眠ったら息はどうするんだろう」と素朴な疑問を抱いたことがあります。人間の感覚で考えると、水中で眠ること自体が危険に思えますが、イルカには海で生きるために進化した、私たちとはまったく異なる休息の仕組みがありました。
本記事では、上級睡眠健康指導士でコアラマットレス社員の石川が、イルカが溺れずに眠る理由を、「半球睡眠」と呼ばれる独特の脳の使い方や、意識的に行われる呼吸の仕組みから丁寧に解説します。さらに、水面で丸太のように浮かぶロギングや、片目を閉じたまま泳ぐ行動など、水族館でも実際に観察できる眠りのサインにも触れていきます。
イルカの睡眠は「半球睡眠」と「短い休息の繰り返し」が基本
結論から言うと、イルカは人間のように長時間連続して熟睡する前提を持たない動物です。海で暮らすという環境上、完全に意識を落とす状態はリスクが高いため、左右の脳を交代で休ませる半球睡眠と短い休息を何度も積み重ねる方法が基本になります。外から見ると起きているようにも眠っているようにも見える理由は、この独特の仕組みにあります。
片方の脳を休ませながら活動を落とす
半球睡眠とは、片方の脳半球を休ませつつ、もう片方で最低限の行動を維持する状態を指します。専門的には片脳睡眠とも呼ばれ、脳波測定によって、休んでいる側の半球がノンレム睡眠に近い活動を示すことが確認されています。※1・2
言い換えるなら、脳が交代制で休憩を取っている状態です。泳ぐ姿勢の維持や周囲の警戒、呼吸のタイミング管理といった生存に直結する行動を止めずに眠るという説明が実態にもっとも近いでしょう。完全に意識を失う熟睡ではなく、活動水準を意図的に下げながら休むという機能をイルカは持っているのです。
眠っているサイン:ゆっくり泳ぐ、浮く、沈む、片目を閉じる
では、観察者の目にはどのように映るのでしょうか。水族館や研究現場では、イルカが休息状態に入ると動きが明らかに穏やかになることが知られています。泳ぎ続けていても速度は落ち、一定のリズムを保つようになります。
また、水面に浮いたまま静止しているように見えたり、プールや海の浅い場所で沈んだ状態を保ったりすることもあります。さらに特徴的なのが、片方の目だけを閉じる行動です。右目を閉じている場合は左脳が休み、左目を閉じている場合は右脳が休んでいると考えられています。※1
重要なのは、止まっていないから起きている、動いていないから眠っているとは限らないという点です。行動そのものよりも、活動水準の低下度合いを見ると判断しやすいでしょう。
なぜ短い休息になりがちか:環境適応と安全性の観点
イルカの睡眠が短い休息の積み重ねになる理由は、生活環境と深く結びついています。海中では外敵への警戒が常に必要であり、状況は刻々と変化します。さらに、イルカは自発呼吸を行うため、呼吸そのものを意識的に管理しなければなりません。
そのため、長時間まとめて眠るよりも、数分から数十分程度の浅い休息を繰り返す方が安全性と効率性が高いのです。「浅い休息なら結果的にずっと起きているのではないか」と思われがちですが、実際には休息は確実に取っています。休息を取る形が人間と違うだけで、半球睡眠と短時間休息の組み合わせは、イルカが海で生きるために選び取った合理的な方法なのです。
右脳と左脳を交代で休ませるとはどういう状態か
イルカの半球睡眠は、脳全体が同時に眠る状態ではないと考えられています。脳波を測定した研究では、片方の脳半球が徐波睡眠に近い波形を示している一方で、反対側の脳半球は覚醒時に近い活動を保っていることが確認されました。※2
この左右差は固定されたものではなく、数十分から数時間の周期で入れ替わるようです。
右脳が休息しているとされるタイミングでは左脳が、逆に左脳が休んでいるときには右脳が主に働き、周囲の状況把握や泳ぎの制御、呼吸のタイミング管理を担います。休ませる側と活動を維持する側を交代させることで、脳を回復させながら行動を止めない状態が保たれています。完全な熟睡ではなく、活動水準を下げ脳を分割して休ませる仕組みという捉え方が実態に近いでしょう。
片目を閉じる行動の意味と、観察時の見分け方
この脳の左右差は、イルカの「目」の使い方とも関係しています。イルカの視神経は脳内で交叉しているため、左目の情報は主に右脳に、右目の情報は主に左脳に送られる構造になっています。そのため、左目を閉じているときは右脳が休息している可能性が高く、右目を閉じているときは左脳が休んでいる可能性が高いのだそうです。※1
ただし、片目を閉じているから必ず睡眠中だと断定することはできません。判断の精度を上げるためには、他の行動と組み合わせて見る必要があります。泳ぐ速度が普段より明らかに落ちているか、水面や水槽内の一定位置で安定した姿勢を保っているか、人や物音への反応が鈍くなっているかといった点を加味して観察すると、休息状態に近いかどうかを推測しやすくなります。水族館でイルカを観察する際には、目だけでなく動き全体のトーンに注目してみてはいかがでしょうか。
半球睡眠はイルカだけ?他の動物にも見られる例
半球睡眠はイルカだけに見られる特殊な現象ではありません。長距離を飛び続ける渡り鳥や、同じ鯨類に属するクジラ、オットセイのように水中と陸上を行き来する動物も、左右の脳を同時に深く休ませない睡眠を行うと報告されています。※3
これらの動物に共通するのは、移動や呼吸を止めることが生存リスクにつながる環境で暮らしている点です。環境に適応した結果として理解すると、納得できる仕組みと言えるでしょう。
関連記事:猫の1日の睡眠時間はどれくらい?年齢や習性から解説
イルカが溺れない理由:意識的呼吸と睡眠の両立
多くの人がまず疑問に思うのが、「イルカは眠ってしまっても溺れないのか」という点ではないでしょうか。結論から言えば、イルカは睡眠中であっても完全な無意識下では呼吸できません。その制約を前提として進化してきた結果が、半球睡眠という独特の睡眠様式につながっています。
イルカは「無意識呼吸」ができないとされる理由
人間は眠っている間でも、特に意識しなくても呼吸できます。これは、脳幹の働きによって自動的に維持されている不随意呼吸と呼ばれるものです。一方イルカは、一般に意識的に呼吸を行う必要がある動物と説明されます。イルカは肺呼吸を行いますが、生活の場は水中であるため、呼吸をするたびに水面まで浮上し、噴気孔を開閉するという動作を正確なタイミングで行わなければなりません。
もし水中で無意識のまま息を吸ってしまえば、肺に水が入り命に関わります。このリスクを避けるため、呼吸という行為を常に脳で管理する必要があり、脳の活動を完全に止めるような深い熟睡状態を取ることは難しいと考えられます。
噴気孔と浮上行動:呼吸のために必要なこと
イルカの頭頂部には、鼻の穴に相当する噴気孔があります。噴気孔は水中では固く閉じられており、水面に出た瞬間だけ開いて空気を入れ替えます。半球睡眠の最中であっても、起きている側の脳が呼吸のタイミングを判断し、体を自然に水面へと導くのです。
水面に達すると、噴気孔が一瞬で開閉し、短時間で吸気と呼気が行われます。非常に素早い動きで、観察していると「プハッ」という音が聞こえることも少なくありません。睡眠と呼吸は切り離されて存在するのではなく、常にセットで成立している行動であり、その制御を担うために脳の一部が覚醒状態を保っているのです。※1
睡眠しながら泳ぐ意味:呼吸と安全の同時達成
イルカが泳ぎながら休んでいるように見えるのは、単なる習慣ではありません。半球睡眠によって体の動きを完全に止めずにいることは、呼吸の継続だけでなく安全の確保につながる合理的な機能です。泳ぎを維持していれば、定期的な浮上動作が途切れず、呼吸のリズムが保たれます。また、脳の片側が起きていることで、周囲の状況変化にも最低限対応できます。
このように考えると、半球睡眠は単なる睡眠の工夫ではなく、水中で生きるイルカが溺れずに生活するための生命維持システムそのものだと言えるでしょう。
ロギングとは?水面で休む・浮く・沈むなど休息スタイルの違い
イルカの行動を観察していると、寝ているのか休んでいるのか迷う場面に出会います。その判断を助けてくれるのが「ロギング(Logging)」です。ロギングは休息時の典型的な見え方の一つを指しますが、イルカの休み方はそれだけに限りません。ここでは、水面に浮く、底に沈む、ゆっくり泳ぐという異なる休息スタイルについて解説します。
ロギングの意味と、なぜ「丸太のように見える」のか
ロギングとは、イルカやクジラが水面付近で動きをほとんど止め、活動量を大きく下げた状態で休んでいる様子を指す呼び方です。英語の「ログ」は丸太を意味し、背中を水面に出したまま漂う姿が、水に浮かぶ丸太のように見えることからこの名称が使われています。※2
激しく泳ぐことをやめ、波や水流に身を任せているように見えるとき、イルカは比較的リラックスした休息状態にあると見ていいでしょう。
ただし、ロギングは完全な熟睡状態ではありません。ロギング中も呼吸は継続され、噴気孔が水面に出る位置を保ちながら、必要なタイミングで空気を入れ替えています。
休息スタイルは1つではない:浮く・沈む・ゆっくり泳ぐ
イルカの休み方はロギングだけではありません。観察される行動にはいくつかのパターンがあり、どれも休息の可能性を含んでいます。
たとえば、普段より明らかに速度を落として同じ方向へ泳ぎ続ける場合、完全には止まらずに動きを維持しながら、脳と体の活動水準を下げています。水族館などでプールの底に沈んだまま静止しているように見える行動を見ることがありますが、一定時間ごとに水面へ上がって呼吸を行っていれば、体調不良ではなく休息の一形態である可能性が高いです。
大切なのは、一つの行動だけで断定しないことです。泳ぐ速さ、体の位置、目の開閉、周囲への反応といった複数のサインを合わせて観察すると、休息状態に近いかどうかを判断しやすいでしょう。
野生と飼育下で見え方が変わる理由
休息スタイルの見え方は、野生と飼育下で異なることも知られています。野生のイルカは外敵や海流といった要因があるため、完全に止まらずに動きを残した休息を取ることが多いとされています。一方、飼育環境のイルカは外敵のリスクがなく、水深や空間も管理されているため、水面でのロギングや水底でじっとする行動が比較的よく観察されやすいです。
ただし、これは一般的な傾向に過ぎません。個体差やその時の環境条件によって、休息の取り方は変わるため、「水族館では必ずこうする」「野生ではこう見える」と言い切ることはできない点に注意しましょう。
関連記事:【獣医師監修】猫が一緒に寝る理由は?メリットや心理を徹底解説
イルカの睡眠時間はどれくらい?「測りにくい」前提から整理する
「結局、イルカは1日に何時間くらい寝ているのか」という疑問は、とても自然ですが、実は研究者でも即答しにくいでしょう。なぜなら、イルカの睡眠が人間のように「横になって動かない時間」と区切ることが難しいからです。
睡眠は観察だけで断定しにくい
人間の場合、ベッドに入ってから起きるまでを睡眠時間として数えることができます。しかし、イルカは泳ぎながら休息することがあり、外見だけで睡眠かどうかを判断できません。目を閉じて静かにしていても脳の一部は覚醒している場合があり、逆に目を開けて動いていても脳の半球の一方が休んでいることもあるのです。
このため、行動観察だけで「ここからここまでが睡眠」と線を引くことは難しいです。脳波測定ができれば確定しやすくなりますが、水中で自由に動く大型哺乳類に対して連続測定を行うこと自体簡単ではないのです。
一般にいわれる特徴:短い休息を複数回、日中にも見られる
とはいえ、複数の一次情報を総合すると、イルカの睡眠には一定の傾向が見えてきます。一般には、1日に数回、短い休息を繰り返し、その合計が数時間程度になる可能性があると考えられています※1。
また、イルカの休息行動は夜間に増える傾向が指摘されていますが、日中もゼロではありません。水族館でショーの合間や来館者が少ない時間帯に、動きが緩やかになる様子を見かけたら、睡眠中かもしれませんね。
脳波・行動・環境要因をどう読むか
国内では、飼育下のハンドウイルカを対象に24時間の行動記録から休息状態を分析する研究が行われてきました。※2
当研究では、夜間に休息行動が増える傾向が示される一方で、個体差や飼育施設の照明、音、人の活動などの環境要因によって結果が左右されることも報告されています。
研究結果を見るときは、測定方法や対象、イルカが置かれた環境条件等を意識すると、理解をより深められるでしょう。
まとめ
イルカの睡眠を理解するには、半球睡眠によって脳を交代で休ませる点と、意識的呼吸によって完全に意識を手放せない点を押さえるとスムーズです。ロギングを含む複数の休息スタイルが存在する理由や、水族館での見え方の違いも把握しやすくなるでしょう。
次に水族館を訪れたら、目や泳ぐ速度、たたずんでいる位置や反応を観察し、「寝ているかもしれないね」と推測する楽しみ方を試してみてください。
・参考
※1 イルカの眠り方 | 海響館
※2 イルカに関するFAQ | マリンピア日本海
※3 クジラやイルカはどうやって眠るのか? | GIGAZINE




