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監修者

後平 泰信
医療法人徳洲会札幌もいわ徳洲会病院(名称変更) 病院長 現職。
【研究分野】睡眠全般、睡眠時無呼吸症候群、内科全般、循環器内科、スポーツ医学、遠隔医療、地域医療
明るくハキハキとした話し方で、専門的な内容もわかりやすく伝える。特に睡眠医療の分野で多数の講演・メディア出演歴があり、CPAP治療やいびき・睡眠負債など、広く深い見識から生活に密着したあらゆる話題にも柔軟に対応。寝具などスリープテック領域の開発や監修にも多数関わった実績あり。
昼下がりのオンライン会議で、気づいたら自分のまぶたと必死に戦っていたことがあります。コーヒーを追加で一杯飲んでも、シャキッとするのはほんの数十分だけで、その後に襲ってくる眠気に負けてしまいました。そのようなときにこっそり頼りになったのが、「合谷」や「百会」などの眠気覚ましのツボです。
日本人は世界的に見ても睡眠時間が短く、成人の約4割が6時間未満しか眠れていないと言われています。※1
午後の会議や授業中の強い眠気に悩まされやすいとも言えますが、すぐに生活リズムを整えるのは現実的に難しいでしょう。そんな時、手や頭、足にあるツボを上手に使って意識を引き上げる「即効リセット術」を持っておくと、心強い味方になります。
本記事では、上級睡眠健康指導士でコアラマットレス社員の松本が、WHOが認定した361個のツボやMRI研究などの科学的根拠にも触れながら、合谷・中衝・百会・風池など、仕事中や授業中でもさりげなく押せて効果が期待できる9つの眠気覚ましツボを部位別に詳しく紹介します。
なぜツボ押しで眠気が覚めるのか?科学が証明した3つのメカニズム

まずは、そもそもなぜツボ押しで眠気が和らぐのかという仕組みを整理します。ツボ押しと聞くと「なんとなく効きそう」というイメージが強いかもしれません。しかし近年、MRIなどを使った研究によって、血流や自律神経への具体的な作用が少しずつ明らかになっています。
1. 血流促進による覚醒効果
ツボを押すと、その周辺だけでなく、関連する筋肉や血管にも刺激が伝わります。すると、筋肉の緊張がゆるんで血管が拡張し、血流がよくなります。血の巡りが改善すると、脳に運ばれる酸素や栄養が増え、ぼんやりした頭が少しずつクリアになりやすいです。
たとえば肩のこりやすい部分にあるツボを押すと、こわばっていた筋膜がゆるみ、肩から首、頭へ向かう血流がスムーズになってこわばりが改善されるといった具合です。
血液がしっかり流れ始めると、体温が少し上がり、脳も「活動モード」に切り替わりやすくなります。眠気でぼんやりしているときに肩や首まわりをほぐすと頭がスッキリする感覚は、この血流の変化によるものと考えられます。
2. 脳内物質(オピオイド)の分泌
ツボ押しは、単に血行を良くするだけではありません。代表的な手のツボ「合谷(ごうこく)」を刺激したとき、脳の血流変化をMRIで調べた研究では、合谷の刺激によって脳の血流量が増え、痛みを感じる領域の活動が変化することが確認されています。※2
このとき脳内では、痛みを和らげる鎮痛物質であるエンドルフィンなどの「脳内オピオイド」が分泌されると考えられています。脳内オピオイドには、鎮痛作用に加えて、気分を落ち着かせたり疲労感を軽くしたりする作用もあるようです。
日中の眠気は、単なる睡眠不足だけでなく、ストレスや肩こり、頭痛などの不快感とセットで現れることが少なくありません。そのため、合谷などのツボを刺激して脳内オピオイドの分泌を促すと、「痛い」「だるい」といった感覚がやわらぎ、結果として「眠気+だるさ」がほどけていきます。
3. 自律神経の調整作用
ツボ押しは、自律神経のバランスを整える働きもあります。自律神経は、活動モードの交感神経とリラックスモードの副交感神経からなり、体内のスイッチのような役割を果たしています。
手や頭のツボを押すと、その刺激が皮膚や筋肉の神経を通って脳の視床下部や脳幹に届きます。※2
視床下部は自律神経の司令塔のような場所ですから、刺激の内容に応じて交感神経をオンにしたり、副交感神経を高めたりします。
眠気覚ましのツボの場合、交感神経をほどよく活性化させ、心拍数や血圧を少しだけ上げて、脳を「ちょっと頑張るモード」に切り替えるのです。
仕事中や授業中の軽い眠気であれば、この程度の刺激でも十分に意識レベルを引き上げることができます。カフェインほど強くはないものの、体にやさしい自然な「オンのスイッチ」として活用できるところがツボ押しの魅力です。
関連記事:上級睡眠健康指導士監修|午前中の眠気の原因とは?今日からできる対策5選
手にある眠気覚ましツボ3選|オフィスでも簡単に押せる

次に、具体的な眠気覚ましツボを部位別に紹介します。まず一番取り入れやすい手のツボを見ていきましょう。手は自分で押しやすい場所なので、オフィスや授業中でも自然にツボ押しができます。
1. 合谷(ごうこく)|万能ツボの代表格
合谷は、手の甲側で親指と人差し指の骨が合流する地点にあります。軽く指を開いたとき、親指と人差し指の付け根を結ぶラインの中央あたりにある少しへこんだ場所です。
合谷は「万能ツボ」と呼ばれるほど作用の幅が広く、頭痛や肩こり、眼精疲労、自律神経の乱れなどにも使われます。※3
眠気覚ましとして使うときは、反対側の親指の腹で合谷を挟むようにつかみ、やや骨の下に入り込むイメージでゆっくりと押していきましょう。
5〜10秒かけてじんわり押し込んだら、ふっと力を抜くように離します。これを左右交互に数回繰り返してください。押しているとズーンとした響きや、心地よい痛みを感じることがありますが、その範囲であれば問題ありません。
会議中に資料を持ちながらさりげなく押せるツボとして、知っておくと便利です。
2. 中衝(ちゅうしょう)|即効性の高い刺激ポイント
中衝は、中指の爪の生え際にあるツボです。爪の先端の中央よりやや人差し指寄りの部分を意識すると見つけやすくなります。
眠気が限界に近づいたときに強めに刺激すると有効です。反対側の親指と人差し指で中指の先をつまみ、爪の生え際の部分をピンポイントで押さえたまま軽くねじるように小刻みに回転させ、数秒ずつ刺激します。
キリッとした痛みを感じやすいツボなので、授業中やオンライン会議でどうしても眠気に勝てないときに活用すると、シャキッとした感覚が戻りやすいでしょう。
短時間でスイッチを入れたいときに使いやすいツボです。
3. 労宮(ろうきゅう)|集中力と心のリセットに役立つツボ
労宮は、手のひらのほぼ中央にあります。軽く握りこぶしを作って中指と薬指の中間付近のくぼみを探すと、やや柔らかいポイントが見つかります。そこが労宮です。
労宮は、ストレスや緊張で疲れた心を落ち着かせる作用が知られており、不安やイライラが強いときにも使われます。頭がぼんやりして集中力が途切れがちなときにおすすめです。
反対の親指を労宮に当てて、残りの指で手の甲側を支えながら、ゆっくりと垂直方向に押し込みます。深呼吸に合わせて息を吐きながら押して、吸うタイミングで力を抜くと、自律神経が整いやすいです。
デスクワークの合間に数回繰り返すと、心身のリセットに役立ちます。
頭・顔にある眠気覚ましツボ3選|脳をダイレクトに刺激

続いて、脳に近い頭や顔のツボをご紹介します。眠気だけでなく頭痛や眼精疲労にも関係したツボなので、PC作業やスマホの見過ぎで疲れている人にとって一石二鳥です。
1. 百会(ひゃくえ)|頭頂部のスイッチ
百会は、頭のてっぺんにあるツボです。両耳の穴の上端同士を結んだラインと、額から頭の中央を通る正中線が交わる場所にあります。頭皮を軽く触りながら、少しへこんで気持ちよく感じるポイントを探すと見つけやすいです。
百会は、自律神経のバランスを整え、ぼんやりした頭をスッキリさせる作用が期待できます。※4
人差し指と中指の腹を重ねて、百会の上にそっと置き、頭の芯に向かってゆっくり押してください。強く押し込みすぎると頭痛の原因になるので、やや物足りないくらいの強さから始めると安全です。
短時間で意識を切り替えたいときは、5秒押して5秒休むリズムを数回繰り返します。リモート会議の前に百会を軽く刺激すると、気持ちの切り替えスイッチとして使えます。
2. 風池(ふうち)|首筋のこりと眠気を同時にケア
風池は、後頭部の髪の生え際あたりにあるツボです。耳の後ろの骨の出っ張りと後頭部中央のくぼみを結ぶライン上で、指で押すと少し痛気持ちよく感じる凹みの部分です。
頭痛や首肩こり、眼精疲労に使われる代表的なツボとされています。※3
長時間のデスクワークで首が固まり、血流が悪くなっているときに効果を発揮します。
両手の親指を風池に当てて、残りの指で頭を包み込むように支えた状態で、親指を使って頭を少し持ち上げるように押し上げながら、ゆっくりと頭を後ろに倒します。首筋の奥から頭に向かって血が流れ込むようなイメージで行うと、じんわりと目が覚めてくるでしょう。
3. 晴明(せいめい)|目の疲れと眠気をダブルでリセット
晴明は、目頭の少し上、鼻の付け根の近くにあるツボです。両目頭の少し内側に指を当てると、小さなくぼみを感じます。このくぼみの中を軽く押すように刺激します。
晴明は、PCやスマホで酷使した目の筋肉をほぐし、眼精疲労による眠気を和らげる作用が期待できます。※3
刺激するときは、両手の親指を晴明に当て、人差し指と中指でこめかみあたりを支えながら、下から上に向かってそっと押し上げましょう。強く押しすぎると眼球に負担がかかるため、痛みが出ない程度の力にとどめてください。PC画面から目を離して遠くを眺めながら数回押すと、視界がクリアになって眠気もリセットしやすいです。
足にある眠気覚ましツボ3選|全身の気を巡らせる

最後に紹介するのは、足にある眠気覚ましツボです。靴を脱ぐ必要がありますが、全身の気血の巡りを整える働きがあり、だるさや重だるい眠気を根本から和らげる効果が期待できます。
1. 湧泉(ゆうせん)|足裏から活力を引き出すツボ
湧泉は、足裏の土踏まずの前方にあるツボです。足の指をギュッと曲げて「グー」の形を作ったとき、一番へこんで見えるところです。※5
東洋医学では「生命力が湧き出る場所」と説明されるほど重要なツボです。足裏全体が重く、体のだるさと眠気がセットで続いているときに役立ちます。
刺激するときは、親指の腹で湧泉をとらえ、足の甲側に向かってゆっくり押し込みましょう。立ち上がった状態でテニスボールなどを転がし、刺激を与える方法でもかまいません。朝の目覚めが悪いときに湧泉を数十秒刺激すると、全身のエンジンがかかりやすくなります。
2. 太衝(たいしょう)|ストレス由来の眠気にアプローチ
太衝は、足の甲側にあるツボです。指先から足首に向かって指でなぞり、足の親指と人差し指の骨が交わる手前にあるくぼみ部分です。
太衝は、イライラや不安が強いとき、ストレスで胸がいっぱいになって眠気とだるさが混ざったような状態になっているときに役立ちます。※6
親指で太衝をとらえ、足首方向に向かって少し斜めに押し上げます。呼吸に合わせて10秒ほどかけて押し、同じくらいの時間をかけて力を抜いてください。仕事終わりや休憩時間に行うと、ストレスで乱れた自律神経が整いやすくなります。
3. 大敦(だいとん)|だるさやめまいを落ち着かせるポイント
大敦は、足の親指の爪の生え際にあるツボです。人差し指側の角に指先を当てて感じた小さなポイントを、指の腹や爪楊枝の先を丸くしたものなどで優しく刺激します。※7
大敦は、心身が高ぶりすぎているときやめまい感、体のだるさが続いているときに役立つツボです。眠気というより「何となく頭がスッキリしない」「ぼーっとする」という感覚が強いときに使うと、気持ちが落ち着いてくるでしょう。
刺激するときは、軽くチクチクと感じる程度の刺激を数秒ずつ数回繰り返します。強く押しすぎると爪や皮膚を痛める可能性があるため、やさしい刺激を心がけましょう。
効果的なツボ押しのコツと注意点

同じツボを押しても、「効いた気がする日」と「いまいちピンとこない日」があります。この差をできるだけ縮めるためには、ツボ押しの基本テクニックと注意点を押さえることが大切です。
ツボ押しの基本は、指の腹を使って垂直方向にじんわり圧をかけることです。親指や人差し指の先ではなく、ふっくらした部分を使うと、余計な力が入りにくくなります。皮膚の表面に対してまっすぐ押しましょう。骨の裏側にある神経や筋肉に圧が届くイメージで、6〜10秒程度かけてゆっくりと押し込みます。※8
呼吸も重要です。息を吐きながら押し、吸うタイミングで力を抜くと、自律神経が安定しやすいです。眠気覚ましというと交感神経をガンガンに上げていくイメージがありますが、ツボ押しの場合は「だるさやモヤモヤを整えて、適切な覚醒レベルに戻す」ことが目的です。そのため、呼吸を止めたり、力任せに押したりすると逆効果になる可能性がある点に注意しましょう。
飲酒直後や極端な空腹時、体調が悪いとき、妊娠中や高血圧の人は強いツボ押しを避けたほうが安全です。 足のツボの場合、1か所を長時間押し続けると内出血の原因になることもありますので、1か所につき10秒前後を1セットにして、様子を見ながら回数を調整してください。※9
「痛ければ痛いほど効く」と考えがちですが、過度な痛みは筋肉を緊張させ、かえって血流を悪くします。心地よい痛みを少し超えた程度までにとどめることが、効果的で安全なセルフケアにつながります。
日本人の睡眠不足がもたらす深刻な影響|年間7.5兆円の生産性損失

ツボ押しは日中の眠気覚ましにとても便利ですが、そもそもの原因である「睡眠不足」を放置したままでは根本解決につながりません。ここで日本人の睡眠実態を少しだけ確認しておきます。
厚生労働省の調査では、日本人成人のうち6時間未満しか眠れていない人の割合は、男性で38.5%、女性で43.6%に達しています。特に30〜50代の男性と40〜60代の女性では、4割以上が短時間睡眠の状態にあると報告されています。※10
睡眠時間が短い人は、生活習慣病やメンタルヘルスのリスクが高まりやすく、仕事のパフォーマンスにも影響が出ます。東京医科大学と慶應義塾大学などの共同研究では、睡眠に問題がある人とそうでない人を比べると、生産性に約3%の差が生じると試算されていました。この差を日本全体のGDPで換算すると、年間約7.5兆円の損失に相当するのだそうです。※1
つまり、午後の眠気は単なる「一瞬の困りごと」ではなく、長期的には健康と仕事の成果をむしばむサインでもあります。ツボ押しはその場の眠気覚ましとしてとても優秀ですが、同時に、夜の睡眠時間と睡眠環境を見直すきっかけにもしていきたいところです。
関連記事:仕事中に眠気で意識が飛ぶ原因と対策|マイクロスリープの危険性と改善方法
まとめ|今すぐ実践できる眠気覚ましツボで午後の生産性を取り戻そう

日中の眠気は、誰にとっても避けがたいものです。ただ、眠気対策のレパートリーが「コーヒー」と「ガム」だけだと、どうしても限界が訪れやすです。そこにツボ押しという選択肢が加わると、オフィスでも授業中でも、もう少し自由に自分のコンディションをコントロールしやすくなるでしょう。
手の合谷・中衝・労宮は、道具も場所も選ばずに押せる眠気覚ましツボです。頭や首の百会・風池・晴明は、脳や目の疲れを伴う眠気に向いています。足の湧泉・太衝・大敦は、だるさやストレスが背景にある眠気を整えたいときに役立ちます。
まずは自分が使いやすそうだと感じる1〜2か所を選び、午後の眠気が気になったタイミングで試してみてください。数日続けるうちに、「このツボを押すと頭がスッとする」という自分なりの感覚が育っていきます。
そして、ツボ押しはあくまでその場のリフレッシュとして活用しながら、夜は十分な睡眠時間と快適な寝具環境を整えることを意識しましょう。眠気を上手にコントロールできるようになると、午後の生産性が上がり、仕事や勉強の満足度も高まりやすいです。
今日の午後から、まずは合谷を軽く押してみませんか。ほんの数秒のセルフケアが、眠気との付き合い方を少しずつ変えてくれるはずです。
・参考
※1 【前編】日本人の睡眠は足りていない? | NTTデータ経営研究所
※2 WHOも認める「科学的に正しいツボ押し」とは? | Tarzan Web
※3 即効で眠気覚まし!!【眠気を覚ます】ツボ(手、耳)をご紹介! | ぽん鍼灸院
※4 不眠緩和に効果がある頭のツボ | 公益財団法人 健康・体力づくり事業財団
※5 ツボから症状を探す 湧泉 | せんねん灸
※6 ツボ「太衝 | 妙蓮寺ゆう鍼灸院 太田
※7 「イライラ、ストレスをしずめるツボ」 | 四国医療専門学校
※8 指圧(圧迫法)のコツ | 明治国際医療大学
※9 【解説】足つぼが痛い4つの理由!痛いつぼと不調箇所は関係ある? | EPARK
※10 疲労(休養不足)の調査・統計 | 日本生活習慣病予防協会




