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監修者

古川 由己(Yuki Furukawa)
所属:東京大学 大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 臨床精神医学教室 / ミュンヘン工科大学医学部精神科・心理療法科
プロフィール:日本専門医機構認定精神科専門医、精神保健指定医。
関連リンク:ブログ、Google scholar, Research Map, X (Twitter)
日本における不眠症の現状
厚生労働省の調査では、日本人の5人に1人が睡眠に悩みを抱えていると言われています。[1] 睡眠の悩みの中には、不眠症以外にも、いわゆる睡眠不足や睡眠時無呼吸症候群、むずむず症候群など多彩な疾患があります。不眠症はその中でも最も多く見られる疾患の1つです。
不眠症は、眠れる環境が十分あるにもかかわらず、しっかりと睡眠を取ることができず、昼間の生活に支障をきたす、とても辛い障害です。世界的に成人の10%強が不眠症を抱えていると言われています。[2] 睡眠薬の処方の現状を見ても、日本でも同等以上の人が不眠症を抱えていると考えられます。
[2] van Straten A, Weinreich KJ, Fábián B, et al. The Prevalence of Insomnia Disorder in the General Population: A Meta-Analysis. J Sleep Res. 2025;34(5):e70089. doi:10.1111/jsr.70089
不眠症の主な症状:夜間の症状と日中の症状
不眠症の症状は大きく分けて夜間の症状と日中の症状に分けられます。
夜間の症状としては入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒に分類されます。いずれもいわゆる客観的な検査ではなく、問診が中心となります。主観的に入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒を感じているかを重視します。
特に何分以上眠れなければ入眠困難や中途覚醒に該当するかの基準は決まっていませんが、研究では30分または60分以上寝られないと入眠困難や中途覚醒に該当するとされることがあります。
早朝覚醒はやや難しい項目です。例えば朝3時に目が覚めてしまってもう寝られないという人は早朝覚醒でしょうか?実は、そうとは限りません。前日夜8時から寝ることができていて3時まで寝られていたら既に7時間寝ているわけです。それ以上寝たくても寝られないのは不思議ではありません。早朝覚醒は何時に起きるかだけではなくて、それまでに何時間寝ているかの確認も必要です。
日中の症状は、寝られなくてとても辛いと感じる、もしくは、集中困難やイライラなど昼間の日常生活に支障きたすといった症状があげられます。今の診断基準では、入眠困難・中途覚醒・早朝覚醒だけでは不眠症に該当するとは言えず、昼間の症状も確認する必要があります。
不眠症の方がどういうことで苦しむかについては、不眠症あるあるの霜降り明星のせいやさんの動画がとてもわかりやすいと思います。
⭐︎せいやさんとkoalaとのコラボ動画はこちら 眠れないせいやに案件が来ました
きちんとした睡眠の環境が整っていて、睡眠時間も確保できているにもかかわらず、しっかりと寝られないと言うことが1ヵ月以上続いて、とても辛いようであれば、医療機関で相談していただくのが良いでしょう。
不眠症の原因:5つの要因を知ろう
不眠症になるきっかけには様々なものがあります。原因の分類方法もいろいろなものがありますが、ここでは1番有名で治療上も有用な分類である、Spielmanの3Pモデル[3] を紹介します。

※『ねころんで読める(けどねころんじゃいけない)不眠症』より引用
不眠症の原因を分類すると、素因・増悪因子・遷延因子の3つに分類されます。英語の頭文字が全てPなので3Pモデルと呼ばれます。
素因はいわゆる体質ですね。例えば、細かい性格の人ほど不眠になりやすいと言われています。
増悪因子というのは短期的に不眠になる原因のことです。よくあるのがストレスです。人間関係や仕事のストレスで寝られなくなったことがある人は多いのではないでしょうか。暑くて眠れないということもあるかもしれません。
ストレスなどの原因がなくなったにもかかわらず、眠れるようにならないこともあります。不眠が長期化するのに関わってくるのが不眠の維持因子です。例えば、何とか寝ようとしてアルコールに頼る、昼寝をする、早くから横になるなどの行動をすると、睡眠が余計に浅くなってしまい、不眠症が慢性化してしまいます。
寝室の環境整えるなど、眠りやすくするのも大事です。しかし、不眠症が長引いている場合、それだけでは改善しないことも珍しくありません。不眠の維持因子を改善することが重要です。不眠の認知行動療法は、不眠の維持因子を特定しそれを改善することができます。
[3] Spielman AJ. Assessment of insomnia. Clin Psychol Rev. 1986; 6(1):11–25.
不眠症への対策:生活習慣の改善を中心に
不眠症への対策は、段階ごとに分けて考えるのが必要です。
まだ不眠症状が出ていない時は、しっかりと睡眠に適切な環境を整え、できる範囲でストレスを減らし、きちんと睡眠時間を整えるのが良いでしょう。
不眠症状が出てきたときはどうしたら良いでしょうか。まず覚えておいていただきたいのは、時々眠れないことがあるのは多く自然なことだということです。
あまり眠れなくても気にせず、いつも通りの生活リズムを保つようにしてください。睡眠時間を取り戻そうとして長めに昼寝をしたりすると次の夜余計眠れなくなってしまいます。
では、不眠症状が長引いてしまった時はどうしたら良いでしょうか?不眠症の治療法としては睡眠薬もありますが、実は不眠の認知行動療法と言うお薬を使わない治療法が1番効果的であることが知られています。[4] 不眠の認知行動療法を受けることができる医療機関やカウンセリングオフィスはまだ限られていますが、オンラインで受けることもできるので調べてみると良いでしょう。また書籍で学び自分で取り組んでみるのも選択肢です。
[4] Furukawa Y, Sakata M, Furukawa TA, Efthimiou O, Perlis M. Initial treatment choices for long-term remission of chronic insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis. Psychiatry Clin Neurosci. 2024;78(11):646-653. doi:10.1111/pcn.13730 日本語解説ブログ
専門医に相談するタイミングと治療の選択肢
どんなときに医療機関を受診すべき?
不眠、症状が長引き、1ヵ月以上続き、かなり辛い時は医療機関の受診を検討してください。不眠症は他の様々な疾患と合併することがあります。不安や気分の落ち込みが強い場合は精神科、いびきや寝ている間に、呼吸が止まると指摘されたことがある場合は、耳鼻咽喉科などが候補になるでしょう。いずれにせよ受診したときに眠れない以外にも気になることがあればしっかりと伝えるようにしてください。
カウンセリングや睡眠薬などの治療方法
以前は合併症がある不眠に関しては、合併症の治療が優先されていました。しかし今では、合併症がある場合でも不眠症は独立した疾患としてしっかり治療対象とすべきだというふうに変わってきています。不眠症の治療を優先するか、合併疾患の治療を優先するか、同時並行して進めるかは主治医の判断になります。
不眠症の治療法では、睡眠薬よりも不眠の認知行動療法が優先されるわけですが、残念ながら日本では保険でカバーされていません。長らく睡眠薬による治療だけが行われてきており、不眠の認知行動療法自体まだあまり知られておらず、ほとんどのクリニック・病院では睡眠薬処方しかされないのが現状です。
ただし、欧米においても不眠の認知行動療法は実質的にほとんど普及していません。koalaの母国、オーストラリアでも不眠症治療の第一選択は不眠の認知行動療法とされていますが、[5] 現地の心理士に話を聞く限り、ほとんど普及していません。
睡眠薬ではなく不眠の認知行動療法を希望される場合は、不眠の認知行動療法をやっている医療機関・カウンセリングオフィスを探す必要があります。
不眠の認知行動療法ほどではありませんが、睡眠薬も不眠症に有効です。依存性を心配される方もいらっしゃいますが、近年は依存の心配が少ないとされる新薬も出ています。従来の薬に比べて高価なのがやや問題ですが、薬を希望するか、どのようなタイプを希望するかと言うのも主治医に伝えるようにしてください。
[5] Sweetman A, Andronis C, Hancock K, Stocks N, Lack L, McEvoy RD. General practitioner assessment and management of insomnia in adults. Aust J Gen Pract. 2023;52(10):691-698. doi:10.31128/AJGP-01-23-6678
よくある質問:不眠症Q&A
Q. 不眠症が突然治ることはある?→不眠症が治るきっかけはどんなもの?
不眠症が突然治る事はあります。ただし、一度長引いてしまった不眠症が突然治る確率はあまり高くありません。例えば睡眠衛生指導という不眠症治療としてはあまり効果のないとされる治療法だと、不眠症が2ヶ月以内にほぼ完全になくなる人は約2割です。また、再度ストレスがかかった時などに不眠が再発することも少なくありません。
不眠症が自然に改善した人の話を聞くと、それまでの困り事が解決して、昼間の活動量が増えるというのが不眠症が改善するきっかけになっていることが多いです。なんとかして寝ようとずっと横になっていても不眠症はよくなりません。
Q. 不眠症の治療期間はどれくらい続く?
不眠症の治療期間がどのくらい続くかは人によります。
一般に不眠の認知行動療法のプログラムは6週から8週間程度です。8割程度の方が改善を実感し、4割程度の方は不眠症状がほぼ完全になくなります。不眠の認知行動療法の中でも行動療法と言われるテクニックに取り組み始めると1ヵ月以内に改善をしてくることが多いです。
睡眠薬の治療期間はどれくらいでしょうか?睡眠薬に関しても睡眠薬で一度寝ることができたら薬が必要なくなる方もいますが、ずっと飲むことになる方もいます。睡眠薬の処方実態の調査からは、中央値で3ヶ月、1割程度の人は1年以上処方されています。[6]
[6] 厚生労働科学研究費補助金 障害者政策総合研究事業. 睡眠薬・抗不安薬の処方実態調査ならびに共同意思決定による 適正使用・出口戦略のための研修プログラムの開発と効果検証研究. 2022. https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/download_pdf/2021/202118047A.pdf
まとめ:原因を正しく理解して快眠を取り戻そう
「眠れなくて辛い」という方の中には、不眠症(眠れる状況があるのにちゃんと眠れない)ではなく、睡眠不足(そもそも睡眠時間が足りない)という方もいます。まずはしっかりと睡眠時間を確保しましょう。
眠るための環境を整えても眠れない場合、不眠症かもしれません。不眠の認知行動療法が一番おすすめとされていますが、場合によっては睡眠薬も選択肢です。










